正式通達を告げるため、篤は翌日、有紗の店を訪ねた。店内には来客はなく、有紗はカウンターの奥で伝票を整理していた。 「篤くん」 顔を上げた有紗の表情は、以前よりもさらに硬くなっているように見えた。篤は深呼吸をしてから、覚悟を決めて口を開いた。 「有紗、大事な話がある。座って聞いてもらえるか」 有紗は黙って頷き、カウンター越しに篤と向き合った。 「会社が、当初案での再開発を進めることを正式に決定した。来週、住民説明会を開いて、正式に通達される」 「……そう」 有紗の反応は、篤が予想していたよりも静かだった。だがその静けさは、感情を抑え込んでいるだけのようにも見えた。 「見直し案は、通らなかったの?」 「ああ。コストと工期の面で、会社は当初案を優先すると。俺なりに、最後まで食い下がったつもりだけど……力及ばずだった」 「そう、篤くんは、頑張ってくれたんだよね」 その言葉は、篤を責めるものではなかった。むしろ、篤の努力を認めようとする響きがあった。それが逆に、篤の胸を締めつけた。 「これから、収用の手続きに入る可能性もある。有紗の店も、対象に含まれることになる」 有紗はしばらく黙り込んだ後、静かに言った。 「わかった。教えてくれてありがとう」 その落ち着いた反応に、篤はかえって不安を覚えた。もっと怒りをぶつけられるか、涙を見せられるか──何かしらの感情の発露を予想していたが、有紗はただ淡々と受け止めているように見えた。 「有紗、大丈夫か」 「大丈夫だよ。ある程度、覚悟はしてたから」 その「覚悟」という言葉に、篤は嫌な予感を覚えた。それは、店を守る覚悟ではなく、何かを諦める覚悟のようにも聞こえた。
Last Updated : 2026-08-25 Read more