歓迎茶会が終わる頃には、黒いドレスの果実水はほとんど乾いていた。 深紅だった染みは暗い紫へ変わり、胸元から腰へ大きな影のように残っている。控え室で水を含ませた布を何度も当てたが、完全には落ちなかった。「屋敷へ戻れば、染み抜きをいたします」 マルタが言った。「布は傷みませんか」「この生地でしたら、おそらく」「無理なら、そのままで構いません」「でも」「まだ着られます」 マルタは何か言いたそうだったが、結局頷いた。 新しい衣装を買えないという意味で言ったわけではない。 汚れたから捨てる。 傷がついたから交換する。 以前のリディエラなら当然だった価値観を、そのまま続ける必要がないと思っただけだ。 控え室を出る。 学院の廊下には、茶会を終えた生徒たちが散らばっていた。 楽しげに話す者。 誰と踊るか相談する者。 リディエラを見て急に声を潜める者。 黒いドレスの大きな染みは隠せない。「やっぱり、自分でこぼしたらしいわ」「ミレシア様へかけようとして失敗したのでは?」「でも怒っていなかったでしょう」「最近、本当に変よね」 聞こえていても歩調は変えない。 今日の目的は終わった。 ミッションも達成した。 ミレシアを傷つけずに済んだ。 それだけを確認しながら、リディエラは西階段へ向かった。「お姉様」 後ろから声がした。 振り返る。 ミレシアが一人で立っていた。 白いドレスは、最後まで白いままだった。 付き添いの侍女の姿は少し離れた曲がり角に見える。ミレシアが先に追いついてきたらしい。「どうしました」「少し、お話ししても?」 リディエラは周囲を見る。 廊下にはまだ生徒がいる。 二人きりではない。「ここでなら」 ミレシアの眉が僅かに下がった。「最近のお姉様は、いつもそうですね」「何がですか」「扉を開けたままにしたり、人のいる場所を選んだり」「必要だと思っているからです」「私のことも、怖いのですか」 その問いにはすぐ答えられなかった。 怖い。 少なくとも、完全に安心できる相手ではない。 庭園で打たれていない頬を押さえた。 幼い頃からティルヴァンの好みを知っていた。 今日も、果実水が飛んでくる前から身構えた。 けれど、それを理由に妹が敵だと決めるつもりもない。「分からないことが多いだけで
آخر تحديث : 2026-08-07 اقرأ المزيد