Todos los capítulos de 無香は朔夜に薫る ―妹が婚約者を寝取った夜、私は冷血軍神の「運命の番」に刻まれた―: Capítulo 51 - Capítulo 54

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第51話 父からの手紙

 初夏の朝、御影家の庭には、雨上がりの清々しい光が満ちていた。 夜のうちに降った雨は既に止み、庭石の窪みに残された雫が朝日を受けて輝いている。青々と茂った楓の葉が風に揺れるたび、軒先には涼やかな影が落ち、開け放たれた窓からは、湿り気を帯びた土の匂いが微かに漂ってきた。 麗香は居間の窓辺に腰を下ろし、先日の慈善夜会で知り合った夫人への礼状を認めていた。 あの夜、少女たちの教育について語り合った人々の顔を思い出すと、自然と筆が進んだ。香の強弱や生まれ持った縁に囚われず、一人一人が自らの望む道を歩める世の中にしたいという願いは、まだ漠然としたものでしかなかったが、それでも、こうして新たな縁を結ぶことが、その第一歩になるように思えたのである。「奥様、お手紙が届いております」 志乃が銀盆を手に現れたのは、ちょうど一通を書き終えた頃だった。「ありがとう。どなたからかしら」「それが……桐生様からでございます」 麗香は、差し出された封筒を見て息を止めた。 表には、見覚えのある筆跡で御影麗香と記されている。 父、和馬の字だった。「……お父様から」 麗香は封を切り、中の便箋を広げた。 文面は短かった。 亡き母の遺品について話しておきたいことがあるので、一度桐生家へ来るように。都合のよい日を知らせてほしい、と。 娘の暮らしを案じる言葉も、久方ぶりの便りを詫びる挨拶もない。いかにも父らしい、用件だけを伝える文章だった。 しかし、麗香の目は、ある一節に釘付けになっていた。 ――亡き母の遺品について。 母のことを調べ始めてから、幾つもの手掛かりを辿ってきた。 けれど、母がどのような家に生まれ、なぜ桐生家へ嫁ぐことになったのか、その肝心な部分だけは、今なお深い霧に包まれている。 父ならば、何かを知っているのかもしれない。 そう考える一方で、胸の奥には拭いきれぬ疑念もあった。 なぜ、今になって――。
last updateÚltima actualización : 2026-10-14
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 第52話 母の遺したしるし

 桐生家の門をくぐるのは、随分と久しぶりのことだった。 手入れの行き届いた生垣も、玄関へ続く砂利道も、正面の柱に施された古風な装飾も、かつて毎日のように目にしていたものばかりである。 それなのに、今はどこか他人の家を訪ねているような、不思議な心持ちがした。「……大丈夫か」 自動車で隣に座る朔が、静かに尋ねた。「はい。少し、緊張しているだけです」「無理をする必要はない。話したくないことまで、話すことはないからな」「ありがとうございます、朔様」 麗香は微笑み、膝の上で重ねていた手を解いた。 自動車が玄関前に停まると、使用人が出迎えに現れた。「御影少将閣下、奥様。ようこそお越しくださいました」 案内されたのは、屋敷の奥にある応接間だった。 窓辺には季節の花が活けられ、磨き上げられた卓上には、既に茶器が用意されている。 ほどなくして、父の和馬が姿を現した。「……よく来たな」 その声は、記憶にあるものと変わらず硬かった。「お久しぶりでございます、お父様」 麗香が立ち上がって頭を下げると、和馬は短く頷き、続いて朔へ向き直った。「御影少将閣下までお越しとは、恐れ入ります」「妻の母君について話があると聞いた。俺も同席させてもらう」「……左様ですか」 和馬は一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに取り繕うような笑みを浮かべた。「無論、構いません。どうぞ、お掛けください」 茶が運ばれ、使用人が退出すると、応接間には三人だけが残された。「それで、麗香。亡くなった母親のことを調べているそうだな」「はい」「今さら、何を知りたいというのだ。お前も既に嫁いだ身だろう」 予想していた言葉だった。 以前ならば、それだけで口を噤んでいたかもしれない。だが、麗香は父から目を逸らさなかった。「
last updateÚltima actualización : 2026-10-15
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第53話 銀の簪が導く先

 桐生家を訪ねた日の夜、麗香は寝室の窓辺に腰を下ろし、母の遺品である銀の簪を眺めていた。 昼間、父から受け取った桐の箱は、今は化粧台の上に置かれている。長い年月を経てもなお、簪に彫られた桜の花は繊細な輝きを失っておらず、灯火に照らされた銀の花弁は、まるで春の夜に咲く本物の桜のように見えた。 幼い頃、母がこれを髪に挿していた姿を覚えている。けれど、その裏側に紋章が刻まれていることなど、今日まで知らなかった。「……お母様」 麗香は小さく呟き、簪を掌に載せた。 父との対話を思い返せば、胸の奥には今も複雑な思いが残っている。母について何も知らないと言いながら、何かを隠しているようにも見えた父。 幼い頃から、その言葉に逆らうことなど考えもしなかった自分が、今日は初めて、はっきりと己の意思を告げることができた。 それが正しかったのかどうか、麗香にはまだ分からない。「……まだ起きていたのか」 背後から声がして振り返ると、寝間着に着替えた朔が立っていた。「朔様」「簪を見ていたのか」「はい。母のことを、少し思い出しておりました」 朔は麗香の傍らへ歩み寄り、簪へ目を落とした。「今日のことが、気になっているのか」「……はい。お父様に、あのようなことを申し上げたのは初めてでしたから」「後悔しているのか」 麗香は少し考えてから、静かに首を振った。「いいえ。ただ、私にもあのように言える日が来るのだと、不思議な気持ちがいたします」「お前は、何も間違ったことを言っていない」 朔はそう言って、麗香の隣に腰を下ろした。「母親のことを知りたいと願うのは、当然のことだ。それを誰かに許してもらう必要はない」「……ありがとうございます」 麗香は微笑んだ。「朔様がご一緒にいてくださったからこそ、勇気を出せたのだと思います」
last updateÚltima actualización : 2026-10-16
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第54話 越えてはならぬ一線

 桐生家の書斎に、電話の呼び鈴が鳴り響いた。『例の件だが、その後、何か変わったことはないかね』 聞こえてきた声に、和馬の背筋が強張った。 先日、二十数年ぶりに連絡を寄越した、あの男だった。「……娘は、先日こちらへ参りました。亡き母の遺品を渡し、もう過去を詮索するなと申し聞かせましたが……」『聞き入れなかったのだな』「はい。御影少将まで同席しておりましたので、あまり強くも申せず……」 受話器の向こうで、短い溜息が聞こえた。『困ったものだ。こちらとしても、穏便に済ませたかったのだがね』 和馬は唇を引き結んだ。『あの娘は、宮内省の古い記録にまで手を伸ばしているらしい。御影家の力を借りて、余計なことを嗅ぎ回っているようだ』「……それは、存じませんでした」『君にも分かるだろう。二十数年前のことが明るみに出れば、桐生家も無事では済まない。あの婚姻に際して、君が何を引き受けたのか、世間が知ればどう思うかね』 和馬は机の引き出しへ目を向けた。奥には、かつて交わした約束の書状が、今も封筒に収められている。「……ですが、御影少将の妻ですぞ。万一のことがあれば、ただでは済みますまい」『だからこそ、君には何もしてもらわなくてよいのだよ』 男は、世間話でもするような穏やかさで言った。『ただ、今後あの娘について何か耳にしても、こちらへ問い合わせたり、余計な忠告をしたりせぬことだ。君は何も知らなかった。それでよい』 和馬の喉が、ひどく乾いた。「……まさか、あの娘を」『桐生君』 男の声が、僅かに低くなった。『君も、以前はあの娘を厄介払いしようとしていたのではなかったかね。今さら父親らしい情を持ち出すこともあるまい』 和馬は答えられなかった。 九条家との婚約が破談になった折、桐生家の
last updateÚltima actualización : 2026-10-17
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