街には夕方の陽が射していた。大勢の人でごった返していた道路も、今は閑散としている。 公園のベンチの上で、麻奈は蒼生にもたれていた。目を閉じて、眠っているのかと思うほど静かに。蒼生は麻奈を包み込むように抱き寄せると、自分の腕にこぼれかかる麻奈の髪をそっと撫でた。「……さあ、帰ってゆっくり休まないと」「……もう少しこうしていたい。蒼生、あったかい」 麻奈の手が、蒼生のシャツを掴んだ。蒼生はその手に自分の手を重ねて、しばらく麻奈を見つめていたが、やがて口を開いた。言葉が少し引っかかる。「……あの……だったら……家に……来る……? えーと、風呂も広いし……」 目を丸くした麻奈に、蒼生は慌てて言った。「今日は一緒に眠らなくてもいいんだ。フルマラソンを走った後だし、疲れてるだろ? 客間のベッドがあるから、そこでゆっくり眠ったらいいよ」 麻奈は少しうつむいた。突然出て行ってしまった。工藤やシェフはその後も気遣ってくれた。でも、やはり気まずい。何事もなかったような顔をして戻ってもいいのか。麻奈は蒼生を見上げる。「……行っても……いいの?」 子供たちが目の前を駆けて行った。「ねえ、ご飯どうする?」誰かと誰かが話す声が聞こえる。短い昼の陽は既に沈みかけ、空はオレンジから群青色のグラデーションを作った。「お前の家だよ」 蒼生は笑った。愛しげに麻奈を見つめる。「……俺だけじゃない、みんな待ってる」 麻奈の目が揺らいだ。蒼生の胸に顔を埋めると、小さくうなずく。口元が微かに上がった。「……私……どこにも居場所がない気がしてた」 見下ろした蒼生の目を見上げる。「蒼生の世界と私の世界があんまり違ってて……。でも、私は蒼生のこと知ってしまって……もう自分の世界も違う気がして……」「俺だってそうだよ」 蒼生は麻奈の肩に手を置く。「お前を知った。だから今までの俺の世界だけじゃ何かが欠けてる気がして仕方がなかった」 そっと耳元に唇を寄せる。蒼生の声が低く響いた。「……ごめん。あんな出会い方しかできなくて。……お前を……傷つけて」「許せないし、許したくないけど……」
Last Updated : 2026-10-26 Read more