LOGIN午前零時になると感じる頭痛。 ここ数日は決まって、この時間になると症状が出てしまう。 いい加減生活を改めろと身体が警告を発しているということなのだろうか。それは分かっていのだが、中々辞められないのが自堕落な生活だった。 今日もまた、時計の針が。 零を指し示す。 そしてまた、鋭い痛みに視界を閉ざした瞬間、耳に届いたのは予想外の言葉だった。 ※原案は、GoodNovel編集部で用意していただいたヒントを使用しています。 ※ホラージャンルなので、レーティングをR18に設定しています。レーティングを下げることは予定していません。(性描写というより、暴力等の描写に対しての設定です)
View More時刻は午前零時。
回転する秒針とそれを緩やかに追う長針が綺麗に重なり逢瀬を果たした瞬間、強烈な目眩に襲われた。
「……っ」
それと同時に遅い来るのは突き刺すような鋭い痛み。余りの痛さに表情を歪め、呻き声を上げながら頭を抱え込み机に突っ伏す。
「……うぅ……」
自然に溢れ出す涙が視界を歪め、まともに目を開けていられる状態ではない事に感じたのは危機感で、目眩を振り払うように乱暴に頭を動かすと、手を動かし鎮静効果のある頭痛薬を探す。指に触れた箱の感触を確かめてから取り出した白い錠剤。躊躇うこと無くそれを口に含み無理に飲み込んで暫し耐えれば、徐々に症状が和らぎ、漸く瞼を開くことができた。
「一体……何だったん、だ……?」
額に浮いた脂汗を乱暴に拭うと、こめかみを押さえながら吐いた溜息。机の上に置かれているのは温くなってしまったエナジードリンクで、三本目の残りがそろそろ無くなりそうなところまで減ってしまっている。
「寝不足、かなぁ」
考えてみればここ数日、新規でリリースされたゲームをやりこんでいた自覚はある。元々夜中にしか自由に遊べる時間を確保出来ないのだから、必然的に削られていくのは睡眠時間だ。
「あ。空じゃん」
無意識に手を伸ばし缶を傾けたところで気が付く違和感。それもそのはずで、未だ中身の残っている缶は手にしたものの隣に置いてあったもの。中身がなくなった時点で片付ければ良かったのだが、その手間すら掛けたくないほど熱中していたゲームを切り上げるタイミングが掴めず、こうやってゴミの山が生成されていくのを止められない。
「ってか、今日ってまだ木曜日かよ」
正確には先ほど木曜日に変わったばかり。
「休みまであと二日もあるし」
明日が休みなら、このままオールである程度片付けてしまいたかった。
しかし、悲しいことに、普段からカレンダーに定められた曜日という概念に縛られる生活を繰り返しているため、休む理由も作れない社畜がゲームをやりたいからと休みを取るなんて、後が怖くて考えたくもない。
「もう少し進めたかったんだけどなぁ」
そうは言っても体が休息を求めているのも事実だ。今現在の欲望と、明日に残る疲労と。それを天秤に掛けた結果、今進めているシナリオのムービーが終わったらゲームを終えるという選択を選ぶことにする。
「ここまでが限界か」
中途半端な所で止めると先が気になる気持ち悪さが残ってしまうが、この際仕方が無い。ガイドに沿ってステージを移動し、オートセーブのポイントまでキャラクターを移動させてから落とすゲームアプリ。続きは明日、帰宅してから。そう自分に言い聞かせながら、机に溜まった空き缶だけ片付け、就寝の準備を手早く済ませてから、ベッドに潜り込む。毎日蓄積していく疲労が多いのだろうか。枕に頭を埋めた瞬間、気を失うようにして意識が微睡みへと引きずり込まれてしまった。
◆
「おい!」
「…………」
「大丈夫か?」
「え?」
突然肩に伝わる軽い衝撃。それに驚き顔を上げると、心配そうにこちらを覗き込む先輩の顔が傍にあった。
「お前、ぼんやりしていたぞ」
「あ……」
何が起こったのか分からず、一瞬思考が止まる。
「本当に大丈夫なのか?」
すると、今度は目の前で上下に動く大きな手が視界を遮った。
「だ、大丈夫、です」
まずはここがどこなのかを把握しよう。
手に取った社員証をICタイムレコーダーに翳しながら、目の前の手をやんわりと遠ざけ巡らせる視線。この空間は記憶にある。ここは自分が働く職場だ。
「お前、また夜更かししてゲームでもしていたんだろう」
荷物を持ち自分の席へと移動すると、それを追いかけるようにして先輩が後に続く。
「で、昨日は何時に寝たんだ?」
「日付が変わって直ぐに寝ましたよ」
「本当かぁ?」
先輩に行う入眠時間の自己申告。しかし、その言葉が信じられないとでも言いたげに、彼は表情を歪めてみせる。
「そう言って、また夜中の三時頃までゲームしてたんだろ?」
「そんなこと無いんですってば!」
素直に報告をしたというのに、こんな風に疑われるのは心外だ、と。不機嫌を隠すこと無くそっぽを向くと、先輩から返ってきたのは呆れたという意味を込めた一言だった。
「日頃の行いが悪いから疑われるんだよ」
「うぐっ……」
実際の所、先輩の指摘は正しかった。
日頃から懇意にして貰っている関係で、彼に懐いているのは周知のことだ。流石に踏み込んだ内容までは相談したことは無いが、それでも社内に居る誰よりも自分の事を把握しているのはこの先輩に他ならない。つい最近も、新しくリリースされたゲームに嵌まってしまったと報告をしたばかり。行動パターンを把握されているのだから、相手がこちらを信用出来ないと言ったところで反論が出来なかった。
「その正論やめて」
せめてもの反撃だと愚痴を零せば、分かってるなら生活を正せとこれまた正論で返されてしまう。
「先輩の鬼! 悪魔!」
「はいはい。何とでも言え」
どれだけ挑んでも軽くあしらわれる。いつの間にか出来てしまっているパワーバランスは簡単に崩すことなどできるはずも無く、今日もまた、面倒見の良い彼に一本取られて終わり。
「そんなことより、先輩」
「ん?」
「何か今日、人、少ないんじゃないですか?」
これ以上の反論は意味をなさないと判断した事で切り替わる思考。改めて職場を見渡すと、ふと、あることに気が付き違和感を感じた。
「夏風邪が流行ってるみたいだぞ」
「へぇ」
普段なら着席し既に業務を始めているだろう同僚や後輩の姿が足りず、いくつかの席が空席のままになっている。真っ黒になったディスプレイに光が灯ることは無いため、その席の主が出社出来ないことは明らかだ。
「遅刻ってパターンも考えられるんじゃ」
「お前じゃ無いんだからそれは無いだろ」
この人は、自分に対して一体どんなイメージを持っているのだろうか。筒状に丸めた資料。それでこちらの軽く頭を叩きながら、意地悪そうな笑みを浮かべる相手に対し、拗ねるように頬を膨らませてそっぽを向くことで主張するのは不愉快に感じたということ。
「信用して欲しいなら日頃の生活を改めな」
「厳しいぃぃ」
「当たり前だ」
それじゃあ、頑張れ。その言葉を残し、先輩はさっさと自分のデスクへと戻ってしまった。
「今日も社畜は頑張りますよーっだ」
沈黙していた電子機器が動き出したら本日の業務がスタート。いつもと異なる部分があったとしても、毎日続く平凡な一日が大きく変わることはあまりない。
この人は、自分に対して一体どんなイメージを持っているのだろうか。筒状に丸めた資料。それでこちらの軽く頭を叩きながら、意地悪そうな笑みを浮かべる相手に対し、拗ねるように頬を膨らませてそっぽを向くことで主張するのは不愉快に感じたということ。
「信用して欲しいなら日頃の生活を改めな」
「厳しいぃぃ」
「当たり前だ」
それじゃあ、頑張れ。その言葉を残し、先輩はさっさと自分のデスクへと戻ってしまった。
「今日も社畜は頑張りますよーっだ」
席に着き電源を点けると、沈黙していた電子機器が緩やかに動き始める。真っ黒だった画面に流れるアニメーション。それは直ぐに切り替わり見慣れたデスクトップの画面が姿を現したところで、漸く本日の業務がスタートする。
先ほど感じた違和感は、手を動かしているうちに忘れてしまうのだろう。何故なら、例えいつもと異なる部分があったとしても、毎日続いていく平凡な一日が大きく変わることはあまりないからだ。
時間を気にしながら一つずつ。仕様書を確認しつつ進めていくタスク。
小さな音を立てて指示を入力すると、プログラムがそれを処理していく。結果は今のところ良好。黙々と続ける作業は会話が殆ど無く機械的に鳴り続けるタイプ音だけが響いている。
「…………」
邪魔にならないようにと重ねた資料はいつの間にか高さを増し、不安定なバランスでオブジェを形成していくし、その成長を止めることは未だ難しそうな状況で。これが完全に無くなり、机の上が綺麗になるまではまだまだ時間がかかりそうだった。
「そんな……」 信じられない。そう思いはしても、手に入れた情報は男の言葉が真実であると言う事を指し示している。「死者からの依頼だなんて、そう簡単に信じられる訳がないじゃ無いか!!」 常識が邪魔をする。信じたくないと本能が警鐘を鳴らす。明らかな異常から目を背けるのはきっと、危険を回避したいと強く願う防衛本能が働くからだろう。「信じたくないと言っても、これが今起こって居る現実だろう? 自分の目で見ても信じられないって言いたいのか?」 突きつけられる事実が現実だと言われた途端、酷く頭が混乱した。「でも……確かに聞いたんだ。電話で、住んでる人達の声を……」「電話の向こう側に本当に【生きている人間】が存在していたと思うのか?」「え?」「電話から聞こえてくる音ってのはな、人の耳に聞こえるように【調整された作られた音】なんだ。その音が本物かどうかなんて、どうやって確かめるんだよ?」「それは……」 モニターの中で四つの顔がこちらを見ている。その眼窩は酷く落ち込み、本来瞳がある場所には真っ黒な空洞があるのみ。「この黒電話ですら周波数を調整して通話の相手に音が伝わっているんだ。顔を見たことの無い相手の声が、俺達と同じ場所から発信されているものかどうかなんて、誰にも分かりはしないんだよ」「っっ……」 頭では分かっている。それを認めてしまった方が楽になるのだと言う事は。「でも、俺は生きているし、今までそんな事に遭遇した事なんて無いんだよ。そうだよななんて、そう簡単に信じられる訳無いだろう……ん」 それでも常識がそれに歯止めをかける。認めてしまうと後戻りが出来なくなる事を感じて居るのだから。「いずれにせよ、毎正時の電話は対応しないといけない」 相変わらず監視モニターの中で此方を見る住人はそこに居続けている。「そうしないとこの場所に捕らわれ、最終的には俺達もこうなる可能性が高いからな」 目の前のガラスの向こうには存在していない彼等の姿が。「悪いが俺はこうはなりたくない」 彼らを睨む男の目には強い決意が宿っていた。「何としてでも、この建物から出る方法を探してやる」 その姿は初めて会ったときの不気味で情けないものではなく、どうしようもな状況を打破するために戦う事を選んだ戦士のような頼もしさを漂わせているもので。「残り時間はあと一日と数時間……」
「逃げるぞ」 緊迫した空気の中、震える彼の声が廊下に響く。「逃げるぞ!!」 言い終わった瞬間、彼は一目散に階段を目指し走り出した。「お、おい! 待てよっっっっ!!」 慌てて彼の後を追い、自らも階段へと急ぐ。背後からはエレベーターの扉が開く気配。それを確かめたいと思いながらも、彼の見せる異様な焦りに引っ張られるようにして、振り返ることなく急いで階段を駆け下りる。 三階、二階、一階……と階を移動し辿りついた管理人事務室。捲し立てられるようにして鍵を開けさせられると、彼に肩を掴まれ無理矢理部屋の中へと押し込まれる。 続けて彼自身が部屋の中に飛び込み扉を閉め鍵をかけた瞬間、管理人事務室の窓が激しく動き、大量の手形がガラス一面を覆い尽くした。「ひぃっ!?」 何かが居る。姿は見えないが確かにそれがガラスの向こう側に居る事ははっきりと分かる。「……はぁ……はぁ……」 男は以前にも同じ事を経験しているのだろうか。遭遇している現象に怯えている自分とは異なり、比較的落ち着いた様子で目の前のガラスを睨み付けているところを見ると、その可能性は高そうである。「思ったよりも早い」 窓ガラスを叩く音は激しさを増し、いつか枠から外れて割れるのでは無いかとすら思えて、ますます震えが止まらない。いつ終わるかも分からない恐怖体験は、朝が来るまで続くのだろうか。 壁に掛けられた時計の数字を確認すると、時刻は一時四十六分。朝が来るまであと五時間以上も残っている状態。「この状況って、一体何なんだよ!?」 耐えられずそう叫ぶと、その声に反応するかのように窓ガラスを叩く音がピタリと止んだ。「…………え?」 先程までは耳を塞いでも音が止む気配は無かったのに、今は耳が痛い程の静寂がガラスの向こうに広がっている。「……何……が……」 ガラスに残された無数の手形。ただ、それらは時間の経過と共に一つずつ視界から消えていく。「消え、た」 最後の手形が消えた瞬間、一気に疲れが押し寄せその場に崩れ落ちる。漸く不可解な現象から解放されたという安心感のせいか、膝が笑って力が入らない。情けなく笑い終わったんだよなと男に声をかけると、男は一瞬だけ此方を見た後でモニターをのぞき込み渋い表情を見せた。「集まってきた」「…………え?」 集まってきたとはどういうことなのだろう。「何を言ってる
異様に静かな廊下には、生暖かく湿った空気が漂っている。 玄関の硝子の向こう側で激しく降り続ける雨が止む気配は無く、耳障りな雨音が途切れること無く続いている。雨脚が強いため外の様子は分からない。ただ、ぼんやりとした灯りが見えることから、今日は正常に電気が来ているらしいことだけは分かった。「あれ?」 エレベーターの前でシンジゲーターを確認すると、そこに表示されている数字は【一】となっており、昇降機自体もそこに存在している事に驚いてしまう。「なぁ。エレベーターが動く音って聞こえたか?」 エレベーターが始め、何階で止まっていたのかは分からない。ただ、シンジゲーターの数字を信じるのであれば、この機械は本来、四階に止まっていないとおかしいことになる。現在のフロアに機械を下ろすのであれば必ず、何かしらの音が聞こえるはずなのに、今までそのような音は一度も聞いていない。そのことを隣に立つ男に尋ねるのだが、男自身も不思議に思っているらしく、小さく首を振って「いや」とだけ言葉を返してくる。「動いている音は聞こえなかったし、モニターを見ている限りでは動く気配すら無かったぞ」「それじゃあ、何故……」 考えられる可能性は、始めからエレベーターは動いていなかったというもの。だとしたら、あの映像は一体なんだったのだろうか。 改めてシンジゲーターに表示されている数字を確認するのだが、その数は一のままで変化する気配は全く感じられない。方向ボタンを押して中に入り操作盤を確認してみても、ボタンの数は三階までのものしかないため、四階のフロアが存在しているという事実はなさそうである。試しに一番上のボタンを押しフロアを移動してみるが、到着したのは三階で、これ以上、上のフロアに移動することは無かった。「よく……分からないな」 それでも、確かに表示されていた四と言う数字を見たのは事実だ。今確認したことと、先程画面越しに見た情報。大きな矛盾が目の前に突きつけられ、頭が混乱してしまう。無意識に階段へと視線を向けるが、上がった先にあるのは朝に見たのと同じ金属の扉で、そこを開けると屋上に繋がっていて住居スペースは存在しない。 三以上の住居スペースが無い以上、モニター側の不具合である可能性が高くなってきた。「映像が差し替えられている可能性とかあったりするんかなぁ?」 一番
その口ぶりから受ける印象は、完全なる消失を意味しているだろうということだ。「俺の目の前で消えたんだ。まるで、始めからその人が存在していなかったかのようにぱっとな」 この言葉を聞いて感じる怖気。本来ならば訳の分からない場所から解放されたことを喜ぶべきなのだろうが、この話はそんなに単純な事では無い気がして落ち着かない。「まぁ、元の場所に戻ったから、もうここには居る必要がなくなったって感じなんだろうけど、なんて言うかなぁ……もう二度と会えなくなるのかと思うと、なんとも言えない気持ちにはなるよなぁ」 男の言う元の場所とは、どこを指しているのだろう。現実なのか、夢なのか。それともこことは別の雨月マンションの中なのか。残念ながら、その答えを知る前任者は、もう既にこの建物の中から居なくなってしまっている。「まるで、ゲームみたいだ」 現実味の無い生活。思った通りに進むことが無い時間。自由の無い空間の中で、決められたタスクを淡々とこなす。日によって行う任務の内容は変わるが、その行動自体はいつもと同じ。 確かに現実世界でも、日々の生活において繰り返しの行動が無い訳では無い。そでもこんな風に、やらなければ取り返しがつかない妙な義務感というものは、そう頻繁に起こる事では無いだろう。「なぁ……聞いても良いか?」 いつの間にか監視モニターを覗き込んでいる男に向かって声をかける。「もしさ。この世界がゲームの世界だとしたら、無事に生きて出られると思うか?」 自分でも馬鹿な事を聞いているという自覚はある。しかし、どうしてもその言葉を口に出さずには居られない。「俺には良く分からないけど、生きて出る事は可能なんじゃないかな?」 相変わらず男は此方に目を向けることも無く、目の前のモニターをコツ、コツと叩いているだけ。「依頼を達成出来なくても死ぬことは無かったから、怪我をすることはあっても、条件を設定している奴らに殺されるってことは無いと思う」 まるで何かを探すように、映し出される空間を行き来する視線。「まぁ、…………………………。って感じではあるけどな」「……………………」 どうしてこうなったのだろう。改めて、今まで自分の身に起こったことを振り返りながらそんなことを考える。「…………ダメだ。わかんねぇ……」