All Chapters of 触れたものの過去がわかる彼女と触れられても全く困らない俺: Chapter 51 - Chapter 60

60 Chapters

51 スマホには過去が隠れている

「え……でも……奈央さんに知られるのは……」瞳は、気にしていたことを突然流星の口から伝えられて動揺していた。「ちがう。多分昔好きだった話をしたからだよね。そうじゃないんだ。もっと単純で、もっと困った事態なんだよ」話を聞けば、流星が実家の親に隠さなければいけない理由は、瞳にもよくわかった。結婚前に女性と暮らすのに、交際相手ですらない。更に、流星は、その女性を守るために怪我をしてしまった。そんな元凶がマンションに転がり込んでいるのだ。親と通じている奈央さんに、わざわざ同居の件を伝えるなんてとんでもないことだった。「流星さんにとって、自分は奈央さんに隠したい存在なのだと思いこんでいたので……でも、狭いコミュニティだとそんなに話が伝わってしまうんですね」良くも悪くも転居を繰り返していた母、愛は近所付き合いとは無縁の女性だった。親に伝えたら、その親が周辺の住民みんなに噂を振りまくなんて恐ろしすぎる。でも……瞳は少しだけ違和感があった。そんな田舎で、結婚すぐに夫が不倫しているかもしれない状況を流星に相談できるのは、奈央さんがそれだけ流星さんを信頼しているからじゃないのかしら?流星さんはそのことに気づいているのだろうか――◇数日後――富山もぎっくり腰のため、瞳も抜糸のため、二人仲良く今日は通院休暇と休みになった。そんな休暇が富山探偵事務所にはあるのか?何はともあれ、無事、瞳の額は絆創膏だけになる。それだけではない。なんと地図アプリをみながら、病院に一人で通院できたのだ。「流星さんに、報告しなくちゃ!」【額の抜糸が済みました。家にも無事に帰れました】送信ボタンをえいっと押す。その送信ボタンを押す最中も自然と口元が綻ぶ。自分はこんなに笑える日々をかつて過ごした
last updateLast Updated : 2026-10-24
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52 今の俺たちは家族

「瞳さんから連絡があったよ。元気そうな声で安心した……ただね……」久保田は声を潜め、瞳から15歳の時に依頼を受けた事件のことや母親とのトラブルの事を聞かれたという。「母親とのトラブルは事件とは関係のない話なんだ。彼女に気にしないように伝えてくれ。過去の事件のことは、隠してもどこかで耳にするかもしれないから、事件の概要だけ伝えたんだ」「彼女は何と?」流星は思わず身を乗り出した。瞳の繊細な性格からして、自分がテレビで発言したことがきっかけで、依頼者が自殺したと知ればひどくショックを受けるに違いないと焦る。「事件のことは覚えていた。能力で見たものは、川村の事といい記憶に残るようだね。ただ、事件や依頼者のその後のことなどは聞かれなかったから何も伝えていない。昔の事件だし、それを吹き込む人もいないだろう」そう久保田が話すのを聞いて、ホッとしたものの不安は拭えなかった。少しづつ、硬い氷が溶けていくような柔らかくなっていく瞳の表情を再び凍らせたくはなかったのだ。あ……迂闊に今の話を久保田から聞いてしまった。今日も瞳の手を握りしめた。それなのに、帰ってから突然触れるのを避けたらおかしい。瞳が能力で今の会話を見たら、何か疑問に思うだろうか?「依頼者に何かあったのですか?」そう聞かれるかも知れない。依頼者の個人情報を気にしただけだと伝えて誤魔化そうかな……流星は頭の中で思いつく限りの言い訳を考えながら、瞳の待つ家にバイクを走らせる。だが――玄関を開けた瞬間、その心配は別のものに変わった。これは、聞くまでもなく知ってしまったな……瞳は、完全に目を真っ赤に腫らし、スマホを痛いほど握りしめて声を殺して泣き続けていた。「流星……さん……お帰りなさい」「ただいま。
last updateLast Updated : 2026-10-25
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53 ここが私の戻る地点

予想通り、素麺を泣きながら食べた瞳の目はぱんぱんに腫れ上がっていた。「少し冷やすしかないね。もうこれ以上泣くのは禁止だよ」流星が小さな保冷剤を持ってきて、瞳の目に当て始めた。 そんな瞼を冷やす指と心配そうに見つめる流星と視線が交差して、瞼は更に熱をもつ。こんなに流星に心配をさせてしまった。 そう思うと、本当に自分がお荷物に思えてじわっと涙が再び滲んでくる。明日は奈央と顔を合わせるのだ。 一人不細工な顔で情けない。 きっと美しく整った奈央と不細工な自分との差を見て、流星に更に呆れられてしまう。瞳は少しでも流星の好きな人に近づきたかったのに、その対比にしかならない明日を想像して、肩を落とした。 その落ち込みを流星は違うように捉えたようだ。「これ以上自分を責めないで。俺だって、警察なんてしてたら自分の関わりで、いつ人の人生変えてしまうかわからない。そんな時に、お前のせいでと言われたら傷つくのは当然だけどね」流星は瞳の頭を撫でながら、「それでも、これ以上は考えることを手放せ」と告げた。「そうですね……気分を入れ替えてお風呂入ってきます」違うことを考えよう。 責めたからといって結果は変わらないのだから……瞳は、自分にとって一番空想して楽しい流星のことを考えることにした。そういえば、今着ている服は先ほど流星から抱きしめられた服だ。 これに身を包むたびに、先ほど抱きしめられた感覚を体験できるということ……ボッと一気に、頭から湯気が出そうになる程熱くなる。耳まで一気に赤くなるのに……抱きしめられた感覚を追体験することは恥ずかしいことなのに……その気持ちを打ち消すことができない。恋は、人を破廉恥にするものなんだわ。 現に今、すぐにでもそれを再現したがっている。 服に手を当てたら、先ほどの流星の体温の温かみと体を抱きしめてくれる感触が再現……できる。どうしよう……新しい服を買いたくなった。 この服は永久保存版にして
last updateLast Updated : 2026-10-26
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54 彼女が自分で選ぶ道

寝たか……一人で病院まで行くだけでも緊張したのだろうに、その後スマホで知った過去の仕事のその後を受け止めるだけでもう精神的にも限界だったのだろう。流星が抱きしめて5分もしないうちに瞳は寝息を立て始めた。 暗闇の中で顔が見えないのが悔しい。 きっと可愛い寝顔に違いない。流星は、さりげなく抱きしめる腕に力を入れる。 だが、同時に瞳を言いくるめるようにして、こんな関係になっていることに後悔もしていた。どう考えても友人の域を超えた。 どさくさに紛れて一緒に寝る提案をしてしまったが、やっぱりこの距離感は恋人から夫婦の距離だ。理由をつけて好きな子を抱きしめたいという自分の欲に負けたのもあるし、本当に誰かが瞳を抱きしめてやらないと、壊れる気がしたし……ここまで許してくれたなら告白しては? いや、告白しない方が不誠実なんじゃないか? もっと、いやらしい考え方をして仕舞えば、ここまでの関係になれば、瞳は告白されたら断られない気がしていた。だが……瞳さんの性格を考えると……流星の不安な部分は、瞳は、信じると決めた人への心のハードルが低すぎるのが問題だった点だ。 自己肯定感の低さから、どんどん悪化している。普通の女性なら、こんなふうに誘導されたら拒否するか、私のことをどう思っているの?と聞くだろう。 ところが、ここまでされても断らず、身を委ねる瞳の性格を考えると、告白はやはりないと思いとどまった。どんなに断ってもいいと伝えても、言われたから付き合わなければならないと思いかねない。 信じた人から嫌われるのが怖いのか、信じている人に言われたら仕方ないと考えてしまうのか。ああ……流星は、これから瞳が自立して家を出るようになる頃まで告白ができないことを考えて、自分が保てるのか不安になってくる。 今だって、どさくさに紛れてキスしたい衝動に駆られているのに。厄介なのは、多分、自分も瞳以上の女性ともう出会えない気がしていて、片想いなのに誰かと両思いになるより上の存在になっていることだ。
last updateLast Updated : 2026-10-27
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55 私はあなたが好きだった

奈央は、瞳が手袋の過去からみた姿とは少し違っていた。今日は胸元まである髪を下ろしている。綺麗に化粧も施されていて、百貨店に勤めているだけありおしゃれな可愛らしい大人の女性だった。これで、私と同じ歳!初めて安い化粧品で化粧を始めたばかりの自分とは、全く違う。更に、瞳は衝撃を受けた。奈央が、自分と同じショコラブラウンの髪色で同じ髪型だったからだ。流星が美容師に指示したわけではなく、流行のカットにしただけだ。それでも動揺は隠せず、瞳は奈央を案内した後は、お茶を入れるふりをしてその場から離れた。深く息を整える。とにかく、動揺を気取られないようにしなければならない。ほぼ同じ時刻に、久保田と流星もやってきて、瞳は机に全員の茶を置き、気配を消すように応接セットから素早く離れた。瞼がパンパンに腫れている瞳を見て、久保田はハッとしたように息を呑んだが、奈央の手前他人のふりをするしかない。声をかけずに知らないふりをしながら、久保田は雑談を続けた。同様に、流星からも少し視線を感じたが、奈央が流星に声をかけたので、そのまま瞳から奈央に視線が移動していった。「夫と結婚したのは、この4月で……でも交際期間は高校からだから8年付き合いました……」奈央が、みんなに経過を説明している声が聞こえる。流星が、高校で告白しそびれた話をしていたし、長い付き合いだったのねと感じながら、瞳は離れた事務机で溜まった仕事をしようと手を伸ばした。だが、離れていても気になる。能力を使って、この溜まった依頼の証拠を探さないといけないのに集中できない。結局、一件も着手出来ないまま、聞き耳を立て続けた。「結婚式でも仲良かったし、誰が別の女性がいるようには感じなかったけどな……」流星の相手を気遣うような優しい声が聞こえてくる。それが自分にかけてくれる温かい声と重なり、瞳の胸をチクっと刺した。「それが&
last updateLast Updated : 2026-10-28
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56 駆け引きしなければ

川村……って言ったよね?久保田さんと流星さんが慌てて席を外さなければならないことが、起きたんだ瞳は、川村から襲われそうになった日のことや、その息子の浩介から石を投げられた憎悪の表情を思い出し、思わず目をつぶった。だが、室内にシクシク泣く声がする。奈央だ。「あ……あの……コーヒーにしましょうか」瞳は、こんな時にどう声をかけていいか迷って、知らんふりを決め込んでいる富山に視線を送った。じーーーっ!瞳のなんとかしてくださいという視線のおかげか?富山の困っている人は放っておけない性格がやっと発動したのか?富山は、渋々、奈央に声をかける。だが――「お前もあのヘタレが好きなのか?」やれやれという顔つきで、富山は渋い顔をして奈央に声をかけた。富山さんっ!「お前も」の「も」はおかしいでしょう!!瞳は思わず目に力を込めて富山に抗議するが、富山は素知らぬ顔だ。「へたれ……ホントそうですよね。あの頃、明らかな素振りで絶対私のこと好きだろうなって分かっていたのに……」奈央は呟くように笑いながら答えた。「も」についてはスルーされたようだ。瞳は、ぐったり脱力した。「好きなのかどうか……夫がいうように忘れてなかったのかもしれませんし、思い出が美化されているからかも……もしくは、夫に不倫相手がいるから対抗したいのかもしれません。オープンマリッジっていうのかな……」「オープンマリッジ?」瞳と富山は何それ?という顔で見合わせる。「結婚生活を続けながらそれぞれに相手がいる形です……別れずこのまま結婚生活を続けている、お互いそれで……私も相手がいるからって言いたいだけかも&h
last updateLast Updated : 2026-10-29
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57 初めての尾行は11000円

流星さん……すいません。接点を持たないように気をつけているのに、あんなに他人のふりをしたのに……どうやら私は、筋金入りの巻き込まれ体質のようです。瞳は奈央に腕を掴まれたまま、早足でバス停から離れ、奈央の夫を追っていた。「あっ!あいつ、車に乗ってどこかに行くわ。ちょっと私たちもタクシーに乗るわよ!」「へっ!」いや、きっと奈央だって怖くて不安なのだろう。瞳の腕を握るその手は、明らかに震えていた。だからこそ、ここで「さようなら」と瞳は言えなかった。(巻き込まれだけでも十分なのに、私は運が悪すぎるわ!)ただハンカチを届けるだけなら、事務所への帰りが遅ければ富山もおかしいと気づいてくれただろう。流星だって、こんな日に呼び出しがなければ、家に帰ってこない瞳を心配してくれたのかもしれない。つまり、誰からもこの状況に気づいてもらえない。どうすればいいの!瞳は、言われるがまま、奈央の夫をつけるためタクシーに乗っていた。「前の車をつけて!」「ええっ?」タクシーの運転手もあまりない指示に怪訝な顔つきになる。「夫と愛人が乗っているの。お願い……」「はあ、わかりました。やってみますけど……頭を引っ込めといてくださいね」タクシーの運転手も、動揺しつつ後ろを追いかける。奈央の夫は、よくある白のコンパクトカーに乗っていた。車のナンバーは「・410」だ。「4月10日は私たちの入籍日なの。その車を使って不倫なんてどんな神経してるんだろう」奈央の顔が般若の様につり上がり、車内の雰囲気がピリピリし始める。「……あの女の人は知り合いですか?」「直接の面識はないけど、私や夫のSNSにいいねをしてきてたの。今から思えばマウントを取りに来てたのね」「いいね…&he
last updateLast Updated : 2026-10-30
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58 初のラブホテルは修羅場です

どうしよう!奈央さんっ!待ってください!瞳は、タクシー代を立て替えたあと、ピンクのネオンが光るホテルの中に飛び込んだ奈央を必死に追った。当たり前だが、瞳の人生においてラブホテルに入るのは初めてだ。 こんなことなら、富山さんがラブホテルの潜入調査の話をした時に、早めに入っておけば良かった!一瞬、怖くなり足がすくみそうになるが、もう入るしかない。だが、ピラピラとカーテンがはためく中に入った後は、静かに並ぶ車が見え、人の影はない。更には、奈央の姿も夫の姿も、誰の姿も見えず不安になる。うそっ!もうホテルの中に入ってしまったの?瞳は、急いでホテルの入口と思われるところを探した。小さな自動扉が目立たない様に見える。「あれかしら?」瞳は、急いでその入り口の柱に触れようとした。そこを奈央とその夫たちが通ったかどうか確認するためにだ。だが、そんなことをする必要はなかった。何やら、自動扉の先で、すでに修羅場が始まったと思われる凄まじい怒鳴り声が聞こえていた。「奈央さん!待って!」証拠を取るんじゃなかったの?当初の予定と全く変わっている。瞳は、慌てて止めに入るために、声の方向に向かって走り出した。入ってすぐそこには、薄暗いホールに多くの部屋の一覧とそのボタンの明かりが光っている。そして奈央とその夫と愛人と思われる3人が揉めていた。「奈央さん!」瞳は、急いで側に駆けつけると、奈央が涙交じりに夫を罵っていた。「彼女が体調が悪いというから、とりあえずここに連れてきただけだよ」奈央の夫と思われる男が、ブスッと不貞腐れた顔で言い放つ。「よく言うわ。この人が元気よく歩いてる時から、私たちはつけていたわよ、しかも今まで手まで仲良くつないで!ねぇ!」そう同意を求められて「は、はい!」と瞳も思わず返事する。「お前は誰だ?」奈央に新たな加勢が加わったことで、殺してやると言わんばかりの勢
last updateLast Updated : 2026-10-31
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59 犯罪を重ねた男の顛末

その頃の流星は、まさか瞳がそんな修羅場の渦中に巻き込まれていることなど、想像もしていない。そして、自分自身の身にもとんでもないことが起きていた。「川村が……死んだ?」流星は、久保田を助手席に乗せて幕田警察署に急ぐ。本当は、奈央のことが終わったら、帰りに瞳を乗せて下心ありの夜のドライブデートに連れ出そうと思っていた。まさかこんな事になるとは……ハンドルを握る手に力が入る。久保田も、もう退職まであと2週間ほどだ。何も、こんな土壇場で川村が出てこなくても……という気持ちになる。「先ほど渋谷主任から連絡が入った。自殺だろうと……」「自殺……まあ、逃げ場がありませんよね」流星の脳裏に、最後に温泉で会話をした記憶や、見たこともない形相で自分に刃を向けてきた最後の姿が蘇り、ぞわっと震えた。逃亡すると言っても、職はない。持っている金を使い果たして終わりになる。日雇いやホームレスにも限界があるだろう。署に着くと、室内はすでに騒然としていた。川村が元係長というポストにいたこともあり、全員が彼を知る関係者だ。過去の事件も関係していることから、現場に向かう者と、情報整理や報道向けのプレス準備をする者に別れる。「現場に行って、川村の顔を見たらすぐ戻ってくるよ」久保田の言葉に、周りの人間もその複雑な心境を慮って頷く。「俺も……行かせてもらっていいですか。その……川村と最後に会ったのは俺だから……」流星も、先輩刑事たちに頼み込む。「まあ……お前も複雑だよな。だけど、マスコミが来るからここで情報の整理をしてもらえないか」「いや……でもさ、署内で息子から事情を聞いてるんですよ。流星は被
last updateLast Updated : 2026-11-01
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60 夫婦のことは分からない

悠介の逆上した怒りの拳は瞳の顔を捉えた。(ああ……やっと額の傷が治ったばかりだったのに……)そんなことを思うより、激しい衝撃と共に痛みと熱さが襲ってきて、視界がブラックアウトした。ただ、意識を失った時間はさほど長くなかったようだ。「瞳さん!起きて!しっかりして」必死に自分の名前を呼ぶ奈央の声と涙でぐじゃぐじゃになった顔、そして瞳は煌々と光るラブホテルの客室パネルの前で横たわっていた。せっかくの伊達メガネは歪んで壊れ、帽子も吹っ飛んでいる。ホテルの従業員も出てきて、大騒ぎになっていた。「あ、あれ……私……」「瞳さん!ああ、よかった……気分は大丈夫?ごめんね……こんなクズな男のせいで……本当にごめん」奈央が瞳の手をぎゅっと握って、涙ぐんでいる。その手から流れる過去に、瞳が倒れた姿を見て動揺する悠介の姿、騒いでいる愛人の女、ホテルのスタッフが「警察を呼んだから」と叫ぶ姿が見える。そして、自分に寄り添って必死に声をかける奈央と、赤黒く額が腫れている自分の姿も見えた。だが――ん?今、警察を呼んだって言わなかった?警察!!ダメだ。流星さんに迷惑をかけてしまう!瞳は慌てて、ジンジンする頭に耐えながら必死に起き上がった。警察沙汰になれば、事情聴取で全て、根掘り葉掘り聞かれてしまう。どこから、流星との同居がバレるかわからない。「お、お前がでたらめな嘘を並べ立てて、流星の名前まで出して、俺が悪いように抜かすからだ!浮気なんてしていないのに……」悠介は、自分の暴力を正当化するために、青ざめた顔をしながら喚き散らしていた。「なら、ここで浮気してないって!お前の言っていることは嘘だってスマートフォンを見せたらいいでしょう。殴る必要ある?」奈央が、悠介に怒りの抗
last updateLast Updated : 2026-11-02
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