「俺とお前なら、最強になれる」 春の風が木々を揺らす中、弟は兄の言葉を聞いていた。紅玉のような瞳で、兄の銀朱の瞳が向かう先を見る。どこまでも青い空が、葉の隙間から覗いている。 「師匠だって超えられる。妖魔だって龍だって狩れる、最強の狩人に、だ。だろ、春香」 春香と呼ばれた弟は、まだそう大きな肉体をしていない。まだ数えで十一なのだ。 「だが、兄上。大陸に行くんだろう? 武者修行だとか……」 岩の家に並んで腰かける二人。兄の銀髪と、弟の黒髪。 「四年もすれば帰ってくるって。そんときゃ手紙を送る。港で出迎えてくれよ」 兄の名は、鷹眼。その名に違わぬ鋭い瞳が、再び弟と見える時。二人の夢は、終わる。 ◆ 鶏の朝鳴きが屋敷に響いた。薄明の空の下で、男たちが動き出す。庭の井戸の周りに集えば、褌姿の彼らは、 「若様、おはようございます!」 と頭を下げて叫んだ。 「ああ、おはよう」 若様。その名を雷業春香という。彼もまた、褌だけだ。男たちにも負けず劣らず、筋肉質な五尺八寸の体を明るくなり始めた空の下に晒している。肉体から滴り落ちる水はそのままに、縁側へと向かう。 「しかし、若様は早起きでいらっしゃいますな。流石、雷業家の跡取りというだけのことはある」 「お世辞はいい。水浴びを済ませろよ」 総髪の春香は縁側に置かれた手拭いを取り、体を拭き始めた。桃の花が散って、板の上に落ちる。 すっかり水滴を拭った彼は、足の裏を拭いてから縁側に上がる。座敷に入ると、老婆が待っていた。 「朝餉の用意が出来ておりますよ」 「ありがとう。腰の様子はどうだ?」 「ご当主の手配してくださった薬がよく効いております。ご心配なさらず」 腰の曲がった老婆に連れられ、春香は奥座敷へ。既に配膳も終わり、コの字に膳が並んでいた。春香は、上座の斜め前に着く。 「父上、おはようございます」 「うむ」 父、春成。息子と同じ、紅玉のような瞳と夜の色をした黒髪だ。が、両頬には鱗めいたものが浮かんでいる。そこから首を這い、胸元にまで伸びる。ただの紋様ではなく、死期の近いことを告げる、狩人にとっての砂時計だ。 「兄様、森の様子はいかがでしたか?」 父の鱗が、また増えていることに顔を背けるしかなかった春香は、向
Last Updated : 2026-08-18 Read more