ヴェルクレア公爵が監査局へ来たのは、昼を少し過ぎた頃だった。 王宮東棟の廊下に、その足音が響く。 重い足音だった。 怒っている人間の足音は、分かりやすい。 床を踏む音が、相手より先に部屋へ入ってくる。 私は第二面談室の机に資料を並べながら、その音を聞いていた。 目の前には、当主印の使用記録。 慈善基金承認書。 偽造署名疑義一覧。 公爵家会計報告の閲覧記録。 そして、十三歳の私の名が記された書類の写し。 何度見ても、胸の奥はざらつく。 だが今日は、そのざらつきを手で押さえ込まない。 ざらついたまま、見る。 ざらついたまま、読む。 そう決めた。「リディア」 隣に立つギルベルト閣下が、低く呼んだ。「はい」「茶は飲んだか」「飲みました」「食事は」「軽く」「軽く?」「……パンとスープを」「菓子は」「なぜ菓子まで」「食べたか」「一つ」「よろしい」 私は少しだけ眉を下げた。「父との面談前に、食事確認をなさるのですか」「君の家族と会う前は必要だ」「否定しづらいのが嫌です」「なら、否定しなくていい」「閣下は本当に横暴ですね」「よく言われる」 いつものやり取り。 短い言葉。 それだけで、肩に入っていた力が少し抜ける。 父と会う。 その
Last Updated : 2026-08-29 Read more