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Alle Kapitel von PLAYER: Kapitel 31 – Kapitel 40

46 Kapitel

1st stage:18

「ひぃっ……!!」 細くなっていくドアの隙間。 向こう側に広がる闇の中で蠢く何かが、こちらに向かって手を伸ばしている。その事に気が付き逃げるようにエレベーターの奥へと後ずさると、背中に弱い衝撃が走った。「そん……な……」『あそぼう……よ……』 それは、確実にこちらとの距離を詰めてくる。 もう逃げ場が無い。 そう感じた瞬間、自分でも驚くほど、素早く行動を開始していた。「絶対無理だっっっっっっ!?」 白い光が前方を照らす。ほんの小さな光の筋ではあるが、向けた懐中電灯の先に浮かび上がる【ソレ】のシルエット。「遊ぶなんて絶対に無理だからっっっ!!」 それは確かに【ヒト】の様な形をしていた。「だからこっち来んな!!!!」 ただ、【ソレ】は酷く曖昧で。「大体なんで、こんな時間に遊んでんだよ!!」 シルエットがヒトの形をしている以外、どうなっているのかが分からない。「時間を考えろ! 非常機だろ!?」 言いながら素早く操作盤へ駆け寄ると、閉じかけていた扉を急かすように同じボタンをひたすら叩き続ける。 「他の住人からも苦情が来てるんだからな!?」 そんなことを言ったって意味が無いのかもしれない。そう思ったとしても、手に持った懐中電灯を向け【ソレ】に向かってひたすら叫び続ける。「こっちは迷惑してんだよ!!」  一度怒鳴ると歯止めが効かない。追い込まれた鼠のように身構えながら、手にした懐中電灯を突き出して狂ったように吠える。「こんな風にからかって面白いか!? クソがっっっ!!」 できるだけ平静を装っても、どうしても隠せない怯えは気持ちを焦らせるばかり。 相手を挑発することは自身の危険に繋がる可能性が高いと分かっているのに、それでも限界まで引き上げられた恐怖心から、精一杯の虚勢で威嚇を続けないと己が保てない。「早く閉じろよ!! クソエレベーターがっっっっっ!!」 端から見るとこの光景は実に滑稽に見えることだろう。それでも本当に必死なのだ。声を張り上げ、ひたすらボタンを叩き、不安定に光を揺らしながら此方に来るなと訴える。「頼むから早くっっ!」 最後はもう神頼みに近かった。たった一枚の扉が閉まることが、何故こんなにも遅いと感じてしまうのだろう。 非常にゆっくりと閉まる鉄の扉が憎らしくて仕方が無い。 あと、数センチ。この隙間が完全に閉
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-15
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1st stage:19

 耳障りな音に気が付いたのは、本当に偶然だった。「っっっっ!!」 けたたましいベルの音に驚いて飛び起きると、その勢いで思い切り床に倒れ込んでしまう。「っっったぁ……」 身体を起こそうとすると感じる、左側に走る痛み。どうやら椅子から落ちた時、肩を軽く負傷したようだ。その痛みは少しずつ、腕を伝うようにして広がっていく。「……なん………おと……」 頭上から響くのは激しく主張を続けている騒音。この音に起こされたのだと言う事に気が付くと、無性に腹が立って仕方が無い。相変わらず痛みを訴える患部を庇いながらその発生源を探れば、机の上に置かれている黒電話が原因だという事に直ぐに気が付いた。「…………電話?」 そこで気になったのは現在の時刻である。「何時だ!?」 電話とベル。それに気付いた瞬間、一気に眠気が吹き飛んだ。 急いで伸ばした手が机にの足を捉えると、力を篭めて一気に身体を起こす。無理に引き上げせいで左肩は悲鳴を上げたが、今はとにかく時刻が分かるものを探す方が先だ。動揺しながら視線を彷徨わせ探す時計。幸いにもその情報を得る事が出来るアイテムは直ぐ傍にったため、表示された数字から現在が午前四時を過ぎたばかりだと言う事を理解する。 ということは、つまり。 この電話は謎のルールにあった毎正時の時に掛かってくる依頼の電話。と言う事になるのだろう。 そのことに気が付いた瞬間、急いで受話器を取り上げた。「もしもし!?」 相当焦っていたのだろう。自分でも驚くほど大きな声が送話口付近で響く。『あ、あの……』 その気迫はどうやら電話の向こう側にも届いてしまっていたようで。受話口から聞こえてくる戸惑った女性の声。それが耳に届いた瞬間、頭が冷静になり恥ずかしくなってしまった。「あ。その……」 感じた気まずさを誤魔化すように咳払いをすると、改めて落ち着いた声で、声の主に電話を掛けた目的を尋ねてみる。「先程は、大変失礼しました」 まずは
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-16
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1st stage:20

「203号室に、ですか?」 女性の言葉を聞いて動揺したのは仕方が無い。先程電話で彼女は、『202号室に居る』と言っていたのだから当然だろう。『そうです。203号室です』 しかし、彼女が傘を届けて欲しいと指定してきた部屋番号は、その隣の203号室。何故自身の居る202ではなく、その隣の203をわざわざ指定してきたのか。その目的が分からず混乱してしまう。「でも、あなたは202号室に住んでるんですよね?」 その疑問がどうしても気になりそう尋ねると、彼女は何かに気が付いたように声を上げてから、隣の部屋を指定した理由を話し始めた。『202号室はわたしの職場なんです』「職場?」『はい』 詳しく聞いてみると、実際の住居は203号室らしい。 普段は202号室に彼女の母と娘と一緒に住んでいるそうで、彼女が仕事の時は母が子供の面倒を見ているのだという。『今日は納期の関係で家に戻れそうになかったので職場に泊まったのですが、娘が傘を無くして泣いていると母から電話があって……』「ああ。それで」 理由さえ分かれば何故そんな不可解な依頼なのかと言うことに納得はいく。「分かりました」 どちらにしても、子供がぐずってしまっているのなら、早めに対処した方が良いだろう。大声で泣かれたりしたら、他の階の住人から苦情が来る可能性も高いはずだ。「それじゃあ、急いで届けますね」 そう伝えてあげれば、依頼主の女性は、心底安心したように息を吐いた後、改めてお礼を告げ電話を切ってしまった。「…………はぁ」 受話口から聞こえてくる話中音から、相手が完全にこの機械の操作を追えてしまったことを理解すると、赤い傘を手に管理事務室の扉を開く。携帯するものは先ほどと同じく、懐中電灯に財布と携帯。しっかり施錠したことを確認してからエレベーターへ向かえば、一階で待機したままになっているそれに乗り込み二階へと向かう。「思ったより、頼み事が多いのは何でなんだ……?」 身体に残る疲労感に、無意識に下へ向
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-17
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1st stage:21

「これって、十二年前の日付……だよな?」 何故そう思ったのはかは分からない。 ただ、その数字が十二年前の日付だと言うことは妙な確信がある。「でも……」 しかし、そうなってくると確かに不可解なことがあるのも事実だ。 もし仮に、このテープが十二年前からここにあるのだとしたら、この扉は十二年間開けられない状態だったことになる。この場合、傘の持ち主はここから出られないということになるの訳だが、202号室に居る母親は確かに『この部屋に居る娘に、傘を届けて欲しい』と電話を掛けてきた。ここで発生するのは明らかな矛盾で、目の前にある赤い傘と受け取ることの出来ない相手の関係が分からず益々混乱が強くなってしまう。「やっぱり、簡単には開けられそうに無いよなぁ」 気味が悪いと分かっていても、確かめなければ気が済まない。そう思ったからこそ、テープの向こう側にあるベニヤ板がどうなっているのかを注意深く観察してしまう。「バールが無いと無理だ」 しっかりと固定された板は軽く引っ張ったくらいではびくともしない。手足を使って思いっきり体重をかけてみても、打ち付けられた留め具が深く食い込んでいるのか、人力ではどうにもならなかった。「取りあえず、ノック……してみるか?」 無駄だと分かっていても、一応はと思い手を握ると、ベニヤ板を軽く叩いてみる。「…………まぁ、そうか」 これだけ厳重に封印されているのだから、きっとこの扉の向こう側は空っぽなのだろう。住人が住んでいる気配が無いことを確認すると、もう一度だけ子供用の赤い傘を見てからその場を後にする。 待機していたままのエレベーター。そこに乗り込みドアを閉めたとき、廊下を何かが横切った事に気付かないまま。管理事務室に戻ると事務椅子に腰掛けゆっくりと息を吐き出す。「朝まで後、二時間……」 とても密度の高い一日。これがあと数日続くのかと思うと少し嫌になってしまう。時給が良かったから辞めたくない。でも、この仕事を本当に続けても大丈夫なのだろうか。そんな不安はどうしても拭いきれない。 ジリリリーンッッ! 降りてくる瞼を完全に閉ざそうとした瞬間、管理事務室内に響く。今度は何だと受話器に手を伸ばしかけた時、偶然にも時計の文字盤に視線が止まり、無意識に伸ばした手を引っ込めた。「違う……今は
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-18
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1st stage:22

 屋上に鍵を掛けて一階に戻る際、エレベーターを使うことを一瞬躊躇う。「そう言えば、203号室って」 一度振り返って屋上のドアを見た後、階段へと視線を向けたのは殆ど無意識だ。「…………」 まるで、何かに導かれるかのように足が自然に階段へと向かってしまう。 一段、二段……と、静かに足を下ろす段差は柔らかく、気を抜くと直ぐに足を捕らわれ転倒しそうになってしまう。やっとの思いで辿りついた二階は静まりかえっており、数時間前に見た様子とそれほど大差は無さそうだ。「こっちだったよな?」 ただ、向かった203号室の前に立つと、やはりというように息を吐く。「無い」 あれは、本当に現実のものだったのだろうか。 夜間、この部屋の前に立ったときは確かに、ここの扉はベニヤ板とテープで封印されていた。しかし、こうして日が昇ってから改めて確認すると、不思議なことにそれらのものは完全に姿を消してしまっている。「触れるじゃん」 住人に申し訳ないと思いつつ手を伸ばしたドアノブは、確かに掴み動かすことができる。鍵さえ開けることが出来れば、扉の向こう側の様子を確認することは可能だろう。「傘……」 ただ。壁に立てかけられた子供用の赤い傘は、確かにこの部屋の前に存在しているのだ。「俺……一体、何を、見たんだろう……」 あの時に感じた違和感も恐怖も。しっかり覚えて消えることは無い。それなのに、不可解なことを確認していくと。その痕跡は面白いほど探すことが出来ない状態で。その替わり残されているのは、見た覚えの無い明らかな矛盾。その奇妙なズレが示すものは一体何なのかということは、まだ答えが得られ無さそうで気持ちが悪い。 これ以上ここに留まっていても仕方が無い。 これ以上の長居を避け一階へ降りると、管理業務室に戻り昼の人間へ引継ぎをするための処理を進めていく。予め用意されていたフォーマットに必要事項を書き込んでいくのだが、そこに表記されていた項目の殆どを行っていないことに気が付き表情が曇る。「ってか、点検作業やってねぇわ。やっべぇ……」 一瞬どうしようかと悩みはしたものの、一応は全く仕事をしていない訳では無かったと自身に言い訳をし、適当にチェックボックスに印を書き入れ誤魔化しておく。特記事項には夜間に不可解なものを見たこと、ボールの音がうるさいというクレームが入ったことを記載し
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-19
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1st stega:23

「っっっっ!!」 気が付けば、時刻は午後十一時を回ると言ったところ。「…………え?」 意識を取り戻した瞬間上がる声に、自分自身が一番驚き固まってしまった。「どこ……?」 記憶を失う前は確かに、コンビニエンスストアの中に居たはずだった。ただ、不思議なことに、その建物からで瞬間から、その先の記憶が一切なくなってしまっている。 余りにも理解不能な状態に激しく動揺しながら周囲を見回すと、ここが雨月マンションの管理事務室だということに気が付いた。「なん……で?」 仕事を終えて建物を出てから一時間も経っていなかったはずだ。ただ、昨夜と着ている服が異なっていることから、どこかで服を着替えたのだという事は分かる。しかし、あの最悪な店員の居る店から出た後、本当に帰宅したのかが分からない。 この空白の時間に、自分は一体何をしていたのだろうか。「ってか、ここから出られたのってほんの一瞬だけなのかよ……」 またしてもこの建物に閉じ込められた。 何故かそんな気がして一気に気分が憂鬱になる。流石にこの時間になると、終電に間に合うかどうかも怪しくなってくるし、タクシーを使って帰宅したくともそんな余裕を持てる財政状況では無いため、諦めざるを得ない。「畜生……帰った気がしねぇじゃねぇか……」 舌打ちが止まらないが、もうこれは仕方が無い。取りあえず、業務日誌を確認していくと、特段目立つことは何も見つからない。記録には淡々と業務を熟していた形跡だけがあり、こちらが残した確認事項に関しては『報告済み。連絡待ち』とだけ記載されているため、あんなに嫌な思いをしたのが自分だけだという事実に、なんとも言えない苛立ちを感じてしまう。「夜勤なんて希望するんじゃなかった」 設定された時給の数字。その大きさに釣られたのは勿論自分だ。だから、この決断に対して文句を言うのは、本来ならば間違っているだろう。しかし、契約内容には起こる事象についての注意事項などは無かったと記憶している。誰に対して文句を言えば良いのか分からない怒りだけが、ずっと内側で燻ったまま。「はぁ」 そして今日もまた、業務が始まる。薄暗い建物の中で、たった一人きりの管理業務が。◆ おかしなことと言えば、不自然に止まる時計の存在が真っ先に上がるだろう。「今日もまた止まってる?」 時刻が零時四十四分になったと同時に、壁に
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-20
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1st stage:24

『始めは、私の気のせいかと思ったんですけれども……』 いつ頃からこの気配を感じ始めたのは定かではないものの、初めてこの気配を感じるようになってから暫くは、彼女自身の気のせいかと思っていたらしい。 何故なら、彼女は極端な人見知りの性格で、それほど親しい知り合いが居ないのだという。 また、SNSなどのアカウントも所持していないため、下手に粘着されるようなトラブルを起こした経験もないらしい。「警察に相談は?」 もし、ストーカーなどの被害が疑われるのならば、マンションの管理人だけでなく警察に相談する案件だろう。それとなく状況を尋ねてみるが、返ってきた返答は芳しくない内容だった。『相談はしたんですが、何も起こっていないことに対しては対応出来ないって言われてしまって』 これはよく聞く話なので、そうだよなと納得をしてしまう。「何のための警察機関なんだか」 市民を守るにも様々なルールがある。それを守りすぎると防げる被害も防げないと分かっていても、動けない不自由さは確かにあるのだろう。その事については、頭では分かってはいるのだが、そこに憤りを感じないわけではないのだ。「相手の姿を見たことはありますか?」 ここまで酷く怯えているのだから放っておく訳にはいかないし、状況は確認しておくに超したことは無い。ただ、どういった相手なのかの情報は、少しでも多く手にれておきたいと言うのが本音でもある。格闘経験なんて無い素人が常識の通じない相手とやりあった場合、無事で居られるかどうかの保証はどこにも無いのだ。相手の性別、年齢、体格、道具の有無など、どんな些細な事でも良いから教えて欲しいと願うのは当然のことだろう。『それが……その人の姿を、はっきりと見たことは無いんです』 しかし、この質問に対しての答えも期待したものとは異なっていた。 言われてそうかと思う反面、 ドアスコープから確認すると言う事も出来ないのかという怒りも抱いてしまう。 とは言え、相手は被害者なのだ。自らを危険な状況に置いてまでリスクを冒す必要は一切無い。相反する二つの気持ちがぶつかり、どこに吐き出して良いのか分からない憤りから、受話器を持つ手に不自然な力が入ってしまう。『ただ、その人はいつも、赤いレインコートを着ています』「赤いレインコート?」『はい』 赤いレインコートとは随分と目立つ格好だな。 そ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-21
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1st stage:25

「ごめんなさい……ごめんなさい……」 誰に対する謝罪なのか分からない言葉が、薄暗い空間に不気味に響いている。「ごめんなさい……ごめんなさい……」 この場合、どうすれば良いのだろう。必死に頭を働かせるが、竦んだ足を動かすことが出来ず、その異様な光景をただ見つめることしか出来ない。「ごめんなさい……ごめんな…………」「おいっっ!!」 それでも勇気を振り絞り大きな声を出して威嚇すると、目の前の人物は大きく肩を跳ねた後怯えるようにこちら側へと顔を向けた。「何をしているんだっっ!!」 携帯端末をズボンのポケットに突っ込み、素早く懐中電灯を灯して前に向ける。「うっ……」 突然の光で目がくらんだらしい。真っ赤なレインコートを着ていた人物は、顔を庇うようにしてその光から逃げようと藻掻いた。「ここで何をしているんだよ……」 不意を突けた事に安堵し、バットを構えながら少しずつ距離を詰めていく。真っ先に視界を奪えたのは好都合で、相手は未だ戻らない視覚に戸惑いながら一歩ずつ後ずさっていく。「答えろ。何をしていたんだ?」「……何も……」 201の住人が語った午前零時に現れるという人間は、この人物で間違い無いのだろう。異様に目立つ真っ赤なレインコートを着込み、妙な時間に部屋の前に立っているのだから否定のしようが無い。 ただ、何故そのような奇妙な行動をするのかと問いかけても、具体的な言葉が返ってくることは一切無く、言い淀んだ状態で視線を逸らされてしまう。「警察、呼びますよ?」 特に刃向かってくる気配もないため、完全に毒気が抜かれてしまった。懐中電灯を下げ灯りを消すと、携帯端末を取り出し画面をタップする。「多分、無駄です」「え?」 驚いて顔を上げると、レインコートの人物は、真剣な面持ちで此方を見てそう言った。「無駄とは?」「警察に電話をしても、意味が無いと言う意味です」 この男は一体、何を言っているのだろう? 自分が逮捕されることを阻止したくてそう言っているのであれば、諦めて貰う他無いと。半ば呆れながらも呼び出した緊急ダイヤル。中々こうやって通報する機会は訪れないため、妙に緊張してしまう。口に溜まった唾を飲み込み、繋がったらどう応答しようかと考えていると、受話口から聞こえてきたアナウンスに思わず言葉を失ってしまった。「……え?」 耳に届く無機質
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-22
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1st stage:26

 それなのにこのタイミングで、何故この人が現れたのだろうか。「あ、あのさ……」 幸いにもレインコートの男はまともに会話が出来る人間のようである。それならと、一度深呼吸し気持ちを落ち着けてから改めて男と向き合うと、重い口を開いて尋ねるたはこのような事だった。「もし、ここから出られるとしたら、仕事を手伝って貰うってことは可能なのか?」 実際のところ、自らに課せられたノルマとこの男の状況とでは、条件は大きく異なっていることだろう。そのため、あくまでもこれは一人にならないための口実にしか過ぎない。「本当に出られると思うのか?」 相手が見せる不安。その疑問は実に自然なものだ。「条件が分からないから、はっきりとは言えない」 曖昧に言葉を濁す事も考えたのだが、ここでこの男が敵になる方がリスクが高い。そう判断したため、ここは素直に『分からない』とだけ答えることにする。「……まぁ、そうだよなぁ」 意外にも、男は素直にその言葉に納得する姿勢を見せた。「正直、お手上げ状態なんだ」 そして見せる降参を意味するポーズ。「少しでもここから出られる可能性があるのなら、それに賭けてみたいとは思うよ」 こちらが出した提案に肯定的な反応が返ってきたことで胸を撫で下ろすと、構えていたバットを下ろし肩の力を抜いてこう返す。「それなら、これからは協力者ということでよろしく頼む」 ひょんな事から得られた同伴者の存在。それが残された時間でどう自分に取ってプラスになるのかは予想が付かない。ただ、今まで一人だった性で感じて居た心細さは、言葉を交わす事の出来る仲間が増えたことで随分と軽くなったのも事実ではある。「取りあえず、解決したことをメモして入れておくから」 そう言って一度管理事務室へと引き返し適当な紙にメッセージを記すと、再び201号室へと戻り新聞受けからそっとそのメモを投げ込んでおく。「電話で伝えた方が良かったのでは?」 意外と冷静にそう言われると、何故その事に気が付かなかったのだろうと内心焦ったものの、時間が時間だからと適当な言葉で濁し、もう用がなくなったその場を後にし階下へと降りた。「なぁ。アンタさぁ」 背後を歩かれるのは怖い。何となくそう感じて男に先に歩くよう促し自らはその後を追って移動を続ける。「この仕事を受けた時
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-23
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1st stage:27

「ああ、これ?」 着ていたレインコートに触れながら、その問いに答える男。その口から飛び出した言葉に、思わず持っていたペットボトルを落としそうになってしまう。「気が付いたら色が変わっていたんだよな」「え?」「このレインコート、元々は黒い色だったんだよ」 冗談だろう? 思わずそう返したものの、男は首を左右に振ってその言葉を否定する。「俺が買ったとき、このレインコートは確かに黒いものだったんだ」 もしそうならば、これほど奇妙は話は無いはずだ。「でも、その色はペンキで汚れたとかそういう感じじゃないだろう?」 言葉の通り、彼の着ているレインコートは素地の色が赤であって、あとから染まったという訳では無かった。「色落ちするにしても、流石に冗談がきついぞ?」「俺にもよく分からないんだ。説明のしようが無いんだが」 どちらにしても、この建物で妙な事が頻繁に起こっているのだ。レインコートの色が変わるくらい些細なことだろう。そう言って肩を竦める男の言い分にそれもそうかと納得し、これ以上の追求は諦めることにする。「それで、アンタは何で201号室の前に居たんだ?」 未だ未開封のペットボトル。それを差し出しながら尋ねれば、男は右上の天井を見ながらぽつり、ぽつりとこんな話をし始めた。「俺が最後に受けた依頼の住人、201に住んでる女性だったんだよ……」 雨月マンションの夜間管理には、奇妙なルールが存在している。 その内容はこの男が管理業務に就いて居る頃から大きな変更点はないようで、自分が知っている情報との差違は見受けられない。 ただ、依頼されている業務内容自体は自分が受けたものとは異なっており、この男もペナルティが怖くて、恐怖に耐えながらも必死に依頼をこなしていたのだと言う。 一日目、二日目と、不穏な空気に怯えながらも無事にノルマをこなしていたが、契約終了の三日目で突然201号室の住人に呼び出されたらしい。「時間はそう……あと一時間くらいで朝になるって頃だったかなぁ? 突然電話が鳴ったんだよね。で、びっくりしてさ、そのまま電話に出ちまったら、電話の向こうで若い女性が【助けて】って叫んでんだよ」 緊迫した声から電話の向こう側で何かが起こっていることは予測出来たが、見ての通り、この管理人事務室には武器になるようなものを見つける事が困難で。「そっちは運良くその
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-09-24
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