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出向

 グレックが手術を決意してからもハンター隊は連日に亘って任務をこなしている。日程について考える暇もなく日数だけが過ぎていった。 早朝に全員でコーヒーを飲むといういつもの光景。しかし、突として鳴ったグレックのギアによって、憩いのひと時は終わりを告げてしまう。「早いな……」 出撃ではないだろう。ギアが鳴っているのだから個人的な用事に違いない。ただグレックは要件を察しているようだ。コーヒーを啜りながら、慌てることなくギアを眺めている。「おい、ミハル。お前は今日から出向だ――」「はいぃ……?」 唐突な話にミハルは声を裏返した。聞き違いでなかったのなら、グレックは確かに出向と口にしたはず。まだ配属して三ヶ月しか経っていない。ようやく馴染んできたところであったというのに出向とかあり得ないと思う。「異動じゃないぞ? 期間制限のある出向だ。三ヶ月という期間が満了すれば、お前はセントラル基地へ戻ることになっている。詳しくは辞令を読め……」 言ってグレックはミハルのギアに辞令を送信。有無を言わせず確認させた。  何だかわけの分からぬ展開であったものの、ミハルは辞令を開く。人間関係が変わるのはあまり好きじゃなかったから、不満げな表情を浮かべながら。「ソロモンズ……ゲート…………?」 ところが、ミハルの表情が一変した。 辞令にはソロモンズゲート支部イプシロン基地とある。そこは言わずもがな彼女が配属を望んでいた場所だ。ミハルは咄嗟に顔を上げてグレックを見つめた。「イプシロン基地への配備だ。それも301小隊だぞ? 目一杯に暴れてこい……」 とても信じられない。グレックが気を利かせてくれたとしか思えなかった。こんなにも早くイプシロン基地へと配置されるだなんて。 ミハルは呆然とギアを眺める。突如として舞い込んだ話がまだ消化し切れていない。 ◇ ◇ ◇  ミハルが辞令を受けるより遡ること三日。話が動き始めたのはグレックに手術の説得をしたあとである。ミハルがオペレーションルームを出て行った直後のことだ。 オペレーションルームに残されたグレックは考え込んでいた。仮に足が元通りとなれば自分はどう変わるのか。今よりも高みを目指していけるのか、或いはミスがなくなるだけだろうかと。「今まで考えもしなかったことだな……」 言ってグレックは小さく笑い、眠気覚ましのコーヒーを
last updateÚltima actualización : 2026-09-26
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慌ただしい朝

 ミハルの辞令を全員が覗き込むようにしていた。傍目から見るとミハルよりも周りが食いついているようにしか思えない。「ミハルちゃん、凄いじゃない? うわ! 連名が物凄いメンバーね!」 錚々たる顔ぶれの署名にシエラは声を上げて驚いていた。  承認欄にはクェンティン司令から参謀のアーチボルト准将の名。第三航宙戦団長のテレンス大佐や301小隊の隊長代理であるベイル准尉まで含まれている。更には要請者としてアイリス・マックイーンの名があった。「これはフロント閥の力が働いておるのぉ……」 小さく顔を振るバゴス。とてもルーキーを呼び寄せるだけの辞令だとは思えない。士官を迎えるような名が連なっていたのだ。 フロント閥とは木星圏を代表する軍事派閥である。所属するのは概ねガリレオサテライト5thを中心としたメガフロントユニック群に関係する兵士たちだ。派閥の長はクェンティン・マクダウェル大将。通常なら一等航宙士に派閥から声が掛かるはずもなく、この辞令には様々な憶測を巡らせてしまう。「内部異動という形じゃの。形式は出向となっておるが、どうなることやら……」 「おい、バゴスさんやめろよ! 俺は念を押したんだぞ? ちゃんと返せとな!」 ミハルを余所に会話が進む。当人であるミハルはどうにも信じられなかった。承認者に面識はなかったし、何よりミハルを酷評したアイリスが要請するなどあり得ないことである。「グレック隊長、これはどういうことです!?」 堪らずミハルは疑問を口にする。望まれて行くのならば確かに嬉しい。けれど、望まれるような状況にまで達していないことをミハルは自覚していた。「先日、アイリスから通信があってな。エース格が欲しいと言うから、ミハルを推薦しただけだ。まあアイリスが復帰するまでの繋ぎのようなもの。気楽に行ってこい」「でも、セントラル基地はどうなるのです!? また二人で戦うんですか!?」「それなら問題はない。ちゃんと気を遣ってくれているようだ。朝一の定期便でパイロットが二人補充されることになっている。ミハルはその便に乗ってフィフスへと帰れ。シャト
last updateÚltima actualización : 2026-09-27
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カザイン光皇家

 恒星を失った星系。完全な闇に飲み込まれていたけれど、まだそこには生命が息づいていた。過酷な状況下にあっても彼らは希望を抱いている。「ハニエムよ、前哨戦は散々であったらしいな?」 宙間建造物“アルバ”の中でも一際目立つ建造物が皇都レブナである。 レブナに皇都が遷都されたのはつい先日のことだ。環境悪化が著しいゼクスを放棄し、カザイン光皇はレブナへと居城を移していた。「申し訳ございません。しかし、あれは前哨戦などではなかったのです。あの侵攻は敵情視察の延長に他なりませんので……」 ハニエムは連軍の最高司令官である。どうやら彼は此度の交戦結果を光皇に報告しているようだ。  不満げなカザイン光皇の問いには直ぐさま反論している。ハニエムは敗戦が想定内であったことを明確にしていた。「であれば次戦は勝利できるのだな?」「もちろんでございます。既に対策を立てております。何しろ光皇路を越えなければ向こう側の詳しい情報が得られませんので……。しかし、成果は十分です。エイリアンの指揮系統から戦術、戦力を正確に把握できております……」 自信満々にハニエムがいう。確かにゲートから距離があった彼らは情報が不足していた。偵察機を何度も送り込んでいたけれど、情報は如何ほども得られなかったことだろう。「次戦は五倍の戦力を投入します。また当てにならぬ自立機の割合を減らし、その分を有人機に割り当てる予定です。ただ一般兵は希望した臣民を訓練し始めておりますけれど、やはり技量を備えた操縦士が足りません。できれば即戦力となり得る操縦士の選定を光皇陛下にお願いしたいのですが……」 連軍の全権を任されているハニエムだが、熟練した兵の召集については問題があるらしい。自身の裁量で決定すると何やら不都合があるようだ。「それならばヘーゼン星院家及びリグルナム星院家の私兵から選べ。彼らは侵略戦争否定派であるし、奴らが私兵を多く残しているのは問題だ。余の勅旨であれば拒否できぬだろう……」 星院家とは光皇連最高の支配階級であって、カザイン皇家も厳密には十二ある星院家の一つである。皇家は世襲制ではなく、皇が亡くなるか失脚した場合にのみ次代の皇を星院家から選ぶ。また選定方法は十二星院家の投票によって決められるが、ここ四代はずっとカザイン星院家が皇家となっていた。 カザイン皇が名を上げたリグルナム家は最
last updateÚltima actualización : 2026-09-28
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初めてのイプシロン基地

 定期便に飛び乗りフィフスへと戻ったミハルは、セントグラードターミナルステーションにあるシャトルライナー乗り場へ駆け込んでいた。 初めてのシャトルライナー。火星圏や地球圏方面は賑わっていたけれど、イプシロン基地方面は閑散としている。そこはまだ一般の利用者に解放されておらず、軍の関係者しかいないためだ。 程なく客車がホームに到着。物資の運搬も兼ねているために、客車が二両ある他は全てが貨物車両である。 ミハルは指定された座席を見つけ、カプセル状になった椅子へと座り込んだ。しばらくすると自動的にカプセルが閉じられ、機能説明や注意事項がモニターに流れていく。「全てカプセル内で済ませるとか。到着までこのままかぁ……」 一旦、発車すれば乗客はカプセルから出られない。約十二時間という旅程をカプセル内で過ごす必要があった。 不意に身体が浮き上がったような感覚がして、時を移さず背景が切り替わる。足下も頭上も背後でさえも星の海に埋め尽くされてしまう。「まるで銀河に浮かんでるみたいね!」 徐に星たちが流れていく。どうやら出発したらしい。ミハルは表示を切り替えることなく、食い入るようにして星たちの煌めきを眺めていた。「やっぱり宇宙って広いなぁ……」 端的な感想を述べたミハルだが、本当に感動している。リラックスしているのが理由かもしれないけれど、航宙機のコックピットから見る景色とは違って見えていた。意図せず与えられた銀河の旅をミハルは満喫しているようだ。 昼食を食べて少し居眠り。長く休みがもらえなかったからか、随分と疲れが溜まっていたらしい。ミハルは到着を知らせるアナウンスがあるまで熟睡してしまう。『当機は間もなくイプシロン基地へと着港致します。お忘れ物がないか今一度……』 眠い目をこすりながら外の様子を見ると、そこに主星はなかった。ニュースで見た通りに、この宙域にあったはずの土星は跡形もなくなっていたのだ。【認証 ミハル・エアハルト一等航宙士】 ギアをかざせばID認証は完了。直ぐさまゲートを飛び出す。ミハルは遂にイプシロン基地へと降り立っていた。
last updateÚltima actualización : 2026-09-29
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ルームメイト

 ミハルは自室へ戻る前に基地を散策していた。明日になって慌てないように301小隊の詰め所を確認したり、数あるレストランからベストな夕食を探してみたりと。 最終的にミハルが自室へ到着した頃には午後十時を過ぎていた。  ID認証をして扉を開く。相部屋と聞いていたから少し緊張している。「失礼します……」 自室ではあったのだが、少しばかり緊張する。ルームメイトが睡眠中である場合を考え、ミハルは静かに部屋へと入っていく。初日から悪い印象を与えないようにと。「ミハル、遅かったじゃない! 待ってたんだから!」 ところが、飛び出してきたのは懐かしい顔だった。現れたのは気遣い無用の友人であり、学生時代ずっとルームメイトだったその人である。「キャロル! あんたの部屋だったの!?」 二人は再会を喜び抱き合っている。卒業から九ヶ月が過ぎて、二人は再びルームメイトとなった。「遅すぎるよ! せっかく一緒に晩ご飯を食べようと思ってたのに!」「ごめん、もう食べちゃったよ! ルームメイトの話なんか聞いてなかったし! でもお菓子とジュースを買ってきたから、これで勘弁して!」 キャロルはミハルがルームメイトであることを聞いていたらしい。ミハルの夜食を分けてもらいながら、募る話を交わしていた。「301小隊とか凄すぎるよ! あたしなんか防衛ライン外の配置だよ?」  キャロルは苦笑している。ミハルの実力は知っているつもりだが、それでもミハルが配置された部隊は俄に信じられなかった。 ソロモンズゲートには防衛線が敷かれている。ゲートに一番近いラインがアルファ線。続いてベータ線、ガンマ線、デルタ線へと続く。最終的な防衛ラインはイプシロン基地であり、ここを抜かれると人類の敗北が濃厚となるのだ。キャロルはライン外とのことで、イプシロン基地の守護部隊であるらしい。「前の戦いじゃデルタ線まで敵機が来なかったんでしょ?」 「少なくともあたしのところには来なかったよ。それでもすっごく怖かったんだから!」 キャロルが語る戦闘はリアリティを感じさせた。飛び交うビーム砲や爆散する艦船。宙域に残る数々の爆発痕が生々しかったという。「それで次の戦いってありそうなの?」 話のついでに聞いた。木星でも次戦の可能性について様々な憶測が飛び交っていたものの、現地での話を知りたく思って。「可能性は凄
last updateÚltima actualización : 2026-09-30
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エース部隊の実状

 翌朝、キャロルと朝食を取ったミハルは301小隊の詰め所を訪れていた。  ただ隊員たちの姿はなく、詰め所には副隊長のベイル准尉しかいない。「ああ、ミハル一等航宙士だね。話は聞いている……」 ふとクェンティン司令の話が頭をよぎった。配備について一悶着あったことはミハルも理解していたけれど、やはり迎える側のベイルに笑顔はない。「よろしく……お願いします」 確か承認の連名に彼の名もあったはず。しかし、どう見てもベイルは歓迎しているとは思えない。どちらかと言えば邪魔者のような目でミハルを見ていた。「君はクェンティン司令と知り合いなのか?」 ベイルがそんな話を続ける。先ほどから訝しむような目で見ていた彼は何か勘ぐっているのかもしれない。「いえ、クェンティン司令とは基地で初めてお会いしましたけど」「そうか……。ならいい。まだ私は君がどういうパイロットなのかも聞かされていないんだ。全てが決定した後に私はサインを強要されただけ。仮にも我々はエース部隊と呼ばれている。ここはパイロットを育成する場ではないのだ。本来ならルーキーを迎え入れる余裕などない」 キツい言葉が向けられたけれど、嘆きたくなる気持ちも理解できた。ミハル自身も困惑する出向であったのだ。現場を任される者からすれば、何の罰かと思えただろう。「突然に出向を言い渡されました。希望を出していたわけではありません」「ああ、すまない。君が悪いわけではないな。無理を押し付ける司令部に腹を立てていたんだ。謝罪させてもらう」 まるで心がこもっていなかった。その内容とは裏腹にベイルは不機嫌そのもの。全ての元凶がミハルであるかのように見つめていた。「それで私はどうすれば良いのですか?」 指示がなかったから、ミハルから尋ねた。正直にいって、やる気を削ぐような副隊長には従いたくもなかったが、配属先がここだというのだから仕方がない。「まずは機体の設定をしてくれ。君には一番機が宛てがわれている――」 それは思わず聞き返しそうになる話だった。ミハルは耳を疑っている。  聞こえ
last updateÚltima actualización : 2026-10-01
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ミハルとアイリス、再び……

 イプシロン基地に接続する病棟。アイリスの病室へとミハルはやって来た。少し躊躇いがあったものの、ミハルは意を決して病室へと入っていく。「んん? 誰かと思えばチビっ子パイロットじゃないか?」 喧嘩を売るような話であったが、ミハルは気にせず近付いていく。どうやら名乗る必要はなさそうだ。アイリスはミハルが誰であるのかを分かっているのだから。「背丈のことはほっといてください。しかし、貴方はどういう理由で私を呼び寄せたんですか? しかも一番機に宛てがうだなんて」 グレックに薦められたからといって、自身の代わりを新人に任せるのはどう考えても間違っている。隊に混乱が生じるのは明らかであった。「なんだ? 自信がないのか? グレックは次代を担うエースだと話していたぞ?」 「自信がないわけじゃありません! 隊が混乱すると言っているのです! 私を引き入れるだけなら、二十五番機で良いじゃないですか!?」 自分のことで隊内がギクシャクするなんて考えたくもない話だ。それはミハルにとって負担にしかならない。「何を生温いことを……。いいかミハル? 私は二十五番機の穴埋めが欲しくてグレックに連絡したわけじゃない。一番機の代わりを探していたのだ。ミハルが適格だと聞いたから貴様に決めただけ。無理だというのなら木星へと帰れ!」 相変わらず手厳しいの一言。軍人になったからか、物言いは学生の頃よりもきつかった。「帰りません! 私はエイリアンだけでなく、301小隊まで圧倒するつもりです! 従って一番機を断る理由が私にはありません! 他の人たちに気を遣っただけですから!」「ならば結構。うるさくいう奴などねじ伏せてしまえ。何歳であろうがやっかむ奴はいる。一々気にしていたら一番機には乗れんよ……」 フンと息を吐くアイリス。自らも経験したことだと言わんばかり。確かに能力を見せつけられたのなら雑音は封じられるだろう。だから見せてみろと、アイリスは命令しているかのようだ。 二人は睨み合った。とても同じ門弟であるとは思えない。漂うムードは今にも喧嘩が始まりそうなほどに張り詰めていた。「先の
last updateÚltima actualización : 2026-10-02
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301小隊

 昼食を取ったあと、ミハルは301小隊の訓練に参加していた。向かった第八ドックは中央区画にある第三航宙戦団専用の施設である。「私はこれから司令に呼ばれている。すまないが班毎に連携訓練をしてくれ。また明日の午前中は急な会議が入った。よって部隊連絡は昼からにしよう。午前中にある警備飛行は各班が分担し行ってくれ」 副隊長のベイルが指示を出した。彼は司令室へと行く用事があるらしく訓練に参加しないとのこと。ベイルの話が終わるや、隊員たちは班毎に集まり行動を始めている。「班は五機編成よね……?」 細かな行動は班単位で行う。基本的にナンバリングの上位から五機ずつ。ミハルは一番機であったから、二番機から五番機が同じ班となるはずだ。「あの……本日から参加のミハル・エアハルトですけど」 ミハルはまだ残っていた二人に声をかけた。二人とも三十歳くらいの男性である。「ああ、聞いている。俺たちは一班だ。班連携とのことだが、君のサポートは来ていない。ベイル副隊長も不参加のようだから、勝手に訓練していろ」 三人での連携訓練はしないとのこと。棘のある口調は敵意が見え隠れしていた。やはり一番機に配置されたことは不協和音の元となっているらしい。 ミハルはふとグレックの話を思い出していた。『エイリアンも301小隊も全てを圧倒しろ――』 恐らくグレックは現状を予想していたはず。ただの仲良し部隊ではなく、信頼を得られなければ居場所なんて用意されないことを。「なるほど……。陰湿なことをするんだ」 向けるべき敵意が間違っていると思う。しかし、仮にもここはエース部隊と呼ばれている。個々のプライドは相当なものがあるだろう。指示通りに圧倒しなければ、誰もミハルとコンビを組もうとしないはずだ。「ベイル副隊長はともかく、誰が不参加なの……?」 先ほどの二人はベイルと三機編隊で連携していたようだ。ミハルを含めると班員の残りは一人。恐らくはアイリスの支援機がその人だろう。 班員をギアで確認してみる。普通なら五番機までが一班に違いなかったが、一班の最後は二十五番機だった。「二十五番機って……ジュリアさん?」 先ほどの話にあった訓練に来ていない一人。それは二十五番機に乗るジュリアであった。これまた良くない想像が働いてしまう。慣例と異なる班割りには首を傾げるしかない。「てことは、ジュリアさんが
last updateÚltima actualización : 2026-10-03
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シミュレーターを終えて

「いやぁ! 凄いなミハル! 正直にいって俺は君が派閥間の争いに巻き込まれたものだとばかり考えていた。でもそれは違ったようだ! 謝らせてくれ!」 なぜかハイテンションのダンカン。戻ってきたミハルに頭を下げた。「やめてくださいよ! シミュレーターのレベルを下げてくれたのですから、これくらいは普通です!」 ミハルはブンブンと顔を振って答える。 どうにも歯ごたえのない戦闘だった。ダンカンが気を利かせて、難易度を下げてくれたとしか思えない。「馬鹿言え! 今のは実際にあった交戦と変わらん。選択したEブロックは最も飛来の少ない角のエリアだが、実際に出現した通りの機数が出現しているぞ。有人機に関しては本物より鈍いかもしれないが、無人機は解析をして得られたデータ通り。実物にかなり近い動作をしているはずだ」 難易度は実際の大戦と大差ないだろうとダンカンは付け加えた。「何ともこれは凄い結果だ。撃墜数に加え、被弾数ゼロ。何より計測データが抜群だ。機動修正値から反応速度。意識可能範囲はアイリス中尉と遜色ないレベルにある。セッティングが煮詰まっていない段階でこの数値を叩き出すとは恐れ入った。俺は一番機にミハルを据えた意味を今の機動に見たぞ! このデータはベイル副隊長に渡すべきだと考えるがどうだ?」 元はアイリス機の担当であった彼はミハルが示した数値に感動すら覚えている。また隊におけるミハルの立場を分かっていたから、ダンカンは得られたデータをベイル副隊長に報告しようと考えていた。「やめてください! 私は別に馴れ合いに来たわけじゃありませんから」「しかし、ミハルには支援機が必要だろ? 今のままでは単機での戦闘を強いられるぞ? シミュレーターならば被弾しても死ぬことはないが、実戦における照射ラグは君を死へと誘うことになる」 小隊には担当ブロックがあり、その中でも班によってエリアの割り当てがある。加えて戦闘時は二機、或いは三機単位で行動し、各々がビーム砲の照射ラグを補い合うのだ。「支援機ならいます。今日は来ていませんけど……」 ミハルの返答を即座にダンカンは理解した。301小隊においてミハルと組もうとする者の存在。たった一人だけ該当することを。「ジュリアか……。だが、あいつはもう駄目かもしれんぞ? もう何日も隊に顔を出していない。大戦時に負った怪我で休んでいることになって
last updateÚltima actualización : 2026-10-04
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ジュリアとの再会

 ダンカンから聞いた部屋は居住棟の一番端。病棟に近い区画にあった。 部屋にいるのか疑問に感じたものの、表向き怪我で休んでいる彼が平然とうろつくはずもない。「すみません! 私はミハル・エアハルト一等航宙士と言います」 インターホンを押してから、ミハルは大きな声で名乗る。応答してくれるか不安であったが、しばらくして扉がスライドしていく。「はい、ジュリア・マックイーンですけど?」 シュインと扉が開くと記憶にある顔が覗いた。居留守を使うことなく、彼は応対に出てくれたのだ。「あの……私、支援機がいないんです!」 突然すぎる告白である。緊張したミハルは話を纏めすぎたらしい。経緯が何も分からなかったから、ジュリアは眉根を寄せている。「君は……ひょっとして301小隊か?」 数少ない情報を元にジュリアは解答を導いていた。どうやらミハルの顔と名前は覚えていないようだ。「あ、はい! 昨日、301小隊に配置されたばかりです! でも、少し問題があって孤立していて。とにかく支援機となってくれる人がいないんです!」 ミハルの話はかなり端折られていたが、ジュリアは状況を理解した様子。小さく頭を上下させ、彼女の話に相槌を打った。「君はいくつ? 誰の要請で誰に承認されたんだ? 」 問いを返されたミハルは少し怯んでしまう。とはいえ別に忘れたわけではない。躊躇ったのは要請者にあった名が彼の姉であったからだ。「一八歳です。要請者はアイリス中尉……。そして承認者はクェンティン司令、アーチボルト参謀にテレンス大佐とベイル副隊長です」 思わぬメンバーにジュリアは息を呑んでいた。過去の自分と重なっている。そこに存在したあらゆる思惑が想像できた。意図せず騒動に巻き込まれた少女のようにしか見えなくなってしまう。「君は誰の血縁? クェンティン大将やアーチボルト准将に娘さんはいないはずだけど?」「私はミハル・エアハルトです。名前の挙がった人たちとは親類じゃありません。異動希望を出していたわけでもないのですが、セントラル基地からの出向を命じられました」
last updateÚltima actualización : 2026-10-05
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