春香一行は、王国軍の兵士や狩人補佐を伴って、南への道にあった。吹き荒れてはいないが、やはり雪は舞っている。外套越しの空気もあり、春香は手綱を握る手が凍ってしまわないか、とさえ考えてしまう。「春香様、よろしかったのですか?」 馬上の春香へ、凪彩が問う。「もう少しスグフで待てば、陛下から下賜されるものもあったのでは……」「俺は、ルドハーウ王とは反りが合わないかもしれない」 脚の短い、ずんぐりむっくりとした馬の上だ。「それに、長居しているうちにクィオウに危害が及ぶ可能性もある。急ぎたかったんだ」「心中お察ししますが、情報収集も追いついておりません。今晩は、道中の村で一泊いたしましょう」 その言葉に従い、一行は農閑期の村に入った。西の彼方に沈む夕暮れが、白く染まった街の色を変えていく中。春香は、物思いをしながら、どっかりと宿屋の食卓に腰を下ろす。 サダリはクィオウを侮辱した。その上龍仕人だ。殺してしまって良心の呵責を起こす相手ではない。そう言い聞かせても、ルドハーウ王の言葉が蘇る。(金貨二百枚の年金、か) それだけあれば、どう贅沢したって暮らしていける。狩人などという仕事は捨てて、隠遁してしまっても構わないだろう。 だからこそ、受け取ろうとは思えなかった。狩人たることが己の生きる本分ならば、それを捨ててしまうという選択肢を持つわけにはいかない。(父上から受け継いだもの。リズを守るために必要なもの。クィオウを助け出したあとのこと) 狩人という立場から逃げた時、己の心情は毀損されてしまう。そう思えて、眉間に皺を寄せる。「お兄様は、ずっとそのようなお顔ですのね」 そう、向かいの席から声がかかる。「カガリ……」「老け込んでしまいますわ。どうか、明るくなさって」 男だか女だかわからない──つまりは弟か妹かも判然としない相手に、春香は紅玉の瞳を向けた。「すまないな。俺も、疲れているのかもしれない」「一日馬に乗ってらしたのだもの。お疲れになって当然のことでしてよ」「そうです、春香様」 凪彩もやってきた。熱い茶で満たされたカップが、春香の前に置かれる。カガリにも与えられ、その隣に彼女は茶と共に腰掛ける。「本来なら鉄道で移動するのですが……生憎、ヘヴノヴールまでの線路は破壊されておりましてね。前時代的な馬に乗るよりないのです」「鉄道、か。
Last Updated : 2026-09-28 Read more