床へ打ちつけた身体に、鈍い痛みが走る。 それでも一瞬たりとも立ち止まらず、千温はすぐさま起き上がると、扉を目指して駆け出した。 背後から、自分の名を呼ぶ幸次の声が聞こえる。続けて、モデルに向かって「どれだけ俺に抱かれたくて仕方ないんだ」と悪態をつく声も聞こえてきた。 千温は決して振り返らなかった。 幸次に追いつかれ、再びあの部屋へ連れ戻されることが、怖くてたまらなかった。 乱れた衣服を直す余裕すらなく、そのまま廊下へ飛び出し、階段を駆け下りていく。 途中ですれ違った人も、ロビーにいた大勢の客も、千温の姿を目にして驚いたように振り返った。それでも、今の千温には周囲の視線を気にしている余裕などなかった。 ホテルの正面玄関から外へ飛び出して、ようやく足を止める。 そこで初めて大きく乱れた胸元に気づき、千温は泣きながら、震える手で外されたボタンを一つずつ留めていった。 ホテルを出ても、恐怖はまるで消えなかった。 足を止めることもできず、どこへ向かっているのかさえ分からないまま、千温はしばらくひたすら走り続けた。 やがて開けた場所まで辿り着いたところで、ようやく足を止める。 心臓は壊れそうなほど激しく脈打っていた。 突然の全力疾走に身体が耐えきれなくなり、千温はその場に崩れ落ちる。地面に座り込んだまま、肩を大きく上下させ、何度も荒い呼吸を繰り返した。 少し離れた場所で、誰かがそんな千温に気づき、足を止めた。 数秒後、その人影がゆっくりと千温のもとへ近づいてくる。「……大丈夫ですか?」 聞き覚えのある、心地よい声が頭上から降ってきた。 千温の胸は、今も激しく上下している。 どうにか顔を上げ、相手の姿を確かめた。大丈夫だと答えようと唇を開きかけたものの、そこにあったのは、見覚えのある顔だった。「祐理……さん……?」 祐理もすぐに、目の前にいるのが千温だと気づいた。 一瞬、その顔に再会を喜ぶような表情が浮かぶ。けれど、乱れた服と涙に濡れた顔を目にした途端、表情は一変し、その眉が深く寄せられた。 祐理は千温の前に屈み込み、そっと手を差し伸べた。「立てそうか? 無理そうなら、俺が抱き上げてもいい?」「……」 こんなところで偶然、祐理と再会するとは思ってもいなかった。 先ほどまでの恐怖からまだ抜けきれていないこともあり、千温は呆然
Last Updated : 2026-10-08 Read more