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第7話

Author: 鳳小安
研司は心配そうに雲乃の手を握りしめた。「雲乃、大丈夫か?本当に心配したんだぞ。お前が無事でよかった」

雅美もそばに立ち、後悔を滲ませながら言った。「ごめんね。あの妊婦が雲乃だって分かっていたら、すぐに駆けつけたのに。そうすれば、雲乃と研司の赤ちゃんだって死なずに済んだかもしれない……」

雲乃は二人の言葉には答えず、研司の手から自分の手を静かに引き抜くと、淡々と尋ねた。「香坂若菜の子供はどうなったの?」

「もう危険な状態は脱した」

研司は優しい声で続けた。

「安心しろ。若菜はもうお前を責めてない。お前の子供が亡くなったことを知って、あの子もすごくつらそうにしてた。それに、お前さえよければ、自分の子供をお前の子供だと思ってくれていいって言ってる。

だから、もう二度とあんな衝動的なことはするな、な?手を出す前に、あの子だって俺の血を引いた子供なんだって考えてくれ」

雅美もそばから同調した。「そうよ、雲乃。あなたは優しい人なのに、どうしてあんな恐ろしいことをしてしまったの?」

ここまで来ても、二人が信じているのは若菜だけだった。

雲乃と研司は幼い頃からの付き合いで、これまで何があっても、研司が一番気にかける相手はいつだって彼女だった。

たとえ彼女が何か間違ったことをしても、彼は無条件で彼女の味方をしてくれた。

一方、雅美と出会ったのは、雲乃が妊活をしていた頃だった。

最初は患者と医師という関係だった二人が、何でも話せる親友になるまでには、5年もの月日がかかった。

その間、雲乃は何かあるたび、どんなことでも雅美に打ち明けてきた。

雅美もかつて、雲乃に絡んできたチンピラを相手に喧嘩までしてくれたことがある。

あのとき、雅美はこう言っていた。「雲乃、私、昔から友達ってほとんどいなかったの。でも今は、雲乃が私の一番の親友だって決めてる。この先、一生変わらないから!」

けれど今、その一番の親友も、一番愛していた夫も、すべてほかの女のものになってしまった。

雲乃は目を閉じた。

もう二人と言葉を交わす気力すらなかった。

どうせ、すべてはもうすぐ終わるのだから。

「二人とも出ていって。疲れたから」

研司は名残惜しそうに立ち上がった。「じゃあ、またあとで来る」

彼が出ていった直後、雲乃のスマホが鳴った。

私立探偵から、調査で見つかった証拠がすべてまとめて送られてきたのだ。

雲乃が中身を確認すると、この2年間、研司は若菜が望むものなら何でも与えるほど彼女を甘やかし、少なくとも20億円以上の金をつぎ込んでいた。

しかも、その金はすべて、雲乃が彼の会社で身を粉にして働き、必死に稼いできたものだった。

あの女には、1円残らず返してもらう。

雲乃は証拠を弁護士に転送すると、続けてメッセージを送った。【これが陸奥研司の不貞の証拠です。彼と離婚について話し合ってください。もし離婚に応じないのなら、裁判になっても最後まで争います。】

その夜、雲乃は意外と安らかに眠ることができた。

翌朝になっても、研司は病院へ来なかった。

雲乃は一人で退院手続きを済ませた。

今日は、新しい会社の社長に会う日だった。

遅刻するわけにはいかない。

病院を出ると、車は自宅とは正反対の方向へ走っていった。

あの家から遠ざかれば遠ざかるほど、雲乃の心は不思議なほど落ち着いていった。

荷物を取りに戻ることもしなかった。

あの家に残してきたものなど、もう何一つ欲しくなかった。

やがて車が久世グループ本社の前に停まると、ちょうどそのとき、研司の会社の人事担当者からメッセージが届いた。

【奥様、退職申請はすでに承認されました。ただ、企画部の新しい責任者がまだ決まっておらず、社長もここ数日出社されていません。

新しい展示会も間もなく始まるのですが、一度だけ会社に戻ってきていただくことはできませんか?】

そのメッセージを見て、雲乃は笑った。

これまでは研司が会社にいないとき、会社のあらゆる業務を彼女が代わりに処理してきた。

けれど、それも今日までだ。

【現在、研司とは離婚に向けた手続きを進めています。彼の会社のことは、もう私には関係ありません。

それに、私はすでに別の会社への入社を決めています。今後、陸奥グループのことで私に連絡しないでください。】

メッセージを送り終えると、雲乃はハイヒールを鳴らし、迷いのない眼差しで久世グループのビルへと足を踏み入れた。

研司、私を大切にしなかったのはあなたよ。

だったら、望みどおりにしてあげる。

次に会うとき、私たちはもう夫婦ではない。

敵同士よ。

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