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第4話

Author: ミントソーダ
この5年、京平から数えきれないほどのジュエリーを贈られてきた英理には、ひと目でわかった。このブレスレットは、昨晩のネックレスと本来一揃いのものだ。

英理は皮肉げに口の端を上げた。

「郁子、あなたの彼氏も、その息子さんも、随分あなたのことを大事にしてるのね」

京平と唯人は、本来一揃いだったジュエリーをふたつに分け、半分を彼女に、もう半分を郁子に贈っていたのだ。

まるで彼らの心もまた、ふたつに都合よく割り切れるものだとでもいうように。

郁子は目を細めて嬉しそうに笑った。

「そうなんです、ふたりとも私のことが一番好きだって言って、可愛がってくれるんですよ」

何かを勘づかれるのを恐れてか、その後も京平と唯人は英理のことを過剰なまでに気遣い続けた。

英理が軽く咳をすると、京平はすぐに自分の上着を脱いで肩にかけ、温かい飲み物を手渡した。

唯人も自分のマフラーを外し、いっちょまえな手つきで彼女に巻いてやりながら、大人のように「暖かくしてね」と言い聞かせた。

けれど英理は、香水の匂いが染みついたそれらに触れる気にもなれず、ただ「ホテルで休みたい」とだけ告げて、その場を後にした。

京平と唯人は顔を見合わせると、示し合わせたように彼女に付き添ってホテルへ戻ることにした。

夕方になって、京平のスマホが鳴った。

彼はとっさに手を伸ばして音を消すと、ベッドで身じろぎもしない英理を確かめてから、ほっと息をついた。

画面には郁子の名前が点滅し続けている。傍らの唯人が京平の袖を引き、声を潜めた。

「パパ、郁子ちゃんに会いたい」

京平は慌てて唇に指を立てて合図すると、ふたりは目配せを交わし、足音を忍ばせて部屋を出て行った。

ドアが閉まった瞬間、英理は目を開け、上着を羽織ってふたりの後を追った。

京平と唯人は急ぎ足で廊下を進み、やがて郁子の部屋の前へとたどり着いた。

ドアが開くやいなや、郁子がひどく甘えるような声で京平の胸に飛び込んだ。

「京平さん、やっと来てくれたんですね。今日はひとりでホテルにいて、すごく怖かったんですよ。

英理さんみたいに1日中一緒にいてほしいなんて、わがままは言いません。ただ、毎日2時間だけでいいから、私のそばにいてくれたら……」

そう言いながら、郁子は小鹿のように潤んだ瞳で京平を見上げた。

京平は郁子の涙にはからきし弱かった。それを目にした途端に心が緩み、慌てて彼女を抱き寄せて慰め始める。

「2時間なんかで足りるわけないだろう。今夜は俺と唯人で、一晩中お前についていてやる」

唯人も横から言葉を添えた。

「ママが眠ったらすぐパパと来たんだよ。僕たちだって郁子ちゃんと一緒にいたかったんだから」

郁子は感激した様子を見せたものの、ふと何かを思い出したかのように表情を曇らせた。

「実は、私も今日すごく寒かったんです。でもおふたりの目には英理さんしか映ってなくて、私がわざわざ用意したマフラーも暖かい飲み物も……」

唯人は郁子を悲しませまいと、慌てて駆け寄って彼女の手を握った。

「郁子ちゃん、泣かないで!全部僕とパパが悪いんだ。僕が温めてあげる、僕の手はマフラーよりずっと温かいんだから!」

京平も愛おしそうに彼女の鼻先をつついた。

「まったく、こんなことでも妬くのか。E国でのスキーが物足りなかったって聞いたから、わざわざこの場所を選んだんだぞ。それでも足りないか?」

それを聞いた郁子は顔を上げると、素早く彼の口元にキスを落とした。

「ありがとう、京平さん」

京平の瞳が一瞬にして昏く沈み、郁子の頭を引き寄せると、ふたりは舌を絡めるような深い口づけを交わした。

唯人は目を覆いながら、部屋の奥へと駆けていった。

「うわ、僕、お邪魔虫にはなりたくないもん!」

しばらくしてようやく京平が体を離すと、郁子は顔を真っ赤にして、軽く彼の胸を叩いた。

「唯人くん、さっきまでここにいたのに」

京平は彼女の手を取り、唇へと運んで口づけた。

「何を気にしてる。あいつだって、初めて見るわけじゃないだろ」

そう言うと郁子の腰を抱き寄せ、部屋の中へと消え、扉を閉めた。

壁の陰に隠れていた英理の頬は、とうに涙で濡れていた。

ふたりの裏切りはとうに知っていたはずなのに、いざこの目で目撃してしまうと、骨の髄まで染み渡るような痛みが襲ってくる。耳にした言葉のひとつひとつが鋭い刃と化し、心臓を幾度も突き刺していくようだった。

誕生日をやり直すだなんて言葉も、結局は郁子の「物足りなかった」という不満を埋めるためのものでしかなかったのだ。

英理はその場にしゃがみ込み、ひどく痛む胸を押さえた。昨夜の言葉が、いつまでも耳の奥に響き続けている。

私を手放すつもりはない、って言いたいの?

でも、京平。唯人。私はもう、あなたたちから離れる覚悟を決めたのよ。

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