夜の暗さが増し、真っ黒な夜空に星が瞬くようになった。空気はきりりと引き締まり、外へ出るのに上着が一枚必要になる。 ほとんど人影のないカエラム・ジムのサロンで、蒼生はドリップマシンから落としたエスプレッソのカップを片手に、ガラス窓の向こうに広がる夜景を眺めていた。 エスプレッソは悪くない。いつも口にしているブルーマウンテンほどではないが、苦味と香りが心地いい。大理石のカウンターの向こうからスタッフが焙煎して出してくれるナッツも、噛み割れば快い音を立てて口から鼻に香ばしい香りが抜けて行く。 トレーニングを終え、リカバリールームでゼログラビティチェアに横たわり、宙に浮くような感覚に身を任せる。疲労が体から抜け落ちて行くのを楽しんだあと、このサロンでコーヒーとナッツの香りを楽しみ、自宅へ戻る。 最近では週に1度か2度、蒼生はここへ通うようになった。何故か疲れが取れるような気がする。ゼログラビティチェアのおかげだけではないようだ。「……まあ……無理にでもスケジュールを空けるだけのことはある」 カリっと音を立ててアーモンドを噛み割ると、エスプレッソに手を伸ばした。気持ちのいい木の実の香りが口の中に広がる。 ここで真面目にトレーニングした結果、5,000mほどなら軽く走れるようになった。……タイムさえ気にしなければ。「……なんとなく引き締まったような気もするな……」 蒼生は自分の体を見下ろす。……別に今までたるんでいたわけでもないが。……まあ……なんというか……引き締まった……気がする。 頬杖をついて夜景を眺める。……麻奈。今ごろ大会に向けて走り込んでいるんだろうな……。あの山吹色のシューズを履いて。「……無理にアパートを探すのは……邪魔になるだけなんだろうな……」 呟いてエスプレッソを飲み干し、立ち上がると、スポーツバッグを肩にかけて玄関に向かって歩き出す。ふと、ラウンジに隣接するショップのガラスに映る鮮やかな色に目が止まった。……山吹色。麻奈のシューズの色だ。 蒼生は足を止めて覗き込む。そこには鮮やかな色彩に彩られたパッケージの補給食がにぎやかに並んでいた。「……あまり気にしてなかったが……こういうの
Huling Na-update : 2026-10-16 Magbasa pa