ダミアンが運転する黒の高級セダンは、夜の街を適度なスピードで走り抜けていた。リアシートに背もたれを預け、窓ガラスに滲む街灯の光を見つめる。ここ最近ずっと胸を押し潰していた重苦しい息苦しさが、少しずつ晴れていくのを感じていた。シエナと緊張感もなく穏やかに会話を交わし、彼女の手淹れコーヒーを直接味わえたことで、彼の心は驚くほど軽くなっていたのだ。邸宅に到着すると、ガレージの前に見覚えのある車が1台停まっているのが目に入った。深く眉をひそめ、一瞬玄関を見つめた後、静まり返ったメイン廊下を通り抜けて足を踏み入れる。中央エリアを通りかかった瞬間、リビングのソファでくつろぎながらコーヒーをすするエドワードの姿が視界に入った。やはり、やってきたのは親友の男だったかと察する。「お帰り」エドワードはグラスをテーブルに置きながら声をかけた。ダミアンは一瞬チラリと一瞥をくれた。「執務室へ来い」短く告げると、足を止めることなく2階へと向かった。数分後。二人はダミアンのプライベート執務室の中にいた。温かみのある照明が、大きな木製デスクと周囲を取り囲む高い本棚を照らしている。ダミアンは仕立ての良いジャケットを脱いで椅子の背もたれに掛けると、ワークチェアに腰を下ろした。エドワードはデスクの前の椅子に腕組みをして座り、探るような視線をダミアンに向けた。「で、どうだったんだ?」エドワードが切り出した。「シエナとの離婚届にサインはしたのか? それを確かめたくて来たんだよ。お前、時間を引き延ばしすぎだろ」ダミアンは背筋を伸ばし、迷いのないまっすぐな瞳でエドワードを見つめた。「シエナと離婚する気はない」エドワードは片方の眉を跳ね上げた。「本気で言ってるのか?」「ああ、本気だ」ダミアンは低い、固い声で短く返した。「これが俺の最終決定だ」エドワードはダミアンの表情をじっくりと観察した。目の前の男からは、かつてのような冷徹で高慢な空気が消えている。端正な顔立ちの奥に、ごくごく微かな温もりが宿っていた。エドワードの lips にニヤリと笑みが浮かぶ。「今夜のお前、いつもと全然違うな。まさか……本気でシエナを追いかけ直すつもりか?」ダミアンはあからさまに認めたり、喜びを表に出したりはしなかった。椅子の背もたれに体を預けると、淡々と、けれど誠実に答えた。「俺の人生には、まだシエナ
Last Updated : 2026-09-27 Read more