御曹司の俺が正体を隠してレンタル彼氏を試したら、まんまと本気になった話

御曹司の俺が正体を隠してレンタル彼氏を試したら、まんまと本気になった話

last updateLast Updated : 2026-09-19
By:  るなUpdated just now
Language: Japanese
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大企業の御曹司である湊智也は、父親を説得して大学卒業までの4年間だけ自由を得た。智也は正体を隠し、学生生活とバイトに明け暮れる日々を過ごしていた。そして迎えた20歳の誕生日。智也の恋愛対象は男性。しかし、その事を誰にも言えずに、気づけば恋人がいない歴=年齢になっていた。そこで智也は、思い切ってSNSの広告で見かけたレンタル彼氏を試すことにした。右を左も分からない智也が直感で選んだ相手が、レンタル彼氏NO.1の塁だった。初めは塁との疑似恋愛を楽しんでいた智也だが、その心に変化があらわれて……秘密を抱えた2人の疑似恋愛から始まる恋の行方は?

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Chapter 1

初めてのレンタル彼氏

俺は恋愛を知らないまま、あと2週間で20歳の誕生日を迎えようとしている。けれど、相手を探す術がない。俺の恋愛対象は男性だ。このことは、誰にも話していない。いや、話せる状況ではない。俺はいつも自分を偽って生きてきた。

なぜなら、俺は日本を代表する大企業の御曹司だからだ。一人息子の俺が、女性に興味がないとは口が裂けても言えない。俺には後継者を残す義務と責任がある。俺は、幼い頃から人の上に立つ者としてありとあらゆる教育を叩き込まれてきた。厳格な父親は俺に常にトップであれと言い聞かせた。俺も父親の期待にこたえようと必死だった。

だが、ある時、俺は気づいたのだ。俺には何もないと。父親の敷いたレールの上を歩いてきただけの俺は、自分の意思を持たない空っぽな人間になっていた。その事が無性に怖かった。だから、俺は狭い鳥籠から逃げ出した。父親を説得し、大学卒業後は家業を継ぐことを条件に、4年間の自由を得た。

そして俺は一人暮らしを始めた。学費以外の援助は一切無い。これも自由を得るための条件だった。実家の風呂場ほどの広さのワンルームを借りた俺は、最低限の荷物だけを持って家を出た。

一人暮らしを始めて、俺がいかに甘やかされていたかを実感した。ここには、お手伝いさんも居なければ、運転手も居ない。自分で食事を作り、掃除と洗濯をする。移動手段にはバスか電車を使う。

今までの俺の当たり前の日常は、常識では通用しないことを知った。そして、一番の問題は金だ。一人暮らしを始める時、父親はクレジットカードを没収した。金を稼がなくては家賃も払えない。俺は生まれて初めて労働をした。生きていくためには働かなくてはならない。父親は俺が根を上げると思ったのかもしれない。しかし、自分で選んだ以上、この自由の代償は払うと心に決めていた。

そして、学生生活では年相応な男子大学生を演じた。ブランド物の服を着こなす俺はそこには居ない。生まれて初めてスウェットを着て外を歩いた。同級生にも俺の正体を悟られないように、明るい俺を演じた。

ここでの俺は、大企業の御曹司ではなく、ただの男子大学生なのだ。今まで、俺に近づいてきた者で、俺自身を見てくれた人は居なかった。彼らの目的は俺の金とコネだ。俺はそんな人間関係に嫌気がさしていた。だから俺は、華やかな大学生活なんて1ミリも望んでいないのだ。

だが、やはり寂しい夜はある。俺の一日は大学とアルバイト先の往復で終わる。夜遅く帰宅し、テレビを観ながら、コンビニ弁当を食べる日々。俺は他愛ないことを、気兼ねなく話せる相手が欲しかった。俺の人生でそんな相手は一人も居なかった。

俺はいつものようにSNSの投稿を何気なく見ながら、気に入った投稿にいいねをつけた。そうしていると、あるひとつの広告が目に飛び込んできた。

『レンタル彼氏貸します』

俺はいつもなら素通りする広告に目を奪われた。20歳の誕生日をひとりで過ごすなんてごめんだ。嘘でもいい。一日だけ、理想の相手と過ごしても許されるのではないか?俺の自由は期限付きだ。だからこそ、今しかできないことをやろう。こうして俺は未知の世界の扉を開いた。

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もぐもぐた
もぐもぐた
レンタル彼氏最高すぎる!! 主人公も複雑なバックグラウンドがあるけれど、彼氏の前では純粋なところが可愛い... 先がすごく気になる!!!
2026-08-08 11:00:53
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初めてのレンタル彼氏
俺は恋愛を知らないまま、あと2週間で20歳の誕生日を迎えようとしている。けれど、相手を探す術がない。俺の恋愛対象は男性だ。このことは、誰にも話していない。いや、話せる状況ではない。俺はいつも自分を偽って生きてきた。なぜなら、俺は日本を代表する大企業の御曹司だからだ。一人息子の俺が、女性に興味がないとは口が裂けても言えない。俺には後継者を残す義務と責任がある。俺は、幼い頃から人の上に立つ者としてありとあらゆる教育を叩き込まれてきた。厳格な父親は俺に常にトップであれと言い聞かせた。俺も父親の期待にこたえようと必死だった。だが、ある時、俺は気づいたのだ。俺には何もないと。父親の敷いたレールの上を歩いてきただけの俺は、自分の意思を持たない空っぽな人間になっていた。その事が無性に怖かった。だから、俺は狭い鳥籠から逃げ出した。父親を説得し、大学卒業後は家業を継ぐことを条件に、4年間の自由を得た。そして俺は一人暮らしを始めた。学費以外の援助は一切無い。これも自由を得るための条件だった。実家の風呂場ほどの広さのワンルームを借りた俺は、最低限の荷物だけを持って家を出た。一人暮らしを始めて、俺がいかに甘やかされていたかを実感した。ここには、お手伝いさんも居なければ、運転手も居ない。自分で食事を作り、掃除と洗濯をする。移動手段にはバスか電車を使う。今までの俺の当たり前の日常は、常識では通用しないことを知った。そして、一番の問題は金だ。一人暮らしを始める時、父親はクレジットカードを没収した。金を稼がなくては家賃も払えない。俺は生まれて初めて労働をした。生きていくためには働かなくてはならない。父親は俺が根を上げると思ったのかもしれない。しかし、自分で選んだ以上、この自由の代償は払うと心に決めていた。そして、学生生活では年相応な男子大学生を演じた。ブランド物の服を着こなす俺はそこには居ない。生まれて初めてスウェットを着て外を歩いた。同級生にも俺の正体を悟られないように、明るい俺を演じた。ここでの俺は、大企業の御曹司ではなく、ただの男子大学生なのだ。今まで、俺に近づいてきた者で、俺自身を見てくれた人は居なかった。彼らの目的は俺の金とコネだ。俺はそんな人間関係に嫌気がさしていた。だから俺は、華やかな大学生活なんて1ミリも望んでいないのだ。だが、やはり寂しい夜はある。俺の一日は大学
last updateLast Updated : 2026-08-04
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初めてのレンタル彼氏
早速、俺はレンタル彼氏のサイトへ飛んだ。未知の世界への入口の鍵は、ワンクリックだった。だが、この行動が俺の運命を大きく変えることになろうとはこの時の俺はまだ知らない。「全員イケメンばっかだな」俺は写真と源氏名を見比べた。そもそも、男がレンタル彼氏を頼んでもいいのだろうか?先にゲイだとカミングアウトすべきなのか?俺にとって未知の世界だ。悩んだところで答えは出ず、俺はひとまず直感で、一人選ぶことにした。それにしても悩む。可愛い系のイケメンから、クール系のイケメン、そして、大人の色気を醸し出しているイケメンまでそれぞれ違った良さがあった。「誰にしよう」誕生日を祝ってくれて、俺と他愛のない話をしてくれる人。二人で笑いあって、楽しくお酒を飲める人。俺はシュチュエーションをイメージし、やっと1人に絞った。「名前は塁。22歳。クール系イケメン。俺と2歳年上か。見た目も大人っぽい。よし、彼にしよう」レンタル彼氏を決めた俺は、細かなプランを検討することにした。まず、ここのレンタル彼氏派遣会社では、性的サービスが一切禁止されているようだ。元々俺は、身体目的で依頼するわけではないので、俺にはもってこいの条件だ。健全なデートが出来るならそれでいい。「料金プランは……これか」次に俺は、一番重要な料金システムについて調べた。相場は知らないが、恐らく安いサービスでは無いはずだ。今の俺はただの大学生だ。アルバイトの給料で払えるのだろうか。「1時間4000~5000円。指名料が1000円で、別途交通費とデート費用。なるほど」こちらが依頼するわけだから、デート費用を負担するのは当たり前だ。だが、今の俺のバイト代で全額支払うのは正直きつい。だが、この塁という男性にどうしても会ってみたかった。「よし、バイト増やすか。日時は2月4日午前11時に駅前希望っと。デートプランは、おまかせでいいか」俺は必要事項の入力を初めだ。2月4日は俺の20歳の誕生日だ。デートプランと言われても、恋人いない歴=年齢の俺にはハードルが高すぎる。全ての入力を終えた俺は、決意が鈍らないうちに送信ボタンを押した。すると、数分後、メールが届いた。「ご指名ありがとうございます。初めまして、塁と申します。その日時でよろしくお願い致します。デートプランはお任せということで、3時間パックで考えています。料金は初回割
last updateLast Updated : 2026-08-04
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父との確執
塁にメールを送ってから3日目の朝。俺は悩んだ挙句、塁に正直に話すことにした。やはり、性別を隠して会うことはよくない。「おはようございます。事前に、ひとつお伝えしたいことがあり連絡しました。僕は智也と申します。性別は男です。塁さんが男の僕とデートをしたくなければ遠慮なく仰ってください。今日まで打ち明けられず、申し訳ございませんでした」俺のことを知って断られたら、今回は縁がなかったと思おう。俺は決心が鈍らないうちに、送信ボタンを押した。俺はメールを送信してから、返信がくるまでの間、何度もスマートフォンを確認した。すると、メールを送信してから10分を過ぎた頃、塁から返信が届いた。「智也さん、おはようございます。連絡ありがとうございます。俺に打ち明けてくれたこと、とても勇気がいっただろうと思います。話してくれてありがとうございます。俺は智也さんの性別を全く気にしません。むしろ、時間の許す限り智也さんの恋人になれることを嬉しく思います。この度は俺を選んでくれてありがとうございます」塁からの返信は、まさに俺が求めていた言葉ばかりだった。まだ会ったこともない塁に俺は、不覚にもときめいてしまった。これが営業トークだと分かっていても、悪い気はしない。こうやって、沼にハマっていくのだろう。だが、俺はハマらない。ハマったところで、俺の自由はあと二年だ。今だけ、楽しく過ごせる相手が居ればそれでいい。「デート当日は僕の20歳の誕生日なんです。だから、僕とデートしてくれてありがとうございます」俺は塁にメールを送った。それだけなのに顔が緩んだ。「智也さんの大切な時間を、俺と過ごすことに使ってくれて、ありがとうございます。最高の誕生日にしましょう」塁からの返信を確認した俺は、スマートフォンを握り、ベッドに仰向けで横になった。「塁。どんな人なんだろう?」俺は天井を見ながら呟いた。御曹司でもない、ただの大学生の俺を見た時、塁はどんな反応をするだろうか。ありのままの俺を受け入れてくれるだろうか。トゥルルルルルル……その時、スマートフォンが鳴った。画面には『父』の文字が表示されていた。俺は起き上がり、通話ボタンを押した。「もしもし」「智也か」「はい」久しぶりに、父親の声を聞いた俺の身体は強ばった。父はいつでも俺を支配してきた。「お前の20歳の誕生日。家に帰ってこい」
last updateLast Updated : 2026-08-05
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レンタル彼氏『塁』
あっという間に、誕生日デート前日になってしまった。この日も俺はいつものように、大学とアルバイト先の往復で一日を終えた。コンビニ弁当を食べながら、明日のデートについて考えていた。デートをした事のない俺が、考えた所でどうにもならないが、せめて、見た目くらいはまともにしたい。そうは言っても、一人暮らしを始めてから、服を買うこともなくなった。今更ながら、美容院に行けばよかったと後悔した。このボサボサの髪をなんとかしたいが、もはやワックスで誤魔化すこともできないだろう。 「あー、相談する相手も居ない……」大学生活では必要以上に人と関わらないように過ごしているため、親しい友人は居ない。アルバイト先でも同様だ。俺は悩だ挙げ句、いつもと変わらないジーパンにチェックのシャツという無難な格好におさまった。靴は履き慣れたスニーカーにしよう。髪型は、帽子を目深に被れば誤魔化せると信じたい。俺は一通りの準備を終え、ベッドに横になった。スマートフォンのアラームをセットし、部屋の灯りを消し、目を閉じた。だが、全く眠れる気配がしない。俺は、今になって緊張がピークに達した。結局、俺は一睡も出来ないまま朝を迎えた。______________________俺は目の下のクマを隠せないまま、待ち合わせの駅前に向かった。時刻は10:30俺は、待ち合わせよりも30分早く着いてしまった。塁らしき人物はまだ居ないようだ。そもそも、俺がここにいること自体、場違いでは無いだろうか?俺は自分の服装を何度も確認した。不安すぎて、落ち着かない。「あの、もしかして、智也さんですか?」すると、低めのよく通る声で、誰かが俺に話しかけてきた。俺は声のする方ヘ振り返った。そこには、黒髪でスラッとした長身のイケメンが立っていた。「は、はい。智也です」「やっぱり!会えてよかった。お待たせしてごめんなさい」「お気になさらず。俺もさっき着いたので」「初めまして、塁と申します。本日はご予約ありがとうございます」「いえ、こちらこそ付き合ってくれてありがとうございます」俺はなんとか平常を装い答えた。「智也さん、緊張してる?」「はい、とっても」「智也さん、肩の力抜いて?今日は思いっきり楽しもう。折角のデートなんだから」俺は、こんなにも格好いい人と並んで歩くのか?塁は身につけるものや、佇まいにおいて、全
last updateLast Updated : 2026-08-05
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完璧なデート
「俺の行きつけの店がこの近くにあるので行ってみませんか?」「あ、はい」「よし、決まり」塁は俺と手を繋いだまま歩き出した。週末の人目がある駅前で、男性と手を繋いで歩く日が来るなんて想像もしていなかった。「着きました。入りましょう」「ちょっと待って」「どうかした?」「あの……俺みたいな奴が、こんなオシャレな店に入るのは場違いじゃないかと……」塁の行きつけの店は、俺も何度か来たことがあるアパレルショップだった。それなりに値段もする。クレジットカードを止められている今の俺には払える額ではない。しかし、レンタル彼氏を申し込む際、デート代は実費という記載があった。ここは何とか理由をつけて、この店から出なければ。「ふふっ、気にしなくて大丈夫だよ。智也さん、行くよ」「え、ちょっと……」俺の抵抗虚しく、塁は俺の手を引いて店内に足を踏み入れた。「いらっしゃいませ。塁くん」「こんにちは。ほら、智也さん。選んであげるから試着して」「は、はい」俺は塁に言われるがままに、何度も試着を繰り返した。塁が選ぶ服はどれもセンスがいい。しかも俺の好きなデザインばかりだ。御曹司の俺ならば、迷わず選んでくれた服を全部購入しただろう。だが、今、それはできない。俺は塁が選んでくれた中から一着選んだ。「どうでしょう……?」「うん、とっても似合ってる!格好いい!智也さんはスタイルがいいからこういう服が似合うね。」「ありがとう」この服の値段は35000円だ。今の俺は、それすらも払えない。俺自身の力の無さを実感した。結局、力を持っているのは、父であり、俺ではない。「あの、これなんだけど……」「プレゼントするよ」「え!?でもそれは……」「誕生日プレゼント。それなら問題ないでしょ?」塁はそう言うと、店員を呼んだ。「この服着て帰ります。支払いはこれで」「はい、いつもありがとうございます。」「誕生日おめでとう。智也さん」俺は思わず塁の顔を見つめた。こんなにも嬉しい誕生日プレゼントが今まであっただろうか。「ありがとう、塁さん」「どういたしまして。さてと、次はその髪をどうにかしないとね」塁は俺の前髪をかきあげた。「智也さん、綺麗な目してる」「そうかな?」「うん。見せないの勿体ないよ」すると、智也が俺に顔を近づけた。俺は思わず後ずさった。「智也さん、どうしたの
last updateLast Updated : 2026-08-06
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誕生日ケーキ
「智也さん、着いたよ」「ここは……」塁が連れてきたホテルは、湊コーポレーションが所有するホテルだった。つまり、このホテルのオーナーは俺の父親だ。「もしかして、予約してくれたお店って……」「そう。ここの一階にあるレストランだよ。智也さん、今日、誕生日でしょ。だから、特別な場所でお祝いしたくて」「ありがとう、凄く嬉しい」塁の心遣いが嬉しいのは本当だ。しかし、レストランの支配人は、俺の顔を知っている。父親に連れられ、俺は何度もここのレストランを訪れていた。「智也さん、行こう」「うん」よく考えたら、今日、支配人がレストランに居るとは限らない。目立たない客になれば、気づかれることもないだろう。俺は覚悟を決めた。「ここはどれも料理が絶品なんだ。今日はコース料理を予約したから」「ありがとう」俺はメニュー表を眺めた。なるべく顔を上げないようにし、レストランのスタッフに顔を見られないようにした。「智也さん、どうかした?」「こういう所慣れてなくて、緊張して……」「なんだ、そういうこと。肩の力抜いて?」「うん」その時、ウェイターが俺達のテーブルに料理を運んできた。「お待たせいたしました」俺は久しぶりのコース料理を眺めた。最後に家族と食事をしたは、俺の大学入学祝いの食事会だった。その日の夜、俺は家を出たいと父親に話した。仕事人間の父と、父に従順な母。家族団欒とは名ばかりの息苦しい時間。あの日の料理の味は覚えてもいない。しかし、感謝することといえば父親が俺にマナーを叩き込んでくれたことだ。お陰で、今日、塁の前で恥をかかずに済む。「智也さん、美味しい?」「とっても」「智也さん、甘いものは好き?」「好きだけど」「良かった」料理も終盤に差し掛かった頃、塁がホールに居るウェイターに手を上げた。塁に気づいたウェイターが俺たちのテーブルにやってきた。「そろそろお願いします」「かしこまりました。少々お待ちください」何の話だろうか?俺は食後のコーヒーを飲みながら、塁の様子を眺めていた。しばらくすると、支配人が立派な誕生日ケーキを俺たちのテーブルに運んできた。「智也様、ごぶさ……」「あ!誕生日ケーキ頼んでくれたんだ。ありがとう。凄く嬉しい」俺は支配人に目配せした。優秀な彼ならば察してくれるはずだ。今、塁に俺の正体がバレる訳にはいかない。俺はあり
last updateLast Updated : 2026-08-07
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激変した日常
デートの時間が終わってしまう。たった数時間、塁と一緒に過ごしただけなのに、俺は名残惜しさを感じていた。塁とのデートは、緊張した。途中、俺の正体がバレそうになり焦りもした。だけど、楽しかった。俺は寂しさを顔に出さないように、気丈に振る舞った。「智也さん、後でこれを読んでおいてください。振込先が書いてあるので」「分かりました」俺は塁の言葉で、一気に現実に引き戻された。だが、俺にはその事が有難かった。なぜなら、俺と塁は所詮、お金で繋がった関係にすぎないから。塁に決して本気になってはいけない。俺は塁にとってその他大勢の客の一人だ。それ以上でも以下でもない。「智也さん、いつでも呼んでください」「はい。今日はありがとうございました。お陰で、楽しい誕生日が過ごせました。プレゼントも大切にします」「俺も楽しかったです。ありがとう。では、また」塁はそう言うと、一度も振り返ることなく夜の街へ消えていった。俺は塁の後ろ姿を、見えなくなるまで眺めていた。______________________塁とのデートを終えてから数日後、俺の日常は激変した。塁の帰り際の言葉は、営業トークだと分かっているが、俺は塁に見合う男になりたいと思うようになっていた。元々、俺はオシャレに疎いわけではない。だが、オシャレには金がかかる。だからつい後回しになってしまっていた。そこで俺は、かつてない程、アルバイトのシフトを増やし、真面目に働いた。俺はアルバイト代を握りしめ、ネットで検索した人気の美容院へ行った。若者が多く、賑わう店内は俺にとって落ち着かない空間だった。実家にいた頃、俺には専属の美容師が居た。美容院嫌いの俺は、自宅に美容師を呼んで、髪をカットしてもらっていた。「初めまして。今日はよろしくお願いします」「よろしくお願いします」俺を担当してくれる美容師は、人あたりの良さそうな女性だった。「どのような髪型が希望ですか?」「あの……前髪を切って欲しくて。あとはお任せします」「承知しました」塁が俺の目が綺麗だと言ってくれた。そんな理由で髪を切ろうと思う俺もどうかしてるが。塁の言葉は、俺を動かす原動力となっていた。「どうでしょうか?」「うん、いい感じ」前髪を切ったことで、視界が良好になった。全体的に髪が短くなったので、見た目もサッパリした。俺は新しい髪型に満足した。 ̄ ̄
last updateLast Updated : 2026-08-10
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ルール
今日も俺は大学の講義の後、深夜までアルバイトに励んだ。自宅に帰宅する頃には、時刻は深夜3時を過ぎていた。さすがに、連日の寝不足で疲労感が半端ない。俺は帰宅早々、ベッドに倒れ込んだ。だが、今日は待ちに待った給料日だ。やっと、塁とのデートを予約出来る。俺は眠気眼を擦りながら、レンタル彼氏のサイトを開いた。レンタル彼氏を利用する際のルールを俺なりに決めた。相手は、塁だけ。 時間は毎回3時間以内。それ以上長く塁と一緒に居ると、俺の中で疑似恋愛が成立しなくなる恐れがある。塁は決して本気になってはいけない相手だ。俺は塁に会うために完璧な客になるのだ。検索すると、今週の日曜日の19時から塁の予約が空いていた。そこで俺は、19時~22時に予約を入れた。指名料が1000円で、それにプラスして3時間のデート料金が15000円かかる。更に、塁とのデートの基本料金は16000円。それに加えて、デート費用と交通費が追加される。どんなにアルバイトを頑張ったとしても、大学生の俺では、月1回が限度だ。本当はもっと塁に会いたい。でも、それくらいがいいのかもしれない。塁は決して、俺には手の届かない人なのだから。デートの予約を終えた俺は、眠気が限界を超えていた。明日の講義は3限目からだ。いつもより、少しだけゆっくり眠れる。自由を望んだのは俺だけれど、無性に一人が寂しい夜もある。そんな夜は、塁に会いたくなる。だけど、会う為にはお金が要る。俺と塁は友達ではない。せめて、夢の中では塁と友達になりたい。夢でもいいから塁に会いたい。 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ピピピピピピ……俺のスマートフォンのアラームが午前9時を告げた。俺は眠気眼を擦りながら、ゆっくりと起き上がった。トゥルルルルルル……すると、寝起きの頭には歓迎しない着信が俺のスマートフォンを鳴らした。画面には〝父〟と表示されていた。俺は意を決して、通話ボタンを押した。「もしもし」「どういうつもりだ?お前の誕生日の祝いにも顔を出さず、男と遊んでいるとは何事だ」父の言葉に俺は動揺した。父が塁のことを知っている?何故だ?俺が話さなければ、父が知る術は無いはずなのに。 「やはり、お前を一人にするべきで
last updateLast Updated : 2026-08-12
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2回目のデート
塁との2回目のデートの日。俺は、先日、購入した服に袖を通した。今回は髪型も整えた。俺は、着飾った自分を鏡で見た。今の俺ならば、塁の隣を歩いてもいいだろうか?今日のタイムリミットは3時間。塁に楽しんでもらうために、俺は何度もデートプランを練り直した。そうこうしているうちに、出発時刻になった。俺は急いでバス停まで向かった。 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄俺は、塁との待ち合わせ場所に30分も早く着いてしまった。塁を待つ間、何もすることがない俺の緊張は増していくばかりだ。「智也さん!待たせてごめん」「ううん、俺が早く着いただけだから」「俺も智也さんに会いたくて早く来たんだけどな」塁の言い方はずるい。レンタル彼氏としての発言だと分かっているが、嬉しいと思ってしまった。こうやって、客は塁に堕ちるのだろう。だからこそ俺は、塁の完璧な客になるのだ。「智也さん。ところで、今日はどこ行くの?」「二人で行きたいところがあって。着いてきてくれますか?」俺は前を向いて目的地まで歩き出した。すると、俺の手を塁がさり気なく握った。俺は塁の横顔を覗きみた。「今日はデートだからね」「うん/」塁は俺に微笑みかけた。この笑顔を見て、堕ちない人はいるのだろうか。気を抜くと、すぐにでも塁の沼に引きづり込まれてしまいそうだ。「塁さん、着きました」「ここって……」「行こ!塁さん」俺は塁の手を握り、入場ゲートをくぐった。「遊園地なんて何年ぶりだろ?」「俺も久しぶり。しかも、夜の遊園地もいいでょ?」「うん。すごくいい。智也さん、連れてきてくれてありがとう」「どういたしまして。今からちょうど2時間で閉園だから、それまで思いっきり楽しみましょう」「そうだね」それから、俺たちは時間の許す限り、アトラクションを楽しんだ。ピーク時を過ぎた時間帯だったため、ほぼ並ばずに乗り物に乗ることができた。「それにしても、塁さん、絶叫強すぎ」「そうかな?あれ、もう一回乗りたい!行くよ!」「ちょっと、塁さん待って」俺はヘトヘトになりながら、塁のあとを着いていった。俺の方を振り返る塁の表情は、少年のようにあどけなかった。俺は腕時計を見た。今の時刻は、20時45分。今日の魔法はあと15分で解ける。「塁さん、今日は付き合ってくれてありがとう」「こちらこそ、ありがとう。とっても楽
last updateLast Updated : 2026-08-14
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客失格
花火が終わった。それを見計らうかのように、煌びやかだったイルミネーションも消えていった。遊園地にいた人たちの波に紛れながら、俺と塁も駅へと向かった。俺は人混みをかき分け、塁の服の袖を掴んだ。すると、塁は俺に手を差し出した。「はぐれないように」「ありがとう」塁の手に触れた俺は、嬉しさよりも寂しさが募った。あと少しで塁との契約時間が終了する。塁と過ごす夢のような時間が終わってしまう。俺は無意識に塁の手を握る力を強めていた。「智也さん、今日はすごく楽しかった。まだ一緒に居たいくらい」「え……?」「あ、ごめん。気にしないで。駅まで送るね」俺は塁の言葉に驚きを隠せなかった。塁も俺と同じ気持ちなのだろうか?それとも、それすらも営業トークなのだろうか?俺には塁の真意が分からなかった。駅まで俺と塁は、無言で歩いた。話したいことは沢山あるのに、上手く言葉が出てこない。塁に繋がれた手が切なかった。「塁さん、送ってくれてありがとう」今の時刻は、21時55分。つまり、あと5分で俺は夢から醒める。「どういたしまして。楽しかったよ」「俺も楽しかったです」「それから今日の智也さん、格好良かった。見惚れるくらい」塁に褒められた俺は、恥ずかしさのあまり彼から目線を逸らした。「ねぇ?智也さん」「ん?」「ううん、なんでもない。また会えることを楽しみにしてるよ」塁の笑顔が痛々しかった。だけど、俺に出来ることは何もない。あくまで俺は、塁の客に過ぎない。これ以上、踏み込むことが出来ないこの距離がもどかしかった。その時、ちょうど電車が来た。次はいつ塁に会えるだろう。アルバイトに励んだとしても、最低一ヶ月は会えない。次の約束が出来ない自分が情けなかった。「また連絡します。おやすみなさい」「智也さんも元気で。おやすみ」本当にこのままでいいのか?きっと、塁は何かを抱えてる。それに気づきながらも塁を放っておいていいのか?俺は自問自答した。そして、決めた。「延長で。塁さんを一人にできません」「ちょっと、智也さん!」俺は塁の腕を掴んだ。俺の行動に、塁は心底、驚いた表情を浮かべた。俺も衝動的に何をしてるんだか。今すぐ、塁の腕を離さなければ、後戻り出来なくなるというのに。人は時に、頭と心が別物のように思える。頭では塁に近づくなと叫ぶのに、俺の心が言うことを聞かない。「ごめん
last updateLast Updated : 2026-08-15
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