煌々と明かりが灯る邸宅へ、沙綾は足を踏み入れた。時彦はソファに座っていた。背筋をピンと伸ばし、ただならぬ雰囲気を纏っている。だが、その端正な顔は氷のように冷たく、暗く沈んだ漆黒の瞳には怒りが満ちていた。その視線が真っ直ぐに胸の奥へと突き刺さり、沙綾の心臓はどうしようもなく震え上がった。「こっちへ来い」沙綾は息を呑んだ。その冷え切った態度を前にしても、大股で時彦のそばへと歩み寄った。「いつ出て行ったんだ」「一週間前よ」「たかがエメラルドのネックレスのことでか」よくもまあ、そんな言葉を口にできたものだ。最近あれほど多くのことがあり、あんなにも悔しく理不尽な思いをしてきたというのに、時彦の目には何でもないことのように映っているらしい。「そういうことにしておけばいいわ」「戻ってこい」男の声は氷のように冷たかった。数時間前、時彦から冷たくあしらわれたことを思い出し、沙綾は言い放つ。「あなたと結婚したのは、私が自分からすり寄って無理に求めたことよ。あなたはただ両家の婚約を果たしただけで、私のことなんて少しも愛していないし、好きでもないでしょう。戻ってきてどうしろっていうの」時彦は突然手を伸ばして沙綾を引き寄せると、その冷たい指先でカシミヤのコートに触れた。「俺が忙しすぎることに不満で、そばにいてくれる子供が欲しいとずっと言っていただろう」ここ数日、沙綾に距離を置かれ続けていたせいか、時彦の中で苛立ちと欲求不満が募っていたのだ。沙綾は時彦の目を見つめた。そこには微塵の温もりもない。ただ生理的な欲求を処理したいだけだと言わんばかりの目だった。時彦が触れてくるのは、まるで義務をこなしているかのようだった。崇史が約束した株式がなければ、とっくに離婚していただろう。沙綾はその手を押し除けた。「あなたの子供なんて産みたくないわ、時彦。お義父様には、私から説明する。用がないなら、これで失礼するわ」未練もなく去っていく沙綾の背中を見つめ、時彦の胸の奥に得体の知れない感情が湧き上がってきた。沙綾はこれまで、一度も家出したことなどなかった。その背中はひどく痩せ細っていたが、足取りは決然としていた。ただ意地を張っているのではなく、本当にこのまま消え去ろうとしているかのようだった。思考がまとまるよりも先に、時彦は沙
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