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All Chapters of 十年後の初恋: Chapter 31 - Chapter 40

52 Chapters

第31話 かすみの再訪

正式通達を告げるため、篤は翌日、有紗の店を訪ねた。店内には来客はなく、有紗はカウンターの奥で伝票を整理していた。 「篤くん」 顔を上げた有紗の表情は、以前よりもさらに硬くなっているように見えた。篤は深呼吸をしてから、覚悟を決めて口を開いた。 「有紗、大事な話がある。座って聞いてもらえるか」 有紗は黙って頷き、カウンター越しに篤と向き合った。 「会社が、当初案での再開発を進めることを正式に決定した。来週、住民説明会を開いて、正式に通達される」 「……そう」 有紗の反応は、篤が予想していたよりも静かだった。だがその静けさは、感情を抑え込んでいるだけのようにも見えた。 「見直し案は、通らなかったの?」 「ああ。コストと工期の面で、会社は当初案を優先すると。俺なりに、最後まで食い下がったつもりだけど……力及ばずだった」 「そう、篤くんは、頑張ってくれたんだよね」 その言葉は、篤を責めるものではなかった。むしろ、篤の努力を認めようとする響きがあった。それが逆に、篤の胸を締めつけた。 「これから、収用の手続きに入る可能性もある。有紗の店も、対象に含まれることになる」 有紗はしばらく黙り込んだ後、静かに言った。 「わかった。教えてくれてありがとう」 その落ち着いた反応に、篤はかえって不安を覚えた。もっと怒りをぶつけられるか、涙を見せられるか──何かしらの感情の発露を予想していたが、有紗はただ淡々と受け止めているように見えた。 「有紗、大丈夫か」 「大丈夫だよ。ある程度、覚悟はしてたから」 その「覚悟」という言葉に、篤は嫌な予感を覚えた。それは、店を守る覚悟ではなく、何かを諦める覚悟のようにも聞こえた。
last updateLast Updated : 2026-08-25
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第32話 答えられない

東京の空は、地元のそれよりも一段階、色が薄い気がする。いつも篤はそう思う。ビルの隙間から見上げる空は、同じ青のはずなのに、どこか希釈されたような、頼りない色をしていた。 会社帰り、篤はかすみに呼び出され、二人がよく待ち合わせに使うカフェにいる。かすみが頼んだのは、コーヒーではなく、めずらしくハーブティーだった。 「結婚の話、保留にするって言ったの、覚えてる?」 前置きもなく、かすみが切り出す。篤は頷いた。忘れられるはずがない。あの言葉をかすみが口にした夜から、もう三週間近くが経とうとしていた。 「保留のままにしておくのは、フェアじゃないと思って」 静かだが、揺らぎのない声。篤はカップに口をつけようとした手を止めた。 「篤は、まだ答えを出せていない。それはわかってる。でも私は、篤が答えを出すのをただ待ち続けることはできない。私にも、私の仕事があるし、私の時間がある」 「かすみ……」 「責めてるわけじゃないの」かすみは小さく首を振った。「ただ、確認したいだけ。篤は、私とのことを、まだ続けたいと思ってる? それとも──」 言葉の続きを、かすみはあえて言わなかった。篤に言わせるつもりなのだと、その沈黙でわかる。 篤は視線を落とした。かすみの誠実さに、いつも助けられてきた。合理的で、感情に流されず、それでいて冷たいわけでもない。むしろ人一倍、筋を通すことを大切にする人だ。だからこそ、自分の不誠実さが、今は恥ずかしくてたまらなかった。 「わからない」 やっと絞り出した言葉は、それだけだった。 「わからないって、どっちが?」 「かすみとのことを続けたいかどうかも、有紗のことをどうしたいのかも……全部、わからないんだ」 かすみは少しの間、篤の顔をじっと見つめる。怒っている様子ではない。むしろ、何かを確かめるような目をし
last updateLast Updated : 2026-08-26
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第33話 沙織の詰問

美容室「salon SAORI」の営業が終わる時間を見計らって、有紗は店の裏口を叩いた。ガラス越しに、沙織がこちらに気づいて手を止める。ドアが開くと同時に、シャンプーの匂いと、微かな薬剤の匂いが鼻をついた。 「有紗? こんな時間にどうしたの」 「ちょっと、話したくて」 有紗の声は、いつもより低く、こわばっていた。沙織はそれだけで何かを察したらしく、無言でドアを大きく開け、中に招き入れる。 店の奥、施術用の椅子が並ぶスペースの片隅に、小さな待合スペースがあった。沙織は電気ケトルでお湯を沸かしながら、有紗を椅子に座らせる。 「お母さん、容体は?」 「落ち着いてる。今日は面会時間、少しだけ話せた」 「そう。よかった」 沙織はティーバッグを二つのカップに入れ、お湯を注いだ。湯気が二人の間にゆっくりと立ち上る。しばらく、どちらも口を開かなかった。 「篤くんのこと、避けてるでしょう」 沈黙を破ったのは、沙織だった。有紗はカップを両手で包んだまま、視線を落とす。 「……わかる?」 「わかるよ。十年、有紗のこと見てきたんだから」 沙織の声には、責める色はなかった。ただ、静かな確信があった。 「会社からの正式通達があった日から、有紗、店にこもりっぱなしじゃない。篤くんからの連絡も、既読スルーしてるでしょう」 有紗は答えなかった。それが答えだった。 「お母さんが倒れてから、また同じことしてる」 沙織の言葉は、静かだが鋭かった。有紗の肩が、わずかに強張る。 「同じこと、って」 「十年前と同じ。何かあると、大切な人を自分から遠ざける。今回もそう」 「……違う」
last updateLast Updated : 2026-08-27
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第34話 真意を問う

沙織の店を出た有紗は、その足で「フルール・アリサ」に戻った。もう営業時間はとうに過ぎていたが、有紗はシャッターを半分だけ開けたまま、店内の片付けを始める。涙の跡はまだ頬に残っていたが、不思議と気持ちは軽くなっていた。 バケツの水を替え、萎れた花を選り分ける。単調な作業に手を動かしていると、少しずつ心が凪いでいくのがわかった。 シャッターの隙間から、足音が近づいてくる。有紗は顔を上げた。 「有紗」 篤だった。スーツ姿のまま、息を切らしている。どうやら、会社帰りにそのまま自転車で来たらしい。 「……篤くん」 有紗は手を止めた。心臓が、一気に速くなる。避けていた相手が、今、目の前にいる。 「連絡、何度もしたんだけど」 篤の声には、責める色よりも、戸惑いの方が強かった。有紗は視線を落とす。 「ごめん。既読、つけられなかった」 「なんで避けるんだよ」 篤の声が、わずかに強くなった。有紗は思わず身を硬くする。 「有紗、俺のこと避けてるだろ。会社からの通達があった日から、ずっと」 有紗は答えられなかった。篤はシャッターをくぐり、店の中に入ってきた。 「有紗の気持ちが、俺にはわからない。夏祭りの夜、お互いの気持ちを確かめ合ったはずだった。でも、あれから、また距離ができた。俺は、何か間違えたのか?」 篤の目には、真剣な色があった。有紗はその目を見返せなかった。 「違う。篤くんは、何も間違えてない」 「じゃあ、なんで避けるんだよ」 篤の声が、少し震えていた。有紗は花を持ったまま、俯く。 「怖かったの」 「怖い……?」 「篤くんに、期待するのが
last updateLast Updated : 2026-08-28
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第35話 十年前の真実

篤が有紗の店を訪れてから、三日が経っていた。 会社では、正式通達を受けての住民説明会の準備が進められている。篤はその実務に追われながらも、頭の片隅では常に有紗のことを考えていた。「もう、逃げない」──あの夜、有紗が口にした言葉が、篤の胸に残り続けている。 その週末、有紗から連絡が来た。「話したいことがある」という短いメッセージだった。篤はすぐに店へ向かった。 店に着くと、有紗はすでに看板を下げ、店の奥のテーブルに座って待っていた。テーブルの上には、二人分のお茶が用意されている。 「来てくれて、ありがとう」 有紗の声は、いつもより落ち着いていた。篤は向かいの椅子に座る。 「話したいことって?」 有紗は少しの間、目を伏せた。それから、意を決したように顔を上げる。 「十年前のこと、ちゃんと話す」 篤は息を呑んだ。ずっと聞きたかったことだった。十年間、答えの出ないまま抱え続けてきた疑問──なぜ、あの時、有紗は自分を避けたのか。 「聞かせてほしい」 篤は静かに言った。有紗は小さく頷き、話し始めた。 「高校三年の夏、お母さんが倒れたの。心臓の病気だった。手術が必要で、その後も長い療養が必要な状態だった」 有紗の声は、記憶を辿るように、ゆっくりだった。 「お父さんは、私が小さい頃に家を出て行った。だから、お母さんと私、二人だけの家族だった。お母さんが倒れた時、私、本当に怖かった。このまま、お母さんがいなくなったらどうしようって」 篤は黙って耳を傾けた。 「お医者さんに言われたの。お母さんの回復には、時間もお金もかかるって。私は、卒業したら地元に残って、お母さんを支えなきゃいけないと思った。花屋の仕事を継いで、お母さんの看病をしながら、生活を立て直さなきゃいけないって」
last updateLast Updated : 2026-08-29
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第36話 板挟み

有紗の告白から一夜明け、篤は東京行きの電車に揺られていた。窓の外を流れる景色を眺めながら、篤の頭の中では、昨夜の光景が繰り返し再生されている。 十年前、有紗が抱えていた覚悟の重さ。母を守るために、自分の想いを封じ、篤の将来まで慮って距離を置いた選択。その事実を知った今、篤の中では、迷いの質が変わっていた。 以前は「有紗はどうして自分を避けるのか」という疑問だった。今は「自分は有紗のために何ができるのか」という、もっと具体的な問いに変わっている。 会社に着くと、篤はすぐに上司の中村に呼び出された。 「桐生、正式通達の件、住民説明会の日程が決まった。来週水曜だ。お前が説明役を務める」 中村の口調には、有無を言わさぬ響きがあった。篤は頷くしかなかった。 「わかりました」 「見直し案のことは、もう忘れろ。会社としての決定は覆らない。お前の仕事は、住民に納得してもらうことだ」 「……はい」 篤は自分のデスクに戻った。パソコンの画面には、当初案の再開発計画が表示されている。商店街を全て取り壊し、大規模な複合施設を建設する計画。有紗の店も、沙織の美容室も、その他の店も、すべてが対象区域に含まれていた。 篤は画面を見つめながら、拳を握りしめた。この計画を、自分の口から住民に説明しなければならない。有紗にも、正式に、この計画を突きつけなければならない。 その日の午後、篤の携帯にメッセージが届いた。かすみからだった。 「今夜、時間ある? 話したいことがある」 篤は少し迷ってから、「大丈夫」と返信した。 夜、二人はいつものカフェで会った。かすみは、以前よりも落ち着いた表情をしていた。 「篤、答え、出た?」 前置きもなく、かすみは切り出した。篤は深く息を吸った。
last updateLast Updated : 2026-08-30
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第37話 決裂

 住民説明会まで、あと五日。篤は会社のデスクで、当初案の資料を作りながら、何度もペンを止めていた。 資料には、商店街一帯を取り壊し、大型複合施設を建設する計画が、詳細な図面とともに記載されている。有紗の店の場所には、施設の駐車場が予定されていた。 篤は資料を睨みながら、拳を握りしめた。この計画を、自分の言葉で住民に説明する──その役割を、篤はもう受け入れられなくなっていた。「中村さん、少しお時間よろしいですか」 篤は上司の中村のデスクに向かった。中村は書類から顔を上げる。「なんだ」「今回の再開発案について、もう一度、ご相談したいことがあります」「見直し案の話なら、もう終わった話だぞ」 中村は不機嫌そうに言った。篤はひるまず続けた。「見直し案そのものではありません。ただ、現状の当初案は、商店街の住民にとって、あまりに一方的すぎます。せめて、段階的な移行案や、代替地の提示など、住民の負担を軽減する措置を検討できないでしょうか」「桐生」 中村は椅子の背にもたれ、篤を見据えた。「お前、まだそんなことを言ってるのか。会社の決定は、もう変わらない。お前の仕事は、住民に納得してもらうことだ。反対意見を集めることじゃない」「納得してもらうためにも、住民の立場に立った提案が必要だと思います」「必要ない」 中村の声が、冷たく響いた。「桐生、お前、最近、様子がおかしいぞ。現地の人間と、必要以上に親しくなってるんじゃないのか」 篤は言葉に詰まった。中村の目には、疑念の色があった。「仕事です。住民の意見を聞くのも、仕事のうちです」「意見を聞くのはいい。だが、お前は、会社の立場を忘れかけてる。お前は事業者側の人間だ。住民の味方をするために、この会社にいるわけじゃない」 篤の中で、何かが静かに、しかし確実に、切れる音がした。「中村さん」 篤は、まっすぐに中村
last updateLast Updated : 2026-08-31
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第38話 東京へ

プロジェクトから外された翌日、篤は人事部に呼び出された。 「桐生くん、しばらく本社の企画部門で待機してもらうことになった」 人事担当者は、感情のこもらない声で告げた。 「待機、ですか」 「正式な辞令が出るまでの、一時的な措置だ。中村部長からは、君を今後の再開発案件から完全に外すようにと、指示が来ている」 篤は黙って頷いた。予想していたことだった。それでも、実際に言葉にされると、胸の奥に、鈍い痛みが広がった。 「明日から、本社に出社してくれ。現地事務所の私物は、整理しておくように」 「わかりました」 篤は、淡々とそれだけを答えた。 その日の夜、篤は現地事務所に残された自分の荷物を整理していた。段ボール箱に、資料やノートパソコンを詰めていく。窓の外には、商店街の明かりが、遠くに見えていた。 篤は、手を止め、窓の外を見つめた。あの明かりの中に、有紗の店がある。フルール・アリサの、暖かいランプの灯り。篤は、ここに来てからの日々を思い返した。 有紗との再会、住民説明会での対立、夏祭りの夜、由美子の入院、そして──十年前の真実。すべてが、篤の中で、かけがえのない時間になっていた。 だが、今、篤はこの場所から、離れなければならない。 段ボール箱を車に積み込み終えた頃、篤の携帯が鳴った。有紗からだった。 「篤くん、今、大丈夫?」 「うん、大丈夫」 「明日、東京に戻るって聞いた。沙織から」 篤は、少し驚いた。沙織にも、話が伝わっていたらしい。 「うん。人事から、しばらく本社待機って言われた」 「……」 電話の向こうで、有紗が黙り込む気配がした。篤は、続けた。
last updateLast Updated : 2026-09-01
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第39話 一人で立つ

篤が東京に戻った翌朝、有紗はいつもより早く目を覚ました。 まだ薄暗い部屋の中、有紗はしばらく天井を見つめていた。昨夜の電話の内容が、頭の中で何度も繰り返される。篤が会社での立場を失ったこと。それでも、諦めないと言ってくれたこと。そして、有紗自身に向けられた言葉──「有紗にできることを、考えてほしい」。 有紗は、布団から起き上がった。窓を開けると、朝の冷たい空気が部屋に流れ込んでくる。商店街は、まだ静かだった。 これまでの有紗は、いつも誰かに守られてきた。母に、篤に、沙織に。だが今、篤は東京に戻り、母は入院している。有紗は、初めて、本当の意味で一人だった。 しかし、その「一人」という感覚は、以前のような、不安に押しつぶされそうな孤独とは違っていた。 有紗は、店に向かった。シャッターを開け、いつも通りの朝の作業を始める。花を並べ、水を替え、店内を掃除する。単調な作業をこなしながら、有紗の頭の中では、一つの考えが、少しずつ形になっていった。 ──対案を、作る。 篤の言葉が、頭から離れなかった。会社が当初案を強行しようとしているなら、それに対抗できるだけの、具体的な代案が必要だ。 だが、有紗一人の力では、何もできない。有紗は、携帯を取り出し、沙織にメッセージを送った。 「今日の夜、時間ある? みんなに集まってほしい」 すぐに返信が来た。 「わかった。健太くんにも声かける」 その日の夜、有紗の店には、沙織、健太、そして商店街の他の店主たちが集まっていた。狭い店内に、十数人が詰めかけている。 「みんな、急に集まってもらって、ごめんなさい」 有紗は、緊張しながら切り出した。 「篤くんが、会社の再開発案に異を唱えて、プロジェクトから外されたの。東京の本社に戻ることになった」 集まった
last updateLast Updated : 2026-09-02
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第40話 商店街の団結

対案作りを呼びかけた夜から三日が経った。 有紗は「フルール・アリサ」の店先に「商店街集会・本日19時」と手書きの貼り紙を出し、朝からずっと落ち着かなかった。あの夜、集まってくれたのはほんの数人だった。今日、どれだけの人が来てくれるかはわからない。 「大丈夫よ、有紗ちゃん」 隣で花を束ねながら、沙織が言った。仕事帰りに寄ってくれたらしく、まだ美容師のエプロンをつけたままだった。 「大丈夫って、根拠は?」 「ないけど」沙織は笑った。「でも、あんたが本気で頭下げて回ったこと、みんな知ってる。噂話でしか喋らなかった人たちが、ちゃんと顔見て話すきっかけになったんだから。それだけでも意味あるよ」 夕方、有紗は商店街の各店を一軒ずつ回った。反対だ、無駄だ、と言われることも覚悟していたが、意外にも扉を開けてくれる店が多かった。長年花屋の隣で八百屋を営む老夫婦は、黙って頷いただけだったが、集会の時間をメモに控えていた。 19時、公民館の小さな集会室には、三十人近くが集まっていた。有紗が想像していたよりずっと多い。 「こんなに……」 思わず声が漏れる。健太が奥から手を挙げた。 「有紗さん、机並べといたよ。あと、うちの親父も来てる」 見れば、普段は店に籠りきりで顔を出さない健太の父親の姿もあった。 有紗は深呼吸をしてから、皆の前に立った。用意してきた言葉は、緊張ですっかり飛んでしまっていたが、それでも口を開いた。 「今日集まっていただいたのは、再開発そのものに反対するためじゃありません。この街をどう残していくか、私たちの手で考えるためです」 静かなざわめきが起きた。反発の声もいくつか上がった。「今さら何ができる」「事業者が決めたことだろう」──当然の疑問だった。有紗は一つ一つに丁寧に答えた。答えられないものは「わかりません、でも一緒に考えたいんです」と
last updateLast Updated : 2026-09-03
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