俺と塁は駅のベンチに並んで座った。塁を引き止めたものの、俺に何かできる訳ではない。自分の無力さを痛感した。「次のお客さんまでどれくらいですか?」「あと一時間」この言葉を発した塁の表情は、見ていられないくらい苦しそうだった。塁を苦しめているものを取り除きたい。だが、それが何かも俺には分からなかった。「そんなに苦しそうな顔をしている塁さんを帰したくない」「俺、どんな顔してる?」「すごく辛そうで、壊れそうに見えます」「んはっ、智也さん。俺、こう見えて結構強いんですよ。そんなにヤワじゃない」塁は笑ったけれど、その笑顔すら痛々しかった。俺はそんな塁をどうしても見ていられなかった。「塁さん、俺の前では無理して笑わないで」俺は座っている塁を優しく抱き締めた。すると、驚いた様子で塁が顔を上げた。「ごめんなさい。契約違反ですよね」「ううん、違う」塁は答えた。俺は塁の頬にそっと触れた。これ以上はだめだ。本当に後戻り出来なくなる。そう思うのに、塁を目の前にすると俺の想いは止まらなかった。俺は塁の唇に触れるか、触れないかの所まで近づいた。「これは契約違反?」「ううん」塁の吐息を至近距離で感じた。あと少しの距離が俺たちを阻む。だが、この距離が俺を現実に引き戻してくれる。「俺からしたらセーフ」「え……?」すると、塁は俺の頬にそっと触れた。塁が俺だけを見つめていた。次の瞬間、塁は俺の唇にそっとキスをした。「俺、今からお客さんを抱きに行くんだ」俺は、塁にかける言葉が見つからなかった。何を言っても違う気がして、俺は何も言えなかった。「俺は智也さんにキスできるような人間じゃないのに……智也さんは俺と関わるべきじゃない。今日のデート楽しかったです。ありがとう。延長料金は頂かないので、俺たちこれで終わりにしましょう」「俺は……」何か言わなければ、塁が行ってしまう。もう二度と塁に会えないかもしれない。俺はもっと塁を知りたい。これで終わりなんてそんなの嫌だ。俺は拳を握り、俺に背を向けて歩いている塁に向かって叫んだ。「待って!塁さん!」俺は塁の元へ走った。そして、塁を後ろから抱き締めた。「どこにも行かせません」「智也さん、もう時間なんだ」「塁さんを行かせたくないんです。俺が塁さんの時間を全部買えたら良かったのに」今の俺にはその力がない事が悔しかった。
Terakhir Diperbarui : 2026-08-17 Baca selengkapnya