All Chapters of 幽世の狩人~不死の少女と妖魔狩りの少年~: Chapter 21 - Chapter 30

47 Chapters

#21 鬼傀兵 序

「鎖閂式の鉄砲を人攫いが、ねえ」  書斎にて、頸創が春香に向けて言った。清然もいる。 「最新式の連発銃……さぞ力のある龍仕人が後ろについているのやもしれんな」  清然は、腕を組んで、考え込みながら口を開いた。 「力のある、か。カガリの言っていたフザンとやらか?」  胡坐で顎を撫でる春香の問いかけに、頸創は 「否定はできねえ。フザンがどれほどのものかは、俺も掴めちゃいないが」「百術の頸創と雖も、か?」「やめてくれ、こそばゆいんだよ。春香に言われると」  チチチッ、と小鳥が植木に停まる。それから、昼空に向けて飛び立った。 「確かに、俺は龍仕人の集団をぶっ潰したさ。でもな、あいつらは独立した組織を無数に作って、あちらこちらで悪さをしてやがる。まるで土竜だぜ。一つ穴を埋めたって、また別の穴を作っちまう」「終わりのない戦いになるな……」  清然の一言で、三人の男は沈痛な空気に包まれた。 「雷天に、西の港町菅谷。二つを乗っ取って拠点にしているなら……どこかで、狩らねばならない」「お勧めはできねえよ」  右拳を作った春香に、頸創が制止の声をかける。 「かなり時間が過ぎてる。今から戦いを挑めば、伊英の侍全員合わせたって二月は戦争することになるぜ」  ギッ、と春香は奥歯を噛み締めた。 「で、戦った感想はどうだ。怖いだろ? 連発銃ってのは」  頸創の声は、少し無理を
last updateLast Updated : 2026-09-08
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#22 密輸された死体、そして動き出す計画

「あれが例の船かい?」  南の桟橋を望む、牛鍋屋。その二階に、何十人もの客が詰め掛けていた。 「何でも死体がたっぷり載せてあるとか……」  その見分を一目見よう、という彼らの視線は、夜の色をした総髪の、若い狩人に注がれていた。 「雷業様、お越しになりましたか」  侍の一人が、リズを伴う春香に向けてそう言った。桟橋の東には、腕木で区切られた検問所がある。そこから飛ぶがやがとした声も、彼らにはあまり聞こえていなかった。 「状況は」「まず、あの船」  その侍は、桟橋に付けた一隻の黒い蒸気船を指差す。 「四代目鴉羽丸、と船長は名乗っておりましたが、入港許可を出した船の名簿に、その名前がないのです」「つまり、未登録の船……積み荷は」「人間も含め、様々な動物の死体が四十体ほど。細かいことは、まだわかりませんが」「死体、か……リズ、死体を持ち込んだ目的は何だと思う」  リズは暫し悩んでから、 「死霊術師」  と言った。 「死体や死者の魂を扱う、禁忌の分野です。大陸ではその歴史に関する研究のみが認められ、死霊術そのものの研究・発展は禁じられています」「つまり、龍仕人か?」  春香の問いかけに、彼女は一つ頷いた。 「勿論、篝人の方々がその特権を使って研究している、というのも否定できないですけどね。あの人たちは、禁忌であっても触れられますから」「だが、篝人はまず山奥から出ないんだ
last updateLast Updated : 2026-09-09
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#23 鬼傀兵、出現

 ひょろりとした喜林、ずんぐりとした真薙。二人の足軽は、警邏に出ていた。喜林の左手には電気提灯。腰には刀。真薙の方には、灯りはなかった。 「最近、暑くなってきたよなあ」  真薙が太い声で言った。 「水風呂に入りたいぜ、全く」  喜林は芯の無い声で言うと、大きく欠伸をした。そんな二人の耳に、ヒタ、ヒタと足音が聞こえてきた。 「裸足か」  二人は、顔を見合わせて刀を抜いた。凡そ酔っ払いの類だろう、と思いつつ、彼らの間には弓の弦めいた緊張が走っていた。  足音は、少しずつ近づいてくる。音は路地の方からだ。そこに、ピチャン、と水音が混じった。 「なんだ……?」  喜林がそう呟いた時、『それ』は現れた。  左手に、生首。真っ白な肌。月明かりに輝く裸体。その顔は、虚ろだった。だらんと開いた口と、光の無い瞳。 「何奴!」  誰何をしつつも、二人は相手が己の範疇を超えている存在であることを、理解していた。それでも、逃げるという選択肢はない。奉行所から任された夜警の仕事だ、果たさぬわけにはいかない。 「ア オ ア」  その、この世の果てから呼びかけてくるような声音。ゾッ、と二人は背筋が凍り付くのを感じた。が、役割は役割。歯車としてやらねばならないことがある。 「真薙、行くぞ!」  喜林は、提灯を腰にかけて走り出した。彼の頭目掛けて、生首が投じられる。もろに食らってふらついた。そこへ、全裸の女は獲物を見つけた蛇とさえ思える俊敏さで、彼の懐に入った。  
last updateLast Updated : 2026-09-10
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#24 鎌風の奥義

 早朝。若い女が、鎌風屋敷のある丘を駆け上っていた。やがて、門番の待つ表門に至る。二人の門番は、槍で彼女の行く先を遮った。 「何者か」「奉行所の者です。生天目町奉行から、鎌風様に届けたい手紙がある、とのことで」  門番二人は視線を交わす。 「武器も邪気もない。通れ」  片方が、石突で地面を突きながら言った。 「えっ、その、お金の方は……」「俺は取らん主義だ」  そうして、女は屋敷の敷地へ足を踏み入れた。 「た、たのもーう」  あまり覇気のない声が、母屋に響く。応対で現れたのは、頬に十字傷のある少女。佳代子だ。 「これを、鎌風様に届けるよう託かりまして」  一通の封筒。真っ白な紙に、西方語で差出人が書いてある。裏には蝋で封がされていた。だが、妙だった。佳代子は胸がざわつくような違和感を覚える。 「……はい、受け取りました。確かにお渡しします」  その手紙を、頸創は食事を終えてから手に取った。 「ゲルカルナ、か」  差出人の名前を、彼はさらりと読み上げる。春香の目は、不思議とその手紙に引き寄せられていた。 「リズ、どういう意味なんだ」  春香は、リズと指を絡ませて、問う。 「西方語で、『冒涜する者』を意味します。そんなものを名乗るなんて……」「封蝋までしてやがる……春香、脇差貸してくれ」&n
last updateLast Updated : 2026-09-11
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#25 一夜明けて、牛鍋を

「それで、巨人を狩った、と」  離れの座敷、その一つで、頸創と春香は話していた。前者は布団の上で胡坐をかき、後者は刀を差したまま壁に凭れている。 「ああ。腕に強い結界を纏わせて、防御にも攻撃にも使える武器にしてたんだ。俺の気を龍絶で染み込ませて、内側からぶっ飛ばせばどうにかなったがな」「つまり、殺すなら腕以外を狙えばいい、と?」  頸創は少し苦い顔を見せた。 「あんたの速さなら、それでもいけるかもしれねえが……俺はあんたほどの速度を何度も出せねえからな、地道に浸透させるしかねえ」「浸透?」  その問いかけに、あまり重みはなかった。 「ああ。鎌風家……というか、風張家のそれから派生した龍絶は、防御されても当たりさえすれば、自分の気ってのを相手の中に染み込ませる。そいつを爆発させれば、防御の内側から相手はやられるってわけだ」「だが、それほどの術、負荷も大きいだろう」「まあな。久しぶりに使ったせいで、俺もかなり疲れちまった」  フウッ、と頸創は溜息を吐いた。 「何発食らわせたんだ。結界を内側より破壊するだけの気、そうそう浸透させることもできないだろう?」「夕べは、二発。カミハテが使うことを前提としてるせいで、俺じゃ扱いきれねえんだ」「カミハテ……父は、それが何故そう呼ばれるか、教えてくれなかった」  はあッ、と彼は呆れた声を発した。 「ま、数えで十五なら知らねえかもな……」  そのまま、その手は春香を招いた。二人は胡坐で向かい合う。 「まず、あんたが知っ
last updateLast Updated : 2026-09-12
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#26 開戦まで、あと数時間

 ホッ、ホッと梟が鳴いた。だが、それは猿叫に掻き消された。 「チェストォォッ!!」  侍が刀を振るって、動く屍に刀を叩きつける。相手は鬼傀兵の軍勢だった。その数は百、いや二百にも近い。人間大のそれが作る海の向こう、巨人が十体、足軽たちを目指してのっそりと歩いている。 「駄目です、止められません!」  軍勢は、足軽や侍たちの奮闘でも抑え切れず、波濤のように押し寄せる。侍が撤退の指示を出そうとしたその刹那、雷鳴の如き踏み込みが、鳴り響いた。  ◆  「んで、何だよ。話したいってことってよ」  頸創が疑問を口にした。鎌風屋敷、書斎。昼下がりのことである。 「ゲルカルナらしい人物が、わかった」  清然は狩人二人に向けてそう言った。 「なんだ、迷宮入りだと思ってたぜ」「サバリヤ・ヘルベロン。死体の船が見つかった夜、伊英に船で入った狩人だ」「狩人? 龍仕人ではないのか?」  春香が疑問を聞かせる。 「狩人の身分を偽装したのだろう。西方の貴族から旅券も発行させていた。巧妙なことだ……」「だが、疑う根拠はどこだ」  問いを重ねる。 「簡単だろ?」  だが、答えたのは頸創だった。 「本当に狩人なら、まず俺の所、そうでなくても奉行所に顔を見せるはずだ。そうじゃねえなら、脛に瑕のある奴に違いねえ。そういうこったろ、清然」「ああ。サバリヤ・ヘルベロン
last updateLast Updated : 2026-09-13
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#27 伊英、血に濡れて

 電灯に照らされる、裏路地の蔵。そこでは、無数の鬼傀兵が解き放たれる時を今か今かと待ちわびていた。「お前たち、狩人を殺すのだぞ」 ゲルカルナは、人間大のそれの頬をそっと撫でた。 その扉が蹴り破られるにも近い勢いで開かれる。「ゲルカルナ様、ここが──」 そう、男が告げた時。後ろから放たれた銃弾が、男の脳幹を撃ち抜いた。「……遅かったではないか」 足軽五人と、侍一人。ゲルカルナは、腰の直剣を抜いた。切っ先を向ければ、鬼傀兵が走り出す。銃弾も斬撃も、間に合わない。頭から食い殺された死体が、月夜に転がる。「さあ、始めよう」◆「チェストォ!」 一人の侍が、そう高々と叫びながら、鬼傀兵の頭へ刀を打ち下ろした。鮮血と脳漿が散る。魂の鎹を破壊された傀儡は、「ア オ」 と声を漏らしながら仰向けに倒れた。一方で、負傷した足軽が前線を離れようとしていた。「駄目です、この数は止められません!」 その、返り血で顔を赤く染めた足軽が、後方に控える清然の所へ駆けつけた。左腕に、穴が二つ開いている。「撤退、なのか……!」 そう、清然が呟いた時であった。月夜に雷鳴が轟く。空を見上げると、紅い瞳が踊っていた。「天津震電流」 その白い刃に、雷が宿る。「天鼓流」 着地と同時に、紅玉の狩人は滑るように動き出した。一体、また一体と斬りつけていく。一撃ごとに魂の鎹を打ち砕き、動く屍の数々を停止させる。僅か三十秒の間に、十五体の鬼傀兵が斃れたのだった。 その横に、頸創が降り立った。「目抜き通りは俺らが抑える!」 侍足軽に、呼びかける。「だから、足軽は町民の避難誘導! 侍は俺らの取りこぼしたのを潰せ!」「お、応!」 声を張り上げた頸創の指示に、特別でない者たちは応えた。「春香、これが全部だと思うか?」 鬼傀兵の標的は、狩人二人に定められた。少なくとも、背中を合わせた彼ら以外を狙う素振りは見せないでいる。「西の港にいたのが、五十体。頸創が東の港で潰したのも、五十体。ここにいるのは二百に近いだろう」「つまり?」「主戦力は、ここだ」 頸創の長巻が、風を纏う。「行くぜ、大技。当たるなよ」「ああ。合わせる」「おうよ……風剣百輪!」 グオォン、と二十貫の得物が唸れば、刃の嵐が円状に放たれた。百に
last updateLast Updated : 2026-09-14
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#28 死屍累々、伊英は朝を迎える

 黄金の斧槍が、熱と電を纏って振り下ろされる。人の域を外れた膂力が、前庭に深い傷をつけた。  ゲルカルナにしてみれば、避けることだけで精一杯だった。一撃、また一撃と旋風風のように繰り出される斬撃を前に、庭を駆け巡っていくしかないのだ。  だが、それも終わりを迎える。斧槍の横薙ぎを剣で受け止めれば、大きく吹き飛ばされ、池の中に追いやられたのだ。 「カミハテの力、これで理解なさったでしょう?」  カガリは、斧槍片手に、ゆっくりとゲルカルナに歩み寄る。 「投降なさい。お兄様は、あなたを殺すことは望んでおられないのです」「狩人風情が、私を見下ろすな!」  ゲルカルナは、心の底から叫ぶ。 「二十年」  水に触れながら、彼女は唐突にその言葉を発した。 「二十年前、狩人は龍を前に逃げ出した。そんな者が、やれ雷業様、やれ鎌風様と持ち上げられていいのか⁉ 人間だぞ、そこに優劣はない!」「わたくしに、難しいことはわかりませんわ」  カガリは構えを解く。惨めな負け犬だ、と思ったのだ。 「ただ、全ての狩人が責任を果たすわけではないことも、そして果たさないわけでもないことを、わたくしは知っているのです。お兄様は、己の責任を果たせる人物でしてよ」「ほざくなァ!」  ゲルカルナの手に触れていた所から、水が形を作り始める。粘土細工でもするように成形された水流は、伝承に聞く八股の大蛇となった。 「噛み殺せ!」  大蛇は、カガリへと群がる。それは蛇というより、ゴミに集う鴉だった。斧槍が回転して攻撃を防ごうとするが、水とは不定形。幾ら斧が、槍が暴れたとて、消し去ることはでき
last updateLast Updated : 2026-09-15
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#29 三人で写真を撮りに行こう

「号外、号外だよ!」 あれから雨が降って、それが止んだ朝。まだ水溜りのある道で、風船帽を被った少年が道行く人に新聞を渡す。「なんだい、昨晩の件かい?」 立派な顎髭を持つ男が、新聞売りに話しかけた。「『天晴雷業の神速剣術! 曲者たちを滅多切り!』……気になるでしょう? どうです、二十アセイですよ」「号外ってのは無料なものだろう」「ヘヘッ、よくご存知で。どうぞ、一部持って行っちゃってください」 新聞売りの少年は、横道から目抜き通りに出ようとする。そこでは、死体の搬出が行われていた。「おっと、こっちはいけねえや……」 そんな街の狩人、鎌風の屋敷の表門は、閉め切られていた。その前に、風船帽を被った男女が、「取材、取材を!」「雷業様の一言を載せたいんです!」 と口々に言っている。門番の槍が彼らを押し留める中で、一人、丘を登る者がいた。「通してくれよ」浅葱色の羽織を着た、格好のいい体の男だ。背中には長巻。記者たちは手帖と万年筆片手に、彼を囲んだ。「はいはい、後で話してやるから。今は休ませてくれよな」 男は強引に記者の群れを突き抜け、槍の向こう側にやってきた。「よっ」「鎌風様。どうぞ」 頸創の手には、先程の号外が握られている。脇戸が開かれて、屋敷の敷地となる。 母屋の縁側では、春香とリズが並んで座っていた。「今日は、一緒にいてくださいね?」 そんな言葉を彼女が発しているのを聞いて、頸創はフッと笑った。「む、頸創。どうだ、死体の処理は」 春香はリズを抱き寄せながら、そう問うた。「火葬場が回せるだけの速度で回ってるが……どうやったって一週間はかかるな」「そうか……で、それは何だ」 頸創の手にある号外を指差して、彼が問う。「新聞だよ。『天晴雷業の神速剣術! 曲者たちを滅多切り!』だそうだ。有名になったもんだな、あんたも」 手渡された新聞紙には、鎌風屋敷の庭で、鬼傀兵の群れの上に立つ春香の絵が印刷されていた。「ちょっと待ってくれ、ここに来たのは鬼傀兵ではなく──」 事実を言おうとした彼の口を、頸創が押さえる。「今、記者が大量に来てる。いいか、もうすぐ入れるから、それまで黙っておけ。訊かれたことにだけ、答える。それを徹底しろよ」「あ、ああ……」「嬢ちゃんは二階に逃げ込んでな。雷業様の色恋事情となれば、下品な奴らが群がるぜ
last updateLast Updated : 2026-09-16
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#30 フザン襲来

 一隻の蒸気船が、月夜の海を滑っていく。甲板に立つ人夫も声を発さず、ただ淡々と監視を続ける。 その中に、二人、手摺の近くに立つ男の姿があった。一人は背広、一人は二本差し、紅い羽織の男だ。だが、何より目を引くのは、頭全体を覆う金属製の兜だった。後頭部から銀色の髪がはみ出ているが、それだけだ。「フザン様、まずはどうなさいます?」 背広の男──ピジョは、兜の男をフザンと呼んだ。「どうもこうもない」 何重にも反響したような低い声で、フザンは応じる。「速やかにリズ・ユヤデオナを確保する。そのために、色々と手を尽くしたのだ」「しかし、逆梟を使って狩人を引き剥がしても、ゲルカルナに鬼傀兵を使わせても、失敗でした。そう上手くいくでしょうか」「カガリは龍の血をもう持ってはいないだろう。あれには基本的に最低限のものしか渡さないからな……ならば、相手になるのは頸創と春香のみ。殺せずとも、目的は達成できよう」 クックック、と彼は低い笑いを兜から漏らした。「しかし、雷業春香は障害となるでしょう。どう抑えるのですか?」「兜を脱ぐ」 ふむ? とピジョ。「やっとあなたの素顔を拝める、と。楽しみにしておりますよ」「殺し合いに行くのだぞ」「だとしても、ですよ」 灯台の輝きが近づいてくる。「不死の力、確かに分け与えてくださるのですね?」「疑うのか?」「単なる確認にございます」 フザンは、左腰の打刀に触れ、柄頭を握った。「無論、共に不死を喰らうのだ。真なる幽世竈食の時が来る……」「ならば、百術の頸創は私が抑えてみせましょう。雷業の倅は、お任せしますよ」 船は東に進んでいく。最悪の日が、訪れる。◆ 窓から差し込む朝日。文机に向かっても、リズは額縁に入った白黒写真を眺めるばかりだった。(思い出……) ずっとこのままでいたい。それが彼女の本心だった。布団も片付けられ、いつもなら本を読む所。 今を維持するために、何ができるか。浅知恵ばかりの己の小さな手で、掴めるものはそう多くない。家事も、佳代子と老婆が全部やってしまう。(できるのは、春香さんや頸創さんに、少しだけ意見を述べるだけ) でも。(でも、春香さんと離れたくない) ゲルカルナに襲われた時。春香が来なければ、今頃こうしてもいられないのだ。何か、返したい。 その背後に、大き
last updateLast Updated : 2026-09-17
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