悪役令嬢の私、神獣拾っちゃいました

悪役令嬢の私、神獣拾っちゃいました

last updateLast Updated : 2026-09-09
By:  櫻井綾Updated just now
Language: Japanese
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婚約者の王子を異世界からやってきた聖女に奪われ、悪役令嬢扱いされる公爵令嬢ジュリエッタは、ある日、傷ついた神獣を拾う。神獣は、聖女ではなく、ジュリエッタを契約者に選んだ。神獣使いとなったジュリエッタは、神官を名乗る青年レイと出会い、惹かれていく。 ジュリエッタを快く思わない聖女は、ジュリエッタを害そうと画策するが上手くいかない。 やがてレイの正体を知ったジュリエッタは、自身の恋心が「叶ってはいけないもの」だと自覚し、身を引くことを決心するが――。 もふもふの神獣に見守られながら、叶わぬ恋に涙する。切なく甘いロマンスファンタジーです。

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第1話 退屈なお茶会
 晴れ渡る青空の下、咲き誇る花々に囲まれた王室主催のお茶会は、今日も今日とて馬鹿馬鹿しいものだった。  真っ白なテーブルクロスに、色鮮やかで見た目も綺麗なお菓子たち。王室御用達の高級な紅茶もとても美味しいのに……テーブルに集まった貴族の淑女たちは、お菓子片手に笑い声を立てている【ある少女】の機嫌を取るのに、大忙しだ。  王国では滅多に見ることのない、艶やかで真っ直ぐな黒髪に、大きく愛らしい、ぱっちりした垂れ目気味の瞳。  大きく胸元が開いた、大胆なドレスを着て楽しそうにしているのは、先日、この王国に突然現れたという、異世界から来た聖女様だ。「えええ、そうなんですかぁ? やだあ、マルツァーさんったら!」 品の欠片もない言葉に、きゃははと上がる笑声――。もう、限界だった。「……失礼、聖女様」 音を立てずにカップを置き、少し大きな声で言う。  するとぴたり、と周囲の会話が止み、視線が私へと集中した。  にっこりと笑顔を意識して、目を丸くしている聖女様へと声を掛ける。「これまで、何度も申し上げていることですが……。地位ある女性として、品のない言葉遣いをなさるのは、よくありませんわ。そのように声を上げて笑うなど、貴族の幼い子女でもしませんのよ」 やんわりと注意をしたつもりだが、彼女は途端に大きな瞳を潤ませて、さっと俯いてしまう。すかさず、彼女の両脇に座っていた令嬢ふたりが、彼女の身を案じ、こちらを睨み付けてきた。「ユロメア公爵令嬢、どうしてそんなことを仰いますの!」 「そうですわ! アリサ様は、まだこちらの世界に慣れていないだけです! それなのに、毎回そのようにきついお叱りをなさるなんて、あんまりですわ!」 口々に私を批判するふたりに続いて、他の参加者もひそひそと批難を始める。「またですの? ジュリエッタ様ったら、聖女様のことを妬んで、あんな意地悪を……」 「仕方ありませんわ。幼馴染みの第二王子殿下を、聖女様に取られてしまって……」 声を潜めているつもりでも、ばっちりと聞こえている。  私――ユロメア公爵家令嬢、ジュリエッタは、確かに先日まで、第二王子殿下の婚約者だった。  しかし今現在、第二王子殿下の婚約者は、私ではなく彼女――異世界から来たという聖女アリサである。  婚約していたとは言え、私は、ヴォルグ――第二
last updateLast Updated : 2026-09-09
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第2話 小さな命
「あーーーー!やっと解放されたわ……!」 「お嬢様!いけません、まだ王城の敷地内なのですから」 「いいじゃない、周りに誰もいないわ」 「そうかもしれませんけれど……」 「ああもう、ほんっとうに毎回毎回、馬鹿馬鹿しいったらないわ……」 うんざりするような、茶番めいたお茶会が終わった後。私は侍女のマーサを連れて、王宮の庭園内を散歩していた。  お茶会参加者の他の令嬢たちとはタイミングをずらして、帰りの馬車に乗り込むためだ。  本心では、一秒でも早く、さっさと屋敷へ帰ってしまいたいところだが……なんやかんやと理由をつけて、馬車の乗り合い場所で文句をつけられたくない。既に何度か経験したことだが、あれは唯々、面倒くさい状況だった。  広い王城南の庭園をぐるり、とゆっくりお散歩すれば、他の令嬢たちはすっかりいなくなっている……はず。  おまけに綺麗な花々まで愛でられるのだから、馬鹿の集まりで不愉快になった心も、少しは癒やされるというものだ。  ――本当に、心からそう、思っていたというのに。「……今日という日に限って、一体どういうことですの?」 そろそろ帰ろうかと、そう思っていたタイミングで。  進行方向の生け垣の傍に、艶やかな黒髪が見えた。  非常に残念だが……間違いない、先ほど分かれたばかりの、聖女アリサだ。  彼女はドレスが汚れるのも構わずに、しゃがみ込んで生け垣に頭を突っ込んでいるようだった。「えっ、あれは……」 後ろを歩いていたマーサも、彼女の存在に気がついたらしい。足を止めると、困惑したような表情で声を潜めた。「お嬢様、どうなさいますか? 今からでも、別の道へ……」 「それはさすがに、面倒くさいかな……」 いい加減、お茶会の疲れもあるし、早く帰りたい気持ちが勝る。  それに、彼女の横を突っ切ってしまえば、馬車の待っている場所まで本当にすぐだ。  わざわざ彼女を避けて、庭園をもう一周する――なんていうのは、彼女に振り回されているようで嫌だし。「構わないわ。行きましょう、マーサ」 「……かしこまりました」 すれ違う時に、ちょっと挨拶だけすればいい。  そう心に決めて、気持ち足早に、彼女の横を通り過ぎた。「あら、ご機嫌よう、アリサ様」 それだけ声を掛け、足を止めることすらせずに通り過
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第3話 青い瞳の神獣
 ユロメア公爵家は、アーヴェルト王国の中でも突出して、歴史と権威のある家門だ。  長い王国史の中で、多くの宰相や神官、王妃たちを輩出してきたユロメア家は、貴族たちの間でも一目置かれる存在である。  そんなユロメア公爵家には現在、ふたりの公子とひとりの公女がいた。  末娘のジュリエッタ・ユロメアは、ハニーブロンドの美しい髪と、新緑色の大きな瞳を持つ美人として知られている。  珍しい聖属性魔法を使うことができ、幼い頃から第二王子の婚約者として教育されてきたジュリエッタは、社交界でも高嶺の花――だったというのに。「ああ……本当に、神はどうしてお嬢様に、このような試練をお与えになったのでしょう! あんな馬鹿げたお茶会に、あんな聖女まで……私、信じられません!」 「私も同意見よ、マーサ」 温かい紅茶を用意してくれながら、マーサはさめざめと嘆いていた。「私のお嬢様は、こんなにもお優しい、王国いち素敵な方ですのに!」 「ふふ、ありがとう」 渡されたカップには、たっぷりのミルクティーが用意されていた。  ひとくち飲めば、ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐる。私の大好きな、蜂蜜入りのミルクティーだ。  ほっと溜め息を吐くと、マーサが心配そうに毛布をかけ直してくれた。「お嬢様……本当に、お身体は大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫よ」 彼女を安心させたくて、笑顔を返したけれど、マーサは表情を曇らせたまま、「そうですか……」と、呟いた。  手の中で柔らかな温かさを伝えてくるカップを覗き込みながら、もう一度溜め息を吐く。「本当に、大丈夫よ。……私のことより、あの子が助かって、本当によかったわ」 「お嬢様が頑張られたお陰ですね」 そんな会話をしながら、そっと、窓際に置かれたバスケットへ視線をやった。  ふわふわの毛布に包まれて、小さな黒猫が安定した寝息を立てている。  ――私は、あの子猫を治療することができたのだ。  屋敷に着く寸前、私は魔力の使いすぎで気を失ってしまったのだが、ぎりぎり、それまでの治療によって、子猫は命に関わらない程度まで、回復することができていた。  気を失っていたのはあまり長い時間ではなかったが、気がついたときには、私は自分の部屋のベッドで眠っていたのだ。  子猫の怪我も、私が気を失っているうちに、公爵家お抱えの医者が治療に当た
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第4話 神獣様の要求
 「……身に余るお言葉でございます」 再び深く頭を下げようとする私を、小さな肉球のついた手を振って、神獣が制した。「いい。もっと楽に接して欲しい。私は、お前にこの命を救われたのだから」 「……ローエンマイン様が、そう仰るのでしたら」 神の遣いだという神獣を前にして、緊張しないわけがない。が……彼がそう言うならば、と身を起こし、それでもまだ緊張で固まっている私に、神獣はくすりと笑みを漏らした。「本当に、楽にしてくれ。あの侍女に接していたように、言葉も崩してくれて構わない」 「それは……。さすがに、神獣様に対して、そこまで無礼なことは……」 「この俺の頼みでも、聞いてもらえないのだろうか」 (本当に、無茶なことを言う神獣ね) 表には出さないように、心の中でそっと溜め息を吐いた。  神獣といえば、聖女と並び、王族と変わらないくらいの権威を持つ存在だ。本来ならば、私のような公爵家の人間でさえ、お目に掛かることも難しいくらいの存在なのに……。  だが、こんな子猫の姿で、しょんぼりと耳を畳まれてしまうと、彼の頼みを拒否しているこちらが悪者のような気さえしてくる。(まぁ……見た目だってこの通り、子猫なんだし。神獣が望んだのなら、大丈夫かしら?) こんな場面をもしも誰かに見られたら、神に背いただの反逆罪だのと罪に問われかねない。しかし、彼の頼みを断る、というのも、それはそれで失礼だろうし。  散々迷った挙げ句、私は降参することにした。「……わかったわ。普通に話す。これでいい?」 「ああ。そのほうがずっと良い」 ローエンマイン様は、器用に子猫の顔で笑みを作ると、満足そうに頷いた。「それで……聞いてもいいのかしら? あなた、聖女のための神獣、なのよね? どうしてあんな傷だらけだったの?」 「ああ、そのことか」 楽にしてくれ、と言われたついでに聞いてみたのだが、途端に神獣は、青い瞳を嫌そうにすがめた。「あまり知られていないことだろうが、俺たち神獣は、生まれ落ちてすぐは無力なのだ。
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