勝利の食事、という言葉ほど、今のリディアに似合わないものはなかった。 王宮東棟の奥、宰相執務室に隣接した小さな食堂。 普段はギルベルトが会議の合間に使う部屋らしく、飾り気はほとんどない。 壁には王国地図。 窓際には書類箱。 丸いテーブルの上には、湯気を立てる皿が二つ。 焼いた白身魚、野菜の煮込み、柔らかいパン、温かいスープ。 食後のためらしい蜂蜜漬けの果物まで用意されている。 どれも丁寧に作られていた。 香りもよい。 おそらく、普通なら食欲をそそるのだろう。 だが、リディアは匙を手にしたまま、しばらくスープの表面を見つめていた。 勝った。 悪女裁判は反転した。 ベルナール・オルトの式部局副長官室と、白羽の会、白鳩文具商会、逃亡していたマルク・レイン。 それらを結ぶ糸が見えた。 リディアを私怨の悪女として断罪するはずだった審問会は、式部局と白羽の会を監査対象へ変えた。 元婚約者は謝罪した。 妹は被害者席を降りた。 母は手紙を探すと言った。 傍聴席の夫人たちまで、少しずつ証拠の側へ動いた。 勝った。 そのはずだった。 なのに、スープの匂いが遠い。 味を想像しようとしても、舌がひどく鈍い。「食べろ」 向かいから、低い声がした。 ギルベルトだった。 彼はすでに上着を少し緩めている。 だが、食事中だというのに、目はまだ審問室の続きにいるようだった。 冷たい怒りと、疲労と、どこか抑えた苛立ち。 王弟宰相という役割は、食卓でも彼を完全には離してくれないらしい。「食べ
Last Updated : 2026-09-17 Read more