一月の空は、低くて白かった。 神崎のオフィスに向かう電車の中で、沙耶はスマートフォンの画面をひらいた。何度も見返してきた、自分が書いた言葉たち。スクロールしながら指先が、かすかに冷えていた。 緊張、だと思った。 でも、以前の緊張とは少し違う。以前の緊張は、「うまくやらなければ」だった。今日の緊張は──「ちゃんと届けたい」だった。 その違いが、自分でもわかった。 KAN DESIGN LABのオフィスは、ガラス張りのミーティングルームが三つ並んでいる。沙耶が案内されたのは一番奥の部屋だった。すでに三人が席についていた。神崎のチームのうちの二人と、神崎本人。 「岸谷さん、どうぞ」 神崎が立って椅子を引いた。沙耶は「ありがとうございます」と言いながら、上着をたたんでバッグの上に置いた。 落ち着いた動作を、意識してやっていた。 でも意識しないといけないくらい、手が震えていた。 資料を配り終えて、沙耶は立った。 プロジェクターに、最初のスライドが映る。白地に、黒い文字だけ。余白を大きく取った、飾りのないデザイン。沙耶がこのブランドのために最初に決めたことだった──言葉が主役でなければならない、と。 「では、コンセプトの草案をご説明します」 声が、思ったよりも落ち着いていた。 「このブランドのターゲットを定義するにあたって、まず"誰のためのブランドではないか"から入りました」 神崎が、わずかに前のめりにな
Huling Na-update : 2026-09-24 Magbasa pa