病院に着く頃には、すっかり空が暗くなっていた。 面会の記入を済ませ、病棟の廊下を歩いた。拓真との電話を切ってから、スマートフォンは一度も鳴っていなかった。 父は窓側のベッドに横たわっていた。 「お父さん、来たよ」 枕元の椅子を引き、鞄を足元へ置いた。呼びかけても返事はなかったが、顔を見ているうちに、肩に入っていた力が少し抜けた。 「今日はね、仕事で困ってる人がいて、一緒に調べたんだ」 私は、会社で起きた小さな問題を話した。最初は原因が分からなかったこと。残っていた記録を見ながら、昨日と違うところを探したこと。 「まだ確認することはあるけど、止まっていたものは動くようになったよ」 仕事のことなら、言葉が続いた。 父が聞いてくれたら、きっと途中では口を挟まず、最後に「よかったな」と笑っただろう。 「家のことも、大丈夫だよ」 いつものように口にしてから、父の顔を見た。 その先が続かなかった。 拓真と結婚したいと告げた時のことを思い出した。 父は私の顔を見たまま、しばらく何も言わなかった。 「澪、その結婚には賛成できない」 「どうして?私、拓真さんとなら幸せになれるよ」 私は拓真がどれほど優しいかを話し続けた。父に分かってもらえさえすれば、最後には祝ってくれると思っていた。 「お父さんに心配かけないから。大丈夫だから」 あの時は、迷わずに言えた。
آخر تحديث : 2026-09-13 اقرأ المزيد