LOGIN愛されすぎれば監禁。 嫌われすぎれば処刑。 それでも私は、誰かの心を攻略しない。 残業帰りに死亡した会社員・榛名依子は、未完成乙女ゲームの悪役令嬢リディエラへ転生する。攻略対象は全員、好感度20以下で彼女を排除し、80以上で監禁するヤンデレ予備軍。生存するには数値を50前後に保ち、「王子を泣かせろ」「毒を飲め」「妹を守れ」など、毎朝届く強制ミッションを突破しなければならない。だが冷遇に慣れた彼女は、愛されるための攻略より、この世界の歪んだ愛情そのものを正し始める。
View More魔術王国レオルディス。
王侯貴族、聖職者候補、騎士、魔術師が集う王立アルセリア学院を中心に、王宮、大神殿、魔術塔、北方要塞、敵国、世界の管理領域へ舞台が広がります。
原作乙女ゲームの題名は、
ただし転生したのは発売版ではありません。
開発途中で破棄された最高難易度版、
です。
攻略対象がリディエラを敵、犯罪者、異端、障害と認識します。
暗殺、処刑、逮捕、社会的抹殺が発生します。
監視、尋問、試験、証拠捏造、行動制限が増加します。
比較的安全です。
ただし、イベント一つで二十以上変動することがあります。
過保護、嫉妬、交友制限、秘密裏の監視が始まります。
攻略対象ごとに異なる幽閉ルートが発動します。
本人の理性より、ゲームが規定した狂愛行動が優先されます。
心中、時間停止、国家封鎖、大量粛清などへつながります。
リディエラの初期値は100。
以下で減少します。
ミッション失敗
強制イベントからの逸脱
攻略対象の死亡
重要人物の役割放棄
原作に存在しない選択
ゲームマスターへの反抗
ゼロになると、世界が彼女を死亡させるための強制イベントを発生させます。
死亡時は生存ポイントを大量消費し、直前の時点へ一度だけ戻れることがあります。
ただし周回を重ねるほど、肉体へ痛みと記憶が残ります。
難易度は五段階。
白:日常
青:対人
紫:危険
赤:致死
黒:必ず誰かが損害を受ける
代表例は以下です。
王太子を泣かせろ
毒を一口以上飲め
妹を守れ
妹から嫌われろ
騎士を置き去りにせよ
聖職者へ存在しない罪を告白せよ
魔術師に計算不能を証明せよ
密偵を裏切れ
攻略対象の一人を選べ
愛する者を殺せ
正しい悪役令嬢へ戻れ
などです。
年齢:17歳
支配的な母親と、家庭内の問題から逃げ続ける父親のもとで育ちました。
母親の機嫌を損ねると、無視、侮辱、食事を与えない、私物を捨てるなどの罰を受けました。父親からは「お前が我慢すれば済む」と言われ続けました。
成人後、依子はようやく、
相手が怒っていることと、自分が間違っていることは同じではない。
と理解します。
冷静沈着で観察力が高く、攻略や恋愛へ躍起になりません。
冷遇されてもすぐ感情的にはなりませんが、耐えられることと傷ついていないことは別です。自分の痛みを軽視しやすい危うさがあります。
一方、他人が支配される場面には強く反応します。
相手が王太子でも、騎士でも、聖職者でも、間違った行為を愛情として受け入れません。
年齢:16歳
姉に虐げられながらも姉を庇う、清らかなメインヒロイン。
誰にでも優しく、失敗しても許され、危機には必ず誰かが駆けつけます。
彼女の生存率は常に100%。
毒は偶然入れ替わり、刃は寸前で折れ、崖下には足場が現れます。間違った選択肢が存在せず、何をしても攻略対象の好感度が上がります。
リディエラを庇う言葉を口にしますが、その庇い方によって周囲がさらに姉を憎むことが多くあります。
年齢:18歳
感情を表へ出さない、完璧な王太子。
相手を大切に思うほど、予定、交友関係、護衛、生活場所を管理しようとします。本人はそれを「守ること」だと信じています。
リディエラを王国の危険因子として合法的に処刑します。
白い離宮へ幽閉し、彼女のために王位も国も捨てます。
雨音、整った書類、静かな音楽。
予測不能、秘密、涙。
口調が穏やかになるほど、逃げ道を塞いでいる。
年齢:19歳
寡黙で実直な騎士候補。
幼少期、命令に従って妹のそばを離れた結果、彼女を失いました。そのため守る対象の意思を無視し、自分の視界から外さないことを正義と考えます。
リディエラを犯罪者として逮捕し、抵抗すれば斬ります。
王家と騎士団を裏切り、彼女を北方要塞へ連れ去ります。
馬、硬いパン、夜明け前の訓練。
香水、言い訳、無力感。
「命令してください」と言わなくなる。
年齢:18歳
慈悲深く、相手の心を読むことに長けた聖職者。
苦痛や罪悪感を本人より先に言語化し、自分だけが理解者であると思わせます。救済によって相手を依存させる危険性に気づいていません。
リディエラを異端者として裁きます。
彼女を聖女として神殿地下へ封じ、永遠に自分だけが告解を聞きます。
古い祈祷書、薬草茶、告解。
沈黙による拒絶。
本人に代わって感情や罪を語り始める。
年齢:17歳
人間関係を数式として扱う天才魔術師。
予測不能な感情を嫌い、計算できないものを排除しようとします。リディエラだけが予測を外すため、強い執着を抱きます。
彼女を世界の不具合として消去します。
学院の時間を止め、二人だけの不変の世界へ閉じ込めます。
未解決術式、砂糖菓子、規則性。
騒音、接触、予測不能な親切。
彼女の行動を計算せず、記録だけする。
年齢:20歳
軽薄で冗談好きな青年。
実際は敵国の密偵であり、暗殺、偽造、情報操作に精通します。序盤からリディエラを殺害対象として監視しています。
毒、刃、事故偽装によって彼女を殺します。
死を偽装し、名前、身分、人間関係を奪って国外へ連れ去ります。
賭け事、偽名、辛い料理。
本名、借り、無償の善意。
冗談をやめ、質問へ正直に答える。
年齢:22歳
攻略対象一覧にも設定資料にも存在しない監察官。
無愛想で、事実と行動を重視します。リディエラの不自然な回避行動に早期から気づきます。
当初は彼女を「過去にも現れた異常人格の一つ」として観察し、死ねば次の人格が入る交換可能な存在だと考えています。
リディエラにその考えを否定され、一人の人間として向き合うようになります。
苦い珈琲、事実、壊れた時計。
誘導尋問、自己犠牲、決められた結末。
システムには一切表示されない。
十九歳。リディエラ付き侍女。
過去のリディエラから暴言、罰金、長時間労働を受けていました。転生後の謝罪もすぐには信じません。
リディエラが許しを求めず待遇改善を続けたことで、最初の現実的な協力者になります。
十七歳。侯爵令嬢。
リディエラの取り巻きだった少女。強い者へ従う現実主義者で、主人公の変化を最初は弱体化と捉えます。
後に社交界の噂、貴族令嬢の証言、資金の流れを調べる情報担当になります。
十八歳。生徒会書記。
極端に存在感が薄い青年。会議、事件、証言をすべて手書きで記録しています。
人々の記憶が書き換えられても、自分の記録だけが変わらないことに気づきます。
二十九歳。学院医務室の女医。
毒物、記憶障害、魔術による肉体変化を調査します。
リディエラの身体に、本人が経験していない古い傷や毒物反応が残っていることを発見します。
十五歳。第二王子。
兄ティルヴァンを尊敬する一方、彼の完璧さと支配性を恐れています。
兄に守られることで自分の選択を奪われてきた人物です。
三十二歳。現聖女。
穏やかで慈悲深い女性ですが、個人の幸福より神殿制度を優先してきました。
ミレシアを後継者に選びながら、徐々に神殿の「決められた聖女像」へ疑問を持ちます。
五十一歳。王立魔術院長。
イェルクの養父。世界の異常を研究しています。
人間を研究材料として扱う点で、初期のザフィルと似ています。
二十七歳。王宮記録局員。
ザフィルの姉を名乗りますが、戸籍上の血縁は存在しません。
ザフィルの過去を成立させるため、後から配置された人物である可能性があります。
四十三歳。リディエラの実母。
娘を王妃にすることだけが愛情だと信じています。
条件付きの承認、比較、無視によって、幼いリディエラへ歪んだ価値観を教え込みました。
四十八歳。オルヴェイン公爵。
家庭内の異常を知りながら、政治と家名を優先しました。
二人の娘を王位継承争いの駒として扱います。
十六歳。平民出身の給費生。
原作では名前もない背景人物。リディエラが最初に救う「死亡予定者」となります。
後に学院の平民生徒をまとめ、ゲームの主要人物だけでなく、名もない住民にも選択権があると証明します。
三十六歳。学院警備隊副長。
原作では誘拐事件の責任を負わされ処刑される人物。リディエラの介入で生存し、警備記録の改変を調査します。
ロディマスを探すことに、リディエラは少し迷った。先王妃アリエネの葬儀や老犬ルーディの夜について聞いたばかりで、さらに王太子の内側を弟から引き出せば、結局は黒ミッションのために弱点を集めることになる。今朝決めたのは、泣く理由を作るのではなく、泣いても困らないと思える状況を探すことだった。そのために弟の秘密を利用するのなら、選択肢を閉じた意味がない。リディエラは黒い帳簿へ、「兄の傷ではなく、弟自身が兄との関係をどう感じているかだけを聞く」と一行書き、学院北側の小さな射場へ向かった。 午後の射場には乾いた草の匂いと弦が空気を切る短い音が漂っていた。ロディマスは王族用の練習区画で一人、標的へ矢を射ていたが、放たれた一本は中心からわずかに右へ外れた。白金の髪の少年は「外した」と低く呟き、次の矢を取ろうとして入口のリディエラに気づくと、明るい青の瞳を露骨に細めた。前に資料室で話した時より警戒が強く、弓を下ろしながらも自分から近づこうとはしない。「今度は何を聞きに来た」「少しだけ、お話しできればと思って」「兄上のことなら嫌だ。母上のことも、ルーディのことも話しただろ。あれ以上、兄上の弱みを教えるつもりはない」 返事は取りつく島もなかったが、それは当然の拒絶だった。ロディマスの立場から見れば、婚約者でありながら兄の過去を調べ回っているリディエラが、何かに使うため弱点を探しているように見えてもおかしくない。黒ミッションを抱えている以上、「絶対に利用しない」と将来まで保証することにもためらいがあったが、少なくとも今日ここへ来た目的だけは違う。リディエラは標的と少年の間を避け、射線から十分離れた場所に立った。「殿下を傷つける材料にするつもりはありません」 ロディマスの眉が動いた。「……兄上を?」「はい。今日は、あなたがお兄様といる時にどう感じているのかを聞きたいのです」「僕の気持ちを知って、どうする」「今は何もしません。ただ、殿下が誰かを守ろうとする時、守られる側にはどう見えるのかを知りたいと思いました。話したくなければ、ここで終わります」 風が射場を抜け、積まれた藁束を乾いた音で擦った。ロディマスはすぐには答えず、矢筒へ戻した矢羽を指先で整えながら、何度かリディエラの顔を確かめる。やがて彼は近くの長椅子へ腰を下ろし、弓を隣に置いた。話すと決めたというより、ど
目を覚ました時、窓の外はまだ朝になりきっていなかった。薄い雲の向こうから青白い光が差し、寝台の天蓋と床の境目を曖昧にしている。昨夜の雨は止んでいたが、窓硝子には水滴が残り、暖炉の灰からは湿った薪の匂いが漂っていた。リディエラは上掛けの中で一度深く息を吸い、視界の隅に残っている黒い表示へ目を向けた。〈黒ミッション残り時間:48時間00分00秒〉 数字が切り替わり、〈47時間59分59秒〉へ変わった。その下に見慣れない白い枠が開き、黒い画面の中央へ細い銀線が走る。これまでにはなかった項目が、命令ではなく助言を装うように静かに浮かんだ。〈推奨攻略〉〈先王妃アリエネ関連イベントを使用してください〉 リディエラの指先から、眠気が消えた。昨夜、ティルヴァンと向かい合って食事をしたばかりだった。香りの強い根菜を最後に食べる理由を聞き、雨の日を好む理由を聞いた。先王妃についてどこまで知ったのかと問われた時にも、彼が今その話を聞きたいかを確かめ、本人が「今日はいい」と答えたところで止めた。それを遠回りだとでも言いたげに、黒い画面がさらに広がった。〈推奨選択肢〉〈A:母親の死を責める〉〈B:無実の侍従を処刑した罪を指摘する〉〈C:母親の遺品を破壊する〉〈D:自身が理解者であると告げる〉 最初の3つを読んだ時には、嫌悪より先に身体が強ばった。だがDへ視線が移ったところで、リディエラはかえって長く画面を見つめた。一見すると、4つの中で最も穏やかだった。責めない。壊さない。罪を突きつけない。ただ、自分だけはあなたを理解していると伝えるだけだ。 孤独だったのですね。泣けなかったのですね。母上を失って苦しかったのでしょう。他の者には分からなくても、私は分かります――そんな言葉を柔らかな声で並べればいい。暴力も毒も使わず、相手を抱き締めるような形で心の奥へ入っていける。 セフィランの顔が浮かんだ。怒ってしまったのですね。妹を羨ましいと思ったのでしょう。愛されたいだけなのではありませんか。本人より先に感情へ名前をつけ、救いたいという善意で出口を狭めていく。Dは、それと何が違うのだろう。 自分だけが理解していると宣言するには、まずティルヴァンが何を感じているかをこちらで決めなければならない。母を失って悲しい。告発した侍従のことで罪悪感がある。誰にも弱さを見せられず孤独だ
王宮の小食堂には、雨の匂いが薄く入り込んでいた。 夕方から降り始めた雨が、高い硝子窓を細かな指先で叩いている。外はすでに暗く、庭園に並ぶ魔術灯だけが濡れた石畳へ青白い光を落としていた。 長い食卓の中央には、白い花と銀の燭台。 料理は2人分。 王も王妃もいない。 今夜は、王太子とその婚約者が今後の学院行事について確認するための、形式的な夕食会だった。 少なくとも表向きは。 リディエラはティルヴァンの向かいに座っていた。 濃紺の正装。 白金の髪。 背筋はいつも通り真っ直ぐで、ナイフを持つ角度まで乱れがない。 ティルヴァンは食事中もほとんど音を立てなかった。 給仕が皿を下げる時には僅かに身体を引き、次の皿が置かれる位置を見ずとも把握している。 それを見ながら、リディエラは不意に気づいた。 自分は、この人が食事をするところを何度見ただろう。 婚約したのは幼い頃だ。 王宮の晩餐。 公爵家での食事。 学院の茶会。 隣へ座った記憶はいくつもある。 それなのに。 彼が何を先に食べるか。 何を残すか。 熱い物と冷たい物のどちらを好むのか。 食事中に話す方なのか、静かな方なのか。 そういうことを、過去のリディエラはほとんど覚えていなかった。 覚えているのは別のことばかりだ。 王太子妃らしい姿勢。 失敗しない食器の扱い。 隣国の令嬢より豪華なドレス。 母エネファが認める髪型。 ティルヴァンが婚約を解消しないために、どう振る舞うべきか。 ずっと隣にいたはずなのに、彼を見ていなかった。 見ていたのは、彼の隣に立つ自分だった。「食欲がない?」 ティルヴァンの声で、リディエラは顔を上げた。「いえ」 皿を見る。 白身魚と香草。 半分ほどしか食べていない。「少し考え事をしていました」「毒のこと?」「今日は違います」「では、魔術灯?」「それも違います」 ティルヴァンの視線が一度、リディエラの顔を確かめるように動く。「珍しいね」「何がでしょう」「君が考えていることを、こちらから当てなくても答えるのが」 責める調子ではなかった。 ただ、過去との違いを記録するような言葉。「隠す必要のないことでしたので」「隠す必要があることは、まだ多い?」 黒ミッション。 システム。 好感度。 先王妃の記録。
旧王妃庭園へ続く渡り廊下の手前で、リディエラは足を止めた。 視界の隅では、黒い表示が時刻を刻み続けている。〈推奨接触時刻まで:08分42秒〉〈対象:ティルヴァン・エルグレード〉〈対象は旧王妃庭園へ移動中です〉 あと8分。 このまま進めば、会える。 システムがわざわざ時間と場所を指定したということは、そこにティルヴァンを泣かせるための何かがあるのだろう。 亡き母の庭園。 十一歳で失った王妃アリエネ。 母の死後も涙を見せなかった少年。 老犬の亡骸の前で、「僕が悲しめば、皆が困る」 と口にしたという記憶。 そこまで材料が揃えば、何をすればよいかは想像できる。 母親の話をする。 葬儀の日を尋ねる。 泣かなかった理由を問う。 昔の傷を丁寧に撫で、閉じ込めてきたものが溢れるまで待つ。 優しく行えば、暴力には見えない。 けれど目的は同じだ。 涙を得るために、相手の最も痛い場所へ触れる。 ネレスの言葉が蘇る。 ――一番触れられたくない傷を探して、そこを抉ればいい。 リディエラは旧王妃庭園へ続く扉を見た。 白い石造りの廊下。 先には王宮警備兵が2人立っている。 通ろうと思えば通れる。 王太子の正式な婚約者であるリディエラには、その資格がある。「お嬢様?」 後ろからマルタの声がした。「参られないのですか」「……今日はやめます」 システム表示が明滅する。〈推奨接触時刻まで:07分56秒〉 命令ではない。 推奨。 ならば従わなくても、今すぐ失敗にはならない。「別の場所へ行きます」「どちらへ?」「王宮記録局です」 マルタの目が僅かに見開かれた。「先王妃陛下について、もう少し確認します」「殿下へ直接お尋ねにならないのですか」「本人へ尋ねる前に、私が何も知らなさすぎます」 自分が知りたいからと、本人にすべて説明させる必要はない。 公開されている記録から確認できるところまでは、自分で調べる。 そのうえで、なお本人へ尋ねる必要があるのか考える。 リディエラは踵を返した。 背後で推奨時刻だけが減り続けている。 王宮記録局は、王城西翼の古い棟にあった。 白亜の華やかな中央宮殿とは違い、灰色の石壁に細い窓が並ぶ実務的な建物だ。扉の上に王冠と羽根筆を組み合わせた紋章が掲げられている。 入口で身分を確認