あれほど帝都を騒がせた密会騒動も、真相が明らかになってしまえば、御影家の日々をいつまでも乱し続けるものではなかった。 門の外に記者の姿を見ることもなくなり、朝になれば使用人たちが廊下を行き交い、昼には庭師が枝を整える鋏の音が庭から聞こえてくる。 そんな穏やかな午後。「麗香姉様。そこ、違います」「え?」「そこです。先ほどから同じ行を三度も読んでいらっしゃいます」 居間の長椅子で本を開いていた麗香は、向かいの卓で勉強している小夜に指摘され、目を瞬かせた。 確かに、目の前の洋書は少しも読み進んでいない。「……少し考え事をしておりました」「兄様のことですか?」「なぜそうなるのです?」 思わず声が上擦った。 小夜は筆を置くと、いかにも不思議そうに首を傾げる。「だって、最近の麗香姉様、兄様のことを考えている時だけ分かりやすいですもの」「そ、そんなことは……」「あります」 きっぱりと言われてしまった。 麗香は逃げるように本へ視線を戻した。 けれど活字を追おうとすればするほど、別のものが頭へ浮かんでくる。 あの日。 新聞に清雅との写真が載った夕暮れ。『俺は、お前がそんなことをする女ではないと知っている』 そう言った朔の声。 自分から重ねた指。 それを拒むどころか、包み返してくれた大きな手。 ――朔様が、私の夫でよかったと思いました。 あんなことを口にした自分を思い出すだけで、頬が熱くなる。「それにしても」 小夜が頬杖をついた。「兄様と麗香姉様って、不思議ですわね」「何がでしょう?」「夫婦なのに、少し他人行儀すぎません?」 麗香の指が止まる。「兄様は麗香姉様のお部屋へほとんど行きませんし、麗香姉様も兄様のお部屋へ御用がなければ行
Última actualización : 2026-09-19 Leer más