商店街の集会から数日後、有紗は病室で由美子と向き合っていた。 再入院してからの由美子は、以前より顔色が良くなっていた。医師の話では、投薬の調整がうまくいき、来週にも退院の目処が立つという。有紗はほっと胸を撫で下ろしながら、持ってきた着替えを棚に仕舞っていた。 「有紗」 由美子の声に、いつもと違う響きがあった。振り返ると、母はベッドの上で背筋を伸ばし、まっすぐにこちらを見ていた。 「なに?」 「座って。話したいことがあるの」 有紗は丸椅子を引き寄せて座った。窓の外では夕暮れが病室を橙色に染めていた。 「集会のこと、沙織ちゃんから聞いたわ。あんた、頑張ってるのね」 「うん、まあ……。みんなが力貸してくれてるから」 「篤くんのことも」 有紗は言葉に詰まった。母の口から篤の名前が出ると、いつも心のどこかが強張る。由美子は静かに続けた。 「有紗。ずっと言えなかったことがあるの」 「お母さん……」 「十年前、あんたが篤くんへの気持ちを諦めた理由、覚えてる? あんたは『お母さんのため』って、自分に言い聞かせてたでしょう」 有紗は頷いた。あの頃の記憶は、今でも鮮明だった。母の病状が悪化し始めた時期。誰にも頼れず、誰にも言えず、ただ自分が支えなければと思い詰めていた。 「あのね」 由美子は一度目を伏せ、それから顔を上げた。 「私、気づいてたのよ。あんたが篤くんのこと好きだったこと。卒業式の前、なんだか様子がおかしかったから」 「……知ってたの?」 「うん。でも、何も言わなかった。ううん、言えなかった、が正しいかもね」 由美子の指先が、布団の端を握りしめた。
Terakhir Diperbarui : 2026-09-04 Baca selengkapnya