「……ごめん」 沙雪の勢いに押されて、少し後ろへ体をのけぞらせた蒼生に、沙雪は微笑んだ。 「蒼生はそれほど誤解してなかったと思うけど」 「……いや、俺は……その……」 蒼生はうつむいた。 「……お前が……あのシフォンのワンピースを着てるのが……好きで……」 「私だって好きだったわ。私に似合うでしょ」 沙雪はこくんとうなずく。 「ほんと、着られる時に着といてよかった。今はもうあんなの着てられない。ダブルワークのシングルマザーは機動力が大事なんだから」 「ダブルワーク?」 蒼生が顔を上げると、沙雪は困ったように少し笑った。 「子育てしながら働くのって難しいのよ。時間の融通も必要だし、サッカーにもお金がかかるの」 軽くガッツポーズをしながら沙雪は笑った。 「昼間は倉庫で在庫管理、夜はコンビニで。大丈夫、やれるわ」 「だけど、お前、気は強くたって体は弱いんだぞ。大丈夫なのか?」 その言葉に沙雪はにっこりした。 「相変わらず過保護なんだから。私のことは気にしないの」 軽く蒼生の肩を叩いて沙雪は笑ったが、蒼生は笑うどころか、真一文字に唇を結んで、沙雪を見据えた。 「ちょっと待ってくれ。会社の福利厚生はどうなってる? 死亡退職金、団体生命保険、子供への教育費支援、いくつかあるはずだ。会社の規模や程度に応じてそれなりに出る」 沙雪の表情がこわばった。蒼生は続ける。 「それに、手厚ければ生活相談やお前の再就職支援だってあってもいい。どのくらい援助が出た? ダブルワークなんて、お前が体を壊したら子供が一人で残されるだけだ。それは避けないと」 唇を噛んでうなだれた沙雪を、蒼生はそっと覗き込んだ。 「……どうしたんだ?」 沙雪は答えなかった。ただうつむいて、目の前の床を見つめる。過去を反芻するように、その目は動か
Última actualización : 2026-09-21 Leer más