Lahat ng Kabanata ng ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する: Kabanata 21 - Kabanata 30

41 Kabanata

7.雪原に潜む影④

 それが何になるのかは本人にしか分からない。けれど、一針一針丁寧に動かされる手元は、まるで誰かの幸せをそっと祈っているようだった。 針の動きはあくまでゆるやかで、視線は折に触れてリリアンナの様子を伺っている。 リリアンナが額に手を当てればそっと水差しに手を伸ばして冷えた飲み物を用意し、ページをめくる音が止まれば気遣うようにリリアンナへ視線を送る。 まるで空気のようにそこに在りながら、リリアンナに寄り添う影のようだった。 静寂のなか、不意にコンコン……と扉が控えめに叩かれた。 クラリーチェが手を止め、軽く顎を引いてナディエルへ視線を送る。 ナディエルは静かに頷くと、音を立てぬよう静かに立ち上がって扉へと向かった。 少しだけ開けたドアの先には、執事のセドリックが控えていた。「お勉強中、失礼いたします。クラリーチェ先生宛に、王都より緊急の書状が届きまして」 そう言って差し出された封筒には、銀の百合の花と逆向きの金の三日月を描いた、繊細な印章があしらわれていた。 荘厳ななかにもどこか静謐さを湛えたその紋章には、誰の目にも一目で〝ただごとではない〟と分かる緊迫感が漂っていた。「失礼いたします」 ナディエルがそれを受け取り、そっとクラリーチェのもとへ差し出す。「先生、王都からの急ぎの手紙だそうです」 クラリーチェはその封蝋をひと目見るなり、ほんの少し目を見開き、「……実家から……?」と小さくつぶやいた。 封蝋に刻まれていたのは、彼女の生家――リヴィアーニ家の家紋だった。 クラリーチェは一瞬、顔をこわばらせながらも、静かにそれを手に取る。けれど封を切り紙面に目を走らせた次の瞬間、彼女の表情は見る間に蒼白になった。「……うそ。レオナルドが……?」 つぶやいたクラリーチェの、手紙を握る指先がわずかに震える。 リリアンナが心配そうにそんな自分の様子を見つめているのに気付いた
last updateHuling Na-update : 2026-09-28
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7.雪原に潜む影⑤

「……はい。待っています」「リリアンナ様は、本当にいい子ですね」 慈しむようにリリアンナの頭を撫でてから、クラリーチェは立ち上がった。 決然とした表情に戻しながらも、その瞳にはどこか不安気な色が滲んでいた。*** クラリーチェが部屋を辞してからの書斎には、どこか心細い空気が漂っていた。 リリアンナは気もそぞろなまま窓際に寄り、庭の奥を見下ろす。 ほどなくして中庭に一台の馬車が引き出され、クラリーチェが取るものもとりあえずと言った様子で乗り込んでいく姿が見えた。 上からの角度では御者の顔までは見えなかったが、(あれはきっと、カイルだわ)とリリアンナは当然のように思った。 馬たちのことを熟知していて馬車の操縦も上手な彼なら、クラリーチェの送迎を任されるのは自然だろう――と。 そんな風にしてクラリーチェの出立をナディエルとともに書斎の窓越しに見送ったリリアンナは、残された言葉――「復習を続けてくださいませ」――を胸に、律儀に席へ戻った。 けれど、いざ羽ペンを手にすると、思うように手が進まなかった。 インク壺にペン先を浸し、試しに一文字、二文字と書いてみる。けれど納得がいかず、書きつけたばかりの文字にさっと線を引いて脇へ置く。 インクの乾きを早めるために砂を振りかけた紙が、すでに何枚も積み重なっていた。 砂を払えばすぐさま使えるわけでもなく、書き直すたびに紙だけが増えていく。(こんなはずじゃ……) クラリーチェの言いつけ通り、しっかり復習するつもりだったのに。 リリアンナはそっと羽ペンを置き、深く息を吐いた。 そんな彼女の様子を、刺繍をしながら静かに見守っていたナディエルだったけれど、ついに我慢出来なくなって口を開いた。「リリアンナ様……少し休憩をして、リフレッシュなどされてはいかがでしょうか?」 その声にリリアンナがぴくりと肩を跳ねさせて、顔を上げる。「休
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7.雪原に潜む影⑥

「リリー嬢……! こんな時間にこちらへいらっしゃるとか! 何か御用でも?」 その声には、どこかぎこちない緊張が滲んでいる。 リリアンナはそれを訝しく思いながらも、カイルの方へ歩きながら告げた。「少しだけ時間が出来たから馬たちの様子を見に来たの。カイルがいなくてみんな寂しがってるんじゃないかと思っていたんだけど……いたのね?」 さらに進もうとするリリアンナの上着を背後からナディエルが引っ張った。「ナディ?」 普段、リリアンナがお転婆をしてもそんなことをしない侍女の態度に、リリアンナが小首をかしげる。「リリアンナ様、戻りましょう?」 そうナディエルが言ったのと、「本日は馬たちが不安定でして」 カイルがまるでそれ以上リリアンナを厩舎へ近付けたくないみたいに一歩前へ進み出て、腕を広げて立ちはだかるようにしたのとがほぼ同時だった。「えっ、あの……カイル?」 二人に揃って制止されたことで、リリアンナは思わず戸惑ってしまう。けれど、それでも〝せっかくここまで来たのに〟という思いは消えなかった。「申し訳ありません、リリー嬢。今日は厩舎内にはお入りいただけません。馬たちが過敏になっており、非常に危険です」 リリアンナはきょとんと目を瞬かせ、やや不満そうに眉をひそめた。「そんな……。あの、ちょっと見るだけでもダメ?」 リリアンナが引き下がらないのは珍しい。ナディエルが「リリアンナ様」とたしなめる声に重なるように、「申し訳ありません。屋敷内へお戻りください」 カイルが一歩も引かず、そればかりか即刻邸内へ入るように促してくる。 その毅然とした態度と、先程屋敷内で感じた違和感。 ナディエルは、よく分からないまでも、カイルがここまで言うからには従った方がいいと強く思った。「リリアンナ様、カイルもああ言っていますし……戻ってお勉強の続きをいたしましょう?」 ナディエルの
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7.雪原に潜む影⑦

 二人の視線の先――。 木陰から、音もなく一頭の獣が姿を現した。 鋭い目を光らせ、身をかがめてこちらの様子を窺っているのは、死を纏ったような雰囲気を持つ純白のオオカミだった。 冬の風景に溶け込むその体色は、一瞬、風に舞う雪と見まがうほどだった。 けれどその白さは、むしろ異質でしかない。普通のオオカミが灰褐色の毛並みを持つことを思えば、この真っ白な個体は明らかに異端だ。 群れからはぐれた理由も、その特異な毛色にあるのかもしれない。 孤独で、飢えた様子のその獣が、牙を剥きながらじりじりとこちらを狙っている。口から覗く舌ばかりがやけに赤く、まるで血の色のようだった。「っ……!」 リリアンナは息を呑み、ナディエルに身を寄せた。「動いてはダメです。……リリアンナ様」 ナディエルの声は小さく震えている。だが、その身体は主を守るようにしっかりとリリアンナを抱きしめていた。 オオカミが清白の地を踏むごとに、緊張が高まる。 一歩、また一歩と……じわりじわりと距離を詰めてきて唸り声をあげた。大きく開かれた口。雪を蹴散らす四肢。そのすべてがスローモーションに見えて、ナディエルにしがみ付いてリリアンナが悲鳴とともにギュッと目を閉じたと同時――。「リリー嬢っ!」 乾いた声が背後から飛び、直後一本の柄付きブラシを手にしたカイルが二人の前に飛び出してきた。 掃除用具の長い柄をまるで槍のように構え、飛び掛かってきた獣をなんとか叩き落とす。「下がって!」 勢いよく獣の鼻先を打とうとしたその瞬間、オオカミが跳ねた。 その鋭い牙が、カイルの右前腕に深く突き立つ。「う……あ……!」 噛みつかれた腕を振りほどこうとするカイルの顔が痛みに歪む。真っ白な雪の上にポタポタと真っ赤な鮮血が滴り落ちるのを見て、リリアンナは息を呑んだ。「
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8.隔たる心①

 会議に使っていた部屋を出るなり、執事のセドリックが待ち構えていた。「旦那さま、クラリーチェ・ヴァレンティナ・モレッティ様に王都のご生家より急ぎの書状が届きました。実弟が落馬で大怪我を負われたとのことで、最終便でお帰りになられました。私の独断での手配、どうかご容赦ください」 クラリーチェは、結婚して間もなく夫を落馬事故で亡くした若き未亡人だ。 年老いた女性が多い家庭教師の職に彼女が就いているのも、その境遇ゆえだった。夫を失い、子宝にも恵まれなかった彼女が生家に戻らず身を立てるには、それしか道がなかったのだ。 だからこそ弟の落馬と聞けば、平静でいられるはずがない。クラリーチェを雇い入れる際、執事のセドリックにもリリアンナのカヴァネスを選定するのに意見を求めたため、彼もそれをよく知っていた。ゆえに主の指示を仰ぐよりも、彼女を一刻も早く帰すことを選んだのだ。 ランディリックは短く息を呑み、それからゆっくりとうなずいた。「礼を言う、セドリック。……ところでリリアンナは?」「クラリーチェ先生の言いつけを守り、書斎で復習に精を出しておられます。しっかり者のナディエルが傍に控えておりますので大丈夫かと」 ナディエルはリリアンナのことを本当に大切にしてくれる信頼の出来る侍女だ。あまりにリリアンナに肩入れし過ぎて、時に甘やかし過ぎるところがあるのが玉に瑕だが、彼女が付いていてくれるなら問題ないと思えた。「そうか」 ランディリックは短く答え、気持ちを切り替えるように臣下へと向き直る。「では、南の城壁を直しにいくぞ」 雪深いこの季節、獣の侵入を許すかもしれない南側の穴は、急ぎ塞がねばならない。厩舎へ続く小道のすぐそばにあいたその穴の外付近では、オオカミが食い散らかしたウサギの亡骸も見つかっている。 今日の明け方に仔馬が生まれたばかりの厩からは、いつも以上に血の匂いも漂っているだろう。 王都エスパハレのウールウォード邸から連れ帰ったリリアンナが、そんな厩舎へほぼ日参していることもあり、ランディリックにはもしものことがあってはならないという思いが強かった。 すでに己の目で城壁の穴を確認してはいたが、今度は修繕を担当する兵を伴い、具体的な方策を自ら指示するつもりだ。*** 命を受けた兵たちが一斉
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8.隔たる心②

 その様を見下ろしながらはぁっと落とした吐息が白く霞んで静かに空気に溶けていく。雪上にもかかわらず、大量の血が流れたからだろう。鉄くさいにおいが鼻を刺した。「……ランディ……」 リリアンナの掠れた声に、ランディリックは剣先から滴る血をひと振りで払い、残る穢れを雪で清めると、ようやく刃を鞘に収めて彼女の方を向く。「リリー」 ランディリックが彼女の名を呼ぶと同時、恐怖で固まっていた身体がふいに解けたように、リリアンナがランディリックの胸へ縋りついてきた。 彼女のすぐそば、雪の上にまだ尻餅をついたままになっているナディエルを、遅れてたどり着いた兵士の一人が助け起こしているのを横目に、ランディリックはリリアンナを腕の中へ抱き締める。 緊張の糸が切れたからだろう。リリアンナの両目に涙が滲んだ。 それを指先で優しく拭うと、「大丈夫だ。もう心配ない」 低く落ち着いた声音でリリアンナの背中を優しく撫でる。 腕の中のリリアンナは小さく震えていたけれど、少しずつ〝本当に助かったのだ〟という事実が胸を満たしてきたのだろう。 ランディリックは、抱き締めたリリアンナの身体のこわばりがゆるゆると緩んでいくのを感じた。 だが――。「……カイル!」 はっとしたように叫んだリリアンナが、突然ランディリックの腕を振りほどき、雪の上へ倒れ込むもう一人の影に駆け寄っていってしまう。 右腕を押さえたまま、顔を歪めて呻いているカイルのそばには、すでに他の兵士がいて、彼の傷の具合を確かめていた。 だが、医療班がいるわけではない。グッと押し当てられた布地を朱に染めてもなお止まらない血が、雪にポツポツと赤いシミを広げていく。 リリアンナは兵士が押さえているカイルの傷を見るなり、彼のすぐそばに跪いた。「カイル! どうしよう! 私のせいでこんな大怪我……!」 膝をついた裾や、カイルに触れるそで口が雪や血で濡れるのもかまわず、リリアンナがカイルの
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8.隔たる心③

 城主として、城内の者たちを守るのは当然の勤めだ。 むしろ、自分の直ぐ目と鼻の先で有事が起こったというのに、初動が遅れて家臣に怪我を負わせたのは痛恨の極みだと言っても過言ではない。 だが、過程はどうあれ、あの獣を仕留めたのはほかでもない、ランディリックだった。 なのに、リリアンナはカイルの名のあとに、ついでのようにランディリックの名を告げた。それが引っかかってしまったと言ったら狭量だろうか。 リリアンナのことだから、純粋に助けに入った順で恩人の名を上げたに過ぎないとは頭で分かっていても、そんな些細な言い回しが気になってしまうのはきっと――。 ――リリー嬢。 カイルがリリアンナのことをそう呼んだからだ。(カイルはいつからリリアンナをあんな親し気な呼称で呼ぶようになった?) リリアンナのことを〝リリー〟と呼ぶのは自分だけの特権だと思っていたランディリックとしては、まさに寝耳に水。 ランディリックは、サラリとカイルの口から出たその呼び方に、胸の奥がざらつくのを感じた。 きっとそれはリリアンナの方からカイルに申し出た呼称だろう。カイルは忠義ある実直な男だとランディリックもよく知っている。本人の許可なくそんな砕けた呼び方はしないはずだ。 だが、それでもリリアンナの愛称を、他の男の口から呼ばれるのを、どうしても受け入れられなかった。 そんなランディリックの視線に、ナディエルはいち早く気が付いた。「リリアンナお嬢様、カイルのことは兵たちに任せてどうぞこちらへ……。お嬢様にはお召し替えが必要です」 声をかけると同時に、さりげなくリリアンナの腕を取ってカイルから引き離す。 リリアンナはまだ未練がましくカイルの方を見つめていたが、ナディエルの切実な声音に押され、ようやく数歩下がった。*** 医務室へと運ばれていくカイルを追いかけ、リリアンナも駆け出そうとする。 そんなリリアンナの腕を、ランディリックがすっと掴んだ。「リリアンナ。さっきナディエルからも言わ
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8.隔たる心④

 急ぎ着替えを済ませたリリアンナは、ナディエルとともに医務室へ駆け戻った。 扉を開けると薬の匂いが鼻を刺し、薬師と助手が慌ただしく動き回っている。寝台の上では、カイルが蒼白な顔で横たわっていた。「カイル!」 リリアンナは駆け寄り、寝台の傍らに膝をついた。 その様子に、処置にあたっていた老医師セイレン・トウカが、リリアンナのすぐ背後へ控えたナディエルを見咎める。「……侍女殿、顔色が悪い。あなたも寝込む前に休みなさい」「い、いえ……私は大丈夫で……」「大丈夫ではない」 きっぱりした声に、ナディエルが肩を震わせる。二人のやり取りにリリアンナが振り返ると、確かにナディエルの顔面は青白く、いつもならバラ色の頬にも色味がない。カイルのことばかりに頭がいっていていたとはいえ、気付けなかったのが不思議なくらい足元がふらついていた。「ナディ、気付かなくてごめんなさい」 その様子に、リリアンナは自分のわがままでナディエルに無理をさせたこと、彼女の体調不良にセイレンが指摘するまで気付けなかったことを深く悔やんだ。 こんな状態で自らの着替えばかりでなく、リリアンナの着替えまで手伝ってくれたのだと思うと申し訳なさに視界が滲む。(私、カイルだけじゃなくナディエルまで) 心の中でつぶやいてギュッと両の拳を握りしめると、リリアンナは「お嬢様……」と不安げにこちらを見つめるナディエルにニコッと微笑んで見せた。目の際にいっぱい溜まった涙は、なんとかこぼさずにいられた。「私は大丈夫だから! お願い、休んで? ナディ」 リリアンナが言葉を掛けると、ナディエルは悔しげに唇を噛みしめる。「ではお嬢様も一緒に……」「私はカイルの様子をもう少し見てから……」 ナディエルの誘い掛けに、そこだけはフルフルと首を振ってここへ残りたい旨を告げると、ナディエルは一瞬だけ凄く不安そうな顔をした。 だがリリアンナの瞳の奥に、
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8.隔たる心⑤

 すぐ向こうの方でセイレンたちの気配がするけれど、先ほどまでのように自分たちが注視されているわけではない。 賑やかだった医務室の空気が少し落ち着いたのを感じて、カイルと二人きりになったような心地がしたリリアンナは、「カイル……」 ベッドの上のカイルに向かって、ポツンとつぶやいた。 カイルの右腕は厚い包帯に巻かれ、額には玉のような汗が滲んでいる。リリアンナはその手を握りしめる。 熱が高いんだろうか。カイルの手はまるで火に触れたみたいに熱くて、リリアンナがギュッと握っても何の反応も示さない。 リリアンナは不安に苛まれながら、祈るようにカイルの顔を見つめた。*** その頃、ランディリックは屋敷を離れ、腹心らとともに現場へ戻っていた。 雪を赤黒く汚した白オオカミの死骸は荷車に載せられ、兵たちがランディリックからの指示を仰ぐべく、待機している。 血で汚してしまったとはいえ、それはそれは美しい毛並みを持つ白狼だ。極寒の地――ここニンルシーラにおいて、毛皮は貴重な資源。無駄にするわけにはいかない。「毛皮は剥いで防寒具に回せ。骨や牙は道具に加工できる部分があるだろうからそれ用に。肉は――臭みが強く人間には向かない。猟犬や牧羊犬の餌にする」 短く的確な采配に、兵たちは一斉に「はっ!」と応じ、普段は鶏や豚を捌く城外郭の屠殺場へと、荷車を押して雪道を進み始めた。 だが一匹討ち取ったからといって、これで終わりではない。他にも〝はぐれ〟が潜んでいる可能性も十分にある。「伝令を出せ。村の近くで食い散らかされた獣の死骸などの異常を見つけたら、必ず城へ報告させろ。狩りや薪拾いは単独行動を控え、必ず複数で動くように伝えよ」「承知しました!」 兵士が馬を走らせ、雪の中へ消えていく。 続けてランディリックは厩舎の方へ視線をやった。「厩の管理はどうなっている?」 問いかけに、
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8.隔たる心⑥

 カイルの傍を離れたくないと眉根を寄せるリリアンナへ、「お嬢様が倒れてしまわれてはその男の看護どころではなくなりますぞ?」 と脅しをかける。 そう言われては従わないわけにはいかない。 リリアンナがセイレンに手招かれるまま、彼の傍へ行くと、セイレンが薬棚の瓶からミオフィラの乾燥花を一輪落としたカップを、火鉢傍へ置かれた椅子の上に置いた。 薬缶から熱々の湯を注ぎ入れればカップの中、リリアンナの目の前で閉じていた青い花弁がゆるりとほどけ、淡い香りがふわりと立ちのぼる。「わぁー」 思わずリリアンナが感嘆の声を上げたのを優しい眼差しで見詰めると、「仕上げです」と言って、セイレンが瓶から一匙、琥珀色の蜂蜜を加えてくれる。「薫り高い百花蜜です。リラックス効果のあるミオフィラ湯によく合います」 綺麗な薄青の花が広がる温かな飲み物は、リリアンナには薬湯というより花茶のような柔らかな飲み物に見えた。 見た目は申し分ないし、セイレンからの甘やかしのように添加された蜂蜜もきっと最上級の品だろう。「有難うございます」 スッと差し出された温かなカップを受け取ったリリアンナは、ふぅーと吐息を吐き掛けてから淹れたてのミオフィラ湯をひとくち口に含んだ。「……美味しいです」 カップから伝わる温かさが、冷えた手指に心地よい。 喉を通り抜けて胃へと落ちていく温かな液体も、存外冷えていたらしい身体を優しく温めてくれて、思わずほぅっと吐息がこぼれた。 でも――。 せっかく甘味まで加えてくれたセイレンの手前、〝美味しい〟と微笑んでみせた飲み物も、やはりリリアンナには何の味も感じられなくて悲しかった。「では、そちらを飲み終わられるまではここに座っていらっしゃるように」 少しでも身体を休めろという配慮だろう。 リリアンナを残してカイルの容態を確認しに向かったセイレンの背中を見つめながら、リリアンナは美しい花を咲かせた薬湯に視線を落とした。 この花茶が美しく花開いたように、どうかカイ
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