数日後。麻奈は、山吹色のシューズを履くと、高級住宅街の道路へ走り出た。少しずつ力を増す陽射しに目を細める。「……もう夏になるのね」 あちこちの大きな家の庭に植えられた樹々の緑が揺れる。陽の光を受けて輝く緑を眺めながら走っているうちに、両側に瀟洒な家が建ち並ぶまっすぐな道へ出た。「……結婚して一年……いろいろあったけど、飛び出してから半年、戻ってきて数ヶ月。結局今は落ち着いちゃった。私、幸せ……かな、かなり」 少し走ると、上品な石作りの大きな屋敷の前へ出た。門の前で打ち水をしていたその家の女主人らしき年配の女性が麻奈にちらりと目をとめる。「……おはようございます」 走りながら麻奈は意識して笑顔を作った。が、女性は頭を下げた麻奈には気づかないふりをしてぷいと横を向いてしまった。……仕方ないわよね。 返されなかった挨拶のことは気にしないことにして麻奈は走り続ける。ただ、ペースが少し速くなった。ストライドを大きく取り、ぎゅっと唇を固く結んで前を向く。石作りの家はあっという間に麻奈の背後で小さくなった。……私はこの辺りの上品な奥様たちから見れば異物みたいなものだから。名前を知られた家の出でもないし、大人しくしているならまだしも、毎朝変な格好で道路を走っているんだもの、あの人たちから見ればどう扱っていいのかわからない存在なのよね、きっと。「仕方ない。ただ、私はそんなことをしないようにって思うだけ。……それしかない」 走りながら角を曲がると、大きな庭に囲まれた平屋建てのこぢんまりとした家が現れた。敷地をぐるりと囲んだ開放的なフェンスから綺麗に整えられた庭が見える。「おはようございます」 門の前で掃除をしていた女性が麻奈の姿を認めるとにこやかに声をかけた。「おはようございます」 麻奈も笑顔を見せる。この家の女主人は最初から麻奈を見ると笑顔を浮かべて声をかけてくれる。……うん。こんな奥様になりたいな。 軽く頭を下げると、麻奈は彼女の前を走り抜けた。……あの家の奥様だけ。私に何の偏見もなく声をかけてくれるのは。 こういう高級住宅街は、いわゆる一般の街に比べて町内会や自治会の力や結束が強い。力
Huling Na-update : 2026-11-06 Magbasa pa