三田から会議室に呼ばれたのは、見直し案を提出してから三日後のことだった。 「中村部長には、もう目を通してもらった」 三田の声は淡々としていたが、表情はどこか重い。篤は椅子に座り直し、続きを待った。 「結論から言う。今のところ、正式な採用は難しい」 覚悟はしていたはずだった。それでも、胸の奥が冷たくなる感覚は消えなかった。 「理由をうかがってもいいですか」 「収支のバランスが合わない、というのが表向きの理由だ。だが本音はもっと単純だよ。もう決定した案をひっくり返す前例を作りたくない。それだけだ」 篤は資料に目を落とした。住民の声を一軒ずつ拾い集め、可能な限り数字に落とし込んだ束だった。夜遅くまでかけて仕上げたものが、たった一言で退けられようとしている。 「感情論だと、中村部長は言っていた」 その言葉が、胸に刺さった。感情論――住民たちが十年、二十年と積み重ねてきた暮らしを、そう片付けられてしまうことに、篤は静かな怒りを覚えた。 「三田さんは、どう思われますか」 三田は少し間を置いてから答えた。 「私は……悪くない提案だと思っている。ただ、社内で味方が少なすぎる。中村部長に正面から反対できる人間が、今のところ君しかいない」 その言葉に、篤はふと同期の田村の顔を思い浮かべた。先日、居酒屋で交わした短い会話。田村は表立って賛同はしなかったが、「お前の言ってることは、間違ってないと思うけどな」とだけ呟いていた。 「一人でも、いいんです」 篤は資料を持ち直した。 「一人からしか、何も変わらない。それは、有紗さんが教えてくれたことです」 三田は少し驚いたような顔をしたが、やがて小さく頷いた。 「……もう一度、練り直してみるか。
Last Updated : 2026-09-14 Read more