父・皆川信太郎(みながわ しんたろう)が息を引き取ってから3日目、裕康はようやく帰宅した。玄関のドアを開けた瞬間、ソファで小さく縮こまり、目を腫らしてやつれ果てた和佳奈の姿が目に飛び込んできた。激しい罪悪感に駆られた裕康は大股で駆け寄り、和佳奈の華奢な体を抱きしめた。「和佳奈……すまない。急な会議でパレーシアへ飛ばなきゃならなくて、時差のせいで電話に気づけなかった。葬儀にも立ち会えず、本当に申し訳ない。俺が悪かった。埋め合わせは必ずする。欲しいものは何でも買ってやるから、な?」和佳奈は夫の言い訳を静かに聞いていた。だが、その瞳には何の感情も浮かんでいない。何も言わずにバッグから厚みのある2部の契約書類を取り出すと、肝心の表題を付箋で巧みに隠し、最後の署名欄だけを広げて裕康へ差し出した。「ヒロさん。私、この2つが欲しい。サインして」裕康は安堵のため息を漏らし、慌ててペンを走らせて署名した。一切の躊躇もないその手つきに、和佳奈の目頭が熱くなった。「中身も見ないでサインするなんて……とんでもなく高価なものをおねだりしてたらどうするの?」裕康は困ったように微笑み、和佳奈を優しく抱き寄せた。「俺たちは夫婦だろう?俺の財産はお前のものだし、子どもが生まれたらお前とこの子のものだ。欲しいものは何だって手に入れていい」そう言って身をかがめると、和佳奈のお腹に耳を寄せて赤ちゃんの気配を確かめた。「今日は妊婦健診の日じゃなかったか?赤ちゃんはいい子にしてる?俺も一緒に病院へ行こう」和佳奈は口を開かなかった。肯定も否定もしなかった。裕康はそれを同意と受け止め、体を労わるように支えて車へ乗せた。車内には息の詰まるような沈黙が漂い、互いに言葉を発しなかった。裕康が場を和ませようと話題を探し始めたその時、スマートフォンが無機質に鳴り響いた。「裕康、帰国したの。会いたいな」助手席との距離が近く、受話口から漏れた清良の甘えた声は、和佳奈の耳にもはっきりと届いた。和佳奈は無意識に指先を強く握りしめた。直後、裕康は通話を切り、取り繕うような笑みを向けた。「急な仕事が入っちゃった。健診、1人で行ってこられるか?」和佳奈はその稚拙な嘘を暴くこともせず、静かにドアを開けて車を降りた。身を切るような木枯
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