………………。 …………。 ……。 ホワイトアウト。 「く……、う……こ、ここは……」 花香を助けようと手を伸ばし、そのままクレバスの底に墜ちた俺は、ゆっくりと意識を取り戻す。 不思議と、体は痛くなかった。どれくらいの高さかはわからないが、怪我をしていないというのはどうにも違和感がある。 何故だろうか、わからない。 ただ――臭い。 なんだ、この臭いは? ドブのような臭いがする。 今がラストフィナーレ後でなければ虫が湧きそうな悪臭だ。鼻が曲がりそうどころか砕けそう。吐き気がする。 俺は首を振りながらゆっくりと身を起こすと、花香は俺に気づいたようで、ふん、と鼻で笑いながら天を仰ぐ。彼女は体育座りをしていた。 「最悪。こんなところ、出られないじゃん」 「クレバスの底か……」 尻に伝わる感触が不思議なくらいグニャグニャしている。どうもなにかクッションがあったらしいが、それが何かはわからない。えらく柔らかく、しかし弾力があまりない。 ゴムボールやマットではないようだが、これはなんだろうか? 暗くてどうなっているのかわからないのが残念だ。 「…………」 と、花香がじっとこちらを見つめていることに気づいた。 何やら思案顔というか、暗くて判別は難しいが、考え込んでいるのは何となく伝わってくる。 けれどどうしてそんな顔になるのかは皆目見当もつかないので、 「ん? どうしたんだ?」 と素朴な疑問を口にした。 途端、花香が俺の胸元に飛び込んできたではないか。 「ありがとう田下くん! 田下くんのお陰で助かったよ! ほんとありがとね!」 「……なっ!」 あまりにも唐突な行為に、俺は開いた口が塞がらない。 こんな時に何故こんな態度をするのか。 いや、花香の異常性について、俺は出会った当初から感じ取ってはいた。時折片鱗も見せていた。 ただ、面木や墓川のような暴力性を伴わないからスルーしていただけだ。 彼女は、異常だ。
آخر تحديث : 2026-10-05 اقرأ المزيد