時彦は全身から冷気を放ち、眉間に仄暗い陰りを宿していた。エレベーターに乗り込むと、その大きな手が沙綾の細い腰に回り、瞬時に沙綾の動きを封じた。沙綾は伏し目がちにその手を見つめた。冷ややかな視線を向けながら、彼が一体何の真似をしているのか理解できなかった。ロールスロイスの後部座席に乗り込んで、ようやく彼の手が離れた。車はそのまま相馬家へと向かった。和之は時彦を見ると、礼儀としてお茶を二杯淹れ、すぐに書斎へと戻っていった。佐有里はどこか嬉しそうに声をかけた。「ときくん、今夜は泊まっていって。和之が部屋を一つ片付けてくれたから、沙綾と一緒に休むといいわ」時彦が頷くのを見ても、沙綾は顔を上げることすらなく、黙ったままだった。ただ、不思議に思っていた。普段のこういう時なら、必ず朱里から電話がかかってきて、罠に嵌められただの何だのと騒ぎ立てるはずなのに、どうして今夜はこんなに静かなのだろうか。沙綾はしばらくの間、そのまま座っていた。佐有里がパジャマを持ってきてくれた。「崇史さんが数日後に帰ってくるわ。二人が仲直りしたと知ったら、きっと喜ぶはずよ。もし、あの方に嬉しいサプライズを報告できたら、もっと素晴らしいわね」その言葉が終わるや否や、背後から冷ややかな視線が突き刺さるのを感じた。沙綾は微かに口元を引きつらせ、手に持ったパジャマをきつく握りしめた。佐有里の言いたいことは明白だった。時彦との間に子供を作ってほしいのだ。残念ながら……沙綾は鼻の奥がツンとするのを感じ、胸の奥底から込み上げる痛みを堪えながら、低い声で言った。「母さん、早く休んで。明日は美しい花嫁さんにならなくちゃ。ベールも用意してあるからね」佐有里は珍しく、はにかんだ表情を見せた。「そんなもの、何に使うのよ。もう若い娘じゃないんだから」佐有里を部屋まで見送ろうとしたが、逆に「沙綾を部屋まで送らなきゃ」と言って譲らなかった。部屋の設えに不備がないか、時彦に失礼がないかを気にかけているのだ。佐有里が部屋を出ていくと、室内は針の落ちる音さえ聞こえそうなほどの静寂に包まれた。沙綾は服を着たまま、すぐにベッドに潜り込んだ。一方の時彦は、洋一が届けてくれた着替えを手に、バスルームへと入っていった。どれほどの時間が経っただろうか。突然部屋の明かりが消え、ベッド
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