10年前、英理はシステムに導かれてこの世界へと降り立った。与えられた任務は、幼い頃に両親を目の前で喪い、その深い絶望から心を閉ざしてしまった京平を攻略することだった。彼女は3年もの間、片時も離れることなく京平のそばに寄り添い続けた。両親の死という暗い影から彼を引きずり出し、ついには好感度を100パーセントにまで引き上げることに成功したのだ。だが、3年という長い歳月をともに過ごすうちに、英理自身の胸の内にも本物の想いが芽生えていた。気づけば京平に深く恋をしていて、だからこそ彼女は元の世界へ帰らず、この世界に留まる道を選んだのだ。京平もまた、英理のその想いに応えた。北条グループに戻ってからというもの、周囲がどれほど政略結婚の相手を押し付けようとしても、彼はすべて冷たく突っぱねた。果ては秘書を全員男性に入れ替えるという徹底ぶりで、彼女への覚悟を示してみせたのだ。だが、ふたりが結婚を決めたとき、北条の一族はこぞって反対の声を上げた。遊び相手ならともかく、正式に妻に迎えるなら家柄の釣り合う令嬢を選ぶべきだ。英理のような何も持たない女では到底ふさわしくない、と。この世に唯一残された肉親である祖父でさえ、一族の無情な言い分を黙って認めた。一族の同意を得るため、京平は後継者としての立場を懸け、家に伝わる厳しい制裁を受け入れることを決意した。上半身裸のまま、竹刀で何度も背中を打たれる。歯を食いしばって耐え抜いた彼の背中には、今も幾筋もの痛々しい傷跡が残っている。そこまでしてようやく一族が示したのは、「正式な結婚は認めない。表には出さず、そばに置く程度なら黙認する」という、屈辱的な妥協案でしかなかった。その言葉に、京平は激しい怒りを露わにした。北条家の親族が集まる席で英理の手を固く握りしめたまま、後継者の座を捨てると宣言し、その場で家を出ることを決めたのである。業界の人間たちはこの顛末を聞いて、京平のことを愚か者だと嘲笑った。使いきれないほどの莫大な財産を、たったひとりの女のために手放すなんて、と。中には、1年も経たずに京平が彼女に飽きるほうへ賭ける者までいた。けれど京平は、その悪意ある賭けを見事に覆してみせた。北条家を離れたのち、彼は自らの手で恋理グループを立ち上げ、あっという間に北条本家に匹敵する規模にまで育て上げたのだ。
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