悪役令嬢の私、神獣拾っちゃいました

悪役令嬢の私、神獣拾っちゃいました

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-10-02
Oleh:  櫻井綾Ongoing
Bahasa: Japanese
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婚約者の王子を異世界からやってきた聖女に奪われ、悪役令嬢扱いされる公爵令嬢ジュリエッタは、ある日、傷ついた神獣を拾う。神獣は、聖女ではなく、ジュリエッタを契約者に選んだ。神獣使いとなったジュリエッタは、神官を名乗る青年レイと出会い、惹かれていく。 ジュリエッタを快く思わない聖女は、ジュリエッタを害そうと画策するが上手くいかない。 やがてレイの正体を知ったジュリエッタは、自身の恋心が「叶ってはいけないもの」だと自覚し、身を引くことを決心するが――。 もふもふの神獣に見守られながら、叶わぬ恋に涙する。切なく甘いロマンスファンタジーです。

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Bab 1

第1話 退屈なお茶会

“Mom, I didn’t do anything. Charlotte’s death had nothing to do with me!”

The security officers pinned down my arms and legs, leaving me unable to move.

My frail bones ached against the floor, and all I could do was force the words from my throat.

My biological mother stood across from me, looking at me as if I were her mortal enemy.

“Fiona, you little curse! You vile girl! I should never have brought you home. You belonged in that miserable town! This is all your fault. If it weren’t for you, how could my Char have died? You must have killed Char!”

Her eyes were bloodshot. She had clearly spent the entire night crying.

When Charlotte and I were born, the nanny switched us.

From then on, the nanny’s child became a wealthy heiress overnight, while I followed the nanny back to the countryside and grew up struggling to survive.

After Charlotte’s bizarre death, my mother insisted that I was the culprit, claiming I was jealous that Charlotte had enjoyed eighteen years of wealth and privilege in my place.

She reported me to the authorities.

To prove my innocence, I agreed to make my memories public.

Memory extraction was agonizing, as if someone were trying to scramble my brain with a knife.

I gripped the arms of the chair so tightly that my entire body trembled and blood seeped from my fingertips, yet I still forced myself to give my mother a twisted smile.

“Mom, I really didn’t do anything.”

People in the audience whispered:

“Isn’t memory extraction a form of torture, only used on death-row inmates? Can a young girl really endure it?”

“I heard the eldest Shaw heiress died, and the family suspects the country girl they recently brought home.”

“She agreed to have her memories shown to prove she was innocent. The poor thing!”

My mother was afraid public opinion would turn in my favor. She didn’t even have time to look at me before rushing to the edge of the stage and shouting,

“What’s there to pity about Fiona? She killed my daughter! My Char was such a wonderful girl.

“She always thought of Fiona whenever she had anything good and even wanted her father and me to give Fiona more attention. And this is how Fiona repays her?”

The camera on the large screen conveniently shifted away from me and focused on my father and brother as they walked onto the stage.

My father looked as if he had aged more than a decade overnight. His voice was filled with exhaustion.

“If I’d known the girl I was bringing home was an ungrateful snake, I never would have brought this murderer back just because Char pleaded for her.”

My brother furrowed his brows, his face filled with anger.

“If kindness only leads to death, I wish I had never taught Char to be kind.”

The three of them successfully swayed public opinion with their accusations. No one spoke up for me anymore, and the only thing left was a growing chorus of shouts:

“Make the criminal pay for what she’s done!”

The memory extraction was successful.

When she saw that the broadcast would begin with my memories from age five or six, my mother immediately said, “What does this have to do with Char’s death? Skip it. I don’t want to watch!”

The prosecutor said, “Forcing the system to skip memories could damage her brain.”

My mother didn’t hesitate for even a second. “Skip it, then. Char’s death is what matters.”

The prosecutor sighed as the memory timeline on the large screen began moving forward slowly.

The footage reached the first time I returned to the Shaw family estate.

Charlotte smiled and led me to the room she had personally decorated for me. When I stepped inside, I found the entire room drab and oppressive.

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第1話 退屈なお茶会
 晴れ渡る青空の下、咲き誇る花々に囲まれた王室主催のお茶会は、今日も今日とて馬鹿馬鹿しいものだった。  真っ白なテーブルクロスに、色鮮やかで見た目も綺麗なお菓子たち。王室御用達の高級な紅茶もとても美味しいのに……テーブルに集まった貴族の淑女たちは、お菓子片手に笑い声を立てている【ある少女】の機嫌を取るのに、大忙しだ。  王国では滅多に見ることのない、艶やかで真っ直ぐな黒髪に、大きく愛らしい、ぱっちりした垂れ目気味の瞳。  大きく胸元が開いた、大胆なドレスを着て楽しそうにしているのは、先日、この王国に突然現れたという、異世界から来た聖女様だ。「えええ、そうなんですかぁ? やだあ、マルツァーさんったら!」 品の欠片もない言葉に、きゃははと上がる笑声――。もう、限界だった。「……失礼、聖女様」 音を立てずにカップを置き、少し大きな声で言う。  するとぴたり、と周囲の会話が止み、視線が私へと集中した。  にっこりと笑顔を意識して、目を丸くしている聖女様へと声を掛ける。「これまで、何度も申し上げていることですが……。地位ある女性として、品のない言葉遣いをなさるのは、よくありませんわ。そのように声を上げて笑うなど、貴族の幼い子女でもしませんのよ」 やんわりと注意をしたつもりだが、彼女は途端に大きな瞳を潤ませて、さっと俯いてしまう。すかさず、彼女の両脇に座っていた令嬢ふたりが、彼女の身を案じ、こちらを睨み付けてきた。「ユロメア公爵令嬢、どうしてそんなことを仰いますの!」 「そうですわ! アリサ様は、まだこちらの世界に慣れていないだけです! それなのに、毎回そのようにきついお叱りをなさるなんて、あんまりですわ!」 口々に私を批判するふたりに続いて、他の参加者もひそひそと批難を始める。「またですの? ジュリエッタ様ったら、聖女様のことを妬んで、あんな意地悪を……」 「仕方ありませんわ。幼馴染みの第二王子殿下を、聖女様に取られてしまって……」 声を潜めているつもりでも、ばっちりと聞こえている。  私――ユロメア公爵家令嬢、ジュリエッタは、確かに先日まで、第二王子殿下の婚約者だった。  しかし今現在、第二王子殿下の婚約者は、私ではなく彼女――異世界から来たという聖女アリサである。  婚約していたとは言え、私は、ヴォルグ――第二
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-09-09
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第2話 小さな命
「あーーーー!やっと解放されたわ……!」 「お嬢様!いけません、まだ王城の敷地内なのですから」 「いいじゃない、周りに誰もいないわ」 「そうかもしれませんけれど……」 「ああもう、ほんっとうに毎回毎回、馬鹿馬鹿しいったらないわ……」 うんざりするような、茶番めいたお茶会が終わった後。私は侍女のマーサを連れて、王宮の庭園内を散歩していた。  お茶会参加者の他の令嬢たちとはタイミングをずらして、帰りの馬車に乗り込むためだ。  本心では、一秒でも早く、さっさと屋敷へ帰ってしまいたいところだが……なんやかんやと理由をつけて、馬車の乗り合い場所で文句をつけられたくない。既に何度か経験したことだが、あれは唯々、面倒くさい状況だった。  広い王城南の庭園をぐるり、とゆっくりお散歩すれば、他の令嬢たちはすっかりいなくなっている……はず。  おまけに綺麗な花々まで愛でられるのだから、馬鹿の集まりで不愉快になった心も、少しは癒やされるというものだ。  ――本当に、心からそう、思っていたというのに。「……今日という日に限って、一体どういうことですの?」 そろそろ帰ろうかと、そう思っていたタイミングで。  進行方向の生け垣の傍に、艶やかな黒髪が見えた。  非常に残念だが……間違いない、先ほど分かれたばかりの、聖女アリサだ。  彼女はドレスが汚れるのも構わずに、しゃがみ込んで生け垣に頭を突っ込んでいるようだった。「えっ、あれは……」 後ろを歩いていたマーサも、彼女の存在に気がついたらしい。足を止めると、困惑したような表情で声を潜めた。「お嬢様、どうなさいますか? 今からでも、別の道へ……」 「それはさすがに、面倒くさいかな……」 いい加減、お茶会の疲れもあるし、早く帰りたい気持ちが勝る。  それに、彼女の横を突っ切ってしまえば、馬車の待っている場所まで本当にすぐだ。  わざわざ彼女を避けて、庭園をもう一周する――なんていうのは、彼女に振り回されているようで嫌だし。「構わないわ。行きましょう、マーサ」 「……かしこまりました」 すれ違う時に、ちょっと挨拶だけすればいい。  そう心に決めて、気持ち足早に、彼女の横を通り過ぎた。「あら、ご機嫌よう、アリサ様」 それだけ声を掛け、足を止めることすらせずに通り過
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第3話 青い瞳の神獣
 ユロメア公爵家は、アーヴェルト王国の中でも突出して、歴史と権威のある家門だ。  長い王国史の中で、多くの宰相や神官、王妃たちを輩出してきたユロメア家は、貴族たちの間でも一目置かれる存在である。  そんなユロメア公爵家には現在、ふたりの公子とひとりの公女がいた。  末娘のジュリエッタ・ユロメアは、ハニーブロンドの美しい髪と、新緑色の大きな瞳を持つ美人として知られている。  珍しい聖属性魔法を使うことができ、幼い頃から第二王子の婚約者として教育されてきたジュリエッタは、社交界でも高嶺の花――だったというのに。「ああ……本当に、神はどうしてお嬢様に、このような試練をお与えになったのでしょう! あんな馬鹿げたお茶会に、あんな聖女まで……私、信じられません!」 「私も同意見よ、マーサ」 温かい紅茶を用意してくれながら、マーサはさめざめと嘆いていた。「私のお嬢様は、こんなにもお優しい、王国いち素敵な方ですのに!」 「ふふ、ありがとう」 渡されたカップには、たっぷりのミルクティーが用意されていた。  ひとくち飲めば、ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐる。私の大好きな、蜂蜜入りのミルクティーだ。  ほっと溜め息を吐くと、マーサが心配そうに毛布をかけ直してくれた。「お嬢様……本当に、お身体は大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫よ」 彼女を安心させたくて、笑顔を返したけれど、マーサは表情を曇らせたまま、「そうですか……」と、呟いた。  手の中で柔らかな温かさを伝えてくるカップを覗き込みながら、もう一度溜め息を吐く。「本当に、大丈夫よ。……私のことより、あの子が助かって、本当によかったわ」 「お嬢様が頑張られたお陰ですね」 そんな会話をしながら、そっと、窓際に置かれたバスケットへ視線をやった。  ふわふわの毛布に包まれて、小さな黒猫が安定した寝息を立てている。  ――私は、あの子猫を治療することができたのだ。  屋敷に着く寸前、私は魔力の使いすぎで気を失ってしまったのだが、ぎりぎり、それまでの治療によって、子猫は命に関わらない程度まで、回復することができていた。  気を失っていたのはあまり長い時間ではなかったが、気がついたときには、私は自分の部屋のベッドで眠っていたのだ。  子猫の怪我も、私が気を失っているうちに、公爵家お抱えの医者が治療に当た
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第4話 神獣様の要求
 「……身に余るお言葉でございます」 再び深く頭を下げようとする私を、小さな肉球のついた手を振って、神獣が制した。「いい。もっと楽に接して欲しい。私は、お前にこの命を救われたのだから」 「……ローエンマイン様が、そう仰るのでしたら」 神の遣いだという神獣を前にして、緊張しないわけがない。が……彼がそう言うならば、と身を起こし、それでもまだ緊張で固まっている私に、神獣はくすりと笑みを漏らした。「本当に、楽にしてくれ。あの侍女に接していたように、言葉も崩してくれて構わない」 「それは……。さすがに、神獣様に対して、そこまで無礼なことは……」 「この俺の頼みでも、聞いてもらえないのだろうか」 (本当に、無茶なことを言う神獣ね) 表には出さないように、心の中でそっと溜め息を吐いた。  神獣といえば、聖女と並び、王族と変わらないくらいの権威を持つ存在だ。本来ならば、私のような公爵家の人間でさえ、お目に掛かることも難しいくらいの存在なのに……。  だが、こんな子猫の姿で、しょんぼりと耳を畳まれてしまうと、彼の頼みを拒否しているこちらが悪者のような気さえしてくる。(まぁ……見た目だってこの通り、子猫なんだし。神獣が望んだのなら、大丈夫かしら?) こんな場面をもしも誰かに見られたら、神に背いただの反逆罪だのと罪に問われかねない。しかし、彼の頼みを断る、というのも、それはそれで失礼だろうし。  散々迷った挙げ句、私は降参することにした。「……わかったわ。普通に話す。これでいい?」 「ああ。そのほうがずっと良い」 ローエンマイン様は、器用に子猫の顔で笑みを作ると、満足そうに頷いた。「それで……聞いてもいいのかしら? あなた、聖女のための神獣、なのよね? どうしてあんな傷だらけだったの?」 「ああ、そのことか」 楽にしてくれ、と言われたついでに聞いてみたのだが、途端に神獣は、青い瞳を嫌そうにすがめた。「あまり知られていないことだろうが、俺たち神獣は、生まれ落ちてすぐは無力なのだ。
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第5話 ユロメア家の人々
 「……と、いうわけですの」 「…………」 翌日。  私は談話室にて、お母様とお兄様たちを前にして、冷や汗を流していた。  半ば尋問のような雰囲気の中、ローエンマイン様についての全てを説明し終えた私に、沈黙が重くのしかかる。  こんなことになったのは全て、今私の膝で満足そうに丸くなって喉を鳴らしている、ローエンマイン様のせいだった。  結局、一晩中契約を迫られ、断り続け……そんなことを続けている間に朝になり、私の様子を見に来たお母様に対して、あろうことかローエンマイン様がしゃべったのだ。「……む? ジュリエッタの母君か。世話になっている」――と。 当然、お母様は驚き、猫がしゃべったと悲鳴を上げ、それを聞いてお兄様たちがばたばたと駆けつけてくる騒ぎとなり……。  あれよあれよという間に、朝食を兼ねた軽食が並べられたこの談話室にて、取り調べが始まったのだった。(もう……どうしてこんな目にー) 嘆いたところで、ローエンマイン様が神獣であることには変わりない。  彼を助けると決めたのは私なのだから、責任を取らないといけない、とも思っている。  でも……。  ちら、と、正面に座るお母様たちの顔色を窺う。  お兄様――上のお兄様が深い溜息を吐いたのは、その時だった。「――ひとまず、事情はわかった」 「アルト兄様……」 上の兄――長男アルト・ユロメアは、私と同じハニーブロンドに新緑色の瞳の美男子だ。  頭脳明晰なお父様の部下として、また王城にて政治に関わる出世頭として、社交界でも人気の独身男性。  そんな完璧人間の長兄に続いて、下の兄――次男ウォルター・ユロメアが、静かに頷いた。「やはり、リーエは天使のように優しいのだな。さすが俺の妹だ」 「ウォルター兄様……!」 「なんだリーエ。俺は間違ったことは言っていない」 ウォルター兄様は、新緑色の瞳に、お父様譲りの短い茶髪をツンツンさせている。こちらももちろん、アルト兄様と別タイプの美男子として有名だ。  
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第6話 王城へ
  ほんの僅か、白髪の交ざる髪を乱して、ついでに衣服もヨレヨレというものすごい外見で、お父様が素早く部屋の中を見渡し――。  やがてその視線は私と、私の膝でくつろいでいるローエンマイン様の姿を確認した。途端、音が聞こえるんじゃないかという勢いで、お父様の顔色が真っ青になった。「なんということだ……。いや、まさか、そんな……」 「お父様、どうなさったのですか?」 手で顔を覆い、がっくりと肩を落としたお父様の姿に、嫌な予感がする。(ただでさえ、ローエンマイン様から契約を迫られて困ってるっていうのに……また何か、厄介ごとでも起きたっていうの?) あまりにもショックを受けたお父様の姿に、お母様が立ち上がり、そっと寄り添った。「……あなた。何がありましたの?」 「……ああ。そうだな。すぐに出発しないといけないんだ」 「まぁ、どちらへ?」 多少冷静さを取り戻したらしいお父様が、お母様の手を握り、やっと顔を上げる。  その表情はとても、困り切っているように見えた。「説明は馬車の中でするから。ジュリエッタ、すぐに出掛ける準備を。……その、『膝の上の御方』も、お連れしなさい」 ……どうやら、私の悪い予感は的中したようだった。  お父様が、何か話を聞く前に、私の膝の上のローエンマイン様を、『膝の上の御方』と呼んだ。それだけで十分だ。「わかりました。すぐに王宮へ向かう準備を致します」 そう返事をして、ローエンマイン様を抱えて早足で自室へ戻る。  身支度を調えて屋敷からでると、玄関口には既に、正装に着替えたお父様とお兄様たちが揃っていた。お母様は、屋敷に残るらしい。  見送り際、お母様は私をぎゅ、と抱きしめて、ローエンマイン様にはそっと頭を下げた。「神獣様。娘を、どうかよろしくお願いいたします」 「案ずるな。ジュリエッタのことは、必ず守る」 馬車はいつもより速い速度で、王宮へと走りだした。私の隣にお父様が座り、向かいにはお兄様たちが座っている。  いつもより少しガタガタと
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第7話 聖女の大騒ぎ
  茶番というか、見世物というか。  すさまじい泣きっぷりを披露しているアリサの次に、玄関口から飛び出してきたのは、第二王子その人だった。  ……私の幼馴染みであり、元婚約者であり……そして現在、聖女アリサの婚約者である、ヴォルシング・アーヴェルトだ。  私よりもふたつ年下の彼は、赤みがかったくすんだ金髪に、王家に伝わる紫の瞳をした、少年らしさの残る、可愛らしい美丈夫だ。年下のくせに、身長ばかりぐんぐんと伸びて、今では私の兄様方と変わらないくらいの長身になっている。  そういえば、会うのは婚約破棄をして以来だったな、と、ぼんやり思った。  彼はわんわん泣くアリサと、そしてドン引きしているこちらを順に確認して、アリサの横を通り過ぎた。「ヴォルグ様ぁ!」 「少し待て、アリサ」 縋るようにヴォルシングのズボンに手を伸ばしたアリサは、彼の静かな言葉に途端に喚くのをぴたりとやめる。  すすり泣くアリサを背後に、ヴォルシングはお父様の目の前まで行くと、小さく頭を下げた。「ユロメア卿。すまない、出迎えが遅れたな。……それから、その、少し……騒がしくしてしまって」 「ご機嫌よう、殿下。……そちらの聖女様のことは、よろしいのですか?」 決まり悪そうにしているヴォルシングへ、お父様がしっかりと頭を下げつつ尋ねる。怒ると言うより、呆れているような口ぶりに、ヴォルシングはそっと肩を竦めた。「俺は王族として、貴殿を出迎えに来たのだ。挨拶が先だろう」 「仰る通りですな」 ヴォルシングは、次に兄様たちへと会釈をして――最後に、私へと向き直った。  声を掛けられる前に、と――私はすっと、ドレスの端を摘まんで広げ、身体を沈ませる。「……久しぶりだな、ジュリエッタ……いや、ユロメア公爵令嬢」 婚約者でなくなった以上、今まで通り、互いを名前で呼び合うことも失礼なことだ。(ヴォルグは、しっかりしていて助かったわ) 「はい。お久しぶりでございます、殿下」 返事をして姿勢を戻す。と――ヴォルシングは、何とも言えな
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第8話 偽りだらけの謁見
 「久しぶりだな、ジュリエッタ令嬢」 「はい。ご無沙汰しております、陛下」 国王陛下は、優しい表情でうんうんと頷いてくれた。  私は、幼い時から第二王子ヴォルシングの婚約者だった。必然的に、国王陛下や王妃様に会う機会もとても多く、優秀な子だと、大変可愛がってもらっていたのだ。  ――異世界から、聖女がやってくるまでは。  しかし、婚約を破棄しても、陛下や王妃様から嫌われているわけではない。  今回も、話すら聞かず私に罪を問うような空気ではないことを感じて、私はほっとした。「本当に、元気に過ごしているようでよかった。こんな朝早くから呼び立てて悪かったな。実は、今朝早く、神殿に神託が下ったのだ」 「神託、でございますか」 「ああ。内容の説明は、同席させている大神官からさせよう」 陛下がすっとアリサの後ろへと視線を向ける。それを受けて咳払いしたのは、初老の男だった。  ずるりと床を引きずるような、真っ白に金の縁取りがなされた神官服。袖の部分に3本のラインが入っているのは、大神官である証だ。  その男は衣擦れの音をさせながらアリサの前へと進み出ると、厳しい目で私を睨み付けた。大神官には、あまり良く思われていないらしい。「……あー、えっほん。私は、この首都にあるロザリンデ教、主教会の大神官を務めている、ラニエルと申します。本日の日の出の頃、我が神殿の祭壇へと、神の御言葉がおりたもうたため、急ぎ国王陛下へと報告をいたしました」 丁寧に前置きをして、大神官は丁寧に頭を下げた。不機嫌な顔はそのままだが、きちんと礼儀はなっている人物のようだ。「それで、ロザリンデ様は仰られたのです。我が忠実なる遣いを、地に与えたもうた。聖女と共に、この国に繁栄をもたらせるだろう――と」 神の神託を朗々と告げると、胸元のロザリンデ像をかたどったネックレスを握りしめ、大神官は口早に祈りの言葉を呟いた。  ――女神ロザリンデ。このアーヴェルト王国において、王国の繁栄を約束し、豊かな実りと平和を授けてくれると言われている、女神だ。  この国に現れる異世界からの
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第9話 契約の光
  決して大きくはないその声に、謁見の間は水を打ったように静かになった。  声の主が、ひらりと私の肩から床へと降り立つ。「あ……貴方は、」 「聞こえなかったか?下がれ、と言ったんだ」 あれほどまでに勢いよく詰め寄っていた大神官が、再び発せられたロロの声に、一歩後退った。  すい、とお父様が立ち位置を戻すと、代わりに私の正面に立ったロロは、その小さい身体で堂々と、玉座を仰いだ。(こんなに小さな身体に、こんなにも多くの大人が気圧されるなんて……) 改めて、ロロが神獣なんだということを実感する。  そのまま固まったように沈黙してしまった大神官に代わり、静寂を破ったのは国王陛下だった。「先ほどの声は、貴方か」 静かな問いかけに、ロロは小さく頷く。「左様。俺の名は、ローエンマイン・ロジェルティア・アルファレア。お前たちが先ほどから話題にしている、神獣だ」 ロロの言葉に、遠巻きにしている大臣たちがざわり、とさざめいた。  国王陛下は、ふむ、と頷いて、席を立つとロロに向かって小さく頭を下げた。周囲の人々も、次々とそれに倣い、一礼する。「神獣ローエンマイン殿。まずはこの、アーヴェルト王国の国王として、挨拶をさせて頂きたい」 「ああ。よろしく頼む」 私はといえば、ロロのすぐ後ろで礼をとりながら、内心ハラハラしていた。  神獣は王族と並ぶ権威を持つ――それは理解しているが、ロロの国王への物言いが、どこまで許されるものだかわからないからだ。  幸い、国王陛下はロロの物言いに気を悪くはしていないようで、再び玉座に座り直した後も、柔らかな空気を纏ったままだった。「それで……神獣殿。貴殿が此度、神託にあった神獣ということで、間違いないのだろうか?」 「ああそうだ。俺は、そこの聖女のために、ロザリンデから遣わされた」 再び、ざわりと大臣たちが言葉を交わす。  一度は沈黙した大神官が、ぱっと表情を明るくして、何かを言おうと口を開いた――が。「――そう、俺は聖女のた
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第10話 詐欺よ、詐欺だわ
  窓から差し込む、きらきらとした陽の光。ふわりとカーテンを揺らす風が、頬を撫でて通り過ぎていく。 マーサの淹れてくれた紅茶も、格別の香りだ。  まさに完璧な朝の風景――の、筈だったのだが。「……ふむ。とても美味しいな」 陽の光がきらきらと反射する、さらりと揺れる黒髪。長い足を持て余すように組んで椅子に座る姿は、社交界の令嬢たちが悲鳴を上げそうなほど様になっている。すうっと切れ長の、女性が嫉妬するような長いまつげに縁取られた目は、煌めく深く青いサファイアがはめ込まれているよう。  一見、人形か何かかと目を疑うほど美しい男性は、優雅にティーカップを傾ける。……私の隣で。(いや……本当に慣れないわ。詐欺よ、詐欺だわ……) じとりとした目で見られていても全く意に介さず、新聞をばさりと広げた彼は、「ほう……?」といたずらっぽく瞳を輝かせた。「リーエ。ほら、ここの記事を見てみろ。――『王国全土を包む黄金の光、女神ロザリンデ様の祝福』だそうだ」 「……はぁ」 「俺たちのことも書かれているぞ。ほら、ここだ――『女神からの祝福、聖女に続き、神獣と契約した公爵令嬢が現れた』。有名人だな、リーエ」 「……あの。ロロ?」 「ん?なんだ?」 あまりにも人に馴染みすぎている神獣様に声を掛ける……と、美青年はこてん、と首を傾げた。  そう――この、私の横で寛ぎまくっているイケメンこそが、『あの』神獣ロロなのだ。「……いえ。なんでもありませんわ」 「そうか」 不思議そうな顔をしながらも、興味深そうに新聞に視線を戻すロロの姿に、私は再び小さく溜め息を吐いた。  新聞でも大きく取り上げられているらしい、王城へと呼ばれたあの日。  まばゆい光の中、私がロロと契約を結ぶと……光が収まった後にその場に立っていたのは、人間の姿になったロロだったのだ。  契約して完全な成獣となったロロは、神聖力を使うことができるようになった。  契約者である私と一緒にいるのに、この人の姿のほうが楽だ――とのことで、すぐに変化を
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