春香は、沈黙の支配する街にいた。真っ黒な空の下で、誰の気配もなく、ただ孤独に目抜き通りを歩いていいた。 故郷なのだろうか、という疑問が湧いたが、彼の頭はそれを一瞬で肯定する。 「お前が守れなかった故郷だ」 声が聞こえる。刹那、足元に血が広がる。内臓が、首が、転がっている。家々が燃え盛っている。 「ねえ、兄様」 背後から、消えそうな声がする。振り向くと、そこには銀色の髪と琥珀の目をした、妹の夏目が立っていた。 「どうして、来てくださらなかったの?」 違うんだ、と発しようとした言葉は、喉の辺りに詰まってしまう。 「兄様が来ると、ずっと信じていたのに」 距離があった。どうしようもなかった。そんな音の数々は、声帯に膜の貼ったように、出てこない。 「そんなに、留学生の方と一緒にいたかったの?」 せめて触れようと手を伸ばせば、どこにも届かないまま空を掴む。 「そうよね、クィオウさんも救えなかった兄様には、荷が重いのよね」 クィオウ。クィオウ・ニーウ。その名前を、春香は片時も忘れたことがない。己の弱さ、悔恨の象徴なのだから。 「春香さん」 また背後から声が出た。知っている。今、何より手放したくないリズの声。 「また、逃げるの?」 夏目の琥珀の瞳が、紅玉の瞳を震わせる。いつもこうだった。彼は、心が痛むと視界が揺れる。 「春香さん、聞こえますか!」 リズの張っても張っても細
Last Updated : 2026-08-28 Read more