「いよいよだね。このオーディションを勝ち抜けばデビューへの扉が開く。今まで一緒に準備してきたこと、ここで全部ぶつけておいで」 「はい」 マネージャーの力強くも温かい言葉に背中を押され、私は息を吐き出した。 膨大な数の書類審査を抜け、形式的な面接もクリアした。 いよいよ今日から、実技を伴う第1次審査が始まる。 このオーディションの過程はすべてカメラで収録され、動画配信サービスでリアリティ番組として全世界に流される。 そして、ここで勝ち残ったたった一人が、秋の大型ドラマのヒロインの座を手にする。 「…よし」 重厚な防音扉を抜けると、体育館ほどある広いスタジオに出た。 パイプ椅子が等間隔に並べられ、すでに異様な緊張感が漂っている。 ここに集められたのは、全国から絞り込まれた計25名の女優たち。 「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」 進行役のスタッフがマイクを握り、正面に設置された長机の前に立った。 「これより、第1次審査を始めます。いきなり実技に入る前に、まずは今回の審査基準と、審査員の皆様をご紹介いたします。本作のメガホンを取る、監督の……」 マイクを通した淡々とした説明が続く中、私は長机に座る面々へと視線を移した。 気難しいと噂の監督、大ヒット作を連発している気鋭の脚本家、そしてプロデューサー陣。 その隣…長机のいちばん端に座る青年に視線が向いた瞬間、私の心臓がドクンと大きく跳ねた。 「そして、本作の主演を務める一ノ瀬悠真さんです」 間違いない。 少し大人びて、洗練されたオーラを纏っているけれど、あの頃の面影はそのままだ。 私は思わず目を見開き、息を呑んで彼を凝視してしまった。 その強烈な視線に気づいたのか、手元の資料に落とされていた彼の長いまつ毛が持ち上がり、こちらを向いた。 彼の瞳が微かに揺れ、めくろうとしていた台本の手がピタリと止まる。 ほんの一瞬だけ、時が止まったような気がした。 彼も、間違いなく私に気づいた。けれど、彼は何事もなかったかのようにスッと目を逸らし、再び手元の資料へと視線を落とした。 まるで、見ず知らずの他人に向けられるような、何の感情もこもっていない表情。 あの日のことを、怒っているのだろうか。今から四年前。ある日突然、悠
最終更新日 : 2026-08-05 続きを読む