Se connecter妖魔の肉を喰らうことしか、妖魔に勝つ術はない。それが、この世界の掟。 それを成した者こそが、狩人である。だが、妖魔の肉は人の身を蝕んでいく……。 そんな狩人の名家を継ぐ少年、『雷業春香』。彼が暮らす街に、大陸から留学生が来るのだという。 留学生の少女は、『リズ・ユヤデオナ』。迎えに行った春香は、帰路、父が死に至る病に斃れたと知る。 同時に、街へと妖魔の群れが襲い掛かる。父が消えた。街は壊滅せしめられた。家宝も奪われた。 誰も、何も、残っていなかった。ただ一つ、春香の守るべきは、リズだけだ。 雷霆轟く、宿命を貫く剣戟ダークファンタジー。そして、二人の少し歪な愛情が、世界の歪みを砕く物語。
Voir plus「俺とお前なら、最強になれる」
春の風が木々を揺らす中、弟は兄の言葉を聞いていた。紅玉のような瞳で、兄の銀朱の瞳が向かう先を見る。どこまでも青い空が、葉の隙間から覗いている。 「師匠だって超えられる。妖魔だって龍だって狩れる、最強の狩人に、だ。だろ、「幽世竈食の病……!」 馬上の春香は、肺腑を握り締められているような声を出しながら、父の現状を理解した。「もしかして、致命の病というあの病気ですか?」 春香の腕の中で、リズが問う。答えはすぐに、彼から発せられた。「狩人は、幽世の存在たる妖魔の肉を喰らい、力を得る。だが……」 話しながらも侍と狩人は視線を交わして、馬を東へ走らせる。「力を行使していけば、いずれ狩人自身が妖魔と成る。それが幽世竈食の病。父も、ここ数年は剣術以外の稽古をつけてくれなかったが、まさかここまでとは思わなんだ……!」 ドドッ、ドドッと蹄が激しく地面を打つ。空には俄かに雲が出てきた。そこに、赤い狼煙が上がる。「赤……妖魔が来たってのか⁉」 侍の一人が叫んだ。そして、答え合わせが行われる。黒雲垂れこめる空に、翼を持った異形の者たちが列を成して現れたのだ。「わ、若様! 港町が!」 振り返れば、黒い煙が幾条も立ち上っている。燃えているのだ。「どうします、港町を救いに行くには、間に合いませんぜ」 「……雷天に戻るぞ」 まさに帰らんとしている故郷の名を口にして、春香は奥歯を噛み締める。「今から向かって、救える可能性が高いのは雷天だ。更に言えば、このままでは父上の亡骸を妖魔に利用されてしまう。急ぐぞ!」 「応!」 たった四騎で何ができるか、ということを春香は考えないようにした。これ以上何も失いたくない。その一心で、馬を走らせた。 雷天を見渡せる丘の上にやってきた。方々で火の手が上がっている。瓦が散乱している。死体、血溜まり、はらわた。「若様、屋敷を!」 街の東端、日の出ずる所に、雷業家の屋敷はある。それが、焼け落ちていた。スウッ、と春香の顔から血の気が引く。「……嘘だ」 視界が左右に揺れるのを感じた彼は、衝動的に馬の腹を蹴った。襲歩で駆け降り、目抜き通りを突き抜ける。猿や鳥のような妖魔が襲い掛かるが、雷を纏った刃は紙でも裂くにも似た容易さで、敵を斬り捨てる。 刀だけは研ぎ澄まされていた。彼の頭はぼうっと熱を持って、沸いているのかと疑うほどに思考を奪われている。「──ん」 血潮が噴き出て、白かった刀が真っ赤に濡れる。また喪うことになる。それだけは、それだけは──!「春香さん!」 リズの叫びで、春香はハッとした
「俺とお前なら、最強になれる」 春の風が木々を揺らす中、弟は兄の言葉を聞いていた。紅玉のような瞳で、兄の銀朱の瞳が向かう先を見る。どこまでも青い空が、葉の隙間から覗いている。 「師匠だって超えられる。妖魔だって龍だって狩れる、最強の狩人に、だ。だろ、春香」 春香と呼ばれた弟は、まだそう大きな肉体をしていない。まだ数えで十一なのだ。 「だが、兄上。大陸に行くんだろう? 武者修行だとか……」 岩の家に並んで腰かける二人。兄の銀髪と、弟の黒髪。 「四年もすれば帰ってくるって。そんときゃ手紙を送る。港で出迎えてくれよ」 兄の名は、鷹眼。その名に違わぬ鋭い瞳が、再び弟と見える時。二人の夢は、終わる。 ◆ 鶏の朝鳴きが屋敷に響いた。薄明の空の下で、男たちが動き出す。庭の井戸の周りに集えば、褌姿の彼らは、 「若様、おはようございます!」 と頭を下げて叫んだ。 「ああ、おはよう」 若様。その名を雷業春香という。彼もまた、褌だけだ。男たちにも負けず劣らず、筋肉質な五尺八寸の体を明るくなり始めた空の下に晒している。肉体から滴り落ちる水はそのままに、縁側へと向かう。 「しかし、若様は早起きでいらっしゃいますな。流石、雷業家の跡取りというだけのことはある」 「お世辞はいい。水浴びを済ませろよ」 総髪の春香は縁側に置かれた手拭いを取り、体を拭き始めた。桃の花が散って、板の上に落ちる。 すっかり水滴を拭った彼は、足の裏を拭いてから縁側に上がる。座敷に入ると、老婆が待っていた。 「朝餉の用意が出来ておりますよ」 「ありがとう。腰の様子はどうだ?」 「ご当主の手配してくださった薬がよく効いております。ご心配なさらず」 腰の曲がった老婆に連れられ、春香は奥座敷へ。既に配膳も終わり、コの字に膳が並んでいた。春香は、上座の斜め前に着く。 「父上、おはようございます」 「うむ」 父、春成。息子と同じ、紅玉のような瞳と夜の色をした黒髪だ。が、両頬には鱗めいたものが浮かんでいる。そこから首を這い、胸元にまで伸びる。ただの紋様ではなく、死期の近いことを告げる、狩人にとっての砂時計だ。 「兄様、森の様子はいかがでしたか?」 父の鱗が、また増えていることに顔を背けるしかなかった春香は、向