جميع فصول : الفصل -الفصل 20

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1章 9

 そんな生活を続け、早一週間。俺も少しずつだが慣れてきた。   粗末な食べ物も、娯楽のなさも、寒さも、畳の上で雑魚寝する苦しさも、全部慣れてしまった。我ながら異様に速いペースだと思う。   それに比例して不思議なことに、家に帰りたいという意識が湧いてこなくなった。   もっとホームシックになると思っていた。帰りたいと、あの世界がいいと、でも違った。あまりにも過酷すぎる空間に人が長時間いると、そういう夢や希望は次第に薄れてきて、目の前の出来事を処理するだけで脳が限界を迎えるのだった。   それはあまりに喉が渇くとジュースではなく何の味もない水の方を欲しがるのに近い。   もし俺がいる世界が普通の別世界で、衣食住も満足だったなら、逆に家が恋しくなったかもしれない。   あまり知りたくなかったけど、こんなこと。   そして問題は他にもある。 「面木はどうした?」   畑仕事をしているのは例によって四人。面木と花香が桑を手にしたことは一度もなかった。   いずみがざっくざっくと大地を耕しながらつまらなそうに言う。 「またサボってるんじゃない?」   誰もが無関心だった。そう、ここに来てもう一つ知った。   みんな、どこか無関心だった。唯一積極的なのは墓川だけで、いずみも由那も、あまり他の人間に干渉してこない。   と、面木が腕に花香を抱かせながらのっしのっしと箱船に戻ってきた。    それを見かけた墓川が駆ける。 「あいつ……いい加減にしないか! 面木っ!」 「あんだよ」   面木が足を止め、ギロリと墓川をねめつける。気づく。彼の手には水筒があった。それを口に含んでいた。あれは―― 「面木! 貴様水を飲んだのか!」 「だからなんだよ。あ?」 「この水はやっとの思いで見つけた源泉から汲んできた貴重なものだといつも言っているだろう! 勝手に飲むことは許さん! ん、腕についた粉……まさかスナック! 面木! これを食べたのかっ!」   墓川が激昂する。無理もない。俺たちは数日この世界で暮らすわけじゃない。一生暮らしていかなければならないのだ。缶詰や水、スナック
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1章 10

 意外にも、食事だけだった。 「はい、面木。食べて、いいよ」   いずみが倉庫からありったけの缶詰やスナック、水を取り出し、面木に差し出したのだ。   俺と墓川は由那から治療を受けている。由那は信じられないほど手際がよく、また骨折などはしていないこともあり、何とか体を動かすことが出来た。   そして治療を受けながらぼんやりと面木を見て、その行動の意外性に驚く。   てっきりレイプでもするかと思った。でも、しなかった。何故か。その理由を、面木はさらりと答える。 「クックック。そうだ、それでいいんだ。安心しろよ。お前等をレイプしたりはしねえ。してもいいんだが、病院ねえからな」 「…………」 「俺を舐めるなよ。急所をさらけ出すわけねえだろ? わかってんだよ。んなことは。あそこを噛み千切られたらそれだけで誰も治せねえから死ぬしかねえ。気づかねえと思ったか? 俺はラストフィナーレを生き残った男だぞ? 危機管理能力はてめえらの想像以上にあんだよ。用心に越したことはねえ」   この面木御堂という男、只者ではない。   確かにレイプ中は隙だらけだ。いずみにしろ由那にしろ性器を噛んだら最後、面木は死ぬだろう。やつの言う通り病院がないからだ。   また単純にレイプ中は体を満足に動かせない。闇討ちしようと思えば簡単にできてしまう。面木はそれをしっかりと理解していた。   花香がそんな面木の腕に愛しそうにしがみつく。 「面木くんっ! あたしはもうすぐ大丈夫よ。大好き」 「それに、ここに相手はいるしな。クックック。リスクを冒す必要はねえってことだ」 「…………」   それは誰の沈黙だったか。俺の? 墓川の? いずみの? 由那の?   おそらく、全員なのだろう。   面木は缶詰の山の上に座り込みながら、高らかに笑う。 「よかったなあ香坂、天藤。まあ、食料と水さえよこせばお前等は好きにしていいぜ。墓川と一緒に食料を探したきゃ探せばいい。俺は関与しねえ」   かくして、箱船はその秩序を崩壊させた。   もはやどうにもならず、世界はもとより、最後に残された人さえも壊れてしまったのだ。  
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1章 11

 さらに日は過ぎていく。一日、また一日と。   しかしスーパーに行ってもコンビニに行っても民家に行っても、食べ物らしい食べ物はさっぱり見つからなかった。   箱船の中では面木と花香がよろしくやっているのだろう。苛立たしいったらありゃしない。   俺たちは倉庫を見る。かなり減っていた。対して俺たちの見つけた食料は――ゼロ。畑に種を植えてはみたが、まだ芽も出さない。食べられるまでまだずっとかかる。 「食料はもう近場では見つからない」   俺たちは倉庫の中に座り込み、話し合うことにした。まずは俺から言った。   墓川が帳簿を捨てる。面木の暴飲暴食で管理しても無駄だと悟ったのだろう。 「日に日に数は減っていく。畑は?」 「畑はまだ出来ないよう。ずっと先かなあ」   いずみはがっくりと肩を落とした。 「それにみんな、シェルターに渡す分もあるんだよ?」   ぴくりと、みんなの眉が跳ねる。   忘れていた。そうだ、それもあるのだ。   しかし、それはもう無理だ。俺はがっくりと肩を落としながら言う。 「なのに面木の絶対王制が……」 「面木に、食べ尽くされちゃうよ、食料」   と、今まで黙っていた由那が、ちらりと外に視線を移し、 「面木、殺る?」 「……由那、凄いこと言うね」   今の由那の口調は冗談でも、キレた時に衝動的に言うものでもない。   正真正銘、面木を殺傷しようという明確な意志を持った口調だった。   戦慄を覚える。俺だけじゃない。墓川といずみも。 「……殺すのは、無理だ。勝てない」   墓川の声が、とてもリアリティのあるもので、聞いてて耳が痛くなるほどだった。   顔を包帯ぐるぐるの墓川。   確かに面木は強い。強すぎる。一九十近い体躯から目にも留まらぬスピードで攻撃してくるのだ。しかも急所であろうと、倒れていようと容赦なく。   心技体全てにおいて人を攻撃することに特化したような怪物。俺と墓川が力を合わせても無理だろう。 いずみや由那? 馬鹿な! 「…………」 「…………」  
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1章 12

 塔月花香。こいつは食料を持ってきたためしがない。ここに来てから一週間になるが、一度も見たことがない。   代わりに花香が持ってくるのは化粧品や生理用品だった。   ただ瓦礫に埋もれ、壊れたものが多く、多少形が崩れても食べることが出来る食料とは事情が違い、その入手に彼女はいつも苦心している模様。 「あー、化粧品たんなーい。ないかなー」   今日も今日とて花香は一人、箱船の裏に隠してある花香専用の化粧品倉庫(というかただの木箱)を漁りながら、愚痴をこぼしていた。   俺はこれを利用する。いずみに目配りする。彼女は親指を立て、こくりと頷いた。   直後―― 「おねーちゃん」「おねーちゃん」「おねーちゃん」   シェルターから連れてきた子供たちが花香のもとに集まった。   子供が好きではないらしい花香はあからさまに不機嫌そうな顔をする―― 「あ? あんだよクソガキ。あ、それ」   が、即座に顔色が変わった。   そう、子供たちはその手に新品の化粧品や生理用品を手にしていたのだ。   すかさずいずみが花香の元へ行き、嫌らしく囁きかける。 「花香。これ、欲しい?」 「……いずみ」   物陰から窺ってはいるが、花香の表情がわかりにくい。でも、おそらく般若みたいな顔をしているに違いない。   いずみは前髪を梳きながら、にやにやと笑う。 「あげてもいいよ。あとさ、あんた今生理でしょ」 「…………」   図星、か。いや、いずみから話は聞いていた。今花香は生理中であることを。それに花香は言っていたじゃないが、『もうすぐ大丈夫』って。つまり今はダメなのだ。   なんで?  それは勿論――生理中だからだ。   いずみは子供たちの手から薬の入った小箱を手に取り、ぽんぽんとお手玉してのける。 「生理薬、あるよ。タンポンも」 「…………」 「面木じゃそこはフォローできないよね? でも私たちなら、フォローできるよ」   そう、これが俺の作戦の一つ。   面木は男である。花香は女である。これを利用した。   
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1章 13

 決行は昼食時。一同が箱船に戻って行われることとなった。   こういうのは夜にやるのがムードがあると思うが、この世界は夕飯でも空が明るいのでどっちでも一緒だ。   それに、やるなら早い方がいい。花香が裏切る前に。   メニューは農家から見つけてきた芽のないジャガイモを茹でたものを二つ。それと粉末のコーンスープだ。   対して面木は缶詰が十個もある。コーンスープだけじゃなく日本酒の酒瓶まである。どこから見つけてきたんだこいつ。 「クックック。おい、お前それだけでいいのか? まあ、知ったことじゃねえけどな」 「面木……それが君の昼食か」   墓川が恨めしそうに言った。勿論これも計画通りだ。   面木が缶詰を開けながら早速とばかりに反応を示す。 「あ? なんだ、リベンジか?」 「いや」   面木はちらり目を反らす。これも計画通り。 「ケッ、チキンが。まあ好きに粗食してろよ。俺の知ったことじゃねえからな。俺は寛大なんでね。クックック」   さて花香はどうだろうか。 「…………」   女の子座りをしてじっと缶詰を見つめていた。僅かに体が震えている。    面木が不思議そうに首を傾げ、すっと缶詰を一つ差し出す。 「ん? おい花香。お前も食えよ」 「う、うん……」   花香の手が震えていた。ぶるぶると、ぶるぶると。 「花香?」   面木の顔色が変わる。不穏な色合いに。   と、即座に。 「あ、そういや……しまった! 花香てめえ!」   面木ががばっと立ち上がった。凄まじい反応。花香の震えだけで全てを見通すとか、並の勘をしていない。   でも、そこまでは俺も読んでいた。   花香が裏切る。そして面木が激昂する。その瞬間に―― 「今だ! やれ、塔月!」   墓川が叫ぶ。同時に、「えいっ」 と小さな声を立てて花香が手元に隠していた紐を引っ張った。   同時に、由那がこっそりと仕掛けていた罠が発動し、面木の頭上から鍬が落ちてくる!   花香に鍬で殺せと言ってもそんなの
last updateآخر تحديث : 2026-08-30
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1章 14

 監禁場所は倉庫に決まった。食料を食べられないように一端外に移し、その後面木を押し込んで鍵をかけた。今までは面木が合い鍵を持っていたが、当然取り上げた。 「大丈夫かなあ」   俺の質問に、面木はゆっくりと首を振る。 「わからん。監禁は長いものになるかもしれない」   と、一呼吸置き、墓川がさらに訪ねてくる。 「それと、疑問なんだけど、あの時、面木は凄い反射神経と勘で回避しようとしたよな?」 「ああ」 「でも、何故か膝を曲げた。あれは……」   網が被さる前だ。確かに面木は一瞬だがバランスを崩した。意図的じゃない。面木の驚愕がそれを証明している。   今度は俺が首を振る番だった。 「わからない。つんのめただけじゃないか?」   面木は腕を組み、ふむ、と考える。しかし結論は出なかった。   そしてはぁ、とため息をつき、ぱんぱんと手を鳴らしながら皆を呼ぶ。 「それはともかく、みんな! 聞いてくれ」 「うん」「ん」「…………」「なんだ?」   いずみ、由那、花香、そして俺の順番だ。   墓川は俺たちを見回しながら、すう、と息を吸って。 「確かに面木の言葉にも一理ある。僕は勝手にリーダー面していた。勝手に仕切っていた。それが彼を苛立たせたのは間違いない」 「いや、それは」   俺がフォローしようとするが、それより早く、 「だから改めて、皆に信任を問いたい」   墓川が、そう言ってきた。 「え?」 「みんなは僕をリーダーだと認めてくれるか? みんなは僕の指示に従って、僕と共に生きていくことを許してくれるか?」   頭を下げる墓川。 「墓川……」   何と言っていいか迷う。俺はコートのポケットに手を突っ込んでうーんと眉間にしわを寄せる。    すると。 「いいよ」 「あ、いずみ」   いずみが、真っ先に承諾した。   彼女は俺を見つめる。にこやかで、優しくて、穏やかな笑み。 「春弥もいい?」 「え? あ、う、うん。墓川な
last updateآخر تحديث : 2026-08-31
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1章 15

 午後は食料探しだ。近隣にはもう食べ物はないので長旅になるが、仕方ない。 各自腕時計を持ち、午後四時まで行ける距離ということで話がついた。時計は意外と残っている。   ただはぐれないようにと個別行動ではなく、二グループに分かれてだ。墓川、花香、由那のグループと、俺といずみのグループ。   自転車は使えないので徒歩。俺たちは瓦礫をかきわけながら進めるだけ進んでいく。   そんな中、いずみが楽しそうに声を弾ませる。 「いやー、凄かったね、花香」 「あ、ああ。凄い豹変ぶりだった」   あれは予想していなかった。まさかあんなことになるなんて。 「私驚いたよ、あれはちょっと大物だよ」 「……危険な大物だけどね。それにしても……」   俺は頭をとんとんと叩く。 「どうしたの?」 「ここに来てから、少し酔うんだ」   今まで誰にも言わなかったことだが、実はこの世界は何故かふらつく。気持ち悪くなる。   最初は気のせいかと思い無視してたが、どうもそうじゃないらしい。   すると、いずみは驚くべき解答を教えてくれる。 「あー、地球酔いだね」 「地球酔い?」   なんだそりゃ、聞いたこともない。 「うん、月がないせいで地軸が揺れててデタラメな自転角度になってるから平衡感覚が少し狂って酔っ払っちゃうんだ。よくあること」   月がないって、本当に影響が甚大なんだな。全く知らなかったし、できれば知りたくもなかった。 「あ、そう……。それとさ、最近、気候、おかしくない?」 「そりゃ、ラストフィナーレのせいで」 「それだけ……。なのかなあ」   俺が初めてここに来た時と、少し違う気がするのだ。  いや、毎日寒いし、日没が遅いのはそうなのだけど、なんとなく。 「他に何が?」 「いや、それは……まあ、そうだよね」  どこら辺がどう変わったのか、それを伝える術を俺は保っていない。もどかしかった。   強いて言うなら、地球酔いが酷くなってきたというべきだろうか。   でも、それが正解なのかもわからない。   だか
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2章 慄然にして汚濁の未来 1

 あれから一週間経ち、面木が釈放された。それに伴い生活に変化が訪れた。これは面木の釈放理由とも重なるのだが―― 「しかし面木もちゃんと仕事するようになったね」   いずみの言う通り、面木は食料も、水汲みも、畑仕事さえも真面目にするようになったのだ。不平一つ言わず、一心不乱に。   現に今も六人が力を合わせて校庭を耕している。甲斐もあってか、芽も出てくれた。これは快挙であるが、それ以上に。   面木のあまりの態度の変化に、俺も、他のメンバーも驚きを禁じ得ない。 「信じられない……墓川、一体どうやったんだ?」   俺が訪ねると、墓川はぽろりと隙を落とし、目を丸くさせる。 「いや、僕は監禁しただけなんだが……まさかあそこまで心を入れ替えてくれるとは……」   そんな馬鹿なである。到底信じられない。   しかし信じようが信じまいが、現に面木は無駄口一つ叩かず、誰よりも熱心に働いているのである。   恐る恐るいずみが声をかける。 「ね、ねえ面木」 「…………」   だが、面木は振り向きもしなかった。 「口も利かず黙々と……」   俺の声は震えていた。当然だろう? あの面木だぞ? 一体何があったのだろう。   墓川は隙を拾い、息をついて。 「まあちゃんと働くならそれに越したことはない。僕たちも頑張ろうじゃないか」 「うんっ」   元気よく返事をしたのはいずみだけだった。   いや、気持ちは同じ。返事をしたかった。ただ、それ以上に面木の変化が凄すぎて、何も言えなかっただけなのだ。   本当に、どういうことだろうか?
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2章 2

 それから三時間。俺たちはひたすらに鍬で畑を耕し続ける。面積は広ければ広いほどいい。いずれ校庭全面を畑にしたいというのが墓川の考えだった。   墓川時代。いつしか誰ともなくそう呼ばれるようになった。   秩序だった平和な時代である。そしてそんな頑張りに答えてくれるかのように、 「畑も随分頑張って……あ、ここも芽が出てる!」   植えた種が、ちらほらと実り初めて来たのである。   一斉に芽の方へ集まる。小さいけれど、新たな命が芽生えた瞬間。目頭が熱くなる。じーんとくるものがある。   畑仕事なんか生まれてこの方一度もしたことがなかった。俺はごく普通の男子高校生だったのだ。それがこうして農家さながらの生活をする。それはそれで何か楽しかった。   娯楽もないしな、この世界は。 「ほんとだ。これを育てていくわけだね」   俺の言葉に、いずみは嬉しそうに応える。 「なんだかんだ墓川のお陰だよね、これ」 「うん。そう言えば墓川は?」   さっきまでいたのに。   すると由那が校舎の奥、かつてプールがあった場所を指さす。 「あっち、貯水槽」 「貯水槽?」   プールは現在貯水槽として使っている。実に都合のいい空間だからな。まあ毎日水汲みするのは大変なのだが、これは墓川が率先してやってくれるので、俺がやったことは実は一度もなかった。面木はやっているらしい。まあ、釈放されてからだけど。   俺たちは芽が出たことを報告するべく貯水槽へと向かう。   彼は水を攪拌していた。なんでも放置しっぱなしだと水が腐るらしく、毎日攪拌しないといけないのだそうだ。   勿論二十五メートルプールを人間が攪拌するなんて不可能だし、そもそもそんなに水を貯められない。そこで小さく小分けに区切る改造を行ったのだ。人間一人が混ぜられるように。 「やあ、畑仕事は終わったかね?」   墓川が水を混ぜていたオールを置くと、にこやかに訪ねてきた。 「え、あ、う、うん。他にも芽が出てたから報告しようかと」 「ほう! 幸先いいじゃないか! 僕も天藤、面木と共に作った蛇口が完成したところだ。それ
last updateآخر تحديث : 2026-09-04
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2章 3

 黒い渦を一人で見つけるのは不可能だ。   そう思った俺は、夕飯時にそれとなく意見を提案することにした。 「シェルターとの交流を増やしたい」   と。   箱船のみんながやりたがらないのであれば、子供たちを使いたい。そう思っての提案。   しかしいずみが首を傾げる。 「でもどうやって? 現状子供たちしか出入り出来ないよ」 「その子供たちを使う。香坂。君は子供たちに慕われている」 「うん、まあね。ほら、かわいいよね」 「おねーちゃん」「おねーちゃん」「えへへー」   今日は子供たちを招いての夕飯だ。盛大にキャンプファイヤーでもやりたいところだが、空は生憎明るいし、そもそもそんな設備がない。暖房は火鉢なんだぞ?  だからみんなで野菜クズのスープと、小麦粉をこねて野菜クズと混ぜて作った簡易お好み焼きを食べながら、輪を囲っての食事だ。   でも、それでも彼らには十分楽しめるようで、 「はーい。あーんして」 「「「あーん」」」 「美味しい?」 「「「うんっ!」」」   こんな感じで、いずみと子供たちの楽しげなやりとりに、自然と周囲も頬がほころんでしまうものだ。   いい空気であり、そしてこれを利用しようと考えたのだ。   だが、墓川が先手を取った。 「田下くんの言う通り、シェルターとの交流を増やすのは賛成だ。特に今、我々が早急にやらなければならないのは防寒対策だ」 「防寒……」   何やら予想外の方へ話が進んできたぞ。 「ああ、シェルター内は問題なかろうが、箱船にいる我々は違う。幸い今は火鉢があるが、本来は夏だったということもあり灯油の入手が困難だ。ストーブがあっても使えない。そして火鉢はさほど温かくない」   そう、火鉢は伝統的な暖房器具であるが、予想外に温かくないのである。部屋をホカホカにするようなことは全くできず、火鉢に手を当ててなんとか暖を取るという具合だ。   生まれて初めて火鉢というものを使ったが、これほど酷いとは思わなかった。   廃れるわけだ。 いずみも寒そうに肩を震わせる。 「
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