All Chapters of 悪役令嬢の私、神獣拾っちゃいました: Chapter 11 - Chapter 20

49 Chapters

第11話 神殿からの手紙

 「ふむ、やはり美味しいな」 「神獣様にお褒めいただくなんて、光栄です!」 その日の昼下がり。ロロに褒められたマーサが、嬉しそうに頬を紅く染めていた。  美味しい紅茶と軽食が並んだテーブルに、隣には紅茶を傾ける黒髪青眼のイケメン。  朝と変わらないような光景だが、場所だけが違っていた。  沢山咲き誇る色とりどりの花々と、瑞々しい緑の木々。ユロメア家の庭師が手がける、王宮にだって劣らない美しい庭園だ。  準備されたガーデンテーブルには、美味しそうなサンドイッチやスコーンが並ぶ。いつもだったらうきうきするところだが、私はまだ、大きく溜め息をついていた。「昼食くらい、気晴らしになればと思ったけど……。やっぱり気が重いわね」 「先ほどの招待状のせいですか?」 心配そうなマーサの問いかけに、私は静かに頷いた。  今日も退屈な一日になりそうだ――なんて思っていた矢先。  王宮から届いたのは、舞踏会の招待状だった。  名目は、第二王子の誕生祝い――そう、あのヴォルシングの誕生日だ。(そういえば、この時期だったわよね……) 元婚約者として、毎年この時期には豪奢に着飾り、ヴォルグのパートナーを務めていた。  婚約破棄したとはいえ、名門ユロメア家の娘として、王家主催の行事を欠席するわけにはいかない。……が。 (主役の元婚約者で、今は神獣使いだなんて……悪い意味で注目されるじゃない) どうにもならないことだから、仕方がないと割り切るしかない。……本当に、気が重いけれど。「あまり溜め息ばかり吐いていては、幸せが逃げるぞ」 ロロが他人事のようにそう言うのに、私はジト目を返すことくらいしかできなかった。  そんな妙な空気の立ちこめるお茶会にやってきたのは、本日も麗しく、日傘を差したお母様だった。「ご機嫌よう、神獣様。お寛ぎのところ、ごめんなさいね」 「母君か。いや、我に気遣いは無用だ」 娘を差し置いて、脳天気に挨拶を交わす二人。どうやらこの二人、とても馬が合うようで……気
last updateLast Updated : 2026-09-13
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第12話 ローエングリン大神殿

  使者の青年はぴっと立ち上がると、胸元に拳を当てる神殿騎士特有の敬礼をしてみせた。  来ている制服も、ちょっとよれっとして砂埃で汚れているが、きちんとした神殿騎士のものに見える。「自分は、ローエングリン神殿の神殿騎士でパーシーって言うッス。この度、公爵令嬢への手紙を任され、お邪魔しておりますッス……あ、おりま、す」 「自己紹介をありがとうございます。……どうぞ、楽になさって。お掛けになってください」 「失礼しますッス」 (……また語尾が戻っちゃってる) テーブルを挟んで対面の椅子に腰掛けながら、そっと彼の様子を窺った。  人なつこいグレーの瞳がきらりと光り、元気なツンツンした栗色の髪が、いささかやんちゃそうなイメージを生んでいる。……なんだかもう、これは犬みたいな人だ。  さっき立ち上がったときは、ロロほどではないけど高身長に見えた……が、こうして座ってみると、元気な子犬そのものにしか見えなくなってくるのだから不思議だ。  ロロが、人間姿のままで私の背後に立ち、椅子の背にぎし、と両手をついていた。  客人に対して失礼……と思ったのと同時、彼が神獣であることを思い出して、まあいいか、と思い直す。  恐らく、目の前の彼も、ロロが噂の神獣だと気づいているだろう。  私はそっと、テーブルの上を滑らせるようにして書いたばかりの手紙を差し出した。「お待たせしました。こちら、頂いたお手紙のお返事です。お願いできますでしょうか?」 「勿論ッス。本当にありがとうございます。返事がなかったら俺、帰れなかったッス」 パーシーはそう言って、手紙を壊れ物のように書簡入れに挟むと、上着の内ポケットに仕舞いこんで席を立った。「長居してしまって、本当にすみませんでした。おもてなしに感謝ッス」 「あら、もう行かれるのですか?」 見たところ、制服の汚れかたからしても、ひとり馬を駆ってきたのだろうと思う。  ローエングリン神殿からこの屋敷まで、それほど遠くはないとしても、片道2時間ほどは掛かるだろう。  他の貴族の伝令たちも、多少届け先の
last updateLast Updated : 2026-09-13
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第13話 神官レイ

  守衛の騎士たちに手紙を見せると、しばらくしてすぐ、見覚えのある神殿騎士がひょっこり現れた。「お待たせして申し訳ありませんッス!いらして頂けて、本当に光栄ッス」 にぱっと笑顔で一礼した彼は、すぐに「さぁさぁ!」と私たちを神殿の中へ招き入れた。「今からレイ様のところに案内するッス!お待ちかねですよ!」  ルンルンと上機嫌で歩く彼の後ろをついていく。歩きながら、失礼にならない程度に周囲を観察した。  白い石の床と壁。ところどころに置かれた質素な木製の家具。カーテンや日よけ等の布は、全て鮮やかな緑色をしている。  吹き抜けの廊下に差し掛かると、ふわりと緑の香りがする風が全身を包む。すごく、気持ちが良い。(さすがは、国一番の大神殿ね) 静かで清廉された空気の中には、聖属性の魔力が濃く漂っているのを感じる。  私が得意としている聖属性魔法は、聖女が使うことのできる神聖力には劣るが、それでも根元は同じ。  きっと、この濃密な聖属性の魔力が『神聖力』とか、そういう類いなんだろう。  ちらりと横を見れば、ロロがなんとも柔らかい表情をしていた。「やっぱり神獣って、神殿が居心地良いものなの?」 こそり、と話掛けてみると、ロロは「ああ」と頷いた。「神殿は、神聖力に満ちているからな。リーエも、気持ちがいいだろう?」 「そうね。なんだかリラックスできるわ」 「そう仰って頂けると、ここの神殿騎士として嬉しいッス」 会話が聞こえていたようで、前を行く彼がにぱっと笑顔でこちらを振り返った。「遠くて申し訳ないッス。もう少しなんで、ご容赦を……あ、どこかで休憩とか、しますか?」 「お気遣いありがとう。ええと……パーシー卿、だったかしら?私は大丈夫よ」 「わ、名前覚えててくださったんスね。ありがとうございます!でしたら、このまま向かいますね」 「ええ、お願い」 吹き抜けの廊下を抜けた先の建物に入ると、すれ違うような人もほとんどいなくなってしまった。「ここは、神官や貴族
last updateLast Updated : 2026-09-14
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第14話 神獣使いとは

  初対面だったその日、レイはまず、神獣使いについて広く知られている知識に、神殿ならではの情報を付け加えて説明してくれた。  神獣使い。それは、聖女ではない一般人が、神獣と契約した場合に用いられる呼称だ。  長い王国の歴史の中で、神獣使いが現れたのは、3度。  うち2度は、聖女のいない時代に。……残りの1度は、聖女がいる時代に、神獣が選んだのが一般の人だったのだという。  つまり、私の今の状況は、前例がある、ということだ。  そのほかの場合では、神獣は聖女と契約し、付き従い、王国に繁栄をもたらした――が。「聖女様のおられない時代。歴代の神獣使いの方々は、聖女様に劣らない素晴らしい功績を残しておられます」 レイは、にこにこと楽しそうにそう語った。  神獣使いは、聖女のように直接神聖力を操ることはできない。  そんな彼らの代わりに、神獣が神聖力を使い、人々を癒やし、穢れを浄化し、魔物を討伐し……そうして、国に繁栄をもたらしたのだという。「ですから、ユロメア令嬢にも、やろうという意思さえあればそういったことができるわけです。あ、強制してるわけではないですよ?神獣殿の協力も必要になりますし。あくまで、聖女様の奇跡と呼ばれている事例を、貴女もすることができる、というだけですから」 笑顔でしれっとそんなことを言ってのけるものだから、彼の腹黒さを垣間見てしまったような気がして、少し笑顔が引きつってしまったではないか。  およそ2時間ほどの時間、そうしてレイの話を聞いて過ごした私たちは、パーシー卿に見送られて、帰りの馬車へと乗り込んだ。「……出された焼き菓子、そんなに美味しかった?」 馬車の中でそう問いかけると、窓の外を見てぼんやりしていたロロが、「ん?ああ」とぼやけた返事をした。「そうだな。そこそこ美味しかったぞ」 「随分と寛いでたじゃない」 「それはまぁ、な。あいつらからは、悪意が感じられなかったし」 「……そうなの?」 彼は神獣だ。悪意、とか、人間にはよくわからないものを感知できるのかもしれない。  
last updateLast Updated : 2026-09-14
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第15話 夏の日差しにきらめく

  さわさわと揺れる木の葉を透かして、強い日差しが降り注ぐ。  季節は変わり、暑く乾いた日差しが鬱陶しい、夏が訪れていた。「レイー?……もう、こんな日に限って、どこに居るのよ」 肌に滲む汗をハンカチで拭って、溜め息を吐く。今日に限ってレイは、自室にいなかったのだ。「すみませんッス、ジュリエッタ様……。ご足労頂いてしまって」 私の後ろで小さくなっている案内役の神殿騎士、お馴染みのパーシーは、ぺこぺこと頭を下げてくる。「今日はレイ様、どうしても約束があるからと言って……この辺りにいるはずッス」 「こんな暑い日に……」 ぼやきながら、ちらりと背後を確認した。本人曰く、「あまり暑さ寒さはこたえない」とのことで、私に付き添ってくれている神獣様は、なんとも涼しい顔でいらっしゃる。それがちょっぴり悔しい。  本日、神殿へ来てから案内されたのは、いつもの居住棟の裏庭だった。  緑の芝が柔らかいその場所は、意外と広く、花が植えられていたり、木にブランコが設置してあったりと……小さな公園のような空間になっていた。  その一角から、きゃはは、と子供の笑い声が上がる。(子供の声?) もしかして、と思いながらそちらへ足を進めると……いた。レイだ。  きらきらとプラチナブロンドの髪が輝いている。木陰で座る彼の周りには、楽しそうな子供たちが10人ほど、まとわりついていた。  子供たちが話し掛けると、レイはその美しい緑の瞳を細めて、優しく微笑む。  木陰にいるというのに、その姿は相変わらず、きらっきらに輝いていた。(いつもいつも、きらきらの無駄遣いだわ) この1ヶ月、彼と関わり合うようになって、理解したことのひとつ。彼は、自分の容姿の美しさや、内面の諸々から発されるきらきらした何かを、抑えることができないのだ。  彼自身が発光してるとか、そんな物理的なものではないけれど……毎回、彼を最初に視界に入れる時には、眩しいものでも見てしまったかのような感覚を覚える。  子供相手にすらきらきらを抑えられないなんて、本当に
last updateLast Updated : 2026-09-15
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第16話 贈り物を選びに

  ――その日は結局、講義はせずに、子供たちと戯れて1日が終わった。  あの盲目の少女は、ナナリーというらしい。『聖女物語』を読み終えた後も、聖女について話が盛り上がり、帰宅する頃にはすっかり、仲良くなっていた。  また来るね、と約束して別れた、その夜。就寝前に用意されたハーブティーを飲みながら、私はぼんやりと窓の外の星を眺めていた。「……心ここにあらず、だな」 「ロロ……」 すっと音も立てずに向かいに腰掛け、長い足を優雅に組む神獣殿は、青い宝石のような瞳でじっと私を見つめてきた。「あの子供たちのことを考えていたのか?」 「……うん」 そっとソーサーに戻したティーカップ。その澄んだ水面に、自分の顔が映っていた。「私、知らなかったんだなって。神殿が預かっている孤児たちのこと……。そういう子供たちがいるって、そんな薄い認識しかなかった」 ぽつりぽつりと零す私の言葉を、ロロは唯静かに聞いてくれていた。「勿論、我が家も公爵家だし、神殿の孤児たちにって寄付をしてはいるけれど……。その先に、あんなに無邪気な笑顔があったのを、私は知らなかったわ」 「そうか」 ロロの低い声が、静かに相づちを打つ。そして私たちの間には、沈黙が流れた。  夜の静かになった屋敷の中、たまに遠く、使用人たちの微かな足音が聞こえる。  見上げた窓越しの空は、雲もなく、瞬く星たちが静かに、地上を照らしていた。「……ロロ。明日ね、本屋へ行こうと思うの」 視線を夜空から逸らさないままに言うと、向かいでロロが、微笑む気配がした。「明日は、ドレスの試着があるんじゃなかったか?」 「確か午前中でしょう?それ。終わり次第、街へ出るわ」 「わかった。その心づもりでいよう」  ――翌日。  私は予定通りに、夜会用のドレスの試着を終え、昼食もそこそこに馬車へと乗り込んだ。「お嬢様?何か欲しいものがおありでしたら、私がお使いしますのに……」 付き添ってく
last updateLast Updated : 2026-09-15
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第17話 神獣の奇跡

  子供たちと遊んだあの日から、1週間ほど経っていた。  過去の神獣使いがどんなことをしてきたのか……レイのところで講義を受け続けることで、短い期間のうちに沢山の知識を得られていた。  今日もレイの所に来て、先代の神獣使いがしてきた事について、神殿にのみ伝わっている詳しい情報を教えてもらっていた。「今日の講義はこのくらいかな……。だいぶ沢山説明してきたけれど、どうかな?ジュリエッタ嬢?」 「……ええ。本当に勉強になるわ」 手元の古い手記から目を離すことなく、ぼんやりと答える。  ふわり、と爽やかな風が窓から入り込んで――。  誘われるように顔を上げた先――私の机に腰掛けるようにして、いつの間にか、彼がすぐそこにいた。  ――どきん。  瞬間、心臓が飛び跳ねる。  温かな日差しが差し込む窓辺で、彼の銀糸の髪がきらり、と光を透かしていた。  近距離で合った目。  宝石のようなその瞳は……光を集めて反射しながらも、やっぱりどこか、偽物のような気がしてしまうのは何故だろう。(……ちょっと私。しっかりしなさいよ) 自分に言い聞かせるように、心の中で呟く。(相手はレイよ?得体の知れない神官相手にどきどきするなんて、どうかしてる) 魔法のような一瞬を、こほんと咳払いで壊したのは私だった。「随分とお行儀が悪いんじゃないかしら?神官様?」 「生憎、僕は真面目とはほど遠い性格でね」 私の皮肉に気分を害する様子もなく、楽しそうににこりと笑顔を浮かべるレイは、意地悪そうに言った。  そのままの距離を保ったまま、彼の長い指が伸びてきて――私のハニーブロンドを一筋、さらりとすくい上げる。その毛先に、彼の唇がそっと触れたのを見て、私の心臓はまた、小さく跳ねた。「ところで、ジュリエッタ嬢。このあと少しだけ、時間はあるかい?」 「あるけど……」 (何よ、キザなことしちゃって。神官のくせに貴族の令嬢に色目使う気?) 彼の手をやんわり払って、じろりと軽く睨む。  レイ
last updateLast Updated : 2026-09-16
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第18話 聖女の苛立ち

 「おい……聞いたか?あの噂」 「神獣使い様の話でしょう?聞いた聞いた」 「私も聞いたわ!目の見えない孤児を哀れんで、神獣に命じて癒やしたってやつでしょ?ちゃんと目が見えるようになったって!」 「孤児にまで慈悲をかけるなんて、なんてお優しいんでしょう!」 (馬鹿馬鹿しい!!!) 王宮の廊下の隅で、集まった使用人達がぺちゃくちゃと『また』あの話をしている。(部屋の外を歩くだけで、みんなしてあの話ばっかり……!ほんと、ばっかじゃないの?!) 苛立ちが抑えられないまま、足早に廊下を通り過ぎた私は、思い切り自室の扉を閉めてやった。  ばん!!と扉が大きな音を立てる。行儀が悪いのはわかっているが、今は何より、いらいらして仕方がなかった。(どうせ聖女の私に、もの申してくるような人もいないし――) 「……いや、ひとりいたわね」 先ほどの噂話にもなっていた、ある令嬢のことを思い出して、さらに気分が悪くなる。(……ジュリエッタ、あの女……!) そうだ、あの女ならば、また私の礼儀がなっていないだのなんだのと、もの申してくるだろう。  ――私のモノになるはずだった神獣をつかって、孤児の目を治した?  だからなんだって言うのよ!  怒りにまかせて、テーブルの上に積み上げられていた、マナーだのなんだのの本を勢いよく払いのける。  思ったより飛んだ本が壁際に飾られていた花瓶に当たって、ガシャン!と耳障りな音を立てた。  すかさず、トントンとノックの音が聞こえる。「聖女様!大きな音が致しましたが、何かございましたか?」 いつも部屋の外にいる、護衛の声だ。「ごめんなさい!ちょっと手が滑ってしまって……大丈夫だから放って置いて」 「左様でございますか……」 優しい声で応えれば、それきり護衛騎士は黙ったようだ。  が、あんな音を立ててしまったし、きっとすぐ、侍女がやってきて部屋を片付けるだろう。  あんな花瓶くらい、すぐに新しいものに変わる。  だっ
last updateLast Updated : 2026-09-16
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第19話 無自覚の微笑み

  ――第2の神獣使い。  彼女の記録は、他の神獣使い達と比べものにならないほど沢山残っている。一部は書籍化され、広く一般にも親しまれているのだが、彼女自身の手による膨大な手記の大部分は、神殿により管理され、秘匿されてきた。  ローエングリン神殿に通い、過去の神獣使い達の記録について学ぶ授業の一環として、レイは神殿が管理している彼女の手記――所謂、禁書についても話してくれたのだ。  彼女は、歴史上3度の神獣使い出現のうち、貴重なたった1度の、『聖女が存在しているのに、一般人から選ばれた神獣使い』――つまり、私の前例だった。  彼女は、聖女とはまた違った思想を持ち、王家の支援を受けながら、その神聖力を王国全土へ届けようと、生涯旅に明け暮れた。  王国の全ての街や村を延々と渡り歩き、助けが必要な人々へと惜しみなくその力を使い続け、旅の様子を事細かく手記に残したのだ。  自身に寿命という命の終わりが訪れたとき、彼女の手記は、神殿に秘匿される運命を背負った。  王国民すべてから尊敬され、愛された第2の神獣使い――彼女の間際に書き綴った言葉は……。絶望、後悔、懺悔……そして、世界と神への、呪いの言葉だったのだ。    ……ああ、ああ、どうして。  どうして神は、神獣は。  私にこんな使命を負わせたのですか?  どれだけ国を巡っても、どれだけの人を救済しても。  人々の嘆きは潰えず、病に泣く家族は後を絶たず、この世の哀しみは消えない。  私は、何のために、この人生を捧げたのか。  誰も彼も、助けることなどできなかった。  悔しい。私には到底、背負うことの出来ない重責だったのだ。  願うなら、私は只の人として、ただ普通の一生を終えたかった。  こんなにも自分の人生を、無意味だったと思うくらいならば……あの時、何が何でも、神獣使いになどならなければよかったのだ…………。   ……彼女の手記の内容を思い出すと、胸が痛い。  彼女は、自分が手にした力を振るい、この王国を救いで満たすこと
last updateLast Updated : 2026-09-17
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第20話 舞踏会へ

  王宮は、夜の闇の中浮かび上がるようにして、光り輝いている。  そこへ集まる貴族達も、それぞれが煌びやかに着飾り、輝きの一部となっていた。彼らは楽しげに周囲と挨拶を交わしながら、大きく開かれた王宮の門へと次々吸い込まれていく。「毎年のことながら、もの凄い気合いの入れようね」 そんな光景に、大きくため息を零した。  今夜は、第二王子ヴォルシング・アーヴェルトの誕生日を祝う盛大な舞踏会。国中の貴族が集まるこの行事は、毎年注目されている、社交シーズンの中で一番大きなパーティーだ。「浮かない顔だな、リーエ」 隣でエスコートしてくれているロロが、不思議そうに首を傾げた。「そう心配せずとも、君はここに集まったどの令嬢よりも美しいぞ」 「そういうことじゃないんだけど……お褒めの言葉ありがたく受け取るわ」 黒髪長身のこの神獣様は、今夜は人型で、私と揃いの生地で作った礼装に身を包んでいる。  濃い藍色の滑らかな生地には、小粒のダイヤや刺繍がキラキラと縫い止められ、上質さが窺える。彼と同じ生地の私のスカートは、揺れる度にまるで星の海が煌めくかのように光を反射していた。  シンプルなAラインに、ふわりと重ねたドレープが揺れるドレスは、オーダーする時からマーサに「少し地味すぎる」と言われていたが……。別に、目立ちに来たわけでもないし、構わないだろう。(装飾品は最低限。ドレスも、リボンや何重にも広がるスカートは選ばなかった。……これで、何事もなく舞踏会を終えられるといいけど……) 「なぁリーエ。気分が乗らないなら、今からでも欠席したらどうだ?」 ロロとは反対側から掛けられた声に、ゆるゆると首を振る。「冗談はよして、アルト兄様。ユロメア公爵家の人間として、欠席はできないわ」 「だが……」 礼装を纏い、いつも以上に美貌が際立つアルト兄様が、おろおろと手を彷徨わせる。屋敷を出るときから、ずっとこんな調子だった。「アルト兄様。私を心配してくださっているのはわかりますが、本当に大丈夫ですから。少し顔を出したら、すぐに帰ります」
last updateLast Updated : 2026-09-17
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