ただ、ここのものは部屋で使っているものと違ってよい香りがしなかった。 無意識に手のにおいを嗅いだリリアンナへ、セイレンが柔らかく微笑む。「リリアンナお嬢様がお部屋で使っておられるものは、これにローズオイルを付け加えた特別仕様品です。いいにおいがなさいましょう?」「あ、はい」「ラノワルムは効果こそ抜群なのですが、少々独特な獣臭がしますのでな。侯爵閣下がリリアンナ様のために特別に配合を整えさせたものが、いつもお嬢様がお使いのものでございます」 セイレンの言葉にリリアンナは瞳を見開いた。「そんなお手間を……」 軟膏を手配してもらえるだけでもありがたいのに、そんな配慮までされていたのだと思うと少しくすぐったいようなソワソワした気持ちがしてしまう。「それだけお嬢様がランディリック様にとって特別な存在ということですよ」 セイレンに柔らかく微笑まれて、「後ほどお部屋にいつもの軟膏を取りに戻られてはいかがかな?」と付け加えられたリリアンナは、その言葉に思わず目の前の老医師を見つめる。「でも……」「侍女殿の様子も見に行く約束をなさったのでございましょう?」 少し、カイルから離れなさいと、言外に含められているのを感じたリリアンナは、しばし逡巡した。 恩人であるカイルの傍を離れるのは嫌だ。 でも、ナディエルもリリアンナにとって大切な存在。 加えて、いつもの軟膏がランディリックの厚意から作られた特別仕様品だと知らされては無下には出来ないと思ってしまった。「分かりました。ちょっとだけここを離れます。申し訳ありませんがカイルのこと、少しの間お願いできますか?」 リリアンナは薬を塗ってもらったばかりの手指をギュッと握りしめると、真摯な眼差しをセイレンに向ける。「それがわたくし共の仕事でございますので、お嬢様が申し訳なく思われる必要はございません。この男のことはしばし私たちに任せて、お嬢様も身体を休めて来なされ」 セイレンの言葉に、リリアンナは頷かなかった。 少し間を空けて、
Last Updated : 2026-10-09 Read more