Lahat ng Kabanata ng RE:RE:RE 離婚してください~都合のいい女、やめました~: Kabanata 31 - Kabanata 40

52 Kabanata

第31話 コンセプトの言葉

一月の空は、低くて白かった。 神崎のオフィスに向かう電車の中で、沙耶はスマートフォンの画面をひらいた。何度も見返してきた、自分が書いた言葉たち。スクロールしながら指先が、かすかに冷えていた。 緊張、だと思った。 でも、以前の緊張とは少し違う。以前の緊張は、「うまくやらなければ」だった。今日の緊張は──「ちゃんと届けたい」だった。 その違いが、自分でもわかった。 KAN DESIGN LABのオフィスは、ガラス張りのミーティングルームが三つ並んでいる。沙耶が案内されたのは一番奥の部屋だった。すでに三人が席についていた。神崎のチームのうちの二人と、神崎本人。 「岸谷さん、どうぞ」 神崎が立って椅子を引いた。沙耶は「ありがとうございます」と言いながら、上着をたたんでバッグの上に置いた。 落ち着いた動作を、意識してやっていた。 でも意識しないといけないくらい、手が震えていた。 資料を配り終えて、沙耶は立った。 プロジェクターに、最初のスライドが映る。白地に、黒い文字だけ。余白を大きく取った、飾りのないデザイン。沙耶がこのブランドのために最初に決めたことだった──言葉が主役でなければならない、と。 「では、コンセプトの草案をご説明します」 声が、思ったよりも落ち着いていた。 「このブランドのターゲットを定義するにあたって、まず"誰のためのブランドではないか"から入りました」 神崎が、わずかに前のめりにな
last updateHuling Na-update : 2026-09-24
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第32話  達哉の違和感

翌朝、沙耶が仕事部屋でコーヒーを飲んでいると、達哉がドアを開けた。 ノックはなかった。 「朝ごはん、まだ?」 「今日は早めに作業したくて。パンとヨーグルト、出しておいたよ」 「……そういうことじゃなくて」 達哉は部屋の中を一度見回してから、何も言わずにドアを閉めた。 沙耶はコーヒーカップを持ったまま、閉まったドアを見た。 怒っているわけではない。でも、何かが気に入らない。そういう気配だった。以前の沙耶なら、そこで立ち上がって台所へ行った。今日は──もう一口、コーヒーを飲んだ。 その日の夜、達哉がソファに座りながら言った。 「最近、俺の話聞いてる?」 沙耶はダイニングテーブルで作業していた。顔を上げた。 「聞いてるよ」 「なんか上の空じゃん」 「そんなことないと思うけど」 「思うけど、って」 達哉が少し声のトーンを変えた。怒鳴るわけじゃない。でも、圧がかかる方向に動いた声だった。 「俺が話しかけても、なんかここにいない感じがするんだよね、最近」 沙耶は手を止めた。 ここにいない。 その言葉を、沙耶は頭の中で繰り返した。責めているのか、心配しているのか、それとも別の何かなのか。達哉の言葉はいつ
last updateHuling Na-update : 2026-09-25
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第33話  美和の勘

 木曜日の午後、スマートフォンが鳴った。 画面に「お母さん」と出た。沙耶は作業の手を止めて、通話ボタンを押した。「もしもし」「沙耶、今大丈夫?」 美和の声は、いつも少し大きい。電話口でも、目の前にいるときと同じ温度で話す人だった。「大丈夫だよ。仕事の合間」「そう。ちょっとだけ聞いていい?」「うん」 少し間があった。 美和が「ちょっとだけ」と言うときは、本題が重いときだ。沙耶はそれを知っていた。「達哉さんと、うまくいってる?」 沙耶は、すぐに答えなかった。 一秒か、二秒か。その間に、いくつかの言葉が頭をよぎった。 大丈夫だよ。普通だよ。心配しないで。 並んだ言葉の中から、沙耶は一つを選んだ。「……普通だよ」「そう」 美和は短く答えた。責めるでもなく、追うでもなく、ただ「そう」と言った。 それから少し間を置いて、続けた。「お母さん、変なこと言うけど」「うん」「あのね、沙耶が『普通』って言うとき、普通じゃないときなのよ」 沙耶は、笑った。 声が出た。小さな、でも本物の笑いだった。 おかしかった。おかしくて、でも笑いながら、目の奥が熱くなった。「そんなことないよ」
last updateHuling Na-update : 2026-09-26
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第34話 仕事部屋、もう一度

 土曜日の朝、達哉はゴルフの打ちっぱなしに出かけた。 「昼前には帰る」と言い置いて、玄関のドアが閉まった。 沙耶はしばらく、その静けさの中に立っていた。 一人だ、と思った。 怖くなかった。むしろ──空気が、少し広がった気がした。 コーヒーを入れて、仕事部屋に入った。 窓の外は曇っていたが、光は入ってきた。デスクの上に、先週買った小さな観葉植物が一つある。ポトスだった。「育てやすいですよ」と花屋の人が言った。沙耶は達哉に言わずに買った。言う必要がなかったから。 デスクに座って、コーヒーを飲みながら部屋を見回した。 納戸だったころの名残は、もうほとんどない。段ボールは全部押し入れに移した。壁に小さなコルクボードを貼って、打ち合わせのメモや、神崎から共有されたスケジュールを留めている。窓の桟に、彩乃がくれたドライフラワーが一輪。 たった一畳ほどの空間だった。 でも、この部屋だけが、沙耶には「自分の場所」だった。 作業を始めてしばらくして、ふと手が止まった。 今日の作業は、新ブランドのビジュアルコンセプトの整理だった。言葉はできた。次は、それを視覚に翻訳していく段階。沙耶が一番好きな工程だった。言葉と絵が重なっていく瞬間、何かが生まれる感覚がある。 スケッチブックを開いて、鉛筆を持った。 最初の一本を引いたとき──気づいた。 音がない。 達哉がいるとき、沙耶は常に耳の一部を廊下に向けていた。足音。ため息。「ねえ」と呼ぶ声。いつ何を求められるかわからない緊張が、薄く、でも絶えず、体のどこかに張り付いていた。
last updateHuling Na-update : 2026-09-27
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第35話  達哉、気づく

月曜日の夜、達哉が帰ってきたのは八時過ぎだった。 沙耶は仕事部屋で作業をしていた。夕飯は作ってあった。テーブルの上に並べて、「温めて食べて」とメモを貼っておいた。 玄関のドアが開く音がした。 「ただいま」 「おかえり」と沙耶は仕事部屋から答えた。 しばらく、台所で物音がしていた。電子レンジの音。食器の音。達哉が一人で夕飯を食べている音。 以前の沙耶なら、作業を中断して台所に行った。「遅かったね」と言って、お茶を出して、向かいに座った。達哉が一人で食べることを、なんとなく申し訳なく思っていた。 今夜は──作業を続けた。 悪いことをしている感覚は、なかった。 食器を洗う音がして、しばらくして、廊下に足音がした。 仕事部屋のドアが開いた。ノックはなかった。 達哉が部屋の中に入ってきた。 「何の作業」 「ビジュアルコンセプトの整理。来週の打ち合わせまでに仕上げたくて」 達哉は部屋の中を見回した。土曜日にも見た部屋だったが、今夜は何かが違う見方をしている、という気配があった。 コルクボードに留められたメモ。デスクの上のスケッチブック。開いたままのノートパソコン。神崎との打ち合わせ資料が画面に映っていた。 達哉の目が、画面の上で一瞬止まった。 「……神崎さんの仕事?」
last updateHuling Na-update : 2026-09-28
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第36話  初めての仕事部屋

火曜日の朝、達哉が出かけた後、沙耶は仕事部屋に入った。 いつもと同じ朝だった。コーヒーを入れて、パソコンを開いて、今日の作業を確認する。でも今朝は、椅子に座った瞬間に、少し違う感覚があった。 昨夜のことが、まだ部屋の空気に残っている気がした。 達哉が立っていた場所。コルクボードの前。「俺に断らずに勝手に決めただろ」という声のトーン。「好きにしろ」と言って出て行った背中。 沙耶はコーヒーを一口飲んだ。 残っている、と思った。でも──昨夜より、軽くなっている。 一晩経つと、そういうことがある。昨夜は複雑な感触のまま眠りについたのに、朝になると少し整理されている。体が、眠っている間に何かをしているのかもしれない。 沙耶はパソコンを開いた。 今日の仕事を、始めた。 午前中、集中して作業をした。 ビジュアルコンセプトの整理が、だいぶ形になってきた。言葉と絵が重なっていく感覚──先週土曜日に感じたものの続きが、今日もあった。 途中で一度、手が止まった。 コルクボードを見た。 神崎との打ち合わせメモ、スケジュール、ブランドコンセプトの断片。達哉が昨夜、この前に立って「全部神崎の仕事?」と言った。 沙耶は少しの間、コルクボードを見ていた。 何かを変えようとは思わなかった。剥がそうとも、隠そうとも思わなかった。ただ──このボードが自分の思考の地図で、ここが自分の場所だということを、改めて確かめた。
last updateHuling Na-update : 2026-09-29
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第37話  師走の義実家

十二月の第二日曜日、義実家への年末挨拶だった。 沙耶は朝から、少しだけ気が重かった。 気が重い、と気づいた自分に気づいた。以前は気が重いことを、気が重いと思わなかった。義実家に行く前の、この感覚に名前をつけることを、してこなかった。ただ「頑張らなければ」という別の感覚で上書きしていた。 今朝は──気が重い、とはっきり思った。 それだけで、少し楽だった。 電車で三十分。岸谷家は郊外の一戸建てだった。 チャイムを押すと、景子が出てきた。 「あら、いらっしゃい。寒かったでしょう、どうぞどうぞ」 笑顔だった。温かそうな笑顔だった。 沙耶は「お邪魔します」と言って、手土産を渡した。デパートで選んだ焼き菓子の詰め合わせ。景子の好みに合わせた。そのくらいのことは、二年間で覚えていた。 リビングに入ると、常夫が椅子に座っていた。新聞を持っていた。 達哉が「父さん、来たよ」と言った。 常夫が顔を上げた。達哉を見た。「ああ」と言った。 沙耶には、目を向けなかった。 昼食は景子の手料理だった。 煮物、焼き魚、漬物、味噌汁。丁寧に作られた、手間のかかる献立。景子は料理が上手だった。それは本当のことだった。 食事の間、常夫は達哉と話した。 会社のこと、景気のこと、近所の再開発のこと。達哉が相槌を打って、時々自分の意見を
last updateHuling Na-update : 2026-09-30
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第38話  年越し

 大晦日の夕方、沙耶はスーパーで年越しそばの材料を買った。 人が多かった。かごを持った人たちが、売り場の前で立ち止まっては動いた。沙耶はえびと三つ葉と、だしのきいためんつゆを選んだ。達哉はかき揚げそばが好きだった。二年間で覚えたことの一つだった。 レジに並びながら、ふと思った。 今年最後の買い物だ。 去年の大晦日、何を買ったか、覚えていない。おそらく同じものを買ったのだと思う。同じスーパーで、同じかごを持って、同じレジに並んだのだと思う。でも去年の自分は今日の自分とは、何かが違う。 何が違うのか、すぐには言葉にできなかった。 でも──違う、とわかった。 家に帰ると、達哉はまだ帰っていなかった。 大晦日も、会社は午前中まであったらしい。友人と軽く飲んでから帰ると、昨日言っていた。 沙耶は一人で台所に立った。 えびの殻をむいた。三つ葉を洗った。だしを温めた。一人分の準備を先に整えてから、達哉の分を後でのばせるように段取りした。 以前は、こういうとき待った。 達哉が帰ってくるまで、夕飯の準備を始めなかった。何時に帰るかわからなくても、待った。一緒に食べることが「ちゃんとした夕飯」だと思っていたから。でも待っている間、何をすればいいかわからなくて、ただソファに座っていた。 今夜は──自分のペースで動いた。 達哉が帰ってきたとき、台所からいい匂いがしていた方が、お互いのためにいいと思った。 八時過ぎに、達哉が帰ってきた。「ただいま」「おかえり。そば、すぐできるよ」
last updateHuling Na-update : 2026-10-01
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第39話  新年の朝

 元日の朝、沙耶が目を覚ましたのは、七時前だった。 達哉はまだ眠っていた。昨夜のビールが残っているのか、いつもより深い寝息を立てていた。 沙耶は静かに布団を出た。 台所でお湯を沸かした。 昨夜、準備しておいたお茶の道具が並んでいた。急須と、少しいいお茶の葉。正月くらいは、と思って買っておいたものだった。 お湯が沸くのを待ちながら、窓の外を見た。 元日の朝の空は、薄く青かった。雲が少なくて、光がまっすぐ降りてきていた。昨夜の雲はどこかへ行っていた。 きれいだ、と思った。 それだけのことが、今朝は素直に思えた。 お茶を入れて、仕事部屋に入った。 窓の前のデスクに座った。お茶を両手で包んで、しばらく外を見た。 元日の光は、普通の朝の光より少し白い気がした。気のせいかもしれない。でも今朝の光は、部屋の中をいつもより明るく満たしていた。 ポトスの新しい葉が、光を受けていた。 三週間前に出てきた若い葉は、今朝見るとずいぶん大きくなっていた。薄い緑から、少し濃い緑に変わっていた。 育っている、とまた思った。 お茶を飲みながら、沙耶は考えた。 今年、何をしたいか。 去年の元日、同じ問いを立てたか。 立てていなかった、と思う。去年の元日の朝、沙耶は何を考えていたか。達哉のお雑煮を作らなければ、という段取りのことを考えていた気がする。義実家への挨拶が何日だったか、確認しなければと思っていた気がする。 自分のことを、考えていなかった。
last updateHuling Na-update : 2026-10-02
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第40話  根が、届いた

一月の第二週、新ブランドのコアコピーを仕上げる打ち合わせがあった。 神崎から「今週中に最終案を」と言われていた。沙耶は月曜日から、仕事部屋に長く座っていた。スケッチブックにメモを書いて、消して、また書いた。 言葉は、もう近くにある気がしていた。 でも、まだ手の中にない。 そういう感覚が、火曜日も水曜日も続いた。 木曜日の朝、沙耶は早く目が覚めた。 達哉はまだ眠っていた。 仕事部屋に入って、電気をつけずにいた。外からの光だけで、デスクの上が薄く見えた。 昨日書いたメモが、並んでいた。 あなたの選択を、誰も奪えない。 時間は、あなたのために流れている。 自分のための時間を、取り戻す。 どれも、惜しかった。でも、どれかが欠けていた。 沙耶はペンを持たずに、ただ窓の外を見た。 一月の朝は、空気が澄んでいた。光がまだ低くて、斜めに入ってくる。 何も考えないようにした。 考えないようにすると、頭の中が静かになった。静かになったとき──言葉が来た。 あなたの時間は、あなたのものだ。 沙耶はペンを取った。 メモに書いた。書いてから、声に出さずに、唇だけで読んだ。 ──これだ、と思った。
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