All Chapters of 触れたものの過去がわかる彼女と触れられても全く困らない俺: Chapter 41 - Chapter 50

60 Chapters

41 お互いのスマホの中身

流星は翌日、奈央の相談に富山探偵事務所を使えないかと、久保田に打診する。「不倫相談なら顧客になるかもしれないし、富山さんも使えと言ってくれるだろう。話をつけとくよ。」久保田はその場で連絡して大丈夫か聞く。だがスマホから何か激しくさわいでいる声が聞こえてきた。「ダメそうなら無理しなくてもいいですよ」流星は完全にプライベートの相談なので……と伝えたが、久保田は手を振っている。「だから彼女も今必死で変わろうとしていますよ……ええ、分かってます。いや……あの子はそんな嫌な子じゃないです……」ん?これは……流星が久保田の会話の様子を見守ると最後に――「ええ、間違いなく変わって来ますから……ご安心を」そう言ってスマホを切った。「先ほどの流星の件は大丈夫だ。ただ……」久保田は困ったように顔を曇らせる。「あの……もしかして瞳さんですか?」恐る恐る聞いたらビンゴ。「実は瞳さんのことも久保田課長に相談しようと思っていたんです」流星は顔を曇らせた。先ほどの話を聞くに、これは地雷を踏んだな……流星はスマホの写真のアルバムを開いた。「久保田課長に見せるからね」そう言って可愛らしく笑う瞳の写真をスマホに撮った。キャップを被るパターン、伊達メガネをかけるパターン、化粧をしてつけまつ毛をバッチリつけるパターン……様々な努力の成果はそのアルバムの中だ。流星は、諦めていた。目立つのは事実だが、仕方ないじゃないか。そう富山に伝えたい。「これは……富山さんから間違いなくダメと言われるパターンだな」
last updateLast Updated : 2026-10-14
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42 気づいた俺の恋心

「とりあえず明日からここに来い。仕事は9時から18時だが、時々相談時間が押せば夜になる。ここまではどうやってくる?」富山は死んだ魚のような目でため息をついた。「どう……って……歩きます……」お金がないのだからそれ一択以外あるのだろうか? 流星の家からどのくらい離れているのだろう? 2時間以内に辿り着ければ良いが。「ちょっと歩くには遠いよ……私が仕事を辞めてからは送ってやれるがなぁ」久保田も、自分の始業時間と被るので送迎はできない。「バスを使えばいいだろう。お前、バスくらい乗れるんだろう?」「ええと……小銭をたくさん用意して、バスで整理券を取れば乗れるんですよね?」かつての職場の温泉街までは車で20分。 しかし歩いていた。先日大家から追い出された時にバスには乗ったばかりだ。 だから一般的なことはわかると思っている。ただ、A県のバスの乗り方は瞳が知っている乗り方と一緒だろうか?「お前……不意にバスに乗らないといけない時に交通カードも使えないと不便だろう?バスカードは?」「カード?それは、よくわかりませんがとりあえず歩きます!あの……今までも車で20分程度なら歩いてました」交通カードなんて知らないが、使う予定もないのだから知らなくていいのではないか? そう思う瞳の気持ちとは裏腹に、困ったように久保田が声をかけた。「だが、前に流星の家からいなくなった時に道に迷ったと聞いたよ。スマホの地図アプリを使えば通えるかい?交通カードをスマホに入れてあげよう。それを使えば家からすぐそばのバス停までは来られるだろう」久保田は心配そうに瞳のスマホに交通カードのアプリをダウンロードした。「今日、このアプリにコンビニで入金しておこう。歩くのもいいが、バスに乗れば外を出歩く時間は短縮される。人に絡まれないように自衛することも大切だ」「は……はい……」正直なところ、瞳は乗り気ではなかった。 だが、お金はもったいないが、仕事で使うなら交通カードを使う練習もしておいた方がいいのだろう。瞳はしぶしぶ首を振るのを見て、富山は唸り声を上げた。「お前、その男の家にいるんだったな。道を覚えるまでわしが家まで迎えに行く。こうつうカードを使ってバスに乗る、そして、地図アプリを見て歩く練習をしろ」久保田はえっ?という顔で富山を見る。「富山さんが?」その久保田の反
last updateLast Updated : 2026-10-15
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43 甘いケーキに隠された恋心

瞳は、手袋越しに伝わる流星の手の感触を噛み締めていた。そして、気づく。誰も、母でさえも、いや、手を出してこようとした男たちでさえ誰も自ら望んで自分の手を握ってこなかったことを。瞳の手は商売に使うためのものであり、能力を使って見てもらいたいものがある人以外触れてくることはなかったことを。手袋がなかったら、流星さんも自分の手には触れないだろう。それでも、嬉しかった。少し引っ張る手、力を込める手、親指で少し手袋の上を撫でる手。全ての感触が初めての感覚だ。少し力を入れてみる。温かい。それだけで泣き出したくなった。「流星さん……ありがとう」「えっ?まだケーキは買ってないよ」唐突に瞳がお礼を告げるので驚いた流星は瞳を見て振り返る。流星にはわからない。握った手が温かいことがどれだけ素晴らしいことか。もし……この手袋を外して本当に手を握って歩けるなら……親すら握らなかった私の手を、握って歩いてくれる人がいるならどんなにいいだろう。この手袋が大切なのに恨めしい。「ううん……ただお礼が言いたかったんです」「そうか……気にしなくていいよ?」流星は困ったように答えながら、瞳の手を握ってコンビニのケーキを見た。「どれがいい?」「……どれと言われても……」テレビ局で出されたことはあったが、考えてみればそれ以外で食べた経験はない。「前食べた時は、この生クリームとイチゴだったのでそれにします」それ以外の味は知らない。「そう、じゃあこれと……明日用にチーズケーキも買おう」流星はカゴに二個入りケーキを二つ入れる。それをただ買って、今度は帰りに明日からの話を告げた。
last updateLast Updated : 2026-10-16
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44 困ったおっさんとヘタレな男

瞳への気持ちに気づいた流星は、瞳と両思いでケーキを食べるためにクリスマスまでに告白できるだろうかと思考をぐるぐる巡らせていた。普通の交際なら「好きです!付き合ってください」で終わる。しかし、瞳は行き場がなく自分の家で過ごすしかない。ここで好意を伝えてしまえば彼女は逃げ場を失い、自分に気を遣って受け入れるしかなくなるか……前みたいに家を出て行こうとするか……あの瞳がいなくなった時の光景が頭に浮かび、ぶるっと震える。「言える訳がない……」「えっ?何か言いましたか。流星さん。」瞳は、自分の指示で着替えさせた流星の白のTシャツと短パン姿で、どうしたのだろうという顔で覗き込む。そのぶかっと大きめの服を着る姿がまた妙にそそるというか、見慣れた自分の服のはずなのに、着ている中身が変わるだけでこんなにドギマギしてしまうものなのか。「いや、独り言なんだ。浴槽の縁に首を置いて。少しシャワーで服は濡れるけど気にしないでいいから……」空の浴槽に瞳を入れて、頭だけ洗い場に出るようにする美容院スタイルで髪を洗ってやる。流星は額が濡れないように瞳の髪にシャワーを当てると、流れて落ちたお湯がシャツに染み込み、今度は大きかったシャツが瞳の体に張り付いていく。ぐっ……!!更には髪から漂う自分と同じシャンプーの香りが脳にガンガンくるというのに、お約束のように浮き彫りになる体のシルエットまで。その濡れてボディラインがあらわになっていくシャツを見て、先日フライングで見てしまった胸の膨らみ3分の1を思い出す。このテロのような仕打ちは何だ!いっそ流星は冷水にして、自分がシャワーを浴びたくなる。これはダメだ……さすがに良心が保てない。流星は瞳の体の上にタオルをふわりとかけた。「ごめん、思ったより濡れてるから……」
last updateLast Updated : 2026-10-17
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45 探偵事務所の困った所長

富山探偵事務所の埃は、一体何年掃除をしていなかったのかというレベルだった。本当にこんな場所に相談者は来るのか?瞳は、富山という男に母の男のような胡散臭さや悪意は感じなかったが、時間にルーズであり、必要ないことはすべて後回しにしてしまう性格を初日だけで嫌というほど感じ取った。そのくせ……「とみさーん、聞いてくださいよぉ」昼過ぎになると、ノックもせずに開ける繁華街のお店に出勤前の女性たちが何人も入ってくるのだ。「あれ?トミさんの娘?」この質問も何度目だろう。「本日からこちらでお世話になる倉坂瞳です。よろしくお願いします。」頭を下げると「へぇー」とジロジロみた後、大体いつもの話の続きのように彼氏の浮気相談や愚痴をマシンガントークで言い始めた。相談に乗っている横で、瞳はとにかく事務所内の腐った冷蔵庫の物、枯れた観葉植物、床に散乱したごみを片付け、燃えてしまうのではないかというタバコの残骸などとにかく捨てる。そして客が帰るたびに、必死にはたきを使って埃を取り、掃除機でをかけ、机の上を雑巾で拭く。ひたすらその繰り返しをした。最初は流星からのプレゼントの手袋をしていたが、可愛らしいピンクの手袋が真っ黒になった瞬間、瞳の心に富山に対して殺意が目覚める。流星さんがくれた私の唯一の宝物なのにひどい!耐えかねて、手袋をとって掃除を始めると今度は事務所の過去が様々な物から流れ始める。だが、意外にも富山は毎日毎日、本当に親身になって夜の街の彼女たちの相談にのっていた。その大半はまともな報酬は得られないものばかりだ。それでもDVを受ければ別れさせ、シェルターを紹介する。ストーカーのような男から、守ることもある。富山は困った事に、困っている人を目の前にすると助けることに夢中になるのだ。どちらが困った人かわからないが、そういう人柄が、またお金になる客を呼び込んでいたようだ。ここ最近は腰を痛めて、動くのも辛そうな映像が映る。
last updateLast Updated : 2026-10-18
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46 今後お前は障害になる

迎えにきた流星は、まさかの車だった。「富山さんも送ります。瞳さんも乗って」「流星さん?この車はどうしたんですか」黒のコンパクトカーだ。 室内は流星の性格が表れているようにピカピカだ。 汚れた手袋をつけて乗っても失礼はないだろうか? いや、家の延長と思えば、手袋なしでもいけるのか?「普段はカーシェアで時間貸しをしているんだ。渋滞はバイクの方が進むし、警察官が切符を切られる訳にはいかないから安全運転だしね。そうするとバイクにしか乗らない。荷物を買う時以外、車に使い道がないんだよ」「当たり前だ。現役のサツが警察につかまってどうする」富山が面白くなさそうにぷいっと顎でしゃくる。 瞳は富山に促されるまま、一緒に後部座席に乗った。富山の家まで車を走らせると、流星のマンションに行くには相当な遠回りをしてくれていることがわかる。 態度は悪いが、今日の客への様子を考えても面倒見はとてもいいのだ。「富山さん、今朝、すごく遠回りしてくださったんですね。もしかしたら、久保田さんも遠いのかしら?」何度も面倒をみてくれた久保田にも、相当迷惑をかけていたのかもしれない。「いや、久保田かちは俺の家とは近いはずだよ」申し訳なさそうに肩を落とす瞳に、流星が慌てて否定する。「医者が歩けと言ったから別に問題はない。おい、小僧!クボさんの家には間違えてもこいつと行くなよ。あいつは奥さんとの思い出の家を大切にしているんだ。わしだって、ここ二十年ほどは、玄関までしか足を踏み入れたことはないんだからな」「は、はい」流星は大先輩である富山の威圧感に思わず緊張して返事をしている。 瞳は、能力で見た流星の警察署での一面をここでも見たような気がして嬉しくなった。だが……「そういえば、お前が週末に連れてくる女はお前とどういう関係だ?」富山が初めて奈央の話題に触れた。「奈央は同郷なんです。俺たち田舎者でA市まで出てきて小中高と同級生でした。彼女はこの春に結婚したんですけど、夫の様子がおかしいことを相談されて……」「ふん、それで昔の男を頼ってきたのか?」「い、いえ……ただの幼馴染です」流星は富山の口調に圧倒されながらハンドルを握り続ける。「だったら、その幼馴染が本当に夫に不倫されていて、別れる事になったらどうするんだ?」「え?いや……困ったことがあれば相談にのろうかな…
last updateLast Updated : 2026-10-19
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47 誰よりも君を優先する

富山の家は意外にも普通の一軒家だった。「あら、送っていただいたの?」車が止まった音に気づいて富山の妻が玄関を開けて出てきた。そして、ちらっと運転席の流星を見ている。瞳は――いや流星もだろう。富山に奥さんがいたことに目を見開いた。事務所の埃まみれの状況から、てっきり独身だろうと思い込んでいたのだ。まさかこんなに身なりが整った上品そうな妻が登場するとは。「ああ、こいつが話していた新しい従業員だ。で、運転手はそのツレだ」富山は瞳を妻に紹介するでもなく、家に入ろうとする。「あ、あの……倉坂瞳と言います。久保田さんのご紹介で、探偵事務所にお世話になることになりました。よろしくお願いします」瞳は、車から急いで降り、富山の妻に挨拶をしようとしたが、妻の目が少し細くなり、じっと睨むように見つめられる。「ええ、あなたのことは久保田さんからも聞いてますとも……テレビにも出ておられたわよね」「は、はい……」この反応は、よくない反応だ。週刊誌やテレビで騒がれた詐欺のイメージも払拭できていないし、瞳の持っている能力も胡散臭いペテン師にしか見えないだろう。更には、上から下まで不躾な視線が突き刺さる。本日、大掃除で化粧も崩れて、髪も埃まみれになり、ボロボロの瞳は、もっと綺麗な時に会いたかったと肩を落とす。だがそこで、瞳は重大な違和感に気づいた。……あれ?そういえば、富山は最初から全く自分の能力を疑わなかった……普通は、流星の時のように色々目の前で実演して見せて、誰も知らないことを当ててようやく信じてもらえるのだが?更には、能力を使うと疲れたり体調が悪くなることも知っており、初日から体調を労られたのだが、なぜそのことを知っていたのだろう?「あの……」「お前もそんな態度は
last updateLast Updated : 2026-10-20
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48 触れても心はわからない

流星は瞳の手首を掴んだまま、その手のひらを自分の額に押し当てた。しかし――その瞬間。ブッブ――ッ!ブッブー後続車からのけたたましいクラクションの音が鳴り響き、流星は、今いいところなのに!とぐっと奥歯を噛み締める。「青か……」急いで瞳の手を離し運転するが、自分の気持ちが瞳へどのくらい伝わったか気になる。もし自分の気持ちがバレても、彼女には気を使わせないようにする。そう決めてすっと息を吐き、交差点を曲がりながら自然な顔をする。「何が見えた……」そう言いながらも少し震えていた。ただ聞かずにはいられない。しかし――「流星さん……おなかすきましたよね……瞬間、見えてしまいました。流星さんが何度も時計を見ているの……私の帰りが遅いから心配してくださって、ご飯も食べずに……ごめんなさい、帰ったらすぐ準備しますから!」「へっ?」流星は運転しつつ、頭はフル回転しながら考える。待てよ……瞳に見えるのは相手の見た過去であり、自分の気持ちではない。「瞳さん……もしかして今、俺に触れて見えたのって俺がご飯を食べずに迎えにいくのだけ?」「は、はい。すいません、見る気なんてなかったんですけど、勝手に流れてくるんです。」勝手に流れてきて、俺が見られたらヤバいもの……全裸?いや別に……強いて言えば、自己処理……え、それは瞳は嫌だろうけど、瞳さんのことが好きだと叫びながらではわけで……そこは手を離してもらったらいいだけで……「そんなものなら好きなだけ見てくれたらいいから。その、手を引っ込めないで好
last updateLast Updated : 2026-10-21
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49 生きていく力をつけろ

何かあったのだろうか?瞳は翌朝、富山と共に再び歩くが、いつになく体調の悪そうな様子が気にかかる。「富山さん、調子が悪いんじゃないですか?」「二日酔いだ。昨夜は久々に飲みすぎた。お前のせいだ」「私の?そうですか……すいません。今日は簡単なお掃除だけして、昨日の仕事の続きをしますね」初日に気を使いすぎて疲れさせたのかもしれない。まだ、二日目で道はぼんやりとしかわからないがそれでも、バス停までの道は地図アプリでわかるようになった。「後は今日、事務所から家まで帰るという逆ルートを覚えれば、なんとかなりそうな気もします。もう大丈夫です。それに、流星さんが位置情報というのを共有にしてくれたんです。迷っても、これでわかるんですって」昨夜の流星は、あの後も、まるで夢を見ているのではないかと思うほどに優しかった。握った手からは、流星が自分の手を掴んだ感覚が来たり、ラーメン丼を支える感覚がやってきた。もし手袋をしないでデートができたら……そんな夢を流星が叶えてくれた。他人の体を触る感覚を体験したらあんなに嫌なのに、好きな人が自分を触れてくれる感覚はどうしてこんなに心地いいのだろう。だが、富山はゲンナリした顔をしている。「あの男は優しいのか?」「はい、流星さんは今まで会った方の中で一番優しいです。身内より誰よりも……」瞳は流星の顔を思い出すだけで破顔する。今日も遅くなるようなら迎えに行くと言われたばかりだ。朝も、おにぎりに卵焼きとウインナーとほうれん草をつけただけなのに手を握って喜んでくれる。「優しすぎるぐらいです」「そうか……ならやめとけ。お前、あの男が好きなんだろう」富山は軽く睨んでバス停前の椅子に座る。かなり頭が痛いらしく、ペットボトルを開けて茶を飲み、眉間を揉んだ。「へ……あ、あのそんなに私わか
last updateLast Updated : 2026-10-22
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50 口にしなければ伝わらない

以前のように血みどろの世界を見るわけでもなければ、情事の真っ最中をみるわけではない。日にちの振り返りもせいぜい長くて半年以内。能力を使っても今までより体は格段に楽だった。それなのに、胸の奥は鉛のような重いモヤモヤが居座り続ける。愛する人がいて結婚したはずなのに、なぜ人はこんなに簡単に裏切れるのだろうか?そして、不倫をしながらなぜ平然と妻の前ではやさしい夫を演じられるのだろうか?他人の家を覗き見するのは褒められたことはないと思うが、瞳は今度こそ人間不信に陥りそうだと感じていた。富山もよくある認識だとは言うが、顔をしかめている。「はあ、やってられんな。とりあえず、取れる証拠から取るしかあるまい」富山はカバンにカメラを取り付けたものを瞳に渡す。「これをこっちに見せてみろ」カバンを動かすと富山のスマホに映像が映る。「最近は自動掃除機といい、どこにカメラが付いているのかわかりませんね」瞳はじーっとカメラを見つめる。だがカメラは数ミリ。わざわざカメラがある時思って見ていても、全く外から見たら全くわからない。その他、ペン型や筆箱の外ポケットに仕込むような文房具やイヤホンに見えるものもあった。「ラブホテルは……わしと入るか。車で入られたら写真は撮りにくい。部屋まで入っているの撮ればオッケーだが、さすがにクボさんとわしが二人で入るわけにはいくまい」「今までは?」「妻だ。だが、周囲の目もあるし、年齢的にも嫌だと言われ続けてきた。」富山は70歳ぐらいだろうか?その妻とになれば、年代的にも周囲の目を気にするかもしれない。「私と入るのは問題ないのですか?」「全くな。わしがお前に手出しをしないことぐらい妻はよく知っている。それよりはお前のツレにも言っておけ。あっちの方が納得しないだろう」富山は、そう言いながら、昨日、瞳が女装夫であることを見破った依頼人のところに連絡をしている。「車のトランクに女性物がある。それを詳細に調べ
last updateLast Updated : 2026-10-23
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