All Chapters of ラストフィナーレをあなたと: Chapter 31 - Chapter 40

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2章 14

 それから後は早かった。俺たち五人が力を合わせて墓川を押し倒し、猟銃を取り上げたのだ。   形としては現在俺が墓川にマウントポジションを取ったようになっている。また猟銃も現在は俺が手にしている。中には最初から弾丸が装填されていた。つまり墓川は――本気で俺を殺す気だったのである。   でも、それももう終わりだ。 「はぁ……はぁ……墓川、俺たちの、勝ちだ」 「ぐ……く、くそう!」   俺に馬乗りにされ、そして周りには面木が、由那が、いずみが、そして花香がいる。   墓川に、為す術はない。   俺はそんな彼に向け、優しく諭す。 「リーダーは信任が必要だ。みんなから信頼されるからリーダーをやれる。だから逆に、みんなからの信頼を失ったら、引き下がらないとダメだ」 「……僕を、どうするつもりだ?」 「一緒にこの世界を出よう」 「…………」 「この世界は、この地球はもう終わりだ。月を失った地球で人類は生きていけない。人類ってのは、実はとても微妙なラインで生きている」   冷静に考えれば当たり前の話だ。   地球はそれなりにデカイけれど、生物はその地球の表面に、まるで米粒のように張りついているだけなのだ。地球がちょっと揺れたらその米粒はどうなる?   取れはしないけれど、無事でも済まない。 「だから月のある地球に、彗星メギドがやってこなかった地球に、これから向かうんだ」   月という母がいる世界。そして俺の母さんが、父さんがいる世界。   帰りたい。帰りたい。帰りたい!   万感を込めて、墓川にトドメの一言を。 「墓川、君のお父さんが遺してくれた箱船。とっても大切なものなんだろう。それは謝る。でも考えてくれよ、君のお父さんは何で箱船を与えたんだ? 生きるためだろ? 生きる道を遺すためだろ? なら、許してくれるはずだよ、墓川」   俺は可能な限り言葉を選んだ。   墓川はジャーナリストの父をとても尊敬している。墓川も将来はジャーナリストになりたいらしい。その割にはリーダーシップを取りたがるが、それは置いといて。   そんな彼の父を否定するようなことを言
last updateLast Updated : 2026-09-16
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2章 15

その後俺たちは身支度をした。食料や医薬品、さらにはテントなども用意して。 登山家のようないでたちになる一同。少々オーバーな気もしたが、全員がそうするべきだと答えたので、素直に従った。 確かにこの世界は大荒れだ。用心に越したことはない。 箱船。一ヶ月くらいここで生活しただろうか。今思うとなんだかんだよかったのかもしれないな、あの生活も。 不思議なことに、懐かしささえこみ上げてくる。まるで中学の卒業式みたいだ。 いや、そんなことを考えても仕方ない。俺はゆっくりと首を振る。 さあ、出発だ―― ぐらり。 「ん、な、なんだ!?」面木が、 「天変地異!?」俺が、 「え? え?」いずみが、 「これは一体……」墓川が、 「きゃあ!」花香が、 「ん」由那が、 それぞれ声を漏らした。 それは、地震、だったと思う。 思うと答えたのは、揺れ方が普通の地震とは違ったからだ。縦揺れでも横揺れでもない。まるで真っ二つになるような、不思議な揺れ方をした。いや、揺れているというよりは、大地が切り裂かれた際に震えたというべきか。 その震度も常識外れであり、俺たちはとても立ってはいられない。 世界の終わりが近づいているということか。急がなければ。 揺れは意外なほどあっけなく収まった。 なら大丈夫だろう、俺たちは恐る恐る立ち上がる。うん、特に揺れてはいない。さっきの振動で建物がいくつか崩れたが、校庭にいたこともあって誰も怪我一つしていない。 なら大丈夫――と思った、その時! 「チイッ、ん、なんだありゃあっ!?」 真っ先に反応したのは面木だった。この男は本当に危機回避能力というか、反応が速い。 そして彼の視線の向こう側には――え、嘘? 「え? や、野生動物!? い、いたの!?」 いずみの驚愕。それもそのはず。そこにはなんと六匹もの野犬がいたのである。 グルルルと血に飢えた声を発し、血走った目で俺たちを射
last updateLast Updated : 2026-09-17
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幕間 半年前…… 墓川のケース1

 僕の父は、立派な人だった。世界の滅亡をいち早く察知し、大々的に世間に公表した。   勿論最初は妄想止まり。バカにされ、無視され、あるいは後ろ指を指されるくらいは父さんは勿論、僕だって想定していた。 「父さん……父さん……うう……」   だが、結果はまるで違うものだった。   父さんはネットで、リアルで、あるいはペンで、様々な媒体を通じて全世界に彗星衝突の危機を訴え続けてきた。   結局はフラットアースのようにバカにされ、陰謀論扱いされ、それを茶化す動画で溢れることになるが、それでも父さんは諦めなかった。   諦めなかった結果――父さんは死んだ。 「殺されたんだ。政府のやつらに……くそう……」   それは本当に突然だった。   川に腐乱死体。死因は溺死。警察の発表によると寄って川に転落して溺れ死んだと。   あり得ない。父さんは下戸で酒なんか飲める人ではなかった。   殺されたのだ。誰に? そんなの言うまでもない。   僕は唇を強く噛みしめながら父さんの遺品を整理する。主を失った書斎はがらんとして、どこか者悲しさを伝えていた。   と、机の奥に一枚のルーズリーフが隠されていることに気づく。それは本と本の隙間に挟まっていて、引き抜いてみた。単なる好奇心だ。   だが、これが僕の運命を変えることになる。 「これは……父さんの遺書……いや、こ、これは!」   そこには父さんの遺産が克明に記されていた。 「シェルターが! 父さん、いつの間にそんなものを!?」   そう、父さんは作っていた。シェルターを。人類を救うための箱船を。 「僕のために……僕のために、父さん! ありがとう!」   僕はルーズリーフを握りしめ、その場にくずおれる。   父さんの正しさを守るため、僕は嗚咽を鳴らす。 「これで来たるべき彗星衝突に備えろというわけだ。わかったよ父さん。僕は必ず生き残ってみせる!」   ルーズリーフにはシェルターの場所と構造が詳細に書かれている。    早速僕は赴くことにした。 「しかし場所がまさかの体育倉庫とは……父さん、僕の
last updateLast Updated : 2026-09-18
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幕間 墓川のケース 2

「なるほど、ここがシェルターか。これは確かにわかりにくい。というより言われないとわからないな。流石は父さんだ」   シェルターは僕の通っている宮一高校の体育倉庫に密かに作られていた。   いや、この体育倉庫自体異様に頑丈な作りになっていて、しかも補修までされている。まるでこの倉庫それ自体が巨大な要塞のよう。一見するとただの鉄骨剥き出しのプレハブにしか見えないが、さにあらず。   たかが倉庫にこれほどの鉄骨は張り巡らさない。   そして肝心のシェルターはなんと地面の下にあった。跳び箱と体育マットで巧妙にカモフラージュされていたが、マットの下には地下に続くはしごがあって、そこを降りると人間が五人くらいならギリギリ詰め込める小さな空洞が存在していた。   その頑丈なこと。壁が分厚すぎて音が一切反響しない。コンクリートじゃない。一体なんだろうかこの壁は。何層もの鉄で出来ている。 「よし、このシェルターは父さんの大切な遺品だ。これを公表すれば……」   そこまで考えて、僕は慌てて首を振る。 「ダメだ。公表したら消される。これは誰にも教えられない。母さんだけでいいか。父さんの残した大切なシェルターだ。秘密にしなければ」   父さんは世間に公表し、殺された。同じ轍は踏まない。 「それにこのシェルターは小さすぎる。大人数が押し寄せてきても入れられない」   普段あれだけ僕たちをないがしろにした連中も、いざという時は手のひらを返すだろう。わかっている。   だから、絶対に教えられない。 「ただ、数人は入れるな。母さんの他に数人……とはいえ、口の堅い者でないといかん。いや、ギリギリのタイミングで伝え……非現実的か。ダメだな」   人間が多いのは利点がある。   滅亡後の世界においては、おそらく様々な仕事が必要になるだろう。特に力仕事の類だ。そういう時、仲間がいれば便利なのだ。   何もかも一人でやるには限度があるから。 「取り敢えず、まだ日はある。このシェルターに入れてもいい人間を選別しよう」   僕はくすりと笑う。 「ふふ、まるでノアの箱舟だな。いっそ箱舟とでも名付けるか」   誰
last updateLast Updated : 2026-09-19
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幕間 墓川のケース 3

 箱船は本当に小さいシェルターで、すし詰めになっても五人が限度といったところだった。地中深くに埋められた鉄のカプセルは一体いつ、どうやって設置したのかわからない。   しかしこの中に隠れて来たるべき彗星衝突に備えなければならないのだ。   だが、衝突後は? 喫緊の課題である。 「そうだ。保存食の用意をしないと。確か中世の航海士たちは塩漬け肉を食べていたという。スーパーでありったけの塩と肉を買っておくか」   大学進学のために貯めて置いた金と、父さんの遺産。これらを全て食料に全振り――いや、衣食住の拡充も必要だろう。   とにかく、もう進学とかは気にする段階ではない。必要なのは命を繋ぎ止めるあらゆる設備。   それを彗星衝突前に仕上げないといけないのだ。 「他にも干し肉も作っておかなくては。気休めにしかなるまいが、数年単位で食料を保存しておき、その間に自給自足の体制を整えておく」   それにしても思うことは、この体育倉庫、よく見ると非常に頑丈に作られていた。   屋根には鉛板がぴっちりと張られ、鉄筋も見たことが亡いほど太く、分厚く、数が多い。   ジャーナリストだった父さんにこんなものを作る余裕があるとは思えないが。   いや、あるいはこれは、父さんの訴えに賛同した人たちが共同で作ってくれたのかもしれない。だとしたら他にもあちこちにシェルターがあるはず。   つまり、仮に彗星が衝突しようとも、そう悲観することもないのかもしれない。 「魚の干物も買い占める必要があるな。スルメイカや昆布、鰹節も年単位で持つ。貯金を下ろして買いあさろう」   僕はそうこぼすとスーパーへ向かう。取り敢えず財布に五万円、これ全部で保存食を購入しておく。   どうせ人類は滅亡するのに金を払うなんて、僕も律儀なものだな。   社会というのはどこまでも有機的に連結されていて、それは思想の奥にまで眠っているのだなと、納得せざるを得なかった。   ふと、僕の足が止まる。 「ただ……もしシェルターに数人が非難した場合、食料の取り合いになるのでは?」   あのシェルターは五人は入れた。だが、一度入って終わり、ではないのだ。
last updateLast Updated : 2026-09-20
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幕間 由那のケース

 愛する人がいなくなった時の心の痛みは、どう形容しようとも他者には理解されない。 「うう……どうして、どうして私より先に死んじゃったの」   私はがらんとした部屋の中で一人、うずくまって嗚咽を漏らすことしか出来ない。   かつては二人で過ごしていた部屋。今時和風で八畳で、何とも古臭くてカビの生えたようなわびしいところだったのに、二人で過ごしているだけで、毎日が楽しかった。   彼は体が弱かったけど、布団に篭もって咳をする姿に悲しさと同時に嬉しさもあった。一緒にいられるという嬉しさ。看病出来るという嬉しさ。側にいられるという嬉しさ。   勿論一度だってそんなことは口に出さなかった。   私は輝くようなトロフィーを掲げ、自分の活躍する姿を彼に見せ、勇気を与えることしか出来なかった。   でも、そんなのは気休めにもならない。 「私、何か悪いこと、した?」   私がどれだけ活躍しようが、どれだけ勝ち進もうが、そんなのは彼には何の関係もなかった。   無限に蝕む病魔が着実に、ゆっくりと、その体を汚染していき、最後に命の灯火を消し去って締まった。   この古ぼけた和室に残るのは、彼の遺影と遺品のみ。   まるでこれから学校にでも通うような、あるいは一緒に遊ぶような、そんな時の止まった空間の中で、私は一人泣きじゃくる。 「ああ、もう生きていてもしょうがないよ……。もう、頑張れないよ」   涙は涸れ果てているだろうに、喉も枯れているだろうに、それでも泣かずにはいられなかった。   心にぽっかりと穴が空く。そしてその中に入ってくるのは、容赦の無い北風なのだ。 「いや、でも……」   諦められない。認められない。   自分の愛する人が、孤独が、空虚な未来が、何もかもが納得出来ない。 「どこかに、どこなにいないのかな……どこかに」   私は顔を上げる。壁しかない。クリーム色に変色した、ざらついた壁。   掃除はきちんとしていた。衛生的だった。だから汚くはない。シミもない。   でも――古臭い。   この古臭さが、時代から取り残されているかのようで、なんだか
last updateLast Updated : 2026-09-21
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幕間 面木のケース 1

俺はジムをほっぽり出してメシを食うことにした。 今日はやる気が湧かない。トレーニングする気が起きない。 そんなわけで周囲の反対を押し切って出かけたところ、高校での気の合う仲間たちとばったり遭遇した。そのまま一緒にファミレスに行き、ゲラゲラと下品な笑い話に花を咲かせる。 「面木ぃ、お前またジムサボったのかよ」 「あ? あんなとこ行ってられっかよ。どうせ俺が一方的にボコって終わりだ。あそこはカスしかいねえ」 俺は呵々と笑うと、意気揚々とステーキを切る。 何の遠慮もなく、肉を貪るのだ。 俺は食うのが好きだ。どうしようもなく。酒や女よりも食う方が好きだ。 ダサいから誰にも言わないことだけど。 「あのジムで唯一のヘビー級だもんな、お前」 「おう、まあプロになってもいいけどよ、面倒臭えんだよな」 「日本だとヘビー級は少ないんだったか?」 「ああ、だから始めたんだけどよ。層が薄いから簡単に勝てると思ってな。実際プロになろうと思えばなれるしな」 俺は乞う見えて結構打算的だ。 重量級がひしめいているスポーツや格闘技は割と多い。そういう中で切磋琢磨し、勝つために努力するのは俺の性に合わない。 弱いやつを一方的に蹂躙して勝って栄光を獲得するのが一番合理的だ。タイパがいい。 そんな理由で俺はキックボクシングを始めた。 「うわ、雑魚の理論」 ただ、それを他人に指摘されるのはムカつく。 「あ? てめやんのか?」 俺は脇に座るダチの胸倉を掴むと、フォークを目玉直前まで突きつける。無論本気じゃない。本気なら問答無用で刺している。ダチにそこまではしない。 ただ、舐められるのは嫌いだ。上下関係はしっかりさせる。 「冗談だよ。やめろよ。A1上がってから負けたことねえんだろ?」 「ふん」 俺は友人を解放した。まあ今日はこれくらいで許してやろう。 そんなやりとりをしていると、向かいに座るダチがスマホをいじりなながら不満そうに眉をひそめていた。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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幕間 面木のケース 2

食事を終え、俺はダチと別れると、早々に家に戻ってパソコンを引っ張り出した。 普段はスマホしか使っていない、親父がかつて使っていたものが、普段部屋の奥でホコリを被っている。 親父は五年も前に離婚した。顔も思い出せない。どんな男だったか。 ただ、親父が残したこのパソコン、Torブラウザが入っていて、ダークウェブへの情報が色々とあって、ガキの頃オモチャ代わりにネットの深淵を覗いて得意気になっていたものだ。 もっともそんなのは数日遊べば飽きるもので、それ以来ずっと放置してしまっていたが、今はこのブラウザが役に立つ。 「てことは、だ。俺のカンが正しければ……どこかにあるはずだ」 俺はSecureDropを使って政府や天文台の内部告発を探す。ここならあると踏んだからだ。 とはいえ、流石に素人の俺にも入れるような浅瀬の情報は当然削除され尽くしているようで、めぼしい情報はなんら入手出来なかった。 「ちっ、わっかんねえな。間違いなく彗星が来る。あの目、何かを隠してやがった」 俺は椅子の背もたれに身を預け、机に足を乗せながら唾棄するようにモニターを見る。 「ちっ、ねえなあ。スマホの方には情報なんかねえし」 そうは言いつつスマホをじりじりと親指でスクロールしていく。 無駄骨だったろうか。嫌な予感はしたのだが。 そう思った――その時。 「ん? この記事……ほう? 多分消されたな、こりゃ」 地元のジャーナリストが不審死したという記事だった。 だがこの墓川友和という男、さっきダークウェブを探索した際にもちらほら名前が出ていた。彗星関連の情報を探っていたはず。 「てことは、案外その関係者が……ん? ほうほう」 気になり、墓川友和のプロフィールを調べていると、ごく近所に住んでいることが判明する。 もし、この墓川友和が家族に重要な情報を残していたとしたら? 「おし、ちっと探してみっか」 俺は光明を見出し、椅子から跳ね起きると早速とばかりに家を飛び出すのだった。
last updateLast Updated : 2026-09-23
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幕間 面木のケース 3

「あれか。やっぱな。俺のカンは生まれてこの方外したことがねえ」   墓川友和には息子がいて、案の定息子には重篤な情報を伝授していたようだ。   場所は彼が通っている高校の体育倉庫。自宅でない理由はわかる。自分を殺した政府の筋の者たちによって発見されるのを防ぐためだ。   ただ、それにしても体育倉庫とは意外である。 「あいつの親父が不審死したのが陰謀論で動画上がってたからな。敢えて削除されてねえのが怪しいと踏んだが、マジだったようだな」   墓川友和の陰謀論は全て残っていた。考察系の動画も全てだ。   おそらく、カモフラージュのため。   だが、それは陰謀論などではなかった。彗星は必ず衝突するだろう。   だが、そうなるとこんな体育倉庫で身を守れるはずがない。   そう――思っていたら。 「地下シェルターか。体育倉庫の下に、ほうほう」   マットの下に巧妙に核シェルターが搭載されていた。あんなものを装備していたのか。   それによく見るとこの体育倉庫、天井に鉛板がびっしりと張られていた。柱もただの鉄筋じゃない。   ――改造されている。密かに。鉛は放射性降下物対策だろうか。実に周到だ。   ただ、見たところあの核シェルター、ほんの数人しか入れそうにない。   墓川の息子を殺して仲間を入れる手もないわけではないが、墓川は他に重要な情報を持っているかもしれないし、案外墓川の家に防空壕みたいな簡易シェルターがある可能性もある。   それに仲間なんて正直どうでもいい。あんなやつら死のうが生きようが知ったことではない。   決まりだ。墓川は生かす。 「よし、いざって時はあそこだな」   とはいえ、いくらなんでもあのシェルターは狭すぎる。それに墓川友和のお手製というもの不安があるところだ。 「ただその前に正規のシェルターも見つけとくか。政府と金持ちがどっかに隠してあるはずだ。まだ日にちはある。どこかにあるはずだ」   東京周辺は当然だろうが、愛知県にもあるはずだ。流石に東京者以外皆殺しにするほど政府も鬼ではあるまい。   ほんの数人生かすエリアがあるはず。
last updateLast Updated : 2026-09-24
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幕間 いずみのケース 1

 ぱこん。コルク玉が消しゴムを落とした時の、どこか間抜けで優しい音がプレイルームに響き渡る。 「おねーちゃんすごーい」   ここは児童養護施設。私の家だ。私には身寄りがなく、小さい頃からここで過ごしてきた。とは言っても高校卒業したら出て行かないといけないので、あと二年くらいの家なのだけど。   ただ、居心地はいい。私よりずっと下の、小学校低学年の子供たちが私を慕ってくれていて、寂しさとか、辛さとか、悲しさとか、そういうネガティブな感情は抱いたことが亡い。   今日もコルクを飛ばすおもちゃの銃で射的遊びをしては、みんなで笑い合っていた。 「へへへー。私はこういうの得意なんだよねー。射的大好き」   これに関して私はかなりの才能があると思っている。オリンピックに出たら金メダル取れるんじゃないかなと思うほど。   身寄りの無い孤児の私に、そんなお金のかかるスポーツが出来るわけがないけれど。 「すごーい」「おねーちゃんにかんどう」   でもいいんだ。子供たちが私の才能を認めてくれて、こうして懐いてくれるのだから。   それだけで十分だ。贅沢は臨まない。 「へっへっへー。どんな小さな的でも当てられるよー。さ、次の的は……」   私が消しゴムを拾っていると、付けっぱなしのテレビから昼のニュースが流れ出した。   そう言えば正午はニュースをやっていたっけ。普段全然見ないけれど。 「ニュース? へえ……」   そこには今日彗星が大接近するというものだった。世界中で天体観測をするための人々が押し寄せていたりとか、人々が激しく移動しているとか――移動? 「……違和感、あるな」   そう言えば数年前は彗星が衝突すると大騒ぎしていたように思う。   それから陰謀論が巻き起こり、動画でもその手の噂的なものが沢山アップロードされた。でも消されていない。   ――消されていない? 「おねーちゃん?」 「あ、ごめんね。……おかしいな」   あまりにも、日常的すぎやしないだろうか?   私はその場にしゃがみ込み、腕を組んでうーんと考える。 「あれだ
last updateLast Updated : 2026-09-25
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