二人はそのまま砂の上にしゃがみ込んでいた。どちらも、先に沈黙を破る気にはなれなかった。サムの耳はまだ赤い。頬もまだ熱を帯びている。けれど、先ほどまでの震えはもう止まっていた。今は、ちゃんとネリッサを見ている。両手で顔を隠すことも、横を向いて彼女から逃げることもなく。ネリッサの手がいつ髪から離れたのか、彼女自身も分からなかった。気づけば、自分の膝の上に戻っている。「マヤが、あなたと遊園地に行くって話してたの」サムが瞬きをした。あまりにも唐突な話題だったらしい。「……何?」「遊園地。何週間か前に聞いたの」ネリッサの声は、もう冷たくなかった。仕事のときの声でもない。ただ少し疲れていて、それでもどこか柔らかい。「観覧車に乗せてくれるって、あなたが約束したって言ってた」サムの唇がわずかに開く。彼女の表情を読むように見つめた。「うん」やがて、静かに頷く。「マヤが観覧車に乗りたいって言ってて。だから、一緒に行こうって約束したんだ」少し苦笑する。「でも、まだ行けてない。仕事が多すぎて……いつも後回しになってた」ネリッサはゆっくり頷いた。視線を海へ向ける。太陽はもう低い。水面がオレンジと紫に染まり、波の向こうまでゆっくりと夕暮れに沈んでいく。「じゃあ、今週末に行かない?」サムが止まった。ネリッサは海を見たまま続ける。「三人で。きっとマヤ、喜ぶと思う」サムの目が大きく見開かれる。「……三人?」声が裏返った。「俺たち三人で?」彼女が振り向く。そこには、信じられないものを目の前にしたような顔があった。驚きと希望。それから、ほんの少しの戸惑い。まるで、ずっと欲しかったものを突然手渡された子供のようだった。――この人、ずっと待ってたんだ。もしかしたら、ずっと昔から。ネリッサは、ほんの少しだけ口元を緩めた。「本気よ」サムの顔が変わる。張りつめていたものが、一瞬ですべてほどけた。耳の赤みはさらに濃くなった。けれど今度は、恥ずかしさではない。喜びだった。抑えきれない、まっすぐな喜び。「うん」一度頷く。「そうしよう」そして、すぐに言葉が続いた。「絶対行こう。マヤ、きっと喜ぶ。俺――」何を言えばいいのか分からなくなったように、サムが言葉を詰まらせる。ネリッサの唇がまた少しだけ上がった。
Last Updated : 2026-09-14 Read more