列車は、闇の中へ消えた。 最後まで残っていた鈴の音さえ、聞こえなくなる。「……チョコ」 イズミは線路を見つめたまま動けなかった。 黒い本だけが、冷たいホームの上で開いている。《白狐チョコ》《登録情報を照会》《該当する登場人物は存在しません》「そんなわけない」 イズミが呟く。「ずっといた」 第一話から。 石の鳥居の下に。 写真の中に。 白い世界に。 記憶領域に。 いつだって、あの鈴の音が自分を導いていた。「登場人物じゃないなら……チョコは何なの?」 誰も答えなかった。 代わりにタカオミが手帳を開く。「確認します」 ペン先が震えている。『白狐チョコは、少なくとも第一話以降、天野イズミたちと行動していた』『しかしFICTIONの登場人物情報には存在しない』「……待って」 イズミが振り返る。「第一話以降?」「はい」「違う」 頭の奥。 古い記憶が疼く。「もっと前からいる」 幼い自分。 石の鳥居。 白狐。『わたしがわすれても、チョコがおぼえてる』「子どものころから……」「その記憶が本物なら、です」 タカオミが静かに訂正した。 イズミは睨む。「今それ言う?」「言います」「チョコが連れていかれたのよ」「だからです」 タカオミは目を逸らさなかった。「イズミさんは今、冷静じゃない」「……」「記憶を根拠に結論を出したら、また利用されます」 言い返せない。 悔しい。 でも。「……わかった」 イズミは拳を握った。「じゃあ事実だけ」「はい」「チョコは、あの列車に乗った」「はい」「最終稿には、チョコだけ削除対象外と書いてあった」「はい」「そしてFICTIONは、チョコを登場人物として認識してない」「現時点では」「そこ大事?」「ものすごく」 タカオミは書き足した。『現時点では』 マキヒトが線路へ降りようとする。「追う方法を探す」「待って」 くるみが止めた。「線路から……声がします」「ミナ?」「違います」 くるみは目を閉じた。「たくさんいる」 ホームの空気が冷える。「さっきの列車にいた人たち」「ボツ原稿の?」「たぶん」 くるみの顔が歪む。「みんな、同じことを言ってる」「何て?」 くるみが目を開く。「――私を選んで」 その瞬間。 線
Last Updated : 2026-09-16 Read more