非常ベルのけたたましい音が鳴り響く。 暗闇の中、二人の女性が息を切らしながら背後の気配から逃げていた。「お母さん、早く ! 」 娘は母の腕を肩に掛け、引き摺るように歩き始める。だがすぐに母親が座り込み、捻挫した足の腫れを見て項垂れた。「琴音……これを」「何 ? 」 母親が懐から取り出した見慣れない封書。何も分からないままポケットへねじ込むと、娘は力任せにグイグイと母親を立たせようとする。「それね、お母さんの診断書。お母さんね……もう長くないの」「何 ? なんの話してるの ? お母さん、早く立ってよ ! 」「聞きなさい ! 絶対に見つかっては駄目。町へ出たらすぐに交番に行くの。『日本真理聖母会』から逃げてきたって。「助けて欲しい」って言うのよ」「お母さんは ? 」「お母さんはもう無理だから」 茂みのすぐ向こう側。 ザザザと音を立てながら懐中電灯の群れが近付いてくる。「立って ! お母さん ! う、うぅぅぅっ ! 」 母親は近付く木々を掻き分ける音を聞きながら、唇を強く噛み締め地面に顔を伏せた。「ろくな人生じゃなかった。こんな場所、来るんじゃなかった」「お母さん…… ! 」「あんたさえ産まなければ ! こんな所に頼る必要もなかった ! 」「お、お母さん ? 」 信じられない突然の告白。 冷静に考えれば本意でないことは分かるだろう。だが、あまりにも辛く長い今までの生活で、本気で言っていると思えた。 深く、心の奥底に鈍い痛みが広がる。「早く消えてよ ! この最悪の疫病神 ! 」「お母さん…… ! 」 縋りつこうとする娘を母は渾身の力で突き飛ばした。「早く ! 」 行かなければならない。 この脱走が無駄にならないために。 夏の始まったばかりのこの夜。 深い山々に囲まれて建てられた興宗教施設から逃げ出した。 このとき、飯塚 琴音は二十歳の誕生日だった。二十年の人生を全て施設で過ごしてきた琴音にとって、今夜が生まれて初めて外界だった。「はぁ……はぁっ……うぅ……っ ! 」 月明かりも届かない深い闇。 初めての外の世界を、あてもなく彷徨い歩くしか無かった。
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-17 อ่านเพิ่มเติม