玄関のチャイムが鳴ったのは、火曜日の午後だった。 宅配の伝票に書かれた差出人の名前を見た瞬間、沙耶の胸の中で何かが、ほんの少しだけ緩んだ。 高梨美和。母からだった。 段ボール箱を開けると、新聞紙に丁寧に包まれた野菜が出てきた。大根が一本。人参が三本。ほうれん草の束。それから、泥のついたままの里芋が袋に入って。 実家の近所の農家から分けてもらったものだろう。子どもの頃から、この時期になると必ず届いた。野菜の種類は毎年少しずつ違うけれど、新聞紙の包み方だけはいつも同じだった。几帳面に、でも温かみのある手つきで、角を折って止めてある。 箱の底に、封筒が一枚入っていた。 便箋ではなく、メモ用紙を折りたたんだものだった。 沙耶は台所のテーブルに座って、それを開いた。沙耶へ。声が変だったから心配してます。お父さんも何も言わないけど気にしてるよ。食べてね。 三行だった。 沙耶は、その三行を三回読んだ。 四回目を読もうとして、視界がにじんだ。 「声が変だった」という一文が、思ったより深いところに刺さった。自分では気をつけていたつもりだった。普通に話していたつもりだった。でも母には、わかってしまったらしい。 電話越しの声を、三行の手紙にして、野菜と一緒に送ってくる。それがこの人のやり方だった。「大丈夫?」と何度も聞いてくることも、「話してごらん」と迫ってくることも、しない。ただ、野菜を送る。 その加減が、今夜の沙耶には少し、苦しかった。 達哉が帰ってきたとき、箱はもう片付けてあった。「何か届
Huling Na-update : 2026-09-14 Magbasa pa