朝から鼻歌が止まらない。 今日は柴崎さんと食事に行く予定だからだ。 後ろからグエンが、 「何かあったなあ~」 めざといグエンが目を細めている。 「別に…、またゆっくり話すから」 なんだか人に話すと昨日の話が消えてしまうのではないかと思ってしまう。今は私だけの秘密にしたかったから。 「ふーん」不機嫌そうに立ち去るグエン。 「早く支度しなよ、早出でしょ?お見送りしてあげる」 「はいはい」 お見送りは私たちの疑似家族みたいな儀式になっていた。 グエンが出勤してから掃除をしていたらスマホが鳴った。 誰だろう? 「あっ!」 アンジェが子供を抱いている画像だった。 メッセージには無事出産の報告と 大事な親友の名前にあやかってマリーにしたよ。と。 日本に来た初日、ベッドで泣いていたアンジェがママになった。 今思えばアンジェが妊娠した時に私はおめでとうと心から祝福したつもりだったが、アンジェは不安だったと思う。 Binabati kita! Nawa’y pagpalain kayo ng Diyos, ikaw at ang iyong napakagandang anghel na si Marie. (おめでとう!あなたと、あなたのとても素敵な天使マリーに、神様の祝福がありますように) 返信した後、いつか帰国した時に小さなマリーと会える楽しみができたと嬉しく思えた。 掃除を終え鏡の前で何度も前髪を直している、落ち着かない。 待ち合わせは駅前、また柴崎さんが先に待っている。 「すみません、遅くなりました。今日はどこに行くんですか?」 「うん、三津浜まで行こわい。マリアさんに見せたい景色があるんよ」 いつものラーメン屋ではなく少し遠くの港町まで行くと言う。 昨日までとは違い、伊予弁はなんだかくすぐったい。 車の中は静かだったが気まずさはなかった。 窓の外を流れる景色を見ながら私はふとスマホの中のアンジェの写真を思い出していた。 「そういえば、今朝アンジェから連絡が来たんです」 「アンジェさん?」 「訓練校で一緒だった子です。帰国してから、無事に赤ちゃんを産んで、名前を『マリー』にしたって」 写真を見せると柴崎さんは一瞬だけ目を細めた。 「マリーって、マリアさんから取ったん?」 「はい。恥ずかしいですけど、そう言
Last Updated : 2026-09-20 Read more