「高橋さんには……ヒロインの前に立ちはだかる最大の壁。一ノ瀬さんを巡る恋のライバルとして、本作に出演していただけないかと考えています」 監督の口から飛び出したその異例すぎるオファーに、スタジオ全体がざわっと大きなどよめきに包まれた。 「ライバル……ですか」 心音さんは目を丸くして監督を見つめ返した。 「彼の婚約者候補として愛理を徹底的に追い詰める、高慢で美しく、そして誰よりも愛に飢えている女性です。彼女の圧倒的な存在感と恐ろしさがなければ、このドラマは成立しません」 ヒロインの座を逃した直後の彼女に、悪役としてのオファーを出す。あまりにも残酷で、同時にこれ以上ないほど彼女の才能を評価した提案だった。 「ヒロインを追い詰めるライバル…。ふふ、面白そうですね。喜んでお受けいたします」 心音さんの凛とした、透き通るような声が響くと、心配そうに見守っていた周囲のピリッとした空気が安堵の溜め息へと形を変えた。 彼女はゆっくりと顔を向け、スポットライトに照らされた私の方へと真っ直ぐに視線を交差させる。そして、私に向かって微笑みを向けながら、宣戦布告ともとれる言葉を紡いだ。 「美羽さん。現場では、よろしくお願いします」 その言葉を聞いて、私の胸の奥にギュッと熱いものが込み上げてきた。 「心音さん、こちらこそよろしくお願いします!」 私と心音さんが互いに視線を逸らさず、深くお辞儀を交わしたその瞬間。 審査員席から、そしてスタジオを取り囲むすべてのスタッフたちから、割れんばかりの大拍手が湧き起こった。 鳴り止まない温かな拍手が少しずつ落ち着きを取り戻していく中、スタジオの中央に立つ監督は深く息を吸い込み、マイクを強く握り直した。 「ここまで彼女たちの相手役として、時に高い壁となり、時に引き上げながら数ヶ月間ともに戦ってくれた一ノ瀬くん。
最終更新日 : 2026-09-26 続きを読む