All Chapters of ラストフィナーレをあなたと: Chapter 41 - Chapter 50

55 Chapters

幕間 いずみのケース 2

 場所は地下鉄に向かう途中の階段――の、踊り場にある関係者以外立ち入り禁止の立て札があるドア。 「こ、これは……っ!」   ドアの向こうに広がっている世界を見て、私は言葉を失った。   普通こういうのは細長い通路が連なって、中の事務室へと繋がっているものだ。面白くもなんともない。   しかし眼前に広がるのは、まるで銀行の金庫のように巨大で、重厚で、それでいて何者をも通さないという悪意に満ちた、壁。 「これは……鉄道会社のものじゃない。これは……この作りは……」   私は震える声で、ぼそりと。 「これは、シェルターだ」   凄まじい悪意を感じる。人を殺すという殺意すら伝わる。   選ばれた者だけを助け、他は誰一人許さないという尋常あらざる敵愾心。   そんなオーラが扉から胸焼けするほどに漂っているのだ。 「じゃあ、あのニュースは……ニュースは……っ!」   彗星は、衝突する。   そして目の前にあるのは――選ばれし者だけが助かるための、秘密の部屋。   どくんどくんと心臓が怪しく高鳴る。私は何度も深呼吸をして、心を落ち着かせた。   そして子供たちに向かい、しゃがみ込んで、 「ねえ、みんな。よく聞いて」   優しい笑顔を振りまいた。 「うん」「なあに?」「なんでもいってよー」「はーい」「え?」「どしたの?」 「ここでかくれんぼしよう。それでこの扉が開いたら、中に入っちゃって」 「え?」「いいの?」「わーい」「うん!」「たのしみー」「えへへ」 「よし、決まりだね」   私はそう言うと立ち上がり、そっと非常階段のドアを閉めた。   子供たちが、もう二度と外に出ることのないように。
last updateLast Updated : 2026-09-26
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幕間 いずみのケース 3

駅から出ると、私はキョロキョロと周囲を見回す。 そこにはいつもの日常風景が広がっていて、危機感などは微塵もない。世界の終わりを、これほどまでに徹底して隠蔽するなんてことが、政府に出来たことに驚く。 だが、それでも漏れたのだ。私はこのたった一度の、千載一遇のチャンスを逃さない。決して。 「よし、子供たちをここに隠す。ドアは多分施錠されるから……」 非常階段から絶対に出さないようにドアは閉めて置いた。彼らは賢いからこれだけで理解してくれるはずだ。 いや、理解されなくてもいい。恨まれても、嫌われてもいい。彼らが生きてさえいてくれるのなら、私なんかどうなってもいい。 それに、あの非常階段のドアが開けられていた、この事実を私は何よりも重視する。 「多分これが空いているのは、非難が始まってるんだ……。あの分厚さ。一人ずつ入れたり閉めたりする時間はないってことか」 いや、あの金庫みたいな扉は閉まっていた。でも、多分あれ、開く。根拠はないが、そんな気がした。 「ということは、Xデーは近い……」 私は深呼吸を一つすると、施設に駆け出す。園長先生に説明している時間はないかもしれない。勿論余裕があれば言うけれど、多分無理。 それどころか、私の非難さえも間に合うかわからない。 理屈じゃない。いつ彗星が来るかなんてわかりようもないからだ。 ただ、第六感が。私の中にある生物の本能みたいなものが、凄まじい警鐘を鳴らしているのだ。 時間がないと。死んでしまうと。とにかく急げと。 でも――でも。 「急いで荷物を……あ、あれは……」 天を仰ぐと、そこには青々とした尾を引く巨大な彗星が、昼を切り裂かんばかりに空を駆けていた。 私は足を止め、ひくひくと頬をひくつかせる。 「……ダメ、間に合わないかも」 荷造りする暇はない。いっそ私もシェルターに戻ろうか。そう思った、その時。 「なら、私は……あれ? あれは墓川……。何あの大荷物。確か墓川のお父さんは……」 クラスメイトの墓川が、
last updateLast Updated : 2026-09-27
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幕間 花香のケース 1

 私に得意なことがあるとすれば、流れに身を任せることだろう。 「ねえ今日さ、放課後いつものとこ寄らない? 新しい限定パフェがあるらしいんだけど」 「え、行く行く。てかその前にヘア直したいんだけど、今日ちょっと写真盛れない気がする」 「わかる。今日の前髪、なんか微妙じゃない? でも体育の後だからもう無理かも」 「それな。あとさ、来週の文化祭のメンバーどうする? うちらが動かないと絶対まとまらなくない?」 「担任に任せるとセンスないから嫌なんだよね。あたしたちで決めた方が早いし」 「え、でも城島くんのクラスと合同で何かやるならちょっと気になるんだけど」 「またそれ? ほんと好きだね。まぁでも、城島なら普通にアリかも」   これらの会話。私が言ったのは「わかる」の部分だけだ。場所は学校。昼休みで友達と一緒にランチしながらのもの。   いつもの会話であり、いつもの日常である。   私は強い者の流れに身を任せて生きている。小さい頃からずっとそう。   その場でもっとも生き残る可能性が高いところに逃げ込むことで、私は幸せな人生を維持し続けてきた。   プライドとか、自分の意見とか、そんなものはないし、いらない。   生きている。これからも生きていく。それよりも価値のあるものなど、私にはないからだ。 「てか昨日のインスタ見た? なんかあの子、急にストーリー多くない?」 「見た。ちょっと必死感あったよね。まあ本人は気づいてないんじゃない?」 「やば。そろそろ移動しよ。送れると席なくなるし」 「了解。じゃ、いつものとこね」   話は終わった。いつもの会話。何のとりとめもない日常の風景。   それを切り裂くように、窓から見える巨大な光の塊が、酷く不気味に自己主張していた。 「あれ? あの空……え、彗星? あー、ニュースでやってたね」   友達の一人がそうこぼす。   それに私たちはケラケラと笑う。 「ニュースなんか見るの?」 「いや、だってどこでも話題になってるじゃん。急接近するって」 「そうだっけ? 知らね」   だが、
last updateLast Updated : 2026-09-28
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幕間 花香のケース 2

 最初に抱いた感想は、痛い、だった。   全身が痛い。骨が軋みそう。肉がねじれたのか、筋肉がズキズキする。   眼圧も酷い。体が熱い。熱が出たのだろうか。ふらつく、どこか切れたのかもしれない。貧血の時と同じ感覚だ。   あと――重い。   どうしたんだ?  私に何が起こった? 「…………」   臭い。煙い。どこからか悲鳴も聞こえる。本当に何が起こったのかわからない。   ただ、隙間から流れる光が、私が生きていることを示してくれた。   重い。それにしても重い。のしかかってる。うめき声すらしない。肌のぬくもりもよくわからない。冷たい。   どうやら大分寝ていたらしい。   私は体をもぞもぞさせ、何とか体を動かすことに成功する。体操部に所属してよかった。体が柔らかいのが私の取り柄だ。   だけど、かろうじて隙間から出てきた私の目に飛び込んできたものは、想像を絶する世界だった。 「……はっ! こ、これは……え? な、なに、これ? え?」   学校が瓦礫になっていた。こんな堅いコンクリートの塊がどうして?  私の上に埋もれていたのは死体だった。さっきまで会話していた仲間たち。   空を見る。朝日だろうかあれは。太陽の位置が大分低い。どうやら相当長いこと眠っていたらしい。よく見ると傷口も塞がっている。一日二日ではない? そう言えばお腹空いた。 「は? え? は? おいちょっと待てよ。なんだよこれ」   ただ、何が起こったかはわかる。   ああ、彗星が衝突したんだと。いや、衝突してたら私が生きているわけないから、多分かすったか――いや、違う。   月が、ない。   そうか、月に激突したのか。その衝撃波だけでこんな惨劇になるものなのか。   でも――でも。 「私は……そうか、みんなの下敷きになったから、あは、あははは」   私は、生き残った。   多分それは、私がチビだったから。 「そうか、私は、助かったんだ。あは、あははは!」   どうしてだろうか、体が震える。喜びが込み上げてくる。痺れが全身を貫く。   
last updateLast Updated : 2026-09-29
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3章 破局 〜箱船の外へ〜 1

犬が猛烈な勢いで襲いかかってくる。まるで砲弾のように目にも留まらぬスピードで俺たちのもとへ疾駆してくる。 「ふざけんな……こんなのどうしろと……」 俺は親指の爪を噛みながら、そんな言葉を漏らしてしまった。一種の現実逃避だ。 何をどうすることも出来ない。ただただ自分がどうしていいかわからなくて、でも硬直はしたくなくて。そんな複雑な感情が、爪を噛むという逃避へと導いたのだ。 無論それに意味などなく、犬はどんどん迫って来ていて、そしてやつらの血に飢えた牙が俺の首筋に―― 「むう!」 到達する前に、墓川が鍬で犬を叩きつけた。峰打ちじゃない。刃の部分でだ。 犬は「ギャン!」と声を上げて吹っ飛ぶが、すぐさま立ち上がり、うなり声を上げて俺たちに不気味な睥睨を向けてくる。 墓川の意外な行動についてだが、それは訪ねる前に彼自身が先に答えた。 「僕はリーダーだ。少なくとも、さっきまでは。なら僕が前に出ないわけにはいかない」 「墓川……」 それはプライドだった。墓川は確かに壊れてしまっていたが、それでも彼は壊れたなりに自身に対して責任感を持ち続けていたのだ。 それは信任を失った後でも、いや、失ったからこそハッキリと自覚できたのかもしれない。 とはいえ、犬は六匹。墓川一人でどうにかなる相手ではない。理想と現実の違いが嫌らしいほどに吹き荒れている。 犬二匹が俺たちではなく面木の方へと繰り出していく。一匹は面木のローキックで吹き飛んだ。いともあっさり五メートル以上犬が飛んで行く。流石に面木は強い。 「ケッ、勝手に死んでろ……ちっ! 冗談じゃ……」 だが人間の速度と血に飢えた犬の速度ではどうしたって致命的な違いがあり、もう一匹の犬が面木の脇腹に噛みついて―― ぱあん! 銃声。間違いなく銃声。 俺ははっとなって後ろを見る。 「な、いずみ……」 いずみが、猟銃をぶっ放したのだ。弾丸は面木に噛みつこうとした犬の眉間を正確に貫き、ドス黒い血をまき散らしながら地面へとくずおれていく。
last updateLast Updated : 2026-10-01
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3章 2

 だいたい三十分くらいで六匹の犬は全て倒すことが出来た。   殺した犬は四匹。二匹は逃げていった。 「な、何とか……野犬を散らせられたな」   俺がぐいっと額に溜った汗をぬぐう。   面木は犬の死骸を蹴飛ばしながら、ぺっと唾棄。 「大分殺したな。しかし野犬なんて今の今までいなかったじゃねえか。なんだってそんなのがいやがるんだ。ア?」   それは俺も疑問だった。   この世界に来て一ヶ月。犬なんて初めて見たからだ。しかも六匹。一体どういうことだろうか。   と、今度は墓川が鍬を置き、俺を見つめながら、 「さっきの天変地異……それ自体は前にもあったが……田下」 「ん、なに?」 「本当に黒い渦はあるんだな?」   問うてきた。   俺は即座に首を縦に振る。 「ああ、そうだよね、いずみ」   俺に促され、いずみは背筋を伸ばし、ハッキリと答える。 「うん、間違いない。子供たちが見つけたって」 「わかった。ならそこに行こう、今すぐ」   もはや墓川時代は終わった。墓川に出来ることは自分の意見を表明することだけだ。   でも、それでいい。   ――俺はそこでハッとなり、いずみの手を握った。   いずみが今何をしようとしたか、わかったからだ。 「一応子供たちは置いていこう。絶対危ない」 「でも助けなきゃ」   ああ、やはり。子供たちも連れて行くつもりだったのか。   でもそれについては俺は首を振る。 「それは道を作ってからだ。それにシェルターの人も助けるためにも、一端黒い渦を見つけてから、それから彼らを助けよう」 「私は残るよ」   頑なないずみ。その意見を尊重しないわけにはいかない。 「……わかった。俺も残る」 「俺は知ったことじゃねえがな」   面木は呆れたようにため息をつき、そう言った。   彼の薄情さについて思うことがないでもないが、そこについての是非は問わない。 「……面木は行けばいい。残りたいやつだけ残ればいい。それに俺が歩いてこられた以上
last updateLast Updated : 2026-10-02
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3章 3

 ひとしきり荷物の整理を終えると、墓川が俺に問いかけてきた。 「黒い渦はどこにあるって?」   俺はいずみに視線を移す。彼女は頷くと一枚のルーズリーフを取り出し、 「子供たちが描いてくれた地図だと駅ビルの屋上みたい」   そう答えた。 「駅ビルの屋上? 駅ビル……」   シェルター方面か。なら途中までは子供たちは連れて行けるだろうか。   いや、さっきの天変地異で街がどうなったかわからないし、野犬の可能性を考えると危ない。連れて行くわけにはいかない。   それにシェルター『方面』とはいうが、シェルターはあくまで地下鉄の入口にある隠し通路に存在する。駅ビルはもっと先だ。 「まだ残ってるんだね」   いずみの言葉に、今、あれ? と思った。 「……俺、駅ビルなんかにいたっけ? 何かを眺めた記憶はないんだが……」   そう、俺はひたすら平坦な道を歩いてきた。ずっとずっと、ただ平坦な道を。瓦礫をかきわけながら。   駅ビルなんて、記憶にない。   困惑する俺に、いずみがぽんぽんと背中を叩いてくれる。 「記憶が混乱してたり、ショックで忘れたりしたんだよきっと。だってさ、春弥が来て最初に意識したのは?」 「寒さと、瓦礫」 「だから、脳が混乱したんだよ」 「そう、なのかな」   でも、そうとしか考えられない。   黒い渦を見つけたという、子供たちを信じるのならば。   でも、この違和感と不安はなんだろう。わからない。 「おい! いつまでくっちゃべってんだ! とっとと行くぞ! 殺すぞ!」   面木の声。見るとあいつはもう校門にいた。せっかちなやつとは言わない。 「あ、ああ、悪い……」   俺はそう言って荷物を背負い、学校を出るのだった。 「…………」   心に何かしこりのようなものを抱えながら。   でも、それは捨てる。   さらば、箱船。
last updateLast Updated : 2026-10-02
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3章 4

 今度こそ最後の旅が始まった。先程の天変地異で景色が微妙に変わってはいるが、駅ビルが目的地ならシェルター方面だから慣れたものである。   瓦礫がずれたり砕けたりしているが、それくらいだ。   問題は、そこではなかった。 「春弥くーん」 「…………」   花香が、俺の腕にずっとしがみついているのだ。   彼女は俺の耳元で甘い声を囁いてくる。 「うーん、春弥くんクール。あたし、そういうすました男、す、き」 「この子は……」   塔月花香。顔立ちはなるほどいずみや由那よりも上だし、いい香りもする。甘い声音はトロけてしまいそう。けれどこいつはコウモリの性質を持つ女。信用できない。   面木にしろ、墓川にしろ、一番力がある時こいつは取り入ってきた。ところが力を失った時、あっさりと二人を捨てた。   それはつまり、俺に対しても同じということで、俺が有用であるとこいつが判断している時しか仲間ではいてくれない。   正直そういう人間は嫌いだった。裏切りは女のアクセサリーみたいなものという言葉があるが、俺はそこまで懐が深くない。   と、花香は瓦礫につまづき、俺に体重を預けてくる。 「きゃっ、こわーい」 「…………」   正直、かなりイラッと来た。   荷物が重いのに、俺だって倒れないようにするので精一杯なのに。 「あん、野犬出るのかなー。春弥くん、あたしのこと、守ってね?」 「…………」   この空気の読め無さも気に食わない。甘えるにしてもTPOを考えろよ。 「瓦礫が危ないなあ、ねえ春弥くん、だっこして連れってよ」 「…………」 「春弥くーん、疲れちゃったよう。休もう。ね?」   ぷちん。俺の中にある何かが切れる音が、確かに聞こえた。   俺はもう我慢できず、花香を突き飛ばす。 「いい加減にしろ!」 「え……」   はあはあと肩で息する俺。怒りが体を振動させる。   一方で、そんな俺の反応を見て、箱船のメンバーの声はとても冷ややか。 「あー、やっと言ったんだ」「遅い」
last updateLast Updated : 2026-10-03
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3章 5

 さて、駅ビルへの道のりであるが、これが予想以上に険しいものであった。 「なんだこりゃ……ここ通るのかよ……」   面木が呆然としながら漏らした。   大地が引き裂かれ、崩れた瓦礫が壁のようにそびえていて、大通りはまるで山脈のようになっている。 「冗談でも色々用意して正解だったな。これは、一日じゃたどり着けない」   墓川がちっと舌打ちしながら言った。   俺は、素朴が疑問が浮かぶ。 「……ん? 由那、君は首相官邸に行ったって、ここ通ったの?」 「ここじゃないし、ここまで酷くなってない。さっきの天変地異で、瓦礫が崩れた」   なるほど、さっきの影響か。それにしてもこれは進みにくい。   ビルというビルがコナゴナに崩れ、大通りを占拠。さらには大地には無数の亀裂が走っている。   それに加えてこの寒さである。手がかじかむ。吐く息が白いもやをつくる。   これで雪が降ったら地獄だぞ……。 「おい!」   面木の激昂。彼はもう先に進んでいた。 「あ、悪い。しかし、俺……こんな瓦礫の山脈通ったっけ?」   いや、天変地異のせいだろう。ここに来て一ヶ月。地震や嵐がなかったわけじゃない。その都度に瓦礫は形を変え、地形を変え、景色を変えていったのだろう。   これは一筋縄ではいかない。俺はごくりと唾を飲み込んだ。 「犬はいるか……?」   俺が瓦礫の山を登りながらそうこぼし、きょろきょろと周囲を見回す。   それにはいずみが答えた。 「いや、いないね。見当たらない」 「じゃ、さっきの犬は一体……」   謎は尽きない。   だが今はそんなことはどうでもいい。俺たちに出来ることはこの崩壊した世界を進み、黒い渦をくぐることだけだ。   覚悟を決め、俺は瓦礫に手をかけ、上へ上へと進んでいくのだった。 だが、瓦礫の山を越えた先に待っていたのは想像を超える地獄。 「クレバスだ!」   大通りには今まで見たこともないような一際巨大な裂け目があり、それは奈落の底まで繋がっているように真っ黒だった。  
last updateLast Updated : 2026-10-04
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3章 6

 次に渡ったのはいずみだった。 「じゃ、私も……う、こ、これは……ねえ、子供たち、どうやって渡らせる?」 「……後で考えよう。今はとにかく渡ることを考えて」 「う、うん……ひい」   ぐらっと揺れるはしご。死ぬ気で押さえる。墓川と俺が全身全霊の力を込める。それでもはしごは揺れる。風がちょっと吹いただけで恐怖で身が竦みそうになる。   まさに地獄の旅路であった。   なんとかいずみも渡り終えると、次は面木だ。 「ケッ、ざけんじゃねえよ」   面木もはいはい歩きだ。かっこ悪いと思ったのか少しだけ上半身が浮いている。こんな所で見栄を張らなくてもよかろうに。   突っ込みたかったが集中力を削がすにはいかないので黙っていると、面木は割かしあっさり通過した。   ……やっぱり俺がチキンなだけか?   次に渡ったのは花香。   だが、ここで問題が生じた。 「あたしにここ通らせるのかよ……ひっ! あ、ああ……」   花香は俺以上に怯えていた。涙をこぼしながら一歩も進むことができず、一メートル進んだだけで止まってしまった! 「花香!」   俺が叫ぶが、花香の耳には届いておらず、「あ、ひ、ひぃ……」 と蚊の鳴くような鳴を上げるので精一杯のようだった。   仮説。 「もしかして、花香って……高所恐怖症なのか?」 「え……それって……」   いずみの顔が青ざめる。     その直後だった。 「ひ、ひい! きゃああああ!」   バランスを崩し、花香がはしごから転落してしまう。 「花香!」   俺が叫び手を伸ばす。だが、それがまずかった。地球の引力に導かれ、花香もろともそのままはそのまま奈落の底へと墜ちていくのだった。
last updateLast Updated : 2026-10-04
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